霊感書店員の恐怖実話 怨結び

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怨結び (2)

「それで、どんな噂なの?」

 コンビニで購入したドリンクを飲みながらヤマさんに訊ねてみる。

「なんでも地元では有名な崖があってさ、そこで自殺を行う人間がやたら多いらしいんだ。

 でも中には新婚女性だったり、子供が生まれたばかりの男だったり、どうも自殺しようって感じの奴じゃないのもいたみたいでさ」

「まぁでも、人の心なんて分からないしね。外見は明るく振る舞っていても、暗い闇を抱えている人なんか一杯いるって」

「自分もその一人とでも言いたそうだな、トシ。……んで、中には崖から落ちたものの、運がいいのか悪いのか死にきれなかった人もいたみたいで。病院で家族が訊ねてみたらしいんだ。なんでこんな馬鹿な事をしたんだって。そしたら、そいつは言ったらしい。『覚えてない。何も覚えてない。ただ誰かに呼ばれた気がして、気が付いたらここのベッドで眠っていた』……と」

「覚えていない? 自分で自殺をしておきながら?」

「真相は分からない。けど一部の人間はこう言ってる。『悪霊に引きずり込まれたんだ』ってな」

「なるほどね。その崖で自殺を行った死者が仲間を求めて……って事? 迷惑極まりないな。自分で死を選んでおきながら、都合のいい事を」

「相変わらずだな。最近は金縛りにあったとか幽霊を見たとかないのか?」

「皆で深夜に霊が出るっていう神社に行って、着物姿の小さな女の子が手毬遊びをしてたのを見たのが最後だよ」

「あー、言ってたな。俺も参加しとけばよかった。金縛りとかはあった事あるけど、幽霊見た事は一度もないからな。是非お目にかかりたい」

「そんな期待するようなモノでもないって……」

 そんな話をしながら、車は進んでいく。

 目的地である崖に到着したのは夕方頃。本番は夜だが、下見をかねて先に問題の地点に向かう事にした。

「綺麗な場所じゃないか。観光してる人もチラホラ見えるし」

 リアス式海岸が続き、二キロ程の垂直絶壁が壮大な景観をつくっている。

 まるで二時間ドラマのワンシーンのような場所だというのが感想で、遠くに見える夕日が更に美しさを演出していた。

(確かに綺麗だけど……この光景を最後に死んでいった人達がいるんだよな)

 そう考えると悲しくなってしまう。死ななければならないほど大きな問題だったのだろうか。もう一度死ぬ気になって頑張ってみようとは考えなかったのか……

「現段階で、おかしな感じとかしないか? 霊が見えるとか」

「特にないね。そういった場所に来たり霊が近くにいたりすると身体が反応するんだよ。背中がビリビリッとして、耳鳴りがしたり」

「やっぱり夜じゃないとダメって事か。んじゃとりあえず腹ごしらえでもして、時間を潰すとしよう」

 街へと移動する前に、僕は持っていたインスタントカメラで美しい光景を撮影した。部屋に飾ってもいいくらいの綺麗な写真だった。



 ──深夜一時半。

 再び崖へとやってきた僕達は車の中で音楽を聴きつつ辺りの様子を窺っていた。

「やっぱり霊が出るとすれば、丑三つ時だよな」

「とりあえず数枚、写真を撮ってみるよ。何か写ればいいんだけど」

「崖に落ちないよう気をつけろよ。車のライトが当たらない場所には行かないほうがいい」

「分かってるよ、大丈夫」

 車から出た自分は、真っ暗な世界を数枚写真におさめる。確認してみるが、当たり前のようにおかしなものは何も写っていない。

「場所が違うのかもしれない。ちょっと移動してみるか」

 ヤマさんの提案に頷き、車は別のポイントへ。

 ……そこで僕達は、とんでもない体験をしてしまう事となる。

 二時が過ぎた。ヤマさんも自分も車から降りて、交互に写真を撮っていく。

「……何も写らないな。噂で聞いていたポイントは、ここで間違いないと思うんだが」

「まぁ、そんなモンだよ。でもいいじゃないか、夕方にあれだけ綺麗な光景を見れたわけだし」

「料理も美味かったしな。ただのドライブと考えれば、まぁ良かったかも」

 岡山へ戻る事を決めた僕達は車の中へ移動。シートベルトをかける僕と、帰りの曲を何にするか迷っているヤマさん。

「眠気覚ましにロックでもかけよう。このアーティスト知ってるか? 俺も最近別の友達から薦められて聴いたんだけど、これがなかなか──」

 次の瞬間。


 ドォオオオォオオオオンッッッ!!!


 物凄い衝撃が走った。フロントガラスは割れ、車体が大きく傾く。

「なっ、何だ?!!」

 不測の事態に動揺しつつ、車の外へ出る。そこで目にしたものは──前部分のへこんだ車の哀れな姿と、地面に転がる女性の姿だった。

 俯いた状態で倒れている上に、辺りが真っ暗なので顔は確認できない。

 しかし微かに照らされた車のライトに、真っ赤なものが見えていた。

 血である。

「お、おい! どうなってる!? 何が何やら、さっぱり分かんねぇぞ!?

「と、とにかく病院! 救急車を呼ぼう!」

「で、でも電話なんてどこにも……!」

「車は動く!? 動くようなら人のいる場所まで行って助けを求めよう!」

「わ、分かった!」

 ボロボロになったものの、車はなんとか動かす事ができた。

 本来なら一人が助けを呼び、もう一人が救命措置を行うべきなのだろうが、この時の僕達は動揺しており、そんな事に気など回らなかった。

 急いで車に乗りこみ、人のいる場所へと向かう。

「ど、ど、どうなってんだよ!? 何が何だか……さっぱり分かんねぇよッ!」

 涙声で運転をするヤマさん。パニックになっているのは自分も一緒だったが、相手がいるという事で若干早く冷静になる事ができた。

「もしかして、ゆゆ、幽霊だったんじゃないのか!? 今も車を追いかけてきているんじゃないのかッ?!!

「そんな事はない! あれは間違いなく人だった! 何が起こっているかなんて分からないけど……とにかく、助けを呼ばなくちゃ……!

 幸いにも近くに民家があったので、僕達はそこの人に事情を話して電話を貸してもらった。

 一一九に連絡し、詳しい場所を教えると、数分後には救急車がやってきた。

 先導するように車を動かし、元の場所に戻ってきた。やはり先程と変わらない体勢で、女性が倒れている。

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