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ジェノサイド・オンライン

たけのこ

プロローグ


プロローグ


「お嬢様、荷物が届いております」

 学校から帰ってきて開口一番にれいであるやまもとさんからそう言われました。そういえば今日でしたか……忙しくて忘れていました。けど楽しみにしていたのは事実、内心のワクワクを隠して私は応じます。

「わかりました、ありがとう存じます」

 そのまま山本さんは一礼して去っていく……さて、私も部屋に戻って準備しますかね!


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 私こと一条いちじょうれいは日本のぞくである一条公爵こうしゃく家の長女です。

 家柄に相応ふさわしい淑女しゅくじょたれと、この厳しい家庭環境にて育てられてきました。そんな生活は嫌いでしたし、なにより小さい頃から父の私と話す時の、道具を見るかのような目が特に大嫌いでした……多分というか確信が持てますけど、父も私の事が嫌いだったのだろうと思います。自分で言うのもどうかとは思いますが私はどこかおかしかったですから……。

 小さい頃にアリの巣に水を入れたり、虫を捕まえて戦わせたりした経験がある人は多いのではないかと思いますが、私はそれを人に対して、それも躊躇ちゅうちょや遠慮、際限もなく行っていました。

 今にして思えば人目のある所でやるなんて……と思いますが、そこは若気の至りと言いますか、小さい子供だったのでしょうがないとしか言えません。

 そんな私にいつも『普通』を教えさとしてくれる母が好きでした。私がやりすぎる前に止めてくれて、『正しい行い』というのをていねいに優しく教えてくれていましたし、なにかあったらまず母に相談するように言ってくれました。

 今にして思えば母は一人娘である私の将来が心配だったのだろうなと、自分の事ながらに思います。

 そんな私に転機が訪れたのは小学校に上がってからでした。子供というのは残酷なもので『異物』に敏感です。客観的に見て整った母譲りの容姿に綺麗な色の黒髪。『みんな』と違う、キャラクターや戦隊物の描かれた服や最新の子供服ではなく、ちゃんと布地から仕立てられた一目で高いとわかる洋服。

 この程度ならまだみんな「すごいね」「可愛いね」で済んだでしょう……ですが私は『普通』ではありませんでした。子供ながらに……いえ、子供だからこそ皆敏感にそこに気付いていたのでしょう。入学からそう時を置かずに、私という『異物』を排除するためにイジメが始まりました。

 ですがこの時私はそれをイジメと認識せず、自分がしてる『いつもの遊び』だと思ってしまったのです。物を隠されれば隠した本人の物を目の前で燃やし、押し倒されたら前歯が折れるまで押した相手を殴り続け、悪口を言われたのなら相手の口に虫を入れ顎を叩き上げしゃくさせる等、私が行った仕返しを挙げれば枚挙にいとまがありませんでした。

 そんな事が続き誰も私に近づかなくなった頃、たまたま職員室前を通りがかった時です、母の謝罪の声が聞こえたのは……。なぜ母が謝罪しているのかその時はわかりませんでしたが、なんとなく『自分が悪いのだろうな』と感じたものです。

 大好きな母が、理由はわからないけど自分のせいで嫌な思いをしている……それだけで悔しくなり立ち尽くしていました。職員室から出てきた母は、目の前のそんな私にびっくりしたような表情をして、それから微笑ほほえんで──

『帰ろっか?』

 それから私は『遊び』をしなくなりました。なにかあっても淑女らしく微笑み受け流して、決して自分を出さない。自分がおかしい事に気付く年齢になれば尚更その傾向は強まりました。

 父はますます私を無機質な目で見てくるようになり母にも辛く当たっていたようですが、当の母が微笑み私を温かい目で見てくるのでまだ我慢は出来ました。

 ですが母ががんにかかりそれから数年もせず亡くなると、父はそのまま浮気相手と再婚し、あろう事か腹違いの妹と弟まで連れてきました。『あぁ、このままだと遊んでしまうな』と直感した私は、父の関心がないのを幸いとばかりに、屋敷の離れに母の部屋の家具と一緒に移り住みました。

 父は腹違いの妹と弟を可愛がるばかりで、私に対する興味などとうの昔になくしていましたので、なにも言っては来ませんでした。

 ですが今までの心の支えであった母が亡くなり、自分の中の『異常』と折り合いをつけるのが難しくなるのは死活問題で、こればかりはどうしようもありません。なにかないものかとインターネットなどで様々な紛争地域や国の刑法などを調べていくうちに、端の方にオンラインゲームの広告があるのが目に付きました。

 興味を惹かれるがままに調べていくと、今の私に丁度いいというのと、サービス開始間近というのもあって、必要な機材一式を即購入しました。それが今日届いたのです。

「やっと、届きましたね、『カルマ・ストーリー・オンライン』! サービス自体は昨日の内に始まってますけどまだ許容範囲内ですね」

『カルマ・ストーリー・オンライン』、通称『KSO』は、プレイヤー自身の行動によってカルマ値というものが変動し、最終的に秩序、混沌、中立の三つの陣営に所属する事になる新作VRMMORPGです。所属と言っても、具体的な組織や国に加入しない限りなにかしなければならない事がある訳でもないですが、NPCノンプレイヤーキャラクター達からは犯罪者や聖人のごとく扱われたり、施設の利用制限、なれるクラスやなれないクラスなど色々と関わってくる重要な値です。

 プラスならプラスの、マイナスならマイナスなりの意味を持つ事になるのです。

 このゲームは最初から自分で所属する陣営は選べず、カルマ値もプレイヤーがゲームをプレイしていく内にNPCに対する態度、ゲームの攻略状況、特定の国や組織に対する貢献度などで上下するために、まだ『始まりの街』周辺から動けてないプレイヤー達はそのほぼ全員が中立でしょう。

「もうサービス開始から一日以上経過してるし、もしかしたら既に中立から脱してる人もいるかもだけど……」

 このゲームでなにより気に入っているのが公式ホームページに『運営はゲーム自体のクラッキングやセクハラ行為等の現実に対して影響を及ぼしたり、現実の法に抵触しない限り、如何いかなる言動も黙認する』と書いてあるのがいいです。ここなら『遊び』が出来ると考えたのが一番の決め手です。

 自分の行動次第で自身の立ち位置が変わるというのが、最初から自分の意思など関係なく、立ち位置も明白に定められた私の家庭環境とは正反対で、自分には酷く魅力的に映ったのもあるし、日頃のうっぷんをリアルでは出来ない手段でゲームで発散してしまおうという訳です。

「さてと、インストールも終わったし早速プレイしましょう!」

 トイレも行ったし水分補給も大丈夫。かすかに母の香りが匂う気がするベッドに横たわり、いそいそと最新型の薄い輪っかのようなヘッドディスプレイを被り、ゲームアイコンを目線操作で選択して、そのままログインです。

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