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ためしに怪談きいたら、やっぱり幽霊いるし怖すぎた。

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お遍路さん  清水誉 (2)

 M君は内心、きっと俺を怖がらせようとみんなで相談したんだな。手の込んだイタズラだ、などと思っていたが、ふと自分の自転車のカゴを見て凍りついた。

 べっとりと濡れた髪の束が、カゴの網にぎっちりと巻きついていたからである。


「ぎゃぁぁぁーっっ!!


 恐怖のあまり、M君は皆と一緒に、自転車をそのままにして家へと逃げ帰ってしまった。


 翌日、高校生の兄に頼み込んで、一緒に公園へ自転車を取りに行ってもらうと、カゴの中にはもう何もなかった。

 それでも、ボールを手にした時の妙な重みは、いつまでも忘れることができなかったという。

お遍路さん  清水誉


 その日、岩倉(仮名)は朝から調子が悪かった。

 しかし運悪く、今日から剣道部の強化合宿が始まる。

 岩倉の所属する剣道部は、優秀成績をたくさん残している名門だ。ということは、練習はもちろん、上下関係も厳しいということに他ならない。

 強豪校で部活動の合宿を一年生が休むなど許されない。たとえ監督やコーチが許しても、先輩たちが許してくれない。


 岩倉は体に重みを感じながらも、合宿所へと向かった。

 合宿所までの道のりを歩いていると、ふと背後に気配を感じた。振り向くと後方から歩いて来る人物がいる。

 真っ白な服を身に纏い、日笠を被り、木の杖を持っている。それは四国で御参りをするお遍路さんの姿だった。

 岩倉は一瞬でその人物がこの世のものではないと分かったそうだ。合宿所までの道のりを慌てて進むが、何度道を折れてもお遍路さんの杖の先の金輪が定期的にシャンと鳴る。


 ……付いて来ている……?


 そう考えざる得ない距離感で、お遍路さんは後ろを歩く。どうすることもできない気味の悪さを抱きつつ、岩倉は合宿所に着いた。

 合宿所の敷地内に入って振り向くと、お遍路さんは消えていた。ホッと一安心もつかの間、ここからは怖い先輩と厳しい練習が待っている。

 岩倉は気を取り直し、道場へと向かった。


 合宿は予想以上の厳しさで、夕食後に開かれた勉強会も疲れを一気に増加させた。

 岩倉がお遍路さんのことを思い出したのは、眠る間際に同級生が「怖い話でもしよう」と言ったからだ。

 同級生五人で枕を並べて一人ずつ怖い話をしていく。そして岩倉の順番になった時、今朝見たお遍路さんの話をした。

「振り向いたらお遍路さんがいたんだよ。影がないっていうか、ぞわって鳥肌が立って、すぐ幽霊だって分かったんだよ」

 岩倉は興奮気味に話すが、友人達は「それホントかよ」と半信半疑で笑う。

「その後、そいつ、どこ行ったんだろうな」

 同級生の一人がそう言った時だ。

 隣の奴が、ギョッとした顔をして動きを止めた。

「何か……聞こえない?」

 耳を澄ませると、空耳などではなく全員がシャン……という金属音を聞いた。

「おい……これ、近づいて来てない……?」

 言ったのは一人だが、皆気付いていた。

 定期的にシャンシャンと鳴る音はたしかに合宿所へと近づき、近づくにつれて、音の間隔が短くなり敷地内の砂利を踏む音も加わった。

 それぞれの布団に寝ていた岩倉たちも、音が近づくにつれて全員が部屋の中心へと固まった。

 歩く音は部屋の周囲をグルグルと囲むように、鳴り続ける。

 稽古で疲れ果てているのに、恐怖のために全員一睡もできぬまま、カーテンの隙間から朝日が差し込み始めた。

 外がうっすらと明るくなっても、まだ歩く音は消えない。……しかしここで岩倉たちは、新たな恐怖が脳裏に浮かんだ。

「……なあ、朝練、遅れたらやばいよな……?」

「でも、オバケがすぐそこに居るのにどうやって出るんだよ!?

「じゃ、じゃあ先生と先輩たちが気付いてくれるまで、ここに居るってのか?」

「そんなことしたら絶対あとでボコボコにされんだろうが!」

 シャンシャンと鳴り響く音も怖いが、朝練に遅刻して先輩達に囲まれるのも怖い。

 散々みんなで話し合った結果、実体のないオバケより先輩たちの方が怖い、という結論でまとまり、ドアを開けたら全員で飛び出ようと決まった。

「いくぞ! いっせーの……せっ!」

 内開きのドアを引き、みんなで出ようとした瞬間だ。

 杖が勢いよく飛んできて、部屋の中心に突き刺さった。

「うわぁぁぁぁ!!

 腰が抜けそうになりながらも、みんな我先にと猛ダッシュで道場へと向かった。


 道場では遅く到着した一年を叱る気満々の先生と先輩たちが居たが、岩倉たちのただ事ではない状態に、一様に驚いたようだった。

「お前ら、どうした!?

「お、おばけ! おばけが出たんです!」

「……はぁ?」

 予想もしてない返答に、先輩たちは「お前らバカか!」と怒り出し、先生も「寝坊しただけだろ!」と怒鳴りつける。

 しかし、なんと言われても「本当におばけが出たんです」と言い続ける岩倉たちの態度に、先生も呆れ気味になった。

「本当におばけが出て杖が飛んで来たっていうんなら、お前らの部屋に行けばその杖があるんだろうな!? よし分かった。今から俺がお前らの部屋に行って、本当におばけが出たのか見て来てやる!」


 そして先生は、岩倉と主将の先輩を連れて合宿所へ見に行った。

 岩倉の案内で部屋まで行き、先生はドアを開けて中を見た。すると、部屋の中央に杖が突き刺さった状態で残っていた。

 その日の稽古は、中止になった。


 その後、寺の住職が呼ばれて合宿所の部屋を見てもらったらしいのだが、住職は一目見るなり「ここはもう使用しないでください」と言った。


 あのお遍路さんがなんだったのか、なぜついて来たのかは分からない。

 合宿所は使用禁止のまま建っていたが、しばらくして取り壊された。


 兄の友人の話である。

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