捨てられた勇者は魔王となりて死に戻る

悠島蘭

Story1-2 リガルの魔窟 (1)

 

Story 12『リガルの魔窟』

 

【リガルの魔窟】は初心者向けのダンジョンだ。

 世界中には多くのダンジョンがあるが、誰もが一番初めに探検するのが今俺たちが入っているこのダンジョンらしい。

 理由はいくつかある。一つ目は出てくる魔物のレベルが低いから。二つ目はこのダンジョン特有の魔物であるリガルは、経験値が比較的たくさん得られるからだそうだ。

 先頭集団もちょうど交戦中である。

「風の御霊よ、全てを吹き飛ばせ! 天風《ウインド》!」

 女子生徒が発動した魔法で、風が吹き、三匹のリガルの進行が止まった。

 リガルはサソリによく似た魔物で体が硬い甲羅で守られているため、物理攻撃は効きにくい。サイズも五倍はある。しかし、炎系の魔法には滅法弱い。

 炎系では最も威力の低い『火球《ファイア・ボール》』でも倒せるくらいだとか。

 俺はそれすらも未だに使えないんだけど。

「火の御霊よ、焼き払え! 火球《ファイア・ボール》!」

 鮫島がリガルに向けて三発の火球を放つ。

 魔物は断末魔を上げて、光の粒子となって消えた。

「やったよ! 私、もうレベル17だ!」

『天風《ウインド》』でリガルの攻撃を防いでいた女子生徒は、腕を突き上げていた。ガッツポーズも取っている。

 すごいな。さっきからずっと前線に立っている成果なのかもしれない。

 ちなみに、俺も何度か前に出て(あり)を大きくしたような魔物を二匹ほど倒したので、レベル2である。

 魔法が使えない俺にとっては手強い敵だった。何度か攻撃を貰ってしまったので、ヘイジさんに『邪魔だから』と後方待機を命じられた。

 体力が残り少ないのである。

 治癒の魔法くらい掛けてほしかった。

「そうか、おめでとう。さっきのはナイスアシストだったよ、()(じま)さん」

 鮫島が佐島を誉める。こいつは性格はあれだが、それでも女子からは人気があった。

「そうかな~。えへへ、ありがとう!」

 佐島という女子生徒も頬を赤く染めて、喜んでいる。

「あー、こんなとこでイチャイチャするなよ、お前ら。気を引き締めていけ。油断は禁物だ」

 ヘイジさんは甘ったるい空気に胸やけしたのか、うんざりといった感じで注意した。

「わかってますって。で、ヘイジさん。あそこに階段があるんですけど……下りません?」

 鮫島はいつもの作り笑顔で奥に見える階段を指差した。

 提案を聞いた瞬間、ヘイジさんはむっと口を尖らせる。

「ダメだ。そこから先はまだマッピングがされていない未知の領域だからな」

【リガルの魔窟】は初心者向けゆえに、マッピング(地図の作製)されている範囲は他のダンジョンに比べて小さい。

 ここで50階層まで潜って帰ってこられたなら、次のダンジョンへ行っても問題ないレベルまで育つからだ。

 国もわざわざ危険を冒してまで必要のない場所を明らかにしなくてもよいと考えており、現時点でマッピングがされているのは50階層までだった。

 そして俺たちは今50階層にいる。

「大丈夫ですよ、これだけの人数がいますし。それに俺たちの今の力なら、安全マージンも確保出来ているはずです」

「しかしだな、『もしも』と言うのが世の中にはある。これでお前らでも倒せない魔物がいたらどうするつもりなんだ?」

「いませんよ。だって、ここは初心者用のダンジョンですよね? 下層の魔物が上の階層に上がる可能性はあるかもしれないけど。でも、今まで50階層のより強い魔物は出たことが無いんですよね?」

