学校の怖イ噂

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四年に一度  鬼木ニル (1)

四年に一度

鬼木ニル



 学校の怖い噂と聞くと、絶対に思い出す話がある。

 これは私が通っていた中学校の話だ。


 今から十五年以上前、私は親の仕事の都合で、小学校を卒業と同時にI県のS町に引っ越した。

 S町は閑散とした田舎町だった。

 国道から一本裏を行けば田園が広がり、電車は一時間に一本といった調子だ。

 町の中心部に位置する駅前は再開発が進みベッドタウンと化している。

 私は駅前の新築マンションに入居したおかげか、不便さはさして感じなかった。

 一応中心部ということで私が入学したS中学も町内で一番生徒数が多く、一学年につき七クラスあった。

 親は転勤族だったし、小学生の間に二度転校したことがあったから、今更見知らぬ土地でやっていくことに不安はなかった。

 そんなことよりも憧れていた中学生活。

 私は制服を着て学校に通うことに胸を踊らせていた。


 入学式を無事に終え、順調に友達が出来た頃。

 入学してから三日目に私はその噂を聞いた。

「うちの学校って四年に一度、人が死ぬんだよ」

 あまりにも漠然とした噂話だった。

 私は笑い話かと思って「何それ」とケラケラ笑いながら返事をした。

 しかし噂を口にした本人はおろか、周りの数人まで深刻そうな表情を浮かべている。

 後から知ったのだがこの噂はとても有名なもので、卒業生も、保護者も、近隣住人も絶対に一度は耳にしたことがある……といっても過言ではなかった。

 学校中で知らないのは他所から来た私くらいだったのだ。

「人が死ぬって、誰が死ぬの?」

 私が問い掛けると友達は首を傾げた。

「さぁ……それはわからないんだよね、とにかく四年に一度、絶対学校の中の誰かが死ぬんだって」

「なんで四年に一度なの?」

「それもわかんない、教頭の呪いかな」

「教頭?」

 友達に詳しく話を聞くと、昔この学校の教頭が校舎裏の木で首を吊って死んだらしい。

 話を聞いていた他の友達も「頭がおかしくなった女の先生が授業中に屋上から飛び降り自殺したんだって」とか「飛び降りる先生と目が合ったらしいよ」などと次々と話し出した。

 結局〝四年に一度〟の謎は解けないままであったが、学校関係者が死ぬということと、その〝四年に一度〟が不幸にも今年に当たるということはわかった。

 運が良ければ四年に一度の死と全く拘わらずに卒業していく学年もある。

 しかし私たちが入学した年はちょうど死者の出る年であった。

 もしかしたらこの中の誰かが死ぬのかもしれない。

 俄には信じ難いが、何処か気持ちが悪い。

 皆沈んだ気分を誤魔化すように聞き齧った怪談を各々話しては、キャーキャーと大袈裟に騒いだ。


 そんな話も忘れた一週間後。

「クラスメートの女子の父親が亡くなった」と朝のホームルームで担任が告げた。

 病死だったそうだ。

 当然クラスはざわついた。

 皆噂を知っていたから、これが四年に一度の死ではないかと怯えて泣き出す女子まで出た。

 他のクラスにも話は広がり、不謹慎にも面白がってその日は噂の話で持ちきりであった。

 例に漏れず私も友達と「まさか本当に死ぬなんて」と話し合った。

「でもさ、これで終わりだよね」

「そうだね、うちらの中から誰か死ぬってことはないんだもんね」

「あの子はお父さんが死んじゃって可哀想だけど……」

「うん……」

 クラスメートの親の死というショッキングな出来事は、怖い噂と結び付いて心の中に暗い影を落とした。

 一週間後に忌引が明けて登校してきた女子生徒は、いつもと変わらぬ様子で気丈に振る舞っていた。

 私はその姿を見て胸が痛んだ。

 同時に、これで終わったんだとホッとしている薄情な自分に気が付いた。

 嫌な出来事であった。

 ……ここで終わるはずだったのだが。


 それからまた三日後、朝のホームルームの時間になってもとある男子生徒の席がぽっかりと空いていたのである。

「……昨日、A沢くんのお父さんが亡くなりました」

 担任が告げるやいなやどよめきが起こった。

 この前はあんなに興奮気味に茶化していた男子生徒たちも顔を見合わせ動揺している。

 いよいよ女子の数人が泣き叫んだ。

「四年に一度じゃなかったの!?

「また死ぬなんて」

「呪われてる!」

 クラス中が、いや学校中が軽いパニックに陥った。

 他のクラスや上級生が「一年A組は呪われているらしい」と口々に噂した。

 この事態に教師たちは頭を抱えた。

 各クラスで「くだらない噂話で人の死をもてあそんではいけない」と担任から注意されることとなった。

 入学してひと月も経たないうちにクラスメートの親が立て続けに二人も亡くなった。

 あの〝四年に一度〟の学年の中の一クラスで。

 偶然とは恐ろしいものだ。

 子供たちの目には呪いによる必然に見えた。

 そのうち噂話は加速して「あの男子生徒は最初に呪いを面白がっていた」「女子生徒の親が死んだことを馬鹿にしたから呪われた」とひれがついていった。

 最早個人へのいじめに発展しかけていたのだ。

 だが噂話は「この話をすると呪われる」というものに変わっていき、最終的に皆が口をつぐむことで鎮火した。

 学校行事の準備が始まっていたし、初めてのテストも控えていたためにやがてこの話は忘れ去られていったのだ。

 そもそも口に出せば呪われるかもという恐れもあってか、表立ってこの話をする者が誰もいなかった。

 それにいつまでも〝呪われたクラス〟と扱われる立場としてはたまったもんじゃない。

 私も以降、この話題に触れることはなかった。

 それからは噂など記憶の奥底にしまわれて、中学生活にも段々に慣れていった。

 テストの結果に一喜一憂し部活だ恋だと騒がしい日々。

 初めて過ごすS町の冬は驚くほど寒く、うんざりするほど雪が降った。

 私は田舎町の中学生活をそれなりに楽しんでいた。

 もうすぐ三学期が終わり、春休みに入るという頃のことだった。

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