帰還した勇者の後日譚

月夜乃古狸

勇者の帰還 (2)

「はぁ」

「? 何か?」

「イエ、ナンデモナイデス」

 なんか一気に疲れた俺はアホみたいに長い廊下を無言で歩いていった。

 

 先の邪神との戦いから2ヶ月、王都に戻ってから1ヶ月が経過していた。

 王都に戻ってきたときの王都民の歓迎ぶりはもの凄く、三日三晩のお祭りが繰り広げられた。帰りの道中でも民衆や貴族から歓待は受けたが、比較にならないほどのはじけっぷりだった。

 まぁ、自国が召喚した勇者が魔王と邪神を倒したことで平和を勝ち取った誇らしい感情と、永きにわたった魔族との戦乱に終止符が打たれた(あん)()感が爆発したんだろうってのは理解できる。

 俺も元の世界に帰ることが決まってたから、今更(しつ)()だの利害だのって面倒くさいものに巻き込まれる恐れも少ないんで、十分楽しませてもらった。

 ちなみに戦いの終わった日と(がい)(せん)した日は、祝日として来年以降祭りが行われるらしい。どっちか片っぽで十分な気もするが、俺には関係ないのでいいか。

 んで、今日まで帰還が延びていたのは、一緒に旅を続けてきた聖女様(戦いの後に最初に出迎えてくれた1人で、白いローブを(まと)った美少女さんね)の疲れを完全に癒す必要があったのと、星の並びやら何やらで(ご丁寧に月星暦省――星や月の運行で暦を定めたりするこの世界では結構重要なお役所――の偉い人が説明してくれたんだけど、完全に理解不能だった)この日になった。

 まぁ、ここまできたら多少帰るのが遅れても大差はないし、確実に帰れそうだっていう安心感もあって、俺も初めての王都観光を楽しんだ。

 なんせ、前に王都にいたときは生きて帰るために、必死に訓練だの勉強だのをしてて王都見物なんか頭になかったし。

 ちなみに、この国――アリアナス王国の国王陛下には、このまま国に残るなら恩賞として領地と爵位を与えると残留を勧められたんだけど、さすがに断った。

 やっぱり日本に帰りたかったし、勇者だの英雄だの呼ばれる俺が王国の家臣として仕えたってロクなことにならないのが目に見えてる。

 美女の側室を何人でも選び放題って言われたときに、ちょっと、いや、かなり心がぐらついたのは秘密だ。多分表情には出てはいない、はずだ。

 そんなわけで戦いの(ほう)(しよう)にはその代わりとして、ずっしり重い山盛りの金貨をもらってしまった。

 これも戦後復興に資金が必要だろうと最初は遠慮した。だけど、魔王&邪神を倒した俺が何の(ほう)(しよう)も受け取らないと他に戦功のあった人が受け取れなくなってしまうと言われ、いただくことにした。王国金貨はほぼ純金製らしいので、ぶっちゃけ嬉しいっちゃ嬉しい。

 ……けど、よくよく考えてみたら日本に戻っても入手方法を説明できないから売れないじゃん……。

 

 しばらく歩いて、召喚の塔がある王城の中庭に到着する。

 そこには大勢の騎士達が整然と並んでいた。

「世界を救った英雄に敬礼!!

 騎士団長さんのかけ声を合図に、中庭を埋め尽くした騎士達が一糸乱れぬ動きで俺に敬礼する。

 ……ビビった……。

 いや、かなり照れくさいってか、恥ずかしいんすけど。

 なに、あなた達これ練習してたの?

 ちょっと視線を巡らすと、見知った顔の騎士達が露骨にニヤニヤしながらこっちを見ていやがる。くそったれ。

 塔に向かって一歩踏み出すと、騎士達は道を造るように整列する。

 塔の前には国王アリウス陛下と王妃レフィーア陛下、レオン王太子殿下、そして邪神の神殿で最初に俺を迎えてくれた仲間達がいた。

 そのまま歩みを進め、国王・王妃両陛下の前で膝をつく。

「礼は不要だ。立つがよい」

(おそ)れ入ります」

 その言葉に従って立ち上がると、アリウス陛下が俺に近寄り、話を続ける。

「で、やはりこの国に残ってはくれんか」

「陛下、そのお話は何度もお断りさせていただいたはずですが」

「メルスリアでは駄目か? ……やはり胸が足らんか……ではエリスも付けよう! どうだ! エリスなら胸も尻も中々のものだと思うぞ」

 陛下が身振り手振りを交えながらぶっ飛んだ発言を繰り出す。……陛下、手つきがイヤラシいです……あと、王妃様が青筋立ててます……。

「ユーヤ・カシャーギー殿。異世界の人である貴方に過ぎた責任を押しつけてしまったこと改めてお詫びします。そして、貴方が成し遂げた偉業を我が国の民を代表して感謝します」

 そう言いながら王妃様が俺に対して頭を下げた。

「い、いえ、お願いですから頭を上げてください」

 俺は慌てて言った。

 元の世界じゃどうか知らないが、こっちの世界では王侯貴族が平民に頭を下げるなんてのはあり得ない。感謝や謝罪を口にはしても頭を下げることは『権威を損ねる』として絶対にしない。良いか悪いかではなく、そういう文化だ。

 それは別に見下してるってことじゃなくて(もちろん平民や小国の貴族などをナチュラルに見下す貴族もいるが)、その必要があるときは保障や(ばい)(しよう)、恩賞で表現するっていうのが、この世界の常識なのだ。

「そうですか。わかりました。……でも、(わたくし)も本当は貴方にこの国に留まって欲しいと思っているのですよ」

 王妃様はそう言うと柔らかく微笑んだ。

 あの、王妃様が王様の足を思いっきり踏んづけてグリグリしてるから、王様声も出せずに(もだ)えてますけど……その細いヒールは立派な凶器だと思います……。

「ひょっとしたらお前が義弟になるかもしれんと思ったのだがな」

 今度はレオン王太子殿下が歩み寄ってくる。

 銀髪長身の超イケメンだ。文武両道のイケメン王子ってどんな乙女ゲーだよ。……決して(ひが)みじゃない! はずだ! 多分……。

「殿下までそんなことを言い出しますか」

 ちょっと顔を引き()らせながら応じる。何だってここの王族はみんなして人に女を宛がおうとするんだよ。

「なに、お前がいなくなったら少々退屈になるかと思ってな」

「人で暇潰しをしないでください」

 俺がため息をつくと、殿下は笑いながら後ろに下がった。

 ちなみにその間、国王陛下は足を押さえて(うずくま)っていた。

 騎士達の前なのに国王陛下の扱いがかなり酷いが、普段は洞察力に優れ思慮深く、時に果断に、時に慈悲深く、人心を(しよう)(あく)する術を備えている、いわゆる名君である。

 ただ時々変にはっちゃけては悪ふざけをし、王妃様にお仕置きされている。

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