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怪談供養 晦日がたり

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顔のないこけし  相沢泉見 (1)

顔のないこけし

相沢泉見



 数年前の夏の話です。

 今はOLをしている私ですが、当時は大学三年生で、映画サークルに入っていました。

 サークルでは毎年夏に映画を一本撮ることになっていて、その夏も例年通り撮影の予定が組まれました。

 百人近いサークルメンバーが四つに分かれて、それぞれ一本ずつ映画を作ります。私が所属していたのはホラー映画のチームです。全部で二十人ほどで、男女比は半々だったと思います。

 私は小道具の担当でした。監督は四年生の男の先輩で、脚本も彼です。

 はっきり言って、かなり面白い脚本でした。一読しただけで背筋が震えあがるほど怖い話です。

 古いお寺に悪霊が出るというストーリーで、撮影の殆どをあるお寺ですることになりました。大学のある都心部からはかなり離れた、山奥のさつです。

 本当はもう少し近い場所が良かったのですが、撮影を許可してくれるお寺がなかなか見つかりませんでした。霊を鎮めるのがお寺の役目です。そのお寺に悪霊が出る映画となると、そうそう許可するわけにはいかなかったのでしょう。

 しかし、粘り強い交渉の甲斐あって、ようやくあるお寺から撮影の許可が出ました。夏休みに入り、私たちはそこで合宿しながら撮影を進めることにしました。

 住職さまは優しそうな顔をしたおじいさんで、私たちにとても良くしてくれました。

 撮影に一週間ほどかかると言うと、「それならここで寝泊まりすればいい」と、本堂の一部を解放してくれたのです。しかも、住職さまの奥さんが食事まで出してくれました。



 こうして、私たちの撮影は始まりました。

 撮影はほぼ順調に進んだと思います。三日目には外で行われる撮影が終わり、あとは室内の撮影を残すのみとなりました。

 その三日目の夕方、私は夜から始まる撮影のために、室内に小道具を設置していました。場所は本堂の脇にある離れで、住職さまからは「片付けさえしっかりしてくれれば好きに使っていい」と言われていました。

 一緒に作業をしていたのは、Mさんという女の先輩と、Kさんという男の先輩です。自分の持ち場を早々に仕上げた私は、手伝うことはないかと周りを見回しました。

 すると、背後でK先輩がせっせと何かを並べています。先輩の耳には、黒い筆ペンが挟んでありました。

 K先輩が並べていたのは『こけし』でした。全部で十体ほどあり、大きさはそれぞれ二十センチから三十センチくらいです。

 K先輩は、私の視線に気付くと、一体のこけしを持ったままニヤッと笑いました。

「このこけし、もともとこの部屋にいくつかあったんだ。ズラッと並んでたらちょっと不気味だろ? 寺の中を見て回ったらさらに何体か見つけたから、ここに置いてみた」

 すると、横からM先輩が心配そうに口を挟んできました。

「勝手にお寺の中のものを動かしていいの?」

「あとで戻しておけば問題ないだろ。それにこのこけし、ゴミ置き場みたいな場所に転がってたんだぜ?」

 K先輩はこけしを握りしめたままへらへらと笑っていました。

 先輩の手の中にあるこけしは、他のこけしとどこか違って見えました。何となく、表情が生々しい気がするのです。

 さらに凝視していると、奇妙なことに気がつきました。

「そのこけし、Yちゃんに似てない……?」

 おずおずと口を開いたのはM先輩でした。先輩も、私と同じことに気がついたようです。

 Yちゃんは一年生の女子で、私たちと同じホラー映画のチームにいます。一年生ながら主演を務めていました。顔立ちが良く演技も上手いので、サークルの中でも人気のある子です。

 K先輩が持っているこけしの顔は、何故かそのYちゃんにそっくりでした。どこがどう似ているか説明するのは難しいのですが、見れば見るほどYちゃんそっくりに思えてくるのです。

「あー、そう言われれば似てるかもな。ま、それならそれで面白いだろ」

 K先輩は手にしていたこけしを並べて、満足そうに頷きました。

 私は何となくそのこけしのことが引っかかっていましたが、撮影が始まると忙しくなって、すぐに忘れてしまいました。

 再びこけしのことを思い出したのは、随分あとのことです。



 住職さまは私たちの寝泊まり用に、二つの部屋を用意してくれました。男女で分かれて雑魚寝です。

 その日は撮影が夜の十時過ぎまであったので、布団に入ったのは夜中。みんな疲れていたのか、早々に寝息が聞こえてきました。

 しかし、私はなかなか寝付けませんでした。

 何度か寝返りを打っていましたが、物音を立ててしまうと隣で寝ている人に迷惑かなと思い、部屋の外へ出ることにしました。

 懐中電灯代わりに携帯電話だけを持ち、私は本堂の中を歩き回りました。やがてそれも飽きて、靴を履いて外に出ました。



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