「そうだが、しかし……」

「レベルも上がりにくくなってきたので……ね? 良いでしょう? 魔王討伐の日を少しでも早くするためにも」

 一気に畳み掛ける鮫島。

 彼が言ってるのはどれも事実だ。理にもかなっている。

 恐らくではあるが、51階層に踏み込んだとしても、誰かが死ぬという最悪の事態になることは、まずゼロと言ってもいい。

 しかし、ヘイジさんは何か危険なものを感じているようだ。

 鮫島に根拠は? と訊かれても、答えられていないから根拠はないのだろう。もしかしたら、長年の経験によって培われた勘なのかもしれない。

 だから、ヘイジさんも返答に困っていた。

 今回はその悩んでいる時間が命取りとなった。

「大丈夫だって! 行こうぜ、伸二!」

 しびれを切らした木島が抜け駆けするように、階段へ向かって一直線に走り出す。

「おう、待てよ! 剛!」

「あ、鮫島くん!」

「お、おい、お前ら! くそっ!」

 それがゴーサインだったかのように、50階層にいたクラスメイトは次々と階段を下りていく。

「…………えー」

 一人、取り残され、ポカーンとする俺。

 わざわざあいつらに付き合う理由はない。たとえ先に戻っていても態度や扱いは変わらないんだから、気にすることはないんだ。

「オープン」

 ================

 桂木大地 職業:勇者 レベル2

 体力:18

 魔力:21

 筋力:58

 耐性:305

 俊敏:14

 特殊能力:なし

 ================

 自分のステータスを改めて確認し、即座に脱出は不可能だと悟った。

「……うん、一人きりはまずいよな」

 俺は急いで階段を下りていった。

 くっそ、あいつら、消えるの速すぎる!

 

◆鮫島伸二視点◆

 

 俺――鮫島伸二は誰も足を踏み入れたことのない51階層に来ていた。

 一体どんな魔物がいるのだろうか、と内心ワクワクしながら。

 魔物を殺すのは楽しい。

 殺せば殺すほど強くなる。誰よりも強くなる。

 俺は何においても自分の思う通りに進まないと気が済まない性格だ。

 今はあのクラリアが欲しい。あれだけの女はそうそういない。

 クラリアは神らしいが、勇者になり魔王を倒せば、約束に従い、俺のものにできる。

 もしかしたら、俺と同じ願いを叶えろという奴がいるかもしれないが、その時は容赦しない。

 クラリアを手に入れる。

 そのためには『力』が必要だ。

「鮫島くん! 前からアリアントが来てるよ!」

「わかった」

 飛び掛かってきた虫を持っていた剣で叩き切る。

 縦半分に割れ、壁にぶつかると消えた。

「さっきから何だか単体での攻撃が多いね。何でだろう?」

 ずっと前線に立っている佐島が首を(かし)げていた。

 確かに今までの階層とは違って、個別での攻撃が多くなった。

「今のところ無駄死にしてるだけだし、気にしなくていいんじゃないか?」

「……それもそうかな。損はないし」

「そうそう」

 佐島は納得したようだ。

 こいつは結構使える。俺への好意もわかっているので、それを上手く利用して仲間に取り込みたい。

 佐島の能力は、魔力も体力も完全に回復させることができるという『聖女の微笑み』。

 両方回復できる能力は貴重なのだ。

「おい、伸二! この扉とか怪しくないかぁ!?

 佐島をどうにか上手く取り込めないかと考えていると、先行していた剛が幾何学紋様が描かれた扉を見つけていた。

「これは……見たことのない魔法陣だな」

 後ろから追いかけてきていたヘイジが扉に近づき、まじまじと魔法陣を見つめる。

 歴戦の戦士である彼も覚えがないということは……新種の魔法陣か?

「開けてみようぜ!」

「……うん、そうだな。みんな臨戦態勢に入ってくれ」

「了解!」

 俺が指示を出すと、クラスメイトはそれぞれの武器を構える。

 ヘイジはもう口出しするつもりはないようだ。観念した様子で剣を抜いている。

 俺がコクンと頷き合図を送ると、木島は能力『剛力《オーバー・エンジン》』を使って、重々しく見えるそれを軽々と開けた。

 ゴゴゴと大きな音が鳴った。

「捨てられた勇者は魔王となりて死に戻る」を読んでいる人はこの作品も読んでいます