デッキひとつで異世界探訪
第一章 クレナクレム (3)
「お、遂に転生を受け入れたね」
「もう色々とどうでも良くなってきたからな」
「あはは、じゃあ君のテンションが上がること間違いなしの、超朗報を聞かせてあげよう」
「なんだよ?」
「なんと、転生するにあたって、加護を授けちゃいまーす。君風に言うならチート?」
「マ、マジか?」
「うん」
おおお! やった、これって勝組決定ルート?
「まあ、世界を滅ぼす力とか、神すら倒すような規格外の力は無理だけどね!」
「それでも、一般人よりは全然ましなんだろ?」
「そりゃあそうだよ。使いようによっては、英雄になれるくらいには強い加護さ」
「十分だ」
キタコレ! 神様から力をもらって転生なんて、マジでラノベの主人公じゃないか。
いや、待てよ。まだ喜ぶのは早いのだ。
「それで、どんな力がもらえるんだ?」
たまに残念系転生のパターンもあるからな。まあ、最終的にはそれを駆使して昇りつめるが、どうせなら正統派のチートが欲しい。ここは確認しておかねば。
「色々考えたんだけど、君が大好きなゲームの力を授けようと思う。その力を、あっちの世界──クレナクレムでも発揮できるようにしてあげるよ」
俺の大好きなゲームといえば、文字通り命懸けで続けたVRゲームだろう。そのアバターの力を得た状態で、異世界に行けるってことか?
俺のアバター《ヴァイデ》は、ソロで活動することを前提に魔法も剣も使える万能キャラクターとして育てていた。剣も魔術も装備品も、ゲームの中では最高ランクだ。究極破壊魔術や、最上位スキルも多数所持していた。
その力を持ったまま転生できるのであれば俺の理想通り、全てを持った正統派チートである。
これってあれか? 神様からしたらあまり強くないけど、普通の人間にとっては十分凄いチートっていうパターンなのか?
「ほ、本当にゲームの力をそのまま向こうで発揮できるのか?」
「まあ、幾つかクレナクレムに合わせて仕様を変更するけど、できるだけ再現できるように頑張るよ」
ムンと力こぶを作って、やる気をアピールする神。これはマジであるらしい。
「ぜひ転生させてください!」
俺は即座に頭を下げていた。もうね、これで断る奴がいるだろうか? いやいない!
「あははは、欲望に忠実だね。でも嫌いじゃないよ。遊戯というのは欲望なしじゃ発展しない分野だからね。じゃあ、早速転生させちゃうから」
「あ、待ってくれ。俺の体はどうなる? アバターか? 俺のままか?」
「君のままだね。あくまでも力を与えるだけだ」
「そうか……分かった」
それは残念だ。美形アバターで転生できたら、モテモテ人生も夢じゃなかったんだが。せっかくやり直せるかもしれないのに、モブ顔の俺じゃ女性人気は期待できそうにないな。人は苦手だが、別に女が嫌いなわけじゃない。むしろ、人生やり直してモテモテになれたらなーっていうのは、俺みたいな地味メンたち共通の妄想だろう。ハーレム作品がこれだけ世に受け入れられているのも、俺みたいな人間が多い証拠なのだ。
「それじゃ、いくよー。ほい!」
かけ声も軽っ!
そう思った直後だった。今までいた白い空間が消え去り、俺は地面に立っている。本当に一瞬だった。
有難味も何もないが、どこかの森の中であるらしい。
とりあえず自分の肉体を確認してみる。
「ふむ、確かに俺の体そのままみたいだな」
右腕の古傷の痕はそのままに、魔術師のローブっぽいものを身に着けた状態であった。
「でも、俺のアバターが身に着けてた装備じゃないんだけど」
それとも、凄い魔法のローブだったりするのか?
『やあ、問題なく転生できたみたいだね』
「あ、セルエノンか?」
頭の中に、セルエノンの声が響いた。姿は見えないが、どこからか俺に話しかけているらしい。これもぶっ飛んだ体験のはずなんだが、もう驚き慣れてしまってこの程度じゃ動じなくなってしまったな。
『そうだよ。今から君に与えた加護に関して説明するから、心して聞いてね』
「わ、分かった」
『まずは──君は何色が好きだい? 赤青緑黄白黒の六色の中で』
「えっと、その中だったら緑かな?」
なんの意味があるのだろう。だが、セルエノンはマイペースに話を続ける。
『次は念じるんだ。〝ケースよ、出ろ〟ってね』
「ケースよ出ろ?」
やはり意味が分からないが、セルエノンに言われるがまま、念じる。すると俺の手の中に、ずっしりとした重みを感じさせる何かが出現していた。
「銀の、箱?」
銀色の金属で造られた、タバコの箱より少し大きいくらいの箱だ。表面には、植物や動物をモチーフにしたと思われるトライバル模様のエンブレムが彫り込まれている。さらに、そのエンブレムを囲むように細かく精緻な細工がビッシリと施され、神秘的かつ高貴な雰囲気を発していた。
「この箱は──いや、この中央の模様、どっかで見覚えがあるな。なんだったっけ?」
『思い出せないかい?』
「ゲームの中で見たんだっけ?」
どこだ? あー、もう少しで思い出せそうなんだが……。
『よーく思い出してみなよ。君の大好きなゲームの、メインエンブレムだよ?』
「メイン、エンブレム? ──あっ!」
『思い出したかい?』
思い出したよ! これは、俺がVRゲームにズッポリとハマってしまう前にのめり込んでいた、《Monster&MagicMasters》、通称《MMM》というカードゲームのシンボルマークだった。カードパックなどに必ずこのマークが描かれていたのを思い出す。
ボッチ野郎がカードゲームをできるのかって? 問題ない。普段はネットでのプレイが主流だったからな。リアルの大会も「おねがいします」「ありがとうございました」さえ言えれば、あとはアタックやブロックといったカードゲーム用語を言うだけである。人と話すのが苦手な俺でも問題なかった。たまにしつこく話しかけてくる奴もいたが、ガン無視してればすぐに黙ったしね。
「つまり、俺の大好きなゲームって……」
『それは僕特製のデッキケースだよ。格好いいでしょ? やったね! これで君もカードマスターだ!』
「ゲームはゲームでも、カードゲームじゃねーか!」
俺は思わずカードケースを地面に叩きつけていた。跳ね返って何度か転がったデッキケースには、傷はおろか汚れさえついていない。それもまたムカつく。
俺は無意識に天を仰ぎ見て、思い切り叫んだ。別にそこにセルエノンが見えているわけじゃないが、相手は神だからな。
「おい! セルエノン! 話が違うじゃないか!」
『何がだい?』
「さっきまでやってたゲームの力をくれるっていう話だっただろ!」
『いやいや、誰もVRゲームの力とは言ってないよ? 大好きなゲームって言っただけさ。まあ、あえて訂正しなかったけど』
「……どうしてそんな真似をした」
『あははははは! そりゃあ、その方が面白そうだからだよ?』
ああ、ダメだ。こいつは面白ければなんでもいいっていうタイプだったらしい。北欧神話のロキのようなトリックスタータイプである。
最も関わっちゃいけないタイプの神様じゃないか! なんで気付かなかったんだ……。転生する前に気付けよ俺!
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