妹さえいればいい。

平坂読

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小説家は妹キチ●イ



「お兄ちゃん起っきっき~」

 そんな声が聞こえて目をけると、俺の目の前に全裸のアリスが立っていた。

 アリスというのは今年14歳になる俺の妹で、さらさらの金髪にルビーのような真紅のひとみが印象的な、文句のつけようのない美少女だ。

「ん……おはようアリス」

 頭がぼんやりしたまま俺があいさつをすると、アリスはくすっと笑って、

「眠そうだにゃーお兄ちゃん。そんなねぼすけなお兄ちゃんには──」

 アリスの顔が俺に急接近してきて、そのまま──チュッ。

「……!」

 アリスの柔らかいくちびるが俺の唇に押し当てられ、眠気が一瞬で吹き飛んだ。

「目が覚めっちんぐ? お兄ちゃん」

 唇を離し、アリスは悪戯いたずらっぽくほほむ。そのほおは少し赤い。

「今日の朝ご飯はアリスの手作りだりゃば。冷めないうちに早く来てにゃろ」

「ああ、わかった」

 俺が答え、全裸のアリスはうれしそうにうなずき、きたてのエビみたいなぷりぷりっとした白いお尻を軽快に揺らしながら部屋を出て行く。

 何百回と繰り返されてきたいつもの朝の光景だけど、永遠に見飽きる気がしない。

 幸せをみ締めつつ、一刻も早く妹の作ってくれた朝食を食べるべく部屋を出て、お場で妹の入った風呂の残り湯で顔を洗い妹の温もりの残るブラジャーで顔をいてから食卓へ。食卓には昨日死んだはずのよし子がいて驚いた。

「さ、お兄ちゃん、召し上がりゅ~」

 全裸で俺を待っていたアリスがとろけそうな笑顔で言った。

「おう。いただきまーす」

 相変わらずアリスの卵のオムライスは絶品だ。アリスのミルクもミルクという概念をくつがえしさである。妹の産みたて卵と妹のしぼりたてミルク美味しいです。

「あっ、お兄ちゃん、口にケチャップついてりゅりん。しょうがにゃんころりん。えーと、なにか拭くもの拭くもの……」

 アリスが平行世界の《》から脱ぎたてのほかほかパンツを取り出して俺の口元を拭いてくれた。平行世界の妹のかぐわしい薫りが俺のこうをくすぐり食欲をそそる。

 このパンツ食べたいなあ。

 はむはむ。

 おっと、つい口にくわえてしまった。

 むしゃむしゃもぐもぐ。

 妹のパンツはしいなあ。

 ついついパンツを完食してしまった俺に、アリスは少し困った顔ではにかむ。

「もう、お兄ちゃんったら。パンツが食べたいなら今日のお昼は新鮮な脱ぎたておぱんちゅにアリスのしぼりたてミルクをたっぷりかけた焼きたてパンツにしてあげるっちゅ

「おう! お前の脱ぎたて焼きたてホカホカおぱんちゅ、楽しみにしてるぜ!」


「なっんっじゃっこっりゃあああ───!!

「うおっ!? い、いきなりどうした」

 突如絶叫し読んでいた原稿をテーブルにたたきつけたに、つきはびくっとしてたずねた。

「『いきなりどうした』じゃねえよ! ……な、なんだこの狂気の世界は……。頭がおかしくなりそうだった……」

 土岐があらい息をつきながら言うと、

「フッ……どうやら俺様の描く素晴らしすぎる世界にあてられたようだな」

「こ、この……馬鹿め……」

 腕組みをしながらそんな笑みを浮かべる伊月に、土岐は顔を引きつらせた。

 伊月──しま伊月は小説家である。

 年は20歳。やや小柄で細身の体格。目つきは悪いがあどけなさの残る整った顔立ちに、どこか人をイラッとさせるようなふてぶてしい表情をり付かせている。

 羽島伊月というのは本名で、作家としてのペンネームはなくこの名前で活動している。

 一方の土岐けんろうは伊月の担当編集者で、年は26歳。スーツ姿で眼鏡をかけたせいかんな顔立ちの男だ。

 小説家と編集者の、いわゆる打ち合わせの最中である。

 メールや電話でやりとりすることもあるのだが、伊月は可能な限り土岐と直接会って目の前で紙にプリントアウトした原稿を読んでもらい、ナマの反応を見るようにしている。

 2人がいるのは伊月の部屋で、伊月のアパートは土岐の勤める出版社から徒歩5分程度の場所にあるため、打ち合わせは大抵ここでおこなう。

「……一応念のため確認するが。……これは『せんこう魔狩人イエーガーかつこかり)』の第2章の原稿で間違いないんだな?」

 疲れた声で土岐がねる。

「もちろんだ」

 きっぱりとうなずいた伊月に、土岐はさらに顔を引きつらせた。

「……お、おっかしいなー? プロットでは、2章の冒頭は『1章のラストで魔人の攻撃から主人公をかばって死んだはずのヒロインが、翌朝主人公の家で平然と朝食を食べていることに衝撃を受ける』という内容だったはずなん、だ、が……?」

