高嶺の彼の淫らな欲望 ~エリート課長のイジワルな溺愛~
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一体、誰が私の背中に触れているのだろう。気持ち悪くて逃げ出したいのに動けない。声も出せない。
(怖い……!! 誰か、助けて!!)
研修室は奥まった場所にあるため、この部屋に用事がなければ誰もここに立ち寄らない。
もし、私が叫んだとしても、誰にも気づかれない可能性が高いのだ。怖くて震える私に、背後から鼻息荒い呼吸が聞こえてくる。
「研修の最中さ。君、ずっと僕のこと見ていただろう?」
「っ!?」
「こんなに若い子が僕に気があるのかい? フフフ、嬉しいねぇ」
私の背中を厭らしく触っている人物は、すぐに思い当たった。
要注意人物だから気をつけろと再三言われた人物、庶務課の係長だ。
「やぁっ!」
やっと声が出たが、怖くてそれ以上大きな声は出せない。うまく躱せばいいのに、逃げることができないなんて。
頭の中ではわかっているのに、なぜか行動に移せずにただ震えるだけ。
そんなことをしていれば、相手の思うツボだ。わかっている、わかっているのだけど金縛りに遭ったように動くことができないのだ。
係長の手がどんどん下がっていく。彼の手がお尻に向かっていることがわかり、ますます恐怖心が込みあげてきて動けなくなる。
それでも、ここは勇気を振り絞って助けを呼ぶべきだ。それに、止めてほしいと係長に意思表示するべきである。
「た、助けて……! 誰か!」
「なに言っているの。僕はただ、スキンシップを取りたいだけなのに。大げさだなぁ」
ヒヒヒと係長は厭らしく笑う。
研修が終わってすでに十五分は経つ。この部屋に忘れ物でもない限り、誰も戻ってはこない。
ギュッと唇を噛みしめたあと、私は立ち上がって庶務係長を睨みつける。
「どうしたんだい? 牧瀬さん。そんな怖い顔をして」
ニヤニヤと笑う庶務係長を批難しようと口を開きかけたときだった。
「庶務係長、何をしているのですか?」
「っ!」
勢いよくバンッと音を立ててドアが開いた。そこには、息を切らし髪を乱した結城さんが立っていたのだ。
驚きのあまり何も言えずに彼を見つめていると、一瞬視線が合った気がする。安堵と怒り、そんなものが入り交じった視線を感じて、胸がドクンと大きく高鳴った。
結城さんから目が離せないでいる私に対して、庶務係長は目を泳がせている。
何も答えない庶務係長を睨みつけながら、結城さんは研修室へと入ってきた。
カツカツと革靴の音を響かせながらこちらに近づいてくると、私と庶務係長との距離を離すように間へと彼が入り込む。
そして、結城さんは私を自分の背後に押しやると、庶務係長に真っ向から立ち向かう。
彼の広い背中に守られている気がして、私の胸は異常なほどに高鳴り、ドキドキとしてうるさいぐらいだ。
彼の背中越しから庶務係長を見ると、悪びれもせずに笑っている。その様子を見て、嫌悪感で気持ち悪くなり私は顔を顰めた。
庶務係長は、こういう場面に慣れているのか。堂々としたものだ。
「何って。牧瀬さんが床に書類をぶちまけてしまったから、拾うのを手伝っていただけ。結城君、何をそんなに怖い顔しているんだよ」
「なっ!」
庶務係長は声をなくした私をチラリと見たあと、わざとらしく肩を竦めた。
係長はなんとかして、この不埒な行為を正当化させるつもりだ。
違います、と反論したのだが、この部屋にいたのは私と庶務係長二人きりだった。目撃者がいない状況では、庶務係長が嘘をついていると実証ができない。
悔しくて唇を噛みしめていると、結城さんは冷たい声で庶務係長に忠告する。
「では、今から情報システム課に参りましょうか」
「は……?」
「貴方はご存じないようですが、この研修室には監視カメラがありますよ」
「な……」
サッと顔色が変わる庶務係長に、鋭い声で結城さんは続ける。
「さあ、情報システム課に行きましょう。ここの監視カメラを確認するためには、部長の許可を得なければなりませんので」
さぁ、と再び促すと、係長は青ざめた顔をして研修室から飛び出していった。
逃げ足の速さを見て開いた口が塞がらないでいると、結城さんが振り返り私を見つめてくる。
「大丈夫だったか?」
「は、はい。ちょっと背中を触られただけなので」
結城さんがこの場に来るのがもう少し遅かったら、お尻まで触られていただろう。
背中だけでも気持ちが悪いのに、お尻まで触られるなんて想像しただけで鳥肌が立ってしまう。
私の顔が青ざめていたのかもしれない。結城さんは心配した様子で私を見下ろしてくる。
「本当か?」
「は、はい。大丈夫です」
何度も頷くと、ようやく結城さんの表情が和らいだ。
そのことにホッと胸を撫で下ろす。イケメンが固い表情をしていると、より怖さを感じてしまうものだと知った。
それにしても、どうして結城さんはこの場に駆けつけてくれたのだろうか。
研修はかなり前に終わったのだから、結城さんは通常の仕事に戻ったはずだ。普通に考えれば、結城さんはすでに情報システム課のオフィスに戻っているはずである。
そのことを不思議に思っている私を見て、彼は眉間に皺を寄せた。
「石井に会った」
「石井さんですか?」
石井真理恵さんは、私が所属する人事部の先輩だ。
ショートカットの髪がとても似合う美人さんで、プロポーションも抜群にいい。常にパンツスーツを着ている彼女は、格好よくて本当に素敵なのだ。そんな彼女は、結城さんと同期の間柄でもある。
しかし、どうしてそこで石井さんの名前が挙がってきたのだろうか。
首を傾げると、結城さんは大きく息を吐き出した。
「今日の研修に要注意人物がいたけど、大丈夫だったかと聞かれた」
「あ……」
「俺はその要注意人物が誰のことなのか知らなかったんだが、石井から名前を聞いて慌てた」
「え?」
「俺が石井と顔を合わせる前、すれ違った人物がいた。それが、さっきの男だ。それで胸騒ぎがしたから戻ったら、この有様だ」
それで結城さんは研修室に戻ってきてくれたようだ。
嬉しくて涙腺が緩くなっていくのがわかったが、先ほどの結城さんの発言を聞いて不思議に思い聞いてみることにした。
「あの、結城さん。この研修室に防犯カメラを設置しているんですか?」
「ああ、そのことか。あれは、嘘だ」
「う、嘘?」
目を丸くさせると、結城さんはフッと意地悪く笑う。その笑い方がとてもセクシーで胸がドクンと高鳴ってしまった。
動揺しまくっている私とは対照的に、結城さんは相変わらずクールな様子で言う。
「この部屋に、監視カメラなんてついていない」
「は、はぁ……え!?」
あんぐりと口を開いてまぬけ面をさらしている私に、結城さんは小さく息を吐いた。
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