せっかくチートを貰って異世界に転移したんだから、好きなように生きてみたい

ムンムン

プロローグ (2)

 そこで別の事に気がついた。例の大きな光の塊が、だんだんと近づいて来ているのだ。いや、こちらが引き寄せられているとも言える。

 魂の還元、とか言っていたはず。あそこに到達した場合、問答無用で還元されてしまうのかも知れない。

 もしそうなら、俺に残された時間はそれほど多くはないだろう。

「いえ! やっぱり受ける……にやぶさかでないので、もう少し説明をお願いします!」

 ふむ、と石像は頷く。

『説明……いや、聞きたい事をお前の方から質問するがいい』

 何のために、以外の質問だな。時間を無駄には出来ない。

「あなたは、どういった存在なのですか?」

『そなたの理解の中で言えば、神に近い。創造神ではない。星の数ほどいる神のひとはしらだ』

「お名前は? 何とお呼びすればいいのでしょう?」

『好きに呼べばいい』

 答える気がない事を理解した。

「では、魂の還元とは?」

『新たな命として、各地に送られる』

「その時、意識や記憶は残るのでしょうか?」

『残らない』

 なるほど、いわゆる実質的な死だ。

「あなたの依頼に従って、別な世界に赴いた場合は?」

『意識、記憶、姿形、そのままだ』

「そこで私は、何をすればいいのでしょう?」

『自身が望む通りに生きて貰いたい』

(これだ。この意味がわからない。俺が自由に生きる事で、この石像に何かメリットがあるのだろうか?)

 次の質問を何にするか、懸命に頭を働かせる。

 少し眩しさを感じたので顔を向けると、光の塊が目の前にあった。

「すみません。質問を続ける前に引っ張って貰えませんでしょうか? 光の塊へかなり近づいてしまったので」

 石像は横に顔を振るように、本全体を左右に動かす。

『それは出来ない。魂が還元場へ向かう力に、我は抗えない』

(本当かよ? 交渉を有利に進めたくて、拒否ってんじゃないだろうな?)

『嘘ではない。そなたの時間はあまり無いのだ』

 顔に出ていたか、もしくは心を読まれたようだ。

 しかし時間が無くとも、踏み切るにはまだ情報が足りていない。

「好きに生きろとの事ですが、その世界で、私は好きに生きられる状況にあるのでしょうか?」

 重要な事である。

 貧苦にまみれ、病に冒され、重税にあえぐだけの人生であるなら、還元された方がマシだ。

『我が力の一片を貸与する。その世界において最上位の魔法だ』

(よっし、チート来たーっ!)

 俺は内心で拳を握りしめる。

 チートが貰えるなら話は別だ。人生に未練はまだまだある。

 問題点は後一つ。石像を信じていいのか、という事だけだ。

 死んだ俺に、チート付き異世界転移を提供してくれるという。しかしその事での向こうのメリットを教えて貰えてない。

 信じて行ってみたら、魂が燃料にされるとか、苦しみの感情発生器に加工されるとか、酷い目にあう可能性だってある。

 ……だが、受けなければ還元される。魂はともかく、佐藤太郎個人としては消滅だ。

 疑い始めれば、魂の還元について偽りを言っている事もありえる。

 実はあの光の中に入ると、病院のベッドの上で意識を取り戻すとか、天国的な何かに行けるとか。

(いや、還元の事は間違いあるまい)

 勘としか言えないが、そう思う。

 あの光はやばい、消滅してしまう。そんな感じがビンビンにするのだ。

 それに石像の態度もある。

 あの淡白な態度には、騙そうという雰囲気が微塵も感じられない。

 個人の感性かも知れないが、俺の場合、仮に善意でも相手があまりに必死だと警戒してしまうのだ。

 断っても断っても無料アップグレードを勧めて来て、無視していると勝手に強制アップグレードされてしまう。

 文句を言うと、拒否をクリックしなければ承諾した事になりますとか。もう、生理的にアップグレードを拒否してしまった。

 脱線した思考を元に戻す。

 依頼を受けなければ、還元され消滅する。

 受ければ、異世界転移チートが出来るかも知れない。

(どうせ、石像の言葉の真偽を確かめられるような能力も時間も、俺には無い)

 なら、ここは賭けてもいいだろう。

「最後に一つ。依頼を受けた場合、報酬はあるのですか?」

『一つの生を中途で終えた者が、その人格、記憶を残したまま他より図抜けた力を与えられ、生を再開出来る。これを報酬と受け取るか否かは、そなた次第だ』

 その言葉に納得する。確かに充分な報酬だ。

「受けます! 依頼、お受け致します!」

 俺の返答に、石像は頷き目を閉じた。

 直後に石像の本体、本の部分の裏表紙が開き(石像のある方が表紙と仮定して)、パラパラとページがめくられて行く。

 そしてピタリと止まり、一枚のページがスッと本を離れ、俺の目の前に静かに飛んで来た。

 パタパタと折り畳まれ、装丁された一冊の本になる。

『受け取れ、我が力だ。詳細はその中に記されている』

 俺は本へ手を伸ばし、押しいただく。

 表紙をめくってチラッと目を通すと、治癒魔法とポーション作製が出来るような事が見て取れた。

「あのー、こういった場合、いただける魔法がどんなものか選べないのでしょうか?」

 恐る恐るたずねる。

『やるのではない、貸与だ』

 そこの違いは重要らしい。

『その力はお前の命を維持し、また金銭を得るのに大いに役立つ。健康で金があれば、自由に生きる事が出来るのではないか?』

 一切飾りなしのストレートな物言いだ。

 人によりいろんな意見はあると思うが、俺個人としては異論は無い。

『では、問題なかろう』

 実は、圧倒的な攻撃魔法を見せつけ人々を平伏させ、驕り高ぶったり出来るのを、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ期待していた。

 勿論そんな事、口には出せない。

 そんなこんなしている間に、いよいよ魂の還元場、大きな光の球が間近になって来た。

 近づくとその巨大さがよくわかる。

 直径百メートルくらいあるんじゃないだろうか。

 実際の球までの距離は、まだ二百メートルくらいはあるのだろう。

 だが、大きいのと光っているのとで、球の方向は巨大な光の壁にしか見えない。

 あまりの眩しさに、体の向きを変えた。

 光の球に背を向けた状態で、石像と最後の言葉を交わす。

「ありがとうございました。では、行って参ります」

 石像は、ゆっくり頷く。

『好きに生きよ』

 別世界へ移送される最後の瞬間まで、俺は石像を注視していた。しかし、「めてやったぜ」、「引っ掛かってやんの」みたいな態度はかけも見られない。

 ただ淡々としていた。

 俺はホッとし、再度確信する。騙すつもりはないと。

 そして、俺の視界は暗転した。

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