捨てられた勇者は魔王となりて死に戻る

悠島蘭

Prologue / Story1-1 神様による異世界召喚 (1)

 

Prologue

 

 俺はクラスでいじめの対象だった。

 何故かと言われるとたくさん理由がありすぎて、どれを挙げれば良いかわからない。

 曰く、顔が気持ち悪いから。体型がデブだから。

 容姿はどうしようもできないじゃないか。

 そんな反論は無視された。

 曰く、オタクだから。ギャルゲーばかりしている奴だから。

 それこそ個人の趣味だ。他人にどうこう言われる筋合いはない。それに俺はギャルゲーよりも無双ゲーの方が好きだ。

 そんな反論は掻き消された。

 曰く、勉強も運動もできない、友達もいないネクラ野郎だから。

 友達ができないのはお前らのせいだろうが。勉強も運動も努力している。お前たちに何がわかる。

 そんな反論は叩き潰された。

 クラスメイトも学年中の生徒も、全員がゴミを見るような目で俺を見下し、()()し、(しいた)げた。

 毎日、サンドバッグのように殴られ、ボロ雑巾のように掃除させられ。

 そして、今――俺は魔物の餌にされた。

「あっ」

 抵抗するも体を担がれ、放り投げられる。

 下にはうじゃうじゃと群がる魔物の数々。

 狼の形をした化け物。

 サソリの形をした化け物。

 巨大化した(あり)の形をした化け物。

 それらが俺という餌を、腹を空かせて待っている。

 悲鳴を上げる前に、俺は床に叩きつけられた。体が痺れて動けない。

 次々と寄ってくる魔物たち。

 指を噛みちぎられた感触があった。

 足の肉を引きちぎられた感覚があった。

 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。

「――――――!!

 声にならない叫び声を上げる。

 どうしてさっさと頭を喰ってくれないのか。これじゃあ死ねない。

 早くこの苦しみから解放されたい。

 だんだんと視界がボヤけてきた。血が足りなくなったのだろうか。

 神経もやられたみたいだ。さっきのような激痛が全くしない。

 ()(しやく)音だけが聞こえる。

 クラスメイトたちの姿はとっくに見えない。

 真っ暗な闇だけ。

 きっと、俺を食べるのに夢中になっているこいつらが、階段を上がらないようにふさいだのだろう。

 いや、それとも目がダメになっただけかもしれない。

 死ぬ前に、何でこんなことばかり考えているんだ。

 もっといい思い出とか…………は無いな。屈辱的な日々だけだ。

 なんだ。どっちにしたって一緒じゃないか。

 苦しいなら、傷つくなら、痛いなら。

「あ」

 頭に噛みつかれた。

 そんな感覚がして、俺は意識を失った。

 

Story 11『神様による異世界召喚』

 

 私立(おぎ)()(みや)学園。ここが俺が通う高校で、俺の処刑場と言っても過言ではない。

 毎日のように振るわれる暴力。吐き捨てられる()()(ぞう)(ごん)

 苦痛しかなかった。楽しみなんかなかった。

 しかし、逃げることはできない。

 この学園は寮制なので、自宅に帰ることができるのは長期休暇の時だけ。

 引きこもりでもすれば、教師によって引きずり出され、新たな汚名が生まれる。

 だから、今日も俺はいじめを受けていた。

「おい、立てよ、この豚野郎!」

「がっ!?

 バキッと鈍い音が鳴る。下から振り上げられたブローが腹に突き刺さる。

 俺は膝をついて倒れそうになった。

「まだくたばんなよ。そら!」

「あぐっ!!

 そこを狙って首に落とされるかかと落とし。折れたんじゃないかと思うくらいの激痛が走る。

 今度こそ確実にその場に倒れた。

「ほら、地面とでもキスしてろよ。お前にはお似合いだって」

「ぐっ……」

 頭を足で踏みつけられる。毎度、毎度、同じパターンだ。

 俺が一体何をしたって言うんだ。

 どうしてこんな目に合わなくちゃならないんだ。

「マジでキモいわ~」

「本当に。同じ空気を吸うのも嫌!」

「早くここから消えれば良いのに」

 教室中のあちこちから聞こえる俺に対する()(とう)

 こっちだって願い下げだ、クソ野郎。

「まぁ、安心しろよ、(かつら)()。俺たちがちゃんと雑巾代わりに使ってやるから」

 そう言って俺の顔を前後に床に擦り付けるのは、クラスでもいじめでも中心人物に当たる(さめ)(じま)(しん)()

 ルックスも頭脳も運動神経も、全ての分野においてトップクラスを誇る優等生。しかも、理事長の孫。だから、こいつがやることは容認されている。俺のいじめも、見て見ぬ振りをされている。

 鮫島はかなり腹黒い。気に入らなかったら消す。気に入れば何がなんでも手に入れる。

 そんなクズを体現したような男だ。

 さっき俺を殴ったのは()(じま)(たけし)。蹴ったのは()(はら)(けい)()。どっちとも鮫島につく小物みたいな奴。まるでコバンザメだ。

「さーて、次は何をしようかなぁ?」

 鮫島は後ろにいる観客にリクエストを聞こうと足を離した。

 その時だった。

 それは唐突に起きた。

「なっ!」

「きゃっ!?

