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蜜檻~騎士王のいきすぎた純情~

水瀬もも

【プロローグ】


【プロローグ】


「……っ!」
 生まれて初めて異性の手で肌をまさぐられ、シグリットは唇を()み、こぼれそうになる悲鳴を懸命に押さえこんだ。
 シグリットと違い剣の鍛練(たんれん)を重ねた覇者(はしや)の手は幾分かさつき、シグリットの白く細い指よりもずっと長く、そして器用に(うごめ)(まわ)る。
 火のように熱いレオンハルトの唇が柔肌(やわはだ)をあますところなく()(まわ)り、未だ性に未熟な乙女の甘さと(やわ)らかさを存分に味わい尽くす。
 大きな体躯(たいく)にのしかかられ、シグリットはあえかに身を()()らせて(あらが)いつつも、すべてを受け入れることしかできない。
 そんな乙女の乱れる様子は、かえって男の目を華やがせ、楽しませる。
 若い男の素肌の熱さ、猛々(たけだけ)しさをいやというほど教え込まれ、シグリットはレオンハルトの腕の中でぐったりと息を吐いた。
 一晩で教え込まれるには、この青年のやり方はあまりにも激しすぎる。
「……っ」
 口づけは(むさぼ)るように強く激しく、そして魂さえも(とろ)かすほどに甘い。
 自ら冷酷に夜伽(よとぎ)を命じたはずなのに、男は何故かシグリットの身体を甘やかすように優しく、官能の甘く(みだ)らな喜びを、(あふ)れるほどに与え続ける。
 これまでの十七年間、巫女姫として清らかな生活を送ってきたシグリットに、抵抗する気力はもう残っていない。
 吐息も(から)()られ、息すら自由にできない。真新しい絹のシーツを敷き詰めた寝台の上で、シグリットの身体は完全にレオンハルトのものだった。
 夜はまだ明けない。
 夜の(とばり)は深く垂れ込め、淫らな静寂だけが辺りに満ちる。
 聞こえるのはお互いの(せわ)しない息遣いに、(なま)めかしい衣擦(きぬず)れの音。
 あまりにすべてが熱すぎて、何がなんだかわからない。
 狂乱の夜。
 初めての夜。
「……つらいか」
 低く深い声で(たず)ねられても、泣き枯らした声では返事もできない。
 喉がひどく(かわ)いて、水がほしかった。この熱さを(いや)してくれる真水が。
 表情を読み取ったのか、レオンハルトがシグリットの(にお)やかな肢体(したい)()(いだ)いたまま、寝台の横のテーブルの上に手を伸ばす。蜂蜜酒(はちみつしゆ)の瓶を手に取り、自ら口に含んで唇を寄せる。
「ん、んぅ……」
 口移しに飲まされた蜂蜜酒は甘く、かえってシグリットの中の渇きを増幅させた。
 飲み込みきれなかった蜂蜜酒が、淡い珊瑚色(さんごいろ)の唇の端からこぼれ落ちて清純な美貌と溶け合い、壮絶な色気を(かも)()す。
 渇きは満たされない。
 シグリットは(あえ)ぐように浅い呼吸を繰り返す。
 青年は高価な蜂蜜酒を、惜しげもなくシグリットに唇越しに与え続ける。その間も、たわわな胸をまさぐり続けることをやめない。
「……神聖な巫女姫を、こうして思いのままに(もてあそ)んでいることがお前を敬愛する民に知れたら」
 男の蠱惑(こわく)に満ちた声が熱にくぐもる。
 夜の中で(ささや)かれる言葉は、(したた)り落ちる蜜だ。
 桜貝のような小さな耳朶(じだ)に軽く歯を立てられ、シグリットは背筋をぞくぞくと戦慄(わなな)かせる。下肢(かし)は繋がったまま、少し身動きされるだけでも全身に突き抜けるような快感が走った。
「あっ……ああ」
 またこの猛々(たけだけ)しいもので気を失うほどに突き入れられ、快楽を溢れるほどに注ぎ込まれたら。
 今度こそシグリットは、気が狂ってしまうかもしれなかった。
「俺は、憤激(ふんげき)した民に殴り殺されるかもしれないな」
 薄く吐息だけで笑ったレオンハルトが、びくびくと感じるシグリットの細い腰を引き寄せ、ぐちゅぐちゅと蜜の混じり合う淫らな律動を再開する。
「あー……っ!」
「だが、それでお前が手に入るというのならそれも一興だ。この瞬間を待ち望んできた。十年以上だ。たとえ今宵一夜であろうとも、お前を手に入れることができるのなら悔いはない」
 初めての交わりと酒とで意識が混濁(こんだく)しているシグリットには、レオンハルトの言っている言葉の意味がわからなかった。
「な、に……?」
 ただ、極上のクリームのような色合いの白い胸に赤い花びらのような痕を散らし、左右色違いの瞳が、初めて男を知って(あで)やかに(うる)む。
 真っ白な絹のシーツの上に、乱れる豊かに波打つ金髪。
 それがどんなにレオンハルトの雄を刺激しているか、男の欲望というものを掻き立てることになるか、シグリットには想像もできなかったに違いない。
 これまで、彼女は男性とはまったく接点のない暮らしをしてきたのだから。
 エウリアの巫女姫の証である神眼(しんがん)、右は(すみれ)、左は銀の色違いの瞳。
 夜の闇の中で、そのふたつはこれ以上はないというほどの宝玉(ほうぎよく)だった。
 ――この瞳を手に入れるためだったら、俺の命ごとき、惜しくはない。
 レオンハルトの全身が熱く(たぎ)る。
 すでに何度も思いを遂げたというのに、身のうちで燃え盛る炎はまだまだ収まる気配を見せない。
 自分でもどうかしてしまったのかと思うほど、野性だけが荒々しく息づき続けていた。
 もはや息も絶え絶えな獲物は、彼の腕の中に力なく横たわっている。
 寝台のそばに立てた燭台(しよくだい)の灯りがゆらゆらと揺れて、透き通るような白い肌が、(かぐわ)しい汗にしっとりと()れている。
 陵辱(りようじよく)された乙女の(はかな)い身体に、長年抱き続けてきた思いの(たが)が外れる。
「まだだ。まだ足りない」
 理性は完全に崩壊(ほうかい)して、若々しい獣性だけが残る。
 飢えた獣のように獰猛(どうもう)に、差し出された極上の獲物に食らいつく。
「も……、め、て…………」
 もうやめて、と。
 声にならない声が懇願(こんがん)する。過ぎた快感は拷問(ごうもん)にも等しく、またしても絶頂まで押し上げられたシグリットが弱々しく身を(よじ)らせる。
 拒否する声を聞きたくなくて、レオンハルトはシグリットの小さな唇を情熱的な口づけで(ふさ)いだ。
 夜はまだ終わらない。
 蜜の混じり合わさる卑猥(ひわい)な音と、寝台の(きし)む音だけが明け方近くまで果てしなく続いた。


 エウリアの巫女姫はその夜、掟のために固く守り通してきた純潔を奪われ、踏みしだかれた。

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