赤鉄町怪事録 首狩り地蔵

木場水京

謎の職場 (1)

組み立て開始



 ゴミ溜めと言っていいだろう。自分で言うのもなんだが、汚い部屋だ。

 ベッドを覆う青い掛け布団の上には、乱雑に放られた衣服が。床を埋めつくすのは、空のペットボトルにコンビニで買った弁当や菓子袋の残骸、読んだ本やその他ゴミ。

 片付けようとは思う。臭いもキツくなってきたからな。

 でもどうしても、明日やろう、明日やろうと先延ばしにしてしまうんだなあ。

 だから駄目なんだよな、俺は。だから二十四歳にもなって、無職なんだ。

 友人には恵まれ、家族仲も悪くない。だから充実してない、とは言えない人生を送っているが、いつまでも無職のままではいられないよな……。

 高校卒業した後から、バイトして金貯めて、今まで一人暮らしをなんとか続けられたけど、この前長いこと続けてたバイトをクビになった。

 次のバイトなりパートなりを見つけないと、さすがにヤバい。住む所すらなくなる。

 そんな思いで、ベッドに寝転がりながら携帯電話をいじり、時給や日給の良いバイトやパートがないか探していると、目に留まったバイト募集があった。

「おお!?

 その求人情報は、寝ていた俺の身を起こして、声すら上げさせた。


 ********アルバイト募集*******

 急募!

 日給:十万円。

 資格:どなたでも歓迎。経歴不問。

 場所:あかがねちょういわ三番地

 仕事内容:単純な組み立て作業。

 仕事時間中は淡々と作業をこなす一方で、休憩時間には和気あいあいと出来る職場です。是非一緒に働いてみませんか?

 その気のある方は下記の電話番号にご連絡下さい。


 会社名:ひと工場

 お問い合わせ:×××‐××××‐××××



 ……赤鉄町? 聞き覚えのない所だ。

 だけど、何よりも目を引くのは、日給十万円って所だ!

 ここで二日働いただけで、その辺のサラリーマンの月給と同じぐらい稼げるじゃねえか。

 場所の確認もしないまま、俺はそこに電話を掛けた。

 一度コール音が鳴ると、すぐに若い女性の声が聞こえた。

「はい、こちら一真工場でございます」

「あの、私、はなさききっぺいと申します。ウェブのバイト募集を見まして、応募したいのですが……」

「はい、では明日の十二時に面接を行います。時間厳守でお願い申し上げます」

「はい、では失礼します」

 電話を切ってから、なんとなく違和感を感じた。何か変に感じたんだが、なんだろうか。でもまあ、気のせいだろう。

 そのまま赤鉄町のことを調べると、そう遠くない。というよりも、隣町じゃないか。

 隣町に、そんな工場があったとはな。

 しかし、ここで気になる記述を見つけた。

 なんでもこの町は、いわゆるホラースポットなる場所が多く、怪奇話や怪奇現象が多々ある町らしいのだ。

 成る程、そんな町だから人が来なくて、あんな求人を出したのか?

