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赤鉄町怪事録 首狩り地蔵

木場水京

謎の職場 (3)

 そう言うと、各々帰宅準備を始める。猪上と皆川は、さっさと着替えて先に帰ってしまった。

 残る俺も帰宅しようと着替える。

「じゃあ、お先に……」

 名倉さんはまだ何か悩んでいるのか、浮かない顔で退室する。

 篠原と一緒か。なんか気まずいな。

「……君はどう思う?」

 スーツに着替え終わった時だった。聞き間違いかとも思ったが、とりあえず答える。

「な、何を?」

「ここで造っているもののこと、ここの給料、急な人員の入れ替えについてさ」

「えっ? そんなこと言われてもな。ていうか、造ってるのはマネキンだろ?」

「くくっ、君はまともに頭が働いていないらしい。マネキンなら、機械で造ればいいさ。あんなに手間のかかる造り方しないだろうに?」

「じゃあ、あんたは何を造ってると思うのさ?」

「さて、あれだけで腕とは断言できないし……。結局は謎のままさ。ただ、ここの馬鹿高い日給、前にいたはずの従業員が一斉に辞めた理由。何か臭う」

 確かに、ここには謎があるとは思うけど……。

「そりゃあ、まあ気になりますけど」

「ならば、いい。何かある。気をつけるといい」

 そう言うと、篠原は帰っていった。

 なんなんだあいつは? マネキン造ってるって言ったり、造るわけないって言ったり。

 でも実際、何造ってんだろ。

 帰ろうと退室すると、樋口さんがベルトコンベアの前で腕を組み立っていた。

「お疲れ様です」

「おお、お疲れさん」

「……樋口さん、訊きたいことがあるんですけど」

「ん? なんだ?」

「この工場って、何を造ってるんですか?」

 樋口さんの顔が強張る。そして俺の前に立つと、冷たく低い声を放った。

「知りたいのか?」

 強い重圧を感じる。訊いてはいけないことを訊いているんじゃないのか?

「いや、あの……なんとなく気になっただけなんで」

「……そうか」

 その後樋口さんと別れ帰宅するが、どうにも疑念が強まる。

 樋口さんのあの様子は、何かを隠している。だが、何を? ここの給料の高さといい、もしかしたらとんでもないものを造っているんじゃないか?

 悩みは晴れず、むしろ強まっていく。

 そんな次の日、始業時間を回っても、名倉さんは俺達の前に現れなかった。

二日目



 篠原を除き、俺を含めてバイト仲間はどよめいた。たった一日で来なくなったのだから、当然の反応であると感じる。

 それでもとりあえず昨日と同じ配置でベルトコンベアの前に並ぶ。

 全員を見ながら、樋口さんが額を掻いた。

「連絡もつかない。これは……バックレたな」

「名倉さんたら、そんな人には見えなかったけど」

「なんかやたら暗い顔してたけどサ、マジないわー」

「くくくっ」

 名倉さん、どうして……。そんなに悩んでいたのか?

