霊感書店員の恐怖実話 怨結び
まえがき / 怨結び (1)

まえがき
人を点で表せば、その点と点を線で繋げたものが『縁』なのだと思います。
しかし線は常に真っ直ぐな訳でなく、曲がる事や絡まる事もあるでしょう。
全てが良縁ではなく、奇縁も悪縁も存在します。
最悪、『縁』で結ばれる筈が『怨』で結ばれる事も……。
こうした結び付きは、私達が思っている以上に強い力を持っています。
それこそ、人を殺めてしまう程の力を。
『怨結び』は身の上で起こった実話を小説サイト『エブリスタ』にて掲載、竹書房さんのご厚意により書籍化となりました。
当時の私は時間を持て余しており、様々な心霊スポットへ友人と出かけていました。
今にして思えば考え無しで、日々の退屈さを埋める刺激欲しさだったように思います。
恐ろしい体験をしても、その話を仲間が楽しんで聞いてくれる事が嬉しくて、再び心霊スポットに赴く……半ば恐怖心が馬鹿になっていたのかも知れません。
結果、一生記憶から消せない恐怖を味わい、自ら危険な場所へ赴く愚行から足を洗った訳ですが、気付けば普通では有り得ない事が向こうからやってくるようになりました。
怪異とは得体が知れない故に恐ろしく、それを体験した者は話しても信じてくれない、助けてくれないという孤立状態になりやすいものです。
故に不可思議な体験をしている私に話を持ち掛けてくるのでしょう。
けれど私は祈祷師でも除霊師でもないので、根本的な解決をする事はできません。せいぜい話を聞き、現場に赴く程度。それでも喜んで頂けるので嬉しい限りです。
偶然にも事件に巻き込まれた、不運にも最悪な人物と関わった……予期せぬ事態とは常に身の回りにあります。それは如何に注意を払っていたとしても起こります。
「自分に至っては大丈夫、生まれて一度も幽霊など見た事ないし」という楽観的な考えはやめましょう。起こってからでは遅いのです。
警察が動く騒ぎになる前に。大切な人を失う前に。不幸な出来事が起こってしまう前に。
本作は、あなたへの警告であり、私の遺書でもあるのです。
イラスト・エザキリカ
※本書は、小説投稿サイト〈エブリスタ〉に投稿された作品「怨結び1~9」「怨結び2018」に加筆修正し、一冊に纏めたものです。
もうあれから十年以上が過ぎ去った。
そろそろ頃合いだと思う。
警察が動き出す事も、当時の関係者が連絡をしてくる事もないだろう。
閲覧者が信じるか疑うかは問題ではない。
ただ、話を聞いてもらいたいだけなんだ。
そして、願わくば覚えておいて欲しい。
これは明日、あなたの身にもふりかかる可能性があるという事を──
怨結び
当時、僕は岡山県の高梁市という場所で大学生活を送っていた。
初めての一人暮らしに意気揚々としたのも束の間、単位を取る事に躍起となり、朝から晩まで講義室にこもっては授業を受けていたあの頃。
一年目である程度の単位を取得した後に言われた事は「二年目からが勝負」という台詞だった。
なるほど確かにそうかもしれないと二年目も努力した結果、得たものは大量の獲得単位数と長すぎる自由な時間。
元々は児童カウンセラーという職種に憧れ、大学受験を行った。今思えば母校に戻りたくないという理由だけで教職課程を取得しなかったのは愚かだったと後悔している。
元々親が好きではなかった僕は長期休みに地元に帰っても一週間たらずでまた岡山へと戻り、日がな一日新しい晩飯開発に取り組んだり、ビデオを借りて観たりと、自分なりの自由を満喫していた。
そんなある日の事。
大学で仲のよかった友人から電話がかかってきた。
「おぉ、電話出るとは思ってもみなかった。いつからコッチに戻ってきてたんだ?」
受話器から聞こえてきた声は、三歳年上でありながら同級生の通称ヤマさんだった。自分の兄貴分として、当時は本当にお世話になっていた。
「二、三日前には戻ってたよ。ヤマさんは地元に戻らなかったの?」
「実家は新潟だし、バイトも入ってたからさ。初めから戻るつもりなんてなかったんだ」
一応説明しておくと、当時はまだ今ほど携帯電話が主流になっておらず、メールだって十五字くらいしか送れなかった。
PHSは所持していたものの、電話代が怖いと感じたビビリの僕は、もっぱら友達と話す時はアパートに備え付けの固定電話を利用していた。
「それはそうと、どうしたの? 何か用事?」
「あぁ、そうそう。ちょっとバイトの人に面白い噂を聞いてさ。こんな話乗ってくるのはトシくらいしかいないと思ってさ」
「面白い噂?」
「あぁ。四国にある崖なんだけどさ、ここがどうやら物凄い心霊スポットらしいんだ」
その手の話は嫌いではなかった。いや、むしろ好きといっていい。
当時は色んな友人と心霊スポットを巡るのが密かなブームになっていたくらいだ。
だから当然、今回も食い付いた。
「面白そうな話だね」
「丁度、別の友達から車を借りる事もできたし。行ってみないか?」
「二人だけで? 他には誰か呼ばないの?」
「夏休みだから、ほとんどの奴は帰郷してる。それに、このテの話が苦手な奴もいるしな」
「確かにね……OK。出発はいつ?」
「二日後だ。朝の内に出発して、次の日の夕方に戻るってのを考えてる」
「それでいいよ。どうせ暇を持て余してる所だし。楽しみにしてるよ」
「んじゃまた、前日に連絡入れる。カメラ忘れないようにな」
電話はそこで切れた。僕はパソコンラックの上に置いていたインスタントカメラ(チェキという名前で当時流行っていた)を手に取り、フィルムの残量を確認する。
「今までも結構心霊スポット巡って、不思議な体験してきたけど……今度こそ心霊写真ってのをおさめてみたいな」
試し撮りで自分の部屋を撮影してみる。名刺を少し大きくしたような写真には、いつも通りの何もない天井しか写し出されなかった。
出発の日、僕はヤマさんが友人から借りたという車に乗り込み、一路徳島県へと向かった。車からはカーペンターズの曲が流れ、とてもこれから心霊スポットに向かうような雰囲気ではなかった。