話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

学校の怖イ噂

エブリスタ

四十三人目  砂神桐 (2)

 また何かを訴えてくる。それが聞こえると、振り向きたくても後ろを向けず、ただ聞き続けなければならなくなる。

 授業の間中、ずっとぼそぼそ何かを話しかけられ続けるなんて嫌だ。なんとかならないだろうか。

 せめてもう少しはっきりと、言っていることが聞き取れれば。そうすればこちらも何かの対応ができるかもしれない。

「……代わって」

 俺の頭の中身が伝わったかのように、相手の訴えが突然はっきりした。

 代わって。確かにそう聞こえた。でも、何を?

 普通に考えたら座席だよな。やたらと視線を感じるというのも、もしかして転校生は目が悪くて、黒板が見づらいから前方を凝視しているため、それが俺に対する強い視線のように感じられているのかもしれない。

 でもたかだか座席一つ分。代わったところでそうまで黒板の見え方は変わらない。

 訴えるなら手でも挙げ、見づらいから前に行きたいと言った方が遥かに合理的だ。

 でも転校生はそうはしない。ただずっと、俺に『代わって』と言い続けるばかりだ。

 訴えの意図が判らないまま授業が終わる。転校生がいなくなり、どうにか俺の緊縛は解かれたが、一時間目からもうぐったりだ。

 保健室へ行こうか。そうすればあのつぶやきを聞かなくてすむし。

 そう決めて立ち上がろうとしたのだが、足腰にまるで力が入らず、席を立つことができない。その状態に気ばかり焦っているとチャイムが鳴り、すぐに教室へ先生が入ってきて二時間目が始まった。

 転校生も戻って来ている。そしてずっと俺に『代わって』と訴え続けてくる。

 これに応じたらどうなるのだろう。そう考えた俺の脳裏に、昨日いとこが見せてきたオカルトサイトの書き込みが浮かんだ。

 四十三人目が現れると、四十二人の中から一人押し出される……確か、この世の外へ。

 もしこの訴えに応じたら俺は死ぬのか? それとも、死ぬこともできないどこかへ追いやられるのか?

 絶対にダメだ。応じるなんてありえない。

「代わって。俺と代わって」

 俺が考えたことは筒抜けなのか、いきなり訴えが強くなった。

 せがむように……むしろ脅すように、俺に立場を代わるよう強要してくる。でも、首を横に振ることも嫌だと拒絶の声を上げることもできない。

 このままだと押し切られる。どうすればいい? どうすれば俺は助かることができる?

 混乱しかける脳の奥に、いとこの能天気な声が流れた。

 ろくに耳を貸さなかったけれど、一応聞こえていた書き込みの続き。その時のいとこの声が脳内で再生される。

「四千七百七十一!」

 頭に浮いた数字が勝手に言葉になり、俺は立ち上がりながら大声でそう叫んだ。

 背後から強いショックなようなものを感じた気がしたが、そこで意識を失った俺には、この後のことはよく判らない。ただ、潮が引くように、背中に感じていた凄まじい圧が消えたことだけは理解できていた。


 気づいた時、俺は保健室のベッドに寝かされていた。

 側につき添ってくれていた保健の先生が、目を覚ました俺を見て安堵する。

 時間を聞くと、まだあれから一時間程度しか経ってないらしかった。

「大丈夫? 熱、測ってみましょうか」

「あ、いえ、多分大丈夫です。……ここ最近寝不足で……」

 適当な言い訳を口にしたら保健の先生が少し笑った。理由を尋ねてみると、倒れた俺は先生と二、三人のクラスメイトに保健室に運んでもらったらしいのだが、倒れた時の様子を尋ねたら、いきなり立ち上がり、あの数字を口走ってひっくり返ったと聞かされたのだと言う。

「寝不足なら、もしかしておかしな夢を見て、それが原因で倒れちゃったのかもしれないわね」

 このやりとりの後、早退するかどうか問われたが、結局俺は昼まで保健室に置いてもらい、昼休みを待って教室へ戻った。


「おい。大丈夫なのか?」

 俺の顔を見た仲の良いクラスメイトが心配そうに駆け寄ってくる。その面々に、寝不足で居眠りをしてしまい、寝言まで口走ったらしいという、保健室で練り上げた言い訳を聞かせると、一同は心配顔を破顔させ、呆れながらも平気ならよかったと言ってくれた。

 それに相槌を打ちながら、俺は慎重に、自分の席の後方に目を向けた。

 なんとなくそうなのではと思っていたが、やはり転校生の席がない。

「俺の後ろに置かれてた、転校生の机は?」

「転校生? お前、まだ夢見てるのかよ」

 その返事に、俺は、自身に降りかかっていた脅威が完全に去ったことを確信した。

 倒れる間際に圧が消えるのを察した時からこうなる気はしていたが、転校生の存在自体がなかったことになっている。

 誰にも覚えられず、誰とも関わろうとしなかった転校生。それもその筈だ。あいつは元々このクラスに、自分となり替われる相手を見つけに来ていただけなのだから。

 たまたま席が前後したから俺が標的になっただけ。そして、このクラス……いや、この世界での俺のポジションを乗っ取れず、消えた。

 偶然にも一クラス四十二人だった。あいつがこの学校に現れた理由はそれだけで、それがうちのクラスだったのもただの偶然にすぎない。

 最初から俺が狙われていた訳じゃないし、撃退した以上、あいつはもう俺の前には現れないだろう。

 それにしても、いとこのオカルト趣味もたまには役立つことがあるんだな。

 今度会ったら礼を言わないと。それとも、今回の話を残らず語った方があいつは喜ぶかな。

 でも、オカルトな書き込みのおかげで助かった俺が言えることじゃないかもしれないが、撃退の言葉が四千七百七十一……位の部分を省略すると四七七一。

 語呂合わせで『しなない=死なない』。つまり、死人を超えた存在を退ける言葉になってるって……助かって嬉しいけど、このダジャレに救われたのかと思うと、俺はかなり複雑な心境だよ。

「学校の怖イ噂」を読んでいる人はこの作品も読んでいます