 俺達は気分を沈ませながらも、昨日と同じ組み立て作業を開始する。樋口さんが名倉さんの分もやってくれたおかげで、作業効率は昨日と変わらなかった。

 十二時から一時まで、昼の休憩時間が入る。

 各々の時間を過ごしていたが、俺がロッカールームのベンチに腰掛けて昼飯の弁当を食べていると、顔を青くした皆川と猪上が異様に静かに入室してきた。

「なんだ、どうかしたんですか?」

「へぇっ!? あ、いやいや、何でもないわよ!」

「そうッスよ。いやマジで何もねぇーし!」

 怪しい。凄まじい怪しさだ。

 二人は挙動不審にロッカールームをうろついていたが、仕事時間になるとさらに顔を青くしながら、素早く仕事に入った。



 その日の仕事が終わり、金を貰ってからロッカールームに戻る。

 すると皆川と猪上に話があると言われて、着替えてベンチに座り込んだ。

「何ですか?」

「猪上君、ドアちゃんと閉まってる?」

「大丈夫ッス」

 篠原もまた、足を組んでベンチに腰掛ける。

「僕にも話とはね。手早く頼むよ」

「俺達、休憩時間にトイレに行ったんス。したらさ、その途中で名倉さんを見たんスよ」

「名倉さんって……。えっ、工場の中で?」

「そうなのよ! 何か別のベルトコンベアの前にいたのよ。変だと思わない?」

「くくっ、興味深いな。樋口は連絡もつかないと言っていたのに、工場内にいたっていうのはどういう訳だ?」

 おかしな話だ。別の所属に変更してもらったにしても、樋口さんに連絡がいってないなんて変だ。

「……樋口は知っていたんじゃないか?」

「あら、樋口さんを疑うワケ?」

「ああ。実は樋口は名倉のことを知っていたが、僕達の前では嘘をついた。それから導き出される答えは、僕らに名倉の行方を知られると都合が悪いことがあるということだ」

「それって、何スか?」

 篠原は溜め息を吐いた。

「生憎、僕は超能力者じゃないのでね。さすがにそこまではわからない」

「うーん、樋口さんに直接聞くわけにもいかないしな」

 何だか、二日目にして雲行きが怪しくなってきたぞ。……しかし、謎ばかりが増えていくな。ここはひとつ──

「今の時間に、名倉さんを捜してみませんか?」

「くくくっ。僕は遠慮するよ。多分、無駄な労力を使うことになる」

 頭にきた。苛立つ物言いをするなまったく。協力してくれてもいいじゃないか。

「あたしは行ってもいいわよ」

「俺も行くッス」

 篠原を残し、工場内を歩く。

 たくさんのベルトコンベアや、巨大な機械があるが、一向に組み立てた物は見当たらない。それどころか、他に所属しているはずの人達の影も形もない。

「誰もいませんね」

「おかしいわねえ」

「何かミステリー臭半端ねえッス」

 うろついていると、樋口さんに見つかり、声をかけられた。

「何してる?」

「あっ樋口さん。いや、他の人達いないなって……」

「各々のロッカールームで休んでいるか、帰宅したかのどちらかだろう。あまり用もなくうろつくな」

「すいません」

 樋口さんは冷たい声で注意をして、奥の事務室に入った。

 樋口さんは変わっている。普段ははきはきして、多少温かみのある口調だ。

 だが、工場のこととなると一変する。氷のように冷たく、厳しい口調へ変貌するのはなぜだろう。

 そう言えば、樋口さんの冷たいような感じと、似たのをどこかで……?

「樋口さん、何か怪しいッスよね」

「でもこれ以上の探索は無理ね。また見つかったら、クビになっちゃいそうだもの」

「そうですね。名倉さんのことは気になりますが……」

 話し合い、今日は帰宅することが決まった。ロッカールームに戻って、荷物を手に退室する。

 工場を出てすぐの所にある、錆びたバス停の前でバスを待った。程なくバスが来て、俺はそのバスへ乗り込んだ。客は二、三人で、席が空きすぎているためか広く感じる。どこの席にするか迷っていると、運転手に声をかけられた。

「お客さん、どうも」

「ああ、面接行った時の!」

 俺は運転席近くの椅子に座る。

「その様子だと、受かったみたいですね」

「ええ、まあ」

 バスは発進する。それと同時に、運転手は後ろ頭でぽつりと呟いた。

「でも、何かあったんじゃありませんか?」

 思いがけない運転手の言葉に、胸が爆ぜる。

「……貴方は、あの工場について何か知ってるんですか」

「少しばかり。なにせ、この町に住んで長いもんで」

 車の通りも少ない道を進む。

「何を知ってらっしゃるのですか」

「……あの工場ね。頻繁に人が入れ替わるんですが、私は辞めた人を見たことがないんです」

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