 幽霊だなんだ、俺は信じない。とりあえず、スーツ等を用意しておいて、俺は明日に備えた。



 次の日、俺は電車に揺られて、この辺境の町へやってきた。山と海に挟まれ、綺麗といえば綺麗な町だ。

 とは言え、駅のホームは古く、あちこち錆びたり色がくすんだりしている。

 このホームみたく、寂れた町でなければいいのだが。

 駅を出てバスを確かめると、あと十分程で来るのがわかった。俺の目的地、岩海三番地とやらも通るのだろうか。

 少し待っていると、バスが来た。停車したバスに乗り込んで、運転手に訊ねると、岩海三番地も通るとわかった。

 だがその住所を聞いた運転手の顔は怪訝そうだ。渋くて低いが、よく通る声で話しかけてきた。

「お客さん、黒のビジネススーツが決まってますね。岩海は工場ばかりだが、どこか面接でも受けに行くのかい」

「ええ、まあ。一真工場って所です」

「……そうかい。お客さんで何人目かな、あそこを受けに行くって言ったのは」

「えっ?」

「まあ、頑張って下さい」

 運転手は無表情のまま、俺に席に着くように促すと、バスを発進させた。

 十一時半頃、赤鉄町岩海三番地に着いた。鈍い銀色の工場が、眼前の全てを塞ぐ。

「意外とでかいな」

 近づくと、ゴウンゴウン、と何かの機械音が耳に入る。

 入口前で、工場の外観を眺めていると、突然怒声が俺の心臓を刺した。

「そこのお前! そんな所で何してる!?

 声に振り向けば、禿げ頭にもっさりと蓄えた口髭、雪だるまみたいに丸い体型のおっさんが、目を怒らせて向かってきた。

「お前! 何者だ? 従業員か? どこの所属だ?」

 まくし立てるおっさんにやや困惑したが、ここで働いている人物であることはすぐにわかった。

「あの! 今日の十二時に面接させていただくことになってる、花崎と申します」

「花崎!? 花……なに面接? ああ、面接!? そうか、そうか。ああ、いやいや、すいません。仕事に集中すると、どうにもね。ははははは!」

 さっきまで怒っていたのが嘘のように、おっさんは笑顔になった。

「私、ここの工場長のやまむらかずです」

「工場長さんでしたか。改めて、花崎吉平と申します」

 工場長に案内されて、事務室らしい所に入った。

 人が三人入れるか入れないかというくらい狭い。

 部屋に唯一ある机の上は何かの資料やファイルでごちゃごちゃとしており、汚らしいのが第一印象だ。

 二つある内の、黒い椅子に座るように言われたため、そこに腰掛ける。

 そして工場長自らお茶を煎れて、汚い机の上の資料を適当によせて出してくれた。

「いやいやいや、花崎君。まずさっきのこと、すまないね」

「いえ……」

「よし、いつから来れますか」

「え? あ、はい。いつでも大丈夫です」

「いい返事! じゃあ明日から頼むよ」

「あの、面接は?」

「いやいや、君人柄良さそうだしね。人手も欲しいから、即採用さ」

 工場長が馬鹿笑いするので、とりあえず俺も笑っておいた。

 何かあっさりだな。

「仕事は朝の九時から夕方五時まで! 君の所属は……」

 ガサガサと机の上をあさり、赤いファイルを掴むと、睨むように見つめる。

「うーん。君は〈右〉で」

「右ですか」

「右だね」

 一瞬何だかわからなかったが、俺の所属先が右とやらだと理解した。

「その所属名の通り、工場入って右に進めば場所わかるから」

「はい」

 とんとん拍子で話はまとまり、俺は帰宅した。

 やれやれ、なんか一癖ある工場長だが、いい人っぽいし安心だ。

 明日から、頑張るぞ!



 次の日、初勤務日。

 工場に入ると、ひたすらにベルトコンベアが並び、その合間に銀色の大きな機械が入る。その光景を眺めつつ右へ進むと、所属上半分、下半分などアバウトな所属名が書かれた立て札が立っていた。

 右という立て札を見つけると、白い繋ぎを着た男性がベルトコンベアの前にいたので、話し掛けてみる。

「すいません」

「あん? 誰だ? 新入りか?」

「はい。花崎吉平と申します」

「ああ、山村さんから聞いてるよ。ぐちだ。よろしく」

 右手を出してきた樋口という男は、がっしりとした巨躯に、短い顎髭を生やしたゴツい男だ。

 俺も手を差し出し、握手する。

「そのまま奥行ってくれ。休憩所兼ロッカールームがあるんだ。そこにお前のネームプレートが入ってるロッカーがあるはずだから、そこに荷物とか入れてくれ。ああ、繋ぎも入ってっから、ちゃんと着替えてこいよ」

「はい!」

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