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デッキひとつで異世界探訪

棚架ユウ

第一章 クレナクレム (2)

「ハッキリ言ってしまえば、あの世だね」

「あの世? あの世って、あの世か?」

「あはははは。そうだよ、あの世だよ。そして僕は神様さ!」

 有り得ない。嘘だ。担がれている。色々な言葉が頭をよぎる。だが、俺が口を開く前に、自称神野郎が再び話し始めた。

「まあ、信じきれないのは仕方ない。でも、今はそんなことはとりあえず置いておこう」

「いや、置いておこうって……」

 そんなジェスチャー付きで言われても、サラッと流せないから!

「いい話を持ってきたんだ。それを聞いてからどうするか考えなよ」

「──? ──! ──!」

 え? 声が出ない。

「質問攻めにされても面倒だし、とりあえず口を塞がせてもらったから。だから今は何も喋れないよ。僕の話を聞き終わったら解いてあげる。ああ、暴れるようなら体も拘束しちゃうからね?」

 マジで口が開かない。ほ、本当に神? いやいや、運営の人間だったらこのくらいのことはできるかもしれない。まだ信じられんぞ。

「疑り深いね〜。ゲームの運営だって、いくらなんでもこんなことはできないと思うけど?」

「──?」

 え? 今心を読まれた? ま、まさかね。い、一+一

「うん、読もうと思えば読めるよ? 二よりも田んぼの田の方がいいかい?」

 セルエノンはそう言ってニヤリと笑った。

「!」

 おいおい、まじかよ? いくらVRシステムが進化したって、相手の心の声を読むなんて芸当は不可能だ。脳波の波形から喜怒哀楽を読み取る程度はできるらしいが……。この軽いのがマジで本当の神様なのか?

「そうでーす。神でーす。軽くてゴメンね?」

 本当、みたいだな。え? じゃあ俺本当に死んだの?

「そうだよ。でも、そんな君に朗報です! なんと、異世界に転生してやり直すことができるのです! しかも剣と魔法のファンタジー世界だよ! わー」

 パチパチと拍手をする神。

「体は今の君のものだけど、一度死んで再構成されるわけだから、転生ってわけ」

 自称神が何やら説明しているが、俺にはそんなものに反応する余裕などなかった。

 だって、死んでるんだぞ俺。神様が言うんなら、もう確実じゃんか。それをこんなあっさり伝えられて……。

 しかも転生? 俺が? なんでだ? 信心深くもないし、特別な力があるわけでもない。普通のアルバイターだぞ?

 少し変わっている部分をあげるなら、仕事以外の時間を全てゲームに費やしていることだろうか? 二十代後半にもなって定職にもつかず、仕事を転々としながら、稼いだ金を全てゲームにつぎ込んでいる。

「あははは! 大事なのはそこさ! 僕は遊戯の神でね。ゲームをやっている最中に死んだ君を見つけて、これは面白そうだなって思ったんだよ」

 遊戯の神らしい理由だが……。いや、今はもっと重要な疑問があるな。本当に転生できるのか? もし転生したら、何をさせられるんだ?

「本当だよ。それに、役目なんかないよ? まあ、面白い行動を期待してはいるけどね」

 お、面白い行動? それだけ?

「そう、面白い行動。まあ、気楽に考えてよ。君は死なずに済む。僕は自分の世界に面白い人間を招くことができる。Win‐Winの関係さ!」

 ……断ったらどうなる?

「別にいいけど、断ったら普通に死ぬだけだよ? 今だって僕の力でギリギリ死んでないだけだし」

 転生か死ぬかってことか? だったら迷うまでもない。そもそも、転生願望なんてなければ、ここまでVRゲームにのめり込んだりしないのだ。

 家族にはとっくに愛想を尽かされている。友人もいない。職場でも一切喋らず、ゲームの中で他のプレイヤーと臨時パーティを組むのが、唯一の他人との繋がりだろう。本当に転生できるんなら、こんな世界になんの未練もなかった。

「この世界に対する執着心のなさも、君を選んだポイントだね。じゃあ、決まりでいいかな?」

「本当に──あ、喋れる」

「考えてみたら、心で会話してるんだから、意味ないなーって思ってさ」

「最初に気付けよ」

 あ、ついタメ口を。

「いいよいいよ。君が僕を欠片かけらも敬ってないことは分かってるから。タメ口で構わないよ」

「いいのか?」

「いいよ!」

 軽! こんなところがさんくさいと言うか、微妙に信用しきれないんだよな。

「そんなことよりも、何か聞きたいことがあるんでしょ?」

「……本当に俺でいいのか? 特別な能力なんか何もないけど」

「気にしない気にしない。だいたい、神から見れば人間なんてみんな無力で無能さ!」

「……あと、人があまり好きじゃないし。人付き合いも苦手だし」

 ぶっちゃけ、面と向かって他人と話したのが何年前のことなのかも思い出せないほどだ。

 最初の違和感は教師だった。喋っている内に、凄く薄っぺらく感じてしまったのだ。そして、「なんでこんな奴らに上から目線でものを言われなくちゃいけないんだ?」と思ってしまった。それからだ、学校というものに意義を感じられなくなったのは。しかもイジメやカーストみたいな下らないことが多すぎるし、勉強は塾で事足りた。

 友達を作る場所だと言う人間もいるが、俺はクラスメイトに対しても興味を持てなかった。なんというか、凄まじくガキっぽく感じてしまったのだ。ハッキリ言って、親しくする価値を感じなかった。

 そんな俺は、次第に学校を休みがちになる。部屋にこもり、朝から晩までゲームを続ける日々だ。そして、俺の親はそれをみっともないと感じるタイプの人間だった。学校に行く、行かないで何度もけんになり、ついには俺を見放した。

 今なら分かる。ガキだった俺は、社会をはすに見て「分かっている俺スゲー」という下らない優越感に浸っていただけだ。そして上手くいかないことで全てを投げ出し、ゲームに逃げたのである。あの頃の心の持ちようによっては、もしかしたら全然違う人生を歩んでいたかもしれない。友人も彼女もいるリア充人生だ。

 しかし、そのまま大人になってしまった今、中々変わることなどできるはずもなく、相変わらずゲームだけが友達のボッチな日々を過ごしていた。セルエノンは最初に運営だと思ってたから、ゲームの中のテンションで会話できているが、現実の俺は他人との会話があまり得意ではない。いや、むしろ苦手だ。

 しかし、セルエノンの笑顔は崩れない。

「うん。ぜんぜん構わないよ!」

「転生なんて奇跡の恩恵にあずかれるほど、ちゃんとした人間でもないぞ?」

「何言ってるんだい! ゲームに熱中し過ぎたせいで死んじゃうなんて、遊戯の神の祝福を与えるに相応しいじゃないか! むしろ君ほど相応しい人間なんかいないね」

「……なあ、俺の死因ってなんだったんだ?」

「直接の死因は心筋梗塞だよ。でも、習慣的にゲームを長時間やり過ぎて、体に負担をかけ続けたことが間接的な原因だ。きっと君のおかげでVRゲームへの長時間ダイブに制限がかかるだろうね! やったね! 世界を変えたよ?」

「嬉しくない!」

 多くのVRゲーマーに恨まれそうだな。きっとネットで叩かれまくるだろう。これは絶対に現実には戻れんぞ。

「まあまあ、どうせ死んじゃったんだし、開き直って来世への希望に胸を膨らませようじゃないか」

「……そうだな」

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