転生したので次こそは幸せな人生を掴んでみせましょう

佐伯さん

四歳 (3)

「ああいやそうじゃなくてな、もうちょっと大きくなってからでも…」

「私も早く父様みたいになって、父様のお手伝いがしたいんです。駄目ですか……?」

「……う」

「なるべく迷惑かけたり途中で投げ出したりしません。だから、お願いします」

「まあいつかはこうなるとは思ってたんだが……早過ぎなんだよな。そりゃ俺も教えてあげたいとは思っているんだが……」

「本当に教えてくれますか?」

 わざと前後の文脈を無視して、教えてあげたいの言葉だけに反応します。

 期待を込めて笑顔を浮かべると、とうとう父様は観念したのか達観したような眼差しになっていました。

 父様の弱点その三。

 父様は不意打ちの笑顔にとても弱い(母様と私に限る)。

 詰まる所、父様は私と母様にべた惚れで、私達を愛してくれているという事です。多少のお願いなら割と叶えてくれるんですよ。

 今回のは我がままというよりは、何もしなくともいずれは来るであろう未来を早めに持ってきただけです。フライングスタートしようとしているだけなんですよ。

 子供特有のきらきらした瞳で期待をあらわにする私に、父様は小さく、いや結構大きく溜め息。

「……分かった、但し条件がある。俺だけでは時間の都合的に教えられないから、家庭教師を雇うのでその者に師事する事。途中で投げ出さない事。あと最初に魔力適性を検査する為に城の魔導院まで一緒に行く事。これを守れないなら…」

「全部守ります。ありがとうございます父様!」

 全部聞かない内に全力で頷いて満面の笑みを浮かべる私に、父様は苦笑。これでもうやっぱ駄目だとか言えないでしょう。私の作戦勝ちです。

 父様大好き、と頬にキスしたらとても機嫌も良くなったので、双方得をした取引になりました。

 父様も結局は私に魔術を教える気はあったんですから、これくらいは許して下さいね。

「リズ、着いたぞ」

「んにゅ……父様……?」

 優しい声でささやかれ、背中を軽く叩かれた私は、しょぼしょぼする目をこすります。

 いつの間にか寝ていたようです。目的地が子供には遠いからと抱っこしてもらって移動していたのですが、お日様の匂いと気持ちの良い体温、眠りを誘う鼓動に、うっかり寝てしまったらしいです。

 くぁ、と中途半端な睡眠に欠伸あくびこらえてまぶたに力を入れると、少し目は覚めて来ました。

 ……おお。

 若干まだ眠さの残る瞳に映ったのは、とても大きな城門、その背後にそびえ立つのは想像していたよりもずっと大きくファンタジーチックなお城です。

 え、本当に父様此処ここで働いてるんですか。改めて父様の偉大さを思い知りました。

「父様父様、父様此処で働いてるんですよね」

「そうだぞ」

「父様凄い……!」

 掛け値なしの称賛に、父様は照れたのか少し頬を赤らめて、嬉しそうにありがとうな、と頭を撫でてくれます。

 父様は私を抱っこしたまま城門に近付き、門番らしき人に歩み寄っていきます。流石さすがは城、ちゃんと門番さんが居るのですね。まあ居ないと不法侵入し放題でしょうが。

「おやヴェルフ様、その子は?」

「私の娘だ。ほらリズ、挨拶は?」

「父様その前に下ろして下さい」

「ああ、そうだったな」

 ヴェルフというのは父様の名前です。

 父様も公私混同はしないらしく……いやまあ私連れて来た時点でアウトでしょうけど、一人称は私になっていました。

 私はというと、父様が本当に此処で働いているという事を実感して感動をしています。凄いです父様。よくこんな人の欲望が裏で沢山うごめいていそうな所で働いていられますね。……あ、褒めてます。父様優しいから騙されたり都合の良いように扱われてないか心配なだけですよ。

 父様特製の揺りかごから下ろして貰った私は、服の乱れを直してから門番さん二人組に向き直ります。

「お初にお目にかかります、侯爵ヴェルフ=アデルシャンの娘、リズベット=アデルシャンと申します。父がお世話になっております」

 ぺこ、とそつなく挨拶して頭を下げると、門番さん達は微妙に固まってました。そりゃこんな年端もいかぬ子供が敬語で挨拶するとか思わないでしょうね。私もこんな子供嫌です。

「ええっとヴェルフ様、失礼ですがご息女はお幾つで……?」

「今年で四歳になったな」

「正確には四歳と七ヶ月です」

 子供の半年は結構重要なので訂正をしつつ、にっこり微笑んで子供らしさもアピール。

 ちなみにどうでも良い話ではありますが、余所よそ行き用の笑顔です。子供の可愛らしさ全面に押し出したスマイル。父様母様に向けるのとはちょっと質が違います。

 門番さん達は私の笑顔で硬直からけたようで、私の顔と父様の顔を交互に見ています。

「よく似ていらっしゃいますね。セレン様の面影もある」

「はは、そうだろう? 私とセレンの子だからな。どうだ可愛いだろう。それに可愛いだけではないぞ、私の子はだな…」

「父様、嬉しいですが用事を済ませてからにして下さい」

 このままだと子供自慢に発展しそうだったので早々に切り上げさせると、これまた門番さん達は私を驚きの表情で見てきます。

 いや、だって。父様の自慢聞いてると褒められている本人としては物凄く恥ずかしいんですよ。穴に入りたくなるんですよ。如何いかに自分の子供が可愛いかとか凄いかをメイドや執事に語るから、私は本当に居心地悪いやら羞恥で死にたくなるやらで困るんです。

「ああそうだったな。……この子も城に入れても良いか? 魔力の検査をしに来たんだ」

「そ、そうですか、ヴェルフ様のご息女ならよろしいとか思われます」

「どうぞお通り下さい」

「助かる」

 ほら若干門番さん達引いてましたからね。私のせいでもあるでしょうが。

 門番さん達の許可をもらった父様は、私の手を引いて城門をくぐって行きます。職場なので実に堂々とした歩き方ですね、私は流石さすがにそこまで堂々とできないので父様の後を控え目について行きます。

 ああそうだ、と門番さんの横を通り過ぎる時に、またにっこり笑って手を振っておきました。また城に入る事があったら便べんを図って貰える可能性を上げる為にと、単純にさようならの意味で。

 門番さん達は私の笑顔にびっくりした後、父様に見えないように笑って手を振り返してくれました。お仕事中なので内密にという事でしょうか。帰りがけにもう一回手を振っておきましょう。


 父様に連れられて城の中を歩く私ですが、道行く人から物珍しそうに見られます。そりゃ結構凄い人っぽい父様が子供を連れて歩いていますからね。

 時折父様に話し掛けて私の事を話題に出す人が居ましたので、簡単な自己紹介をして頭を下げておきました。初対面の印象、大事。

「ヴェルフ様!」

 しばらく歩いていると、前方から息を切らせた、何だかお偉いさんっぽい人が駆け寄って来ました。この人に様付けさせるとか父様どれだけ凄いんでしょうか。

「どうしたナディア」

「ユーリス様が行方不明になられました!」

「……ユーリス様はまた脱走か……」

 ナディアと呼ばれた方の深刻そうな顔に反して、父様は額を押さえてやれやれといった顔。

 よく分かりませんけど、どうやらユーリスという方は頻繁に抜け出してナディアさんを困らせているようです。父様の反応からして間違いないでしょう。

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