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ネクストライフ

相野仁

第一章 新天地 (1)

 隆司はふと目を覚ました。てつくような寒さも、白い風や世界もない。むしろ春のような暖かさを感じる。

「ん……?」

 展開に頭がついてこず、首をかしげる。目を覚ましたら冬山でも病院でも、どこかのコテージでもないとは。周囲には見上げなければならないほどの大きな木々が空へ伸びていて、立派な緑色の葉が茂っている。

 木と木の感覚はいずれも隆司が二、三人通れそうな幅だから、恐らくここは森の中なのだろうと見当をつけた。

(何で森の中なのかさっぱり分からんけど)

 周囲に建物は見当たらない。と言うか木々が障害となって周囲の様子ははっきりとは分からない。一体自分の身に何が起こったのか、全く見当がつかなかった。

(意識不明の間に何日もたったのか? それとも、どこかへ連れて来られたのか?)

 混乱する頭を必死に巡らせる。服装はといえば、紫紺のローブのようなものを着せられている。

 最初は驚いたが、よくよく見ると「ファンタジー・アドベンチャー・オンライン」というゲームで着ていた「れんごくのローブ」にそっくりだった。

(ま、まさかな……夢だ、これは夢だ)

 ふと、右手の人差し指に銀色の指輪がはまっていることに気がつく。ゲームで愛用していた「神言の指輪」と同一のデザインだ。

 それに足元には白を基調とし、先端に青い玉とそれをくわえている緑色の竜の模像がついた杖が落ちている。これもまた同じくゲームの「神竜の杖」というアイテムと同じなのだ。ふと思いつき、首の部分を確認すると「天使長の羽根」という装飾品をつけている。

(ここはもしかして……ゲームの中か?)

 遭難して死んだと思ったら、プレイしていたゲームの世界にいたというシュールな展開なのだろうか。

(いや、待てよ)

 もしゲームの中にいるならば、持っていなければおかしなものがある。様々なアイテムを詰め込んでいる「アイテム袋」だ。だが、いくらあたりを探しても、アイテム袋だけは見当たらない。

 それに考えてみれば、ローブの下は遭難前に着ていたものと同じ下着で、ゲーム専用のインナーではなかった。さっぱりわけが分からない。

 小説や漫画には死んでゲームの中に行ったり、よく似た異世界にトリップするという設定のものがいくつかあり、隆司も何度か読んだことはあるが、まさか自分の身にも同じことが起こったというのだろうか。

(事実は小説よりも奇なりって言うらしいけど……)

 困惑して周囲を見回してもヒントになりそうなもの、答えを教えてくれそうな人は見当たらない。そこで思い出したのが、ゲームの設定だと太陽が二つ出ているということだ。

 確か光の神と闇の神の戦いの影響で二つに割れてしまった太陽を、光の神が最後の力で二つの太陽へと変えたのである。それを知った時は「ファンタジーゲームだし」程度にしか思わなかったのだが……空を見上げて太陽を探す。

 そして思わず笑い出した。空には赤く燃える太陽と、青く輝く太陽が出ていたのだ。

(これもゲームと同じ……少なくとも日本でも地球でもないな)

 隆司は己がファンタジーの世界に来たと信じた。信じざるをえなかったというべきかもしれない。となると問題はこれからだ。この場所は果たして安全なのか、そして水と食べ物はあるのだろうか。

(何でこんなことになったのかは、あとから考えよう……)

 少なくとも今の自分はまだ生きていると言える状況だ。ならば生き続ける努力をしようと思う。まずやるべきことは飲み水の確保だろうが、安全な場所も欲しい。

 ゲームでは「マリウス・トゥーバン」と名乗り、上級プレイヤーの一人として活躍していたのだが、今の彼はただの人間だ。そこまで考えたところで、自分が身に着けている装備品のことを思う。

 いずれも強力で「レベル制限」というものがあるアイテムだったはず。つまりある程度の強さを持っていて初めて装備することが可能なのだ。

 それを考えると、隆司はそれなりの強さを持っていなければおかしいということになる。もっとも冷静な部分が、「ここがゲームの世界とは限らないから、もしよく似た別の世界であるなら、レベル制限がなくてもおかしくはない」と言っていた。

 ゲームの世界でないならば、何でもゲームを基準に考えるのはまずいかもしれない。もしかしたら装備品も全て弱いものだという可能性もある。

(……試してみるか?)