「うおっ!!

 教室全体を包むような光に視界を奪われる。次に大きく地面が揺れ、何やら爆発音がした。体に浮遊感もある。

「……なんだ、ここ?」

 恐る恐る目を開けると、そこは見知らぬ場所だった。

 ただ白い。一面、白い。

 机も黒板も椅子も、何もかもがない。

「お、おい! なんだよ、ここ!!

「訳わかんねぇよ!」

 ざわめきだす生徒たち。俺といえば、特に何も言わなかった。

 一瞬でも苦痛から逃れることが出来ているのだ。喚けばまた暴力に訴えられるだろう。

 クラスメイトの中には泣き出す者もいた。家族の名を呼ぶ奴もいた。これは夢なんだとブツブツ呟いているバカもいた。

 夢なわけがないだろう。三十人全員が同じ夢を見るとか聞いたことねぇよ。

 とはいえ、この現状がいまいち理解できないのは確かだ。

 地球にこんな場所があるなんて、耳にしたことがない。

 植物も動物も、俺たち以外には何もいない世界。

 ――まるで、本の中の異世界に呼び出された勇者みたいだな。

 そう思った。その時だった。

「お静まりください、勇者の皆様」

 それはきれいでどこまでも透き通るような声だった。

 声の主は突然、目の前に姿を現した。

 腰まで伸びた銀色の髪。誰もが吸い込まれるように魅了されるであろう真紅の瞳。

 大きい孤を描く胸、きゅっと絞られた細い腰からすらっと伸びた足。

 全ての男の理想を具現化したようなその姿に、奴らの視線が釘付けになっている。

 その分、女子が男子に向ける視線は冷ややかになっていたが。

 いや、そんなことよりも。今なんて言った、この人。

「私の名前はクラリア。あなたたちをここに呼び出した女神です」

 女神。勇者。

 こういう知識に詳しい俺は、与えられたピースでどんどんパズルを組み立てていく。そうして、自分たちが置かれている状況の真相に近づいた。

 ……うん、間違いない。これは――

「私はあなたたちを異世界召喚しました」

 女神の発言は俺の思った通りの答えを出した。

 

◆ ◆ ◆

 

 女神・クラリアさんからの衝撃発言の後、ようやく落ち着きを取り戻した皆は彼女から説明を受けた。

 まず、ここは神界と言って、神だけが存在を許される場所。

 では、なぜそんなすごい場所に俺たちが召喚されたのかというと、彼女が神として祭り上げられている世界に、魔王という邪悪で狂暴な存在が復活したので倒してほしいから……らしい。

 魔王を倒す者。つまり、俺たちは全員勇者ってわけか。

 勇者は数がいればいるほど良い。そんなものなのか? と考えたが、神様の言うことだ。正しいのだろう。

 しかし、俺たちはただの学生だ。いきなり魔王を倒せと言われても無理だ。

 ――ということは彼女もわかっているらしい。

「皆様には私の力の一部をお渡しします。いずれも強力な力です。どうか魔王を倒してくださいませ」

 彼女は頭を深く下げた。

 渋る表情を見せる一同。

 当たり前だ。俺たちには何の見返りもない。

 俺も反対だ。命懸けで戦うことになるのは目に見えている。

「もちろん、報酬なしでとは言いません」

 ――だが、この言葉を聞いて明らかにみんなの様子がおかしくなった。

「……報酬? 何ですか?」

 リーダー格である鮫島が尋ねる。

「何でも願いを一つ叶えましょう」

『――――!!

 クラスメイトの目付きが変わり、意識が一気にそこへと集中した。

「そ、それは魔王を倒せば……俺たち全員ですか?」

「はい、当然です」

「何でも?」

「どのような願いでも……です」

 その言葉を聞いて鮫島の雰囲気が変わった。いつも不本意ながらあいつに関わっている俺はわかる。

 あれは――何かを手に入れようとした時の(どう)(もう)な獣のような目だ。

「……わかりました」

 鮫島はクラリアの前に行き、西洋の騎士のように片膝をついた。

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