「フッ、完璧にプロットどおりだな。我ながら完璧すぎる」

 ちなみに『プロット』というのは物語の設計図のようなもので、大抵の場合は本文の執筆に入る前にこれを作り担当と共有しておく。

「これのどこがプロットどおりなんだ!」

 あらっぽくテーブルをたたに、つきは少し顔をしかめ、

「プロットどおり、ちゃんと主人公が驚いてるだろうが。昨日死んだはずのアレがいて……ええと……名前なんだっけ……」

「忘れるなよメインヒロインの名前を! よし子だよし子! やみの世界で人知れず戦う魔狩人イエーガーの名前にこの名前はどうなんだ……。……まあ、たしかに一応とってつけたように『死んだはずのよし子がいて驚いた』とチョロッと書いてあるな。うっかり読み飛ばしそうになったが……」

「やれやれ……編集者がそんなことでは困るな。よくいるのだ、作中にしっかり書いてあるにもかかわらず読み飛ばしたり忘れたりした挙げ句、『伏線がない』だの『ストーリーにあらがある』だの文句を言うたわけが」

「俺が悪いみたいに言うんじゃねえ!」

 小さく嘆息する伊月に土岐は声を荒げ、ふう……と呼吸を落ち着ける。

「……よし子再登場の描写があまりにあっさりしているのも問題だが、一番の問題はそこじゃない」

「なに?」

 土岐は原稿を中指でコツコツ叩きながら、

「なんなんだこのアリスとかいう新キャラは! こんなのがいるなんて聞いてないぞ!」

「主人公の妹だ。主人公のキャラ設定にちゃんと『妹が1人いる』と書いてあっただろう」

「ほんとにサラッとその一文だけな! 他には特に何も書かれてなかったから、細かい設定のないただの脇役だと思っていたら……なんだこのモンスターは……!」

「モンスター級に可愛かわいい? フハハそうだろう!」

「ちげえよ馬鹿! ああクソッ! デフォルトで全裸なのがまずおかしいのに、全裸がかすむレベルの頭おかしい描写がどんどん出てくるせいでどこがどうおかしいのかく説明できん! 主人公は主人公でナチュラルに妹のブラジャーで顔くわパンツ食うわ、とんだ変態……いや、完全にキ●ガイじゃねえか! ……一応くが、『パン』を『パンツ』と打ち間違えてるってことは……」

「愚問だな。この俺がそんな間抜けなミスをするわけがないだろう」

「だよなあチクショウ! ……ちなみにこの『アリスのミルク』ってのは……」

「書いてあるとおりアリスのおっぱいから出たミルクだ。とても濃厚な味わいだ」

「『アリスの卵』ってのは……」

「アリスの産んだ卵だ。想像を絶するしさでキャビアよりい。……そもそも俺はキャビアそんなに好きじゃないけど」

「ははは、やっぱりこの主人公も妹もキチ●イモンスターだ! そしてそれを書いたお前が一番のキチガ●だ! そもそも主人公は『平凡な家庭に生まれ育ったごく普通の男子高校生』という設定だっただろうが! このモンスター家族の前にはヒロインの魔狩人イエーガーの血族とか一瞬でかすむわ!」

 とうのごとくまくし立てられ、さすがのつきまゆを寄せる。

「むう……。たしかに言われてみれば、ミルクとか卵はほんの少しだけ行き過ぎた設定だったかもしれん……。超能力バトルものだから、多少の現実離れした要素は許容範囲だと思ったのだが……」

「ほんの少しだけ……? 多少の、だと……?」

 せんりつするに、

「よくあるだろう。主人公の親が実は伝説の冒険家とか、古武術の継承者で主人公もその才能を受け継いでいるとか」

「卵産んでパンツ食うようなクレイジーサイコパス設定とバトル漫画の定番設定を同列に考えるんじゃない……!」

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