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四天王最弱だった俺。転生したので平穏な生活を望む

謙虚なサークル

第一章 転生した俺の日常 (2)

 最後は「神に感謝を」といった言葉で結ぶあたり、いかにも神学校といった感じだ。

 それにしても元魔族である俺が神学校に通い、神に感謝するとは……なんとも皮肉である。

「はい、それではランガくん。この続きを読んでください」

 気づけばクレア先生がじっとこちらを見て、意味ありげに微笑んでいた。

 どうやらぼおっとしていたのを見抜かれたようだ。

 俺が目を丸くしていると、周りで皆がクスクスと笑う。

 うーん、恥ずかしい……。

 しかし確かに考え事をしてはいたが、聞いていなかったわけではない。

 俺は立ち上がると、本の中ほどから読み始める。

「主は言いました。谷底から吹き上がる風が天をく。その時天上からは高らかに笛が鳴り響き、世界は愛に満ちるであろう。すなわちふくいんである。神に感謝すべし」

 俺が続きを読み終えると、教室がしんと静まり返る。

 不思議に思った俺はクレア先生に尋ねる。

「あの、もういいですか?」

「え、えぇ……こほん、そ、それでは次の章に行きますね」

 随分と驚いた様子のクレア先生に首をかしげつつ、教科書をしげしげと眺めていると、俺の後ろの席にいる少年が小声で話しかけてきた。

 彼の名はレントン、俺と仲の良いクラスメイトである。

(やるなぁランガ、今のは古代語だろ? しかもまだ習ってない単語ばかりじゃないかよ。いつの間に憶えたんだ?)

(あー……)

 レントンの言葉で、ようやく皆の態度に納得がいった。

 恐らくクレア先生は、ぼおっとしている俺を注意すべく、まだ解けるはずのない問題を出したのだ。

 しかしそれをあっさりと解かれてしまった為、ほうけてしまったのだろう。

 古代語は魔族の常用語だったからつい、普通に読んでしまったのである。

(た、たまたまさ! 父さんが知ってて教えてくれたんだよ)

(へぇー、ランガの親父さんて考古学でもかじってんのか? すげーんだな!)

(ハハハ……)

 レントンの言葉を、俺は苦しい笑顔で誤魔化す。

 うーむ、気を抜くとつい魔族の癖が出てしまうな。

 全くもって、普通の子供を演じるのも楽じゃない。


   ■■■


「それじゃあ今日の授業はここまで! みんな。気をつけて帰るのよ」

「はーい!」

 元気よく返事をして、子供たちは席から立ち上がると、放たれたように教室を飛び出していく。

 少し遅れて、俺も教科書をまとめてひもくくると、クレア先生の元へ行き頭を下げる。

「クレア先生、さようなら。……それと、今日はぼおっとしてて、すみませんでした」

「ふふ、いいのよランガくん。『なんじ、試すべからず』、あなたを試そうとした私に罰が下っただけなのですから。教師という立場に甘んじていた報い。私もまだまだ未熟者です。……そしてランガ君、あなたはよく勉強していますね」

 クレア先生はそう言って微笑むと、目をつぶり両手を胸の前で合わせ、ざんの姿勢を取る。

 この人は人を疑う事もしない聖人のような性格だ。その純真さ故、子供たちにも人気なのである。

 子供扱いされるのは未だに慣れない俺でも、この人にそうされるのは満更でもない気持ちだった。

「気をつけて帰るのよ」

「はい」

 クレア先生に別れを告げ校舎を出ると、敷地内の茂みの前に子供たちが集まっている。

 気になった俺はその中の一人に話しかけた。

「なぁ、どうしたんだ? 何があった?」

「あ、ランガ。猫だよ猫ー。ほら茂みの中にいる」

 言う通り茂みの中を覗き込むと、そこには一匹の黒猫がいた。

 迷い込んできたのだろうか、綺麗な黒い毛並みに金と銀のオッドアイ。姿形の整った美形の猫だった。

 猫はのんきにあくびをしながらも、いつでも逃げ出せるように皆の様子を窺っている。

 野良猫特有の隙のない所作である。

 そんな中、先刻俺に話しかけた少年、レントンが黒猫の前にしゃがみこみ、指を動かす。

「ほーら、よしよし。こっち来ーい」

 だが猫は全く反応する気配はなく、レントンの方を見もしない。

 それでもめげず、にじり寄るレントンの方をちらりと見て、黒猫は目を丸くした。

「にゃ!」

 何かに気づいたのか、猫はそう小さく鳴くとレントンに向かって跳んだ。

 レントンは目論見もくろみ通りとばかりに近寄ってきた猫を抱こうとするが、猫はレントンには目もくれずそのポケットに忍ばせていた干し肉をかすめ取った。

「何ぃ!? こ、こいつ俺のおやつをっ!」

 どうやら猫はポケットの干し肉を見つけただけのようだった。

 ぴょんぴょんと素早い動きで猫は教会の塀に上り、後ろを振り向く。

「にゃーお」

 そう、馬鹿にするように一鳴きすると、猫は塀を飛び降り逃げていった。

「くっそーっ!」

 レントンはだんを踏み悔しがるが、猫は既に遥か彼方。

 落ち込むレントンを皆が慰めている。

 哀れレントン、でも干し肉をポケットに入れておくのはどうかと思うぞ。


   ■■■


 その場を後にした俺は、家ではなく街を囲う石壁に向かった。

 壁際に建つ家の隙間に置いていたわらたばを除けると、壁には丁度子供一人通れそうな穴がある。

 ここは俺が少し前に開けた穴だ。そこから外へ抜け出す。

「よっこいせっと」

 街の外は荒れ果てた大地が広がっていた。

 所々に枯れた草が伸びており、それが絡まって球となり、風に吹かれて転がっていくのが見える。

 俺はフードをぶかに被ると、周りに人がいないか警戒しながら進む。

 外は危険だ。

 子供がいるのが見つかれば、すぐにでも連れ戻されてしまうからな。

 しばらく進むと、岩陰にうごめくものが見えた。

「……いたな」

 そこにいたのはドドメ色ににごったねんたい、ゼルという魔物である。

 魔物とは、大地の底から地上に溢れ出た魔力が、異形を形作った存在。

 魔族が使役することもあるが、基本的には勝手に暴れまわる、人にあだなす魔性の生物だ。

 俺の目的はこいつとの戦闘である。

 平穏な暮らしの為には、ある程度の強さは必須。

 その為の修行方法は沢山あるが、結局のところ実戦が最も効率的だ。

 何より都合がよいのは、こいつらは人間を見ると喜んで襲い掛かってくるので心が痛まない。

「シュールルル……!」

 このゼルも例外ではなく、俺を認識すると体内にある目をこちらに向けてきた。

 敵意に満ちた赤い瞳。

 のたり、のたりとにじり寄りながら、ゼルは全身から触手を勢いよく伸ばしてくる。

 全方位からの攻撃、俺はそれを迎え撃つべく構えた。

「シャアアアア!!

 しなやかな鞭のように繰り出される触手を、俺は両掌に魔力を込め、軽く弾く。

 ぱぁん、と音がして触手の鞭は軌道を変え、地面に叩きつけられた。

 土煙が舞い、触手が爆ぜる。

 感度は良好。まずは徐々に慣らしていくか。

 ぱん、ぱん、ぱぱんとゼルの攻撃を弾く。弾き続ける。そのたびに奴の攻撃速度が上がっていく。

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