デッキひとつで異世界探訪

棚架ユウ

序章 / 第一章 クレナクレム (1)


序章


「〝ミスティア〟は転生者に英知と魔力を与えるということだな?」

「そうです。〝魔法と知識の神〟たる我に相応ふさわしい、賢者です」

「ふむ。元々は地球でも最高峰の優秀な研究者か。理知的で冷静な男なようだ。少々体力面に不安がありそうではあるが、優良な人材だな」

「無論。体力など後々身に付きますが、知恵は一朝一夕では身に付きません」

「ミスティアは問題なかろう。では、〝アーンセルム〟は?」

「うふふ。私の転生者はこの子よ」

「ほほう。与えるのは成長と習得に秀でた、大器晩成型の加護か」

「ええ。聖霊は護衛型を付けておくことにしたから、きっといつしか〝こんとんおう〟を倒すほどの成長を遂げるわ」

「知力体力容姿、全てを兼ね備えた素晴らしい逸材だ。まだ若いが、それもまた才能と言えような」

「共に成長する武具も与えたわ。〝愛とほうじょうの神〟である私の力を込めた逸品をね」

「そう言う、〝ブラスログン〟の選定した転生者はどういった者なのです?」

「吾輩の転生者はこの者だ」

「なるほど、最強の武具に肉体を与えましたか。はんようせいの高い、素晴らしい加護です」

「現在は事故によって肉体の一部を失ってしまいに過ごす日々であるが、元々は文武ともに最高峰の優れた兵士である。〝秩序と正義の神〟たる吾輩の加護を得るに値する男だ。吾輩の与えた武具を正義のため、適切に扱うだろう」

「残っているのは〝セルエノン〟だけど、あなたの用意した転生者はどのような者なのかしら?」

「貴方にしては珍しく黙ったままですが?」

「やははは。実はまだ選んでないんだよね〜。まあ、期日までには選ぶから安心してよ。いざとなったらその辺から適当に拾い上げればいいしね」

「なんだと? 貴様、事の重要性を理解していないわけではなかろう! 今は〝クレナクレム〟が滅ぶかどうかの瀬戸際なのだぞ! そのように軽く扱って良い問題ではないぞ!」

「だいじょぶだいじょぶ。任せておいてよ。絶対に素晴らしい転生者を選んでみせるからさ〜」

「……ふん相変わらずか……。好きにしろ。どうせ貴様に期待してはいない」

「あっはっは。酷いな〜。でも、そう言われると逆にやる気になっちゃうなぁ。見ててよ。きっとみんなが驚く転生者を探すからさ! とびっきり面白い転生者をね!」

「面白さで選ぶんじゃない! 遊びだとでも思っておるのか!」

「あっはっは! それは仕方ないさ! だって僕は〝ゆう悪戯いたずら〟の神なんだからね! 僕にとって、全てが遊びなのさ! たとえ、世界の命運を懸けた、神々と〝混沌の王〟の戦いであろうともね?」


第一章 クレナクレム


 俺の体は、白い光に満ちた不可思議な空間をフワフワと漂っていた。無重力ってこういう感覚なのかな? 上下も左右も全く分からない。

「えーっと……ここはどこだ?」

 首だけ動かして周囲を見回すが、本当に何もなかった。一点の濁りもなく、視界に入ってくるのは純白の空間だけだ。そのせいで遠近感も狂ってしまっており、今いる空間がどれほどの広さなのかもよく分からなかった。実は四畳半のような気もするし、無限に続いているような気もする。

「俺はクインシアの町にいたはずなんだが……転移したのか?」

 このゲームを長くやっているが、こんな場所は見たことがない。もしかしたら、新発見のエリアだろうか?

 改めてゲームの世界の広さを思い知ったぜ。

 早速このエリアを探索したい。だが、宙に浮いた状態の俺は身動きを取ることができなかった。手足をバタバタさせたところで、体がその場で回転するだけだ。

「飛行魔術はどうだ? ──フライ!」

 おや? 魔術が発動しないな。魔力無効化空間なのか? でも、魔術が使えないんじゃ、本当に身動きが取れないぞ。

 イベントでも始まるのかと思ったが、何かが起きる様子もない。

「うーん、とりあえずスクショを撮っておくか。戻った時に掲示板にアップしないといけないからな。問題は、真っ白いしか撮れないことだけど。まあ、一枚撮ってみるか」

 だがスクショを撮ろうと念じてみても、カメラは起動しなかった。このゲームはフルダイブ型VRゲームである。色々な部分を脳波でコントロールできるのだが、カメラが起動しないなんて初めてのことだ。

 ならステータス画面から手動で──。

「あれ? ステータス画面も出ないな」

 どんな場所でも、ステータスが見られないなんて有り得ないはずなんだが……。もしかしてバグとか? 新発見じゃなくて、バグっただけ?

 いや、そもそも俺が不注意だった。新発見かと思って興奮し過ぎていたようだ。重要なことを見落としていた。

「この体……アバターじゃないじゃないか」

 なんと、今の俺の姿はリアルの体だと思われた。しかも腰布一枚。この少しだけプニッとしてきたお腹も、右腕に残る古傷のあとも間違いない。左の二の腕にある三つ並んだホクロまで再現されていて驚いた。残念ながら顔は見ることができないが、間違いなく俺の体をそのまま再現しているだろう。

 確かにゲームを始める時にリアルの肉体データをスキャニングしたが……。あれでホクロの位置まで読み込めるのか?

 それに、こんな現象聞いたこともない。やはりバグっているようだ。

「仕方ない、一旦ログアウトするか……む?」

 ログアウトと念じても、何も起きなかった。

 なんで? ログアウトができない! いやいや、これはさすがに有り得ない! だって、ログアウトできないってことはゲームの世界に閉じ込められるってことだぞ?

「おいおい、ログアウト不可って、どこのラノベだよ。デスゲームでも始まるのか?」

 焦って色々と念じてみたが、なんの反応もない。

「ちょ、待ってくれ!」

 俺は一人暮らしなんだ。ログアウトできないなんてなったら、リアルの体がどうなるか……。すでに百時間くらい連続ログインしてるんだぞ?

 餓死という言葉が頭をよぎる。俺はどうなってしまうんだ? 不安のあまり頭をかきむしっていたら、不意に何かに肩を叩かれた。

「ひぃ!」

 突然だったので、情けない悲鳴を上げてしまう。でも、俺は悪くないよね? こんな状況で後ろから脅かすような真似をした方が悪い! ちくしょう!

「まあまあ、そう怒らないでよ?」

「えっと……? 誰だ?」

 首だけで振り返った俺の背後にいたのは、二十歳そこそこの青年だった。ほそおもて細目の狐顔をしている。俺よりは年下だろう。身に着けているのは、かりぎぬのようなゆったりとした着物風の服だった。

 ただ、そのおごそかな雰囲気のある衣装と違って、本人には軽薄そうな雰囲気があるな。そのにやけた笑い顔のせいか?

「僕はセルエノン。こんにちはヴァイデ──いや、やなとおるくん?」

「お、俺の本名を知ってるってことは、運営のアバターか?」

 助けが来たのかと思ってホッとしたら、俺の言葉を聞いた青年は腹を抱えて笑い出した。何がおかしいっていうんだ?

「あははは! まだここがゲームの中だと信じてるのかい?」

「は?」

「君がやってたゲームの中に、こんな場所はないよ」

「いやいや。じゃ、じゃあ、ここはどこなんだよ?」

 俺の質問に、青年はサラリと答える。

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