 見知らぬファンタジー世界となれば、自分の身は自分で守るしかないだろう。そのためには自分の力がどの程度のものか確認しておいた方がよい。幸い、周囲には猫の子一匹いない。

 隆司はそう判断すると、ものは試しと弱い魔法を使ってみることにした。

「【ファイア】」

 第十三級魔法「ファイア」は手のひらサイズの火の球を出す、初心者用の魔法である。だからこそ隆司は気軽な気持ちで使ったのだが、結果は「気軽」とは無縁なものだった。

 白く輝く巨大な火の玉が目の前に出現し、隆司から視力を奪う。

「うおおお!」

 予想外の展開に思わず目をつぶり、悲鳴に近い声を上げてしまった。しばらくして目を開けてみると、すぐそばにあった何本かの木がまっ黒くげている。

(あ、あれ……?)

 ゲームの時より、はるかに強くなっている気がした。

(よし、もう一度だ)

 他の魔法も使ってみようとし、若干のためらいを覚える。「ファイア」であの威力ならば、他の魔法はとんでもない威力になるのではないか、という疑問を持ったからだ。うかつに使うわけにはいかないが、今後のためにはどんな魔法を使えるのか確認はしておきたい。

 悩んだ末に空に向けて撃てばいいのではないか、と結論を出した。今度は手加減すればいいだろうと思いつつ、水の魔法を唱える。

「【ウォーター】」

 かざした手から勢いよく撃ち出された水の塊は、上空へと消えていく。普通に考えればすぐにでも落下してきそうなものだったが、なかなか落ちてこず、見上げ続けるのがつらくなってくる。もう落ちてこないのかもと隆司が思った頃、やっと落ちてきた。このままだとずぶ濡れは確実なので、魔法を使って防ぐ。

「【ファイア】」

 もう一度「ファイア」を唱え、白い火の玉を放って水を蒸発させる。水蒸気が発生しなかったのは、あくまでも魔法で作り出したものだから、ということなのだろうか。疑問に思ったところで答えは出ない。

 魔法のメカニズムを説明しろと言われたところで答えられる隆司ではない。彼はただの高校生だし、魔法についても深く考察したことなどなかったのだから。

(それよりも威力が問題だよ)

 最も低い階級の魔法でこの威力だとすると、上の階級の魔法はさらに強力なのだろう。うまく加減できる気がしない。そもそもゲームの魔法はこんなに強くなかった。

 いくらいい装備をつけていても、限度と言うものが存在するのである。魔力を込めれば際限なく強くなるのならば、上級魔法というものは不要だし、ゲームバランスにも問題が生まれるだろう。

 つまり、少なくとも魔法に関しては、ゲーム時代の感覚はあまりアテにできないと踏んだ方がよさそうだ。あくまでも自衛手段と考えるならば、きちんと練習した方がいいのだろうが。

(いや待てよ。攻撃魔法が使えるなら、鑑定魔法も使えるんじゃ?)

 鑑定魔法はその名の通り、手に入れた装備やアイテムを鑑定する魔法である。いくつか種類があり、階級によって鑑定可能な対象のレベルが異なる。低い階級の魔法では、優れた装備を見極めることは不可能なのだ。

 隆司が今身に着けているものが、もしゲームの時と同じものならば、最上位魔法である「アプレーザル」でしか分からないだろう。勝手にいい装備をしているつもりでいるより、実際に確認した方がより安全だ。

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