転生したので次こそは幸せな人生を掴んでみせましょう

佐伯さん

四歳 (2)

 才能があるならばより努力をするべきでしょう。将来才能があるから仕方ないという言葉で終わらされるのは不本意です。

 ……まあ、それに加えて今度の人生では勝ち組になりたいからですけどね。今度こそ幸せになってやりましょう。自らの力で掴み取ってやりますとも。

 そんな訳で早々に魔術について特訓を開始したいのですが、母様は渋い顔をしていらっしゃいます。

 母様は私に自分の後を継いで欲しいと思っているそうですが、私にはまだ魔術は早いとも思っているそうです。小さい体に魔術は負担がかかる、とか、事故を起こしたら大変、とか、まだまだ甘えて欲しい、だとか。気のせいか最後の理由が一番の理由に思えます。

「……母様は、私が魔術をするの、嫌……?」

 うん、ですのでちょっとズルを。

 おむねさまから顔を離してうるうると瞳を揺らがせ、じいっと見詰めます。この時、上目遣いと服の裾をちょこんと引っ張る事を忘れてはなりません。多分あざと可愛い感じに見えるでしょう。

 私は肉体が子供だと自覚してやっている分たちが悪いですけど、普段駄々こねたり我がまま言ったりしないのでこれくらい許して欲しいものです。大人になったらしないので勘弁して下さい。

 五年も一緒に居れば母様の性格も分かって来ます。両親……取り分け父様がですが、私に甘いのです。まなむすめですからね、溺愛されてる自覚あります。

 しょぼんとしたように眉を下げる私に、母様は言葉を詰まらせています。ごめんなさい、困らせて。

 でもこれは譲れません。時には危険を冒してでも為さねばならない事があるのです。……いやまあ書斎の本見るだけですけど。

「……駄目……?」

「……本を読むだけよ? まだ魔術は使っちゃ駄目だからね?」

「はい!」

 とうとう根負けしたらしい母様、私に念押しして了承してくれました。流石さすが母様、大好きです。

 お礼も兼ねて抱き着いて満面の笑みを浮かべると、母様は苦笑わらいながらも笑って私の頭を撫でてくれました。

 取りえず、今は知識を磨く事にしましょう。知識は幾らあっても荷物にはなりませんから。知識を得る事で将来に役立ったり危機を回避できるならば、私は幾らでも勉強しますよ。勉強は嫌いじゃないですし。

 ……それから毎日のように入り浸って、メイドさんに本の虫だの頭がおかしいだの言われるようになりましたが、まあ良しとしましょう。


ほど

 足しげく父様の書斎に通って、本に一通り目を通して分かった事があります。

 父様結構凄い人でした。

 普段は親バカ……失礼、子煩悩ぼんのうな印象しか見受けられないのですが、仕事になるととても優秀だそうで。城に仕える魔導師の中でも一、二を争う魔導師さんだそうです。

 そりゃ城お抱えの魔導師だとは聞いていましたが、まさかそこまでだったとは。精々せいぜい中間管理職程度かと。いや見くびっていた訳ではなく、まさか自分の親がそんな偉い立場に居たとは思わないでしょうに。

 そんな事実を知って、いよいよ私の存在がチート臭くなって参りました。

 だって私、美男美女の間から、それも飛び抜けて優秀な能力をもった男女から生まれた子供ですよ。潜在魔力量が尋常でなく多いとか顔立ち整ってるとか地味に運動神経良いとか、ついでに親は宮廷魔導師で侯爵とか。

 これではまるであつらえたようなスペックではないですか。こんな優遇されても正直困ります。

 潜在魔力量とかは非常に有り難いのですが、此処ここまで来ると自分の力で地位を確立する事が馬鹿らしくなります。私は自分で立場を築き上げたいのですよ。

 勿論もちろんそれにあたって利用出来る物は何でも使いたいですが、頼り過ぎるのも嫌です。親の力で偉くなったって嬉しくないですし、そんな立場はいつか崩れます。

 まあ子供の頃からこんな事を考えても仕方ないですが、備えあれば憂いなしです。

 取りえずは、今は自らの力を磨いていく事を優先しましょう。自分の力で全てを掴むために。

 ……世界を牛耳りたいとかじゃなくて、あくまで幸せな人生を歩んで行く為ですよ。お間違いなきよう。


「父様父様」

「ん? どうしたんだい、リズ」

 ちょう書斎に寄ってくれた父様に駆け寄って笑顔を向けると、父様も笑顔で、むしろ私よりも嬉々とした満面の笑みで受け止めて高い高いをしてくれます。いやもうでれっでれですね。

 私を抱っこするようにした父様からは、ほのかにお日様の匂いがします。

 決して外仕事ではないはずなのに、柔らかい日差しの香りがするのです。干したてのお布団にダイブした時のような、何とも言えない幸福感。そんなふわふわした感覚が、父様から感じるのです。

 母様からは甘い花の香り。優しくて癒される香りがします。

 それを両親に言うとお互いの匂いを嗅ぎだしたからおわらぐさですよね。

 ただ場所がベッドだったのと服装的に薄着だったので、色々火がいたのか香りを確認するだけじゃ済まなくなったみたいですが。まだまだ両親も若いですからね、そのうち弟妹が出来そうで怖いです。

 勿論もちろん分別ありますし、他人の情事覗いて興奮したり邪魔をしたりはするつもりはないので、ひっそり退室はしておきました。あの空気読める子供ってのも中々なかなかに居ないと自覚してます。

 ……話がずれましたね。

 私は父様に抱っこされたまま、視線を父様の赤い瞳に合わせます。

 私にも引き継がれた赤い瞳は。目元をほころばせ、頬を緩ませていました。私を愛しそうに撫でる父様。

 ……あまり凄そうに見えないのは、家の中だからでしょうね。これでも、私達を養ってくれて無償の愛を注いでくれる父様は、尊敬してますし大好きですよ。

「ねえ父様」

「なんだいリズ」

「私に魔術を教えて下さい」

 プチり。

 私の言葉に力加減を失敗したのか、髪をく指が勢い余って、母様譲りの色素の薄い髪が二、三本引っこ抜かれました。……痛いのですが。

「誰かに吹き込まれたのか?」

「いいえ、私の意思でそれを望みました」

 首を振って真っぐに父様を見詰めると、父様も前の母様と同じような複雑そうな顔をします。

 父様も父様で私の事を心配していらっしゃるのでしょう。多分教えたいには教えたい、けれど危険を伴うから迷っている……そんな所でしょうね。

 まあそういう反応を予想していましたから、打つ手がないという訳でもないのですが。

「私も父様みたいな立派な魔導師になりたいんです」

 父様の弱点その一。

 父様はおだてに弱い(母様と私に限る)。

「そ、そうか……?」

「はい。父様はとても立派な魔導師様だと伺っております。私も父様のように、皆さんから尊敬されるような魔導師になりたいのです」

「そんな事を言ってくれるなんて、俺はとても嬉しいぞ……! でもなリズ、まだリズの年齢では…」

「……父様は、駄目とおっしゃいますか?」

 父様の弱点その二。

 父様は涙に弱い(母様と私に限る)。

 若干あざといと思いながらも、瞳を潤ませて揺れる瞳を向けます。子供のどんぐりまなこがみるみるうちに悲しそうに湿っていくのを見た父様は、見るからに慌て始めます。

 ……子供は涙腺緩みやすくて良かった、と非常に可愛げのない事を思っているのは内緒です、てへぺろ。ごめんなさい調子に乗りました。

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