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PANDEMIC GAME パンデミック・ゲーム

山口洋一

LEVEL 1 (3)

「勇ちゃんって夏休みに入って彼女出来た?」

「で、出来てねーよ」

 悲しい事に、大本命に目の前で盛大な溜息をつかれている他にはアテもございません。

「それじゃ、私のこと嫌いになった?」

「嫌いならこんな所いねーだろ」

 全くもって本音である。

 荷物持ちをやらされるのは予想範囲内だったが、それでも今日の誘いを真希から受けた時は嬉しかったくらいなのだ。

「じゃあ、私が失恋してるわけないじゃない」

「そ、そっか。いや、失恋してないならいいんだ。あははは」

「…………」

「…………?」

 再び沈黙。

 あれ、またマズりました?

「はぁ~~~~~~……」

 肺の空気をカラッポにする位に深く長く重~いめ息。

 どうやら、何かやらかしてしまったようだ。

「あ、あのさ、真希? 俺、何か悪い事を言ってたんなら謝るよ。ゴメン!」

 先手必勝、拝むように両手を合わせて真希に謝罪する俺自身に対して、客観的にこれだけは言える。

 今の俺、すごくカッコ悪い。

 だが、そんな情けない姿を哀れに思ってくれたのか、真希はぷっと小さく吹き出すと、しょうがないなぁと言いたげな笑顔を向けて許してくれた。

「ま、勇ちゃんだもんね。慣れてるよ、うん」

「う、何だか言葉にまだとげが……」

「そりゃあね。女優が珍しく口にした演技抜きの言葉をスルーされたら怒りたくもなるよね。てゆーか、怒るところだよ。やっぱり許さない」

 そう言うと真希は立ち止まり、腕を組んで僕をにらみ付けた。

 その本気モードの怒りに、俺はみるみると青ざめていく。

「ど、土下座すればよろしいのでしょうか?」

 情けなさMAXな、俺!

「……スしなさい」

「へ?」

 よく聞き取れなかったけど、何をしろと言ったのだろう? やっぱ土下座?

「私に、キスしなさい」

「うぇっ!?

 今度はちゃんと聞こえた。その、謝罪要求としては唐突すぎる内容に、俺は思わず顔を上げ、真希の顔を凝視する。

 真希の顔は、青ざめているであろう俺の顔とは対照的に、耳まで朱に染めあげられていた。俺の視線に目を逸らして恥らう姿は、敢えて言おう。

 超可愛い。

「ほ、ほ、ほほほほほ、本気?」

 嚙みまくりながらようやく口にした俺の確認に、うつむきながら小さくコクリと頷く真希。そして顔を上げ、俺と視線を合わせると、潤んだその瞳を静かに閉じた。

 心臓が早鐘のように打ちつけ、もはや夏の暑さなど完全にりょうする程に体温が急上昇していく。思わず周囲をキョロキョロと見渡したが、誰もいない。

 俺は意を決し、真希の両肩をつかむ。その拍子に真希がピクリと全身を強張らせた。力を入れ過ぎてしまったかと思い、手を緩めると、安心したのか真希の体からも力が抜けていくのが伝わってきた。

(い、行くしか、行くしかないっ!)

 俺は顔を少しずつ真希へと近づけ、そして二人の唇が重なり──

 そうな所で、俺は真希に軽い頭突きを浴びせられた。

「へぶっ!」

「という、台詞のある女の子の役をやるの。その為の役作りとして髪を切ったんだよ」

「へ、へぇぇぇ……。そ、そうなんだぁぁぁぁぁ……」

 鼻頭をさすりながら、俺は自分が思いっきりからかわれていた事に気が付いた。

 真希は昔からその演技力を駆使して、俺をからかい、たぶらかしてきたのだ。

 断言できる。世界的女優である瑠河真希の演技力を、最もよく知る者はこの俺、湧井勇人であると。

「ちなみに、外国映画の主役だったりして」

「へぇ……えぇぇぇ!?」

 あっさりした真希の口調に一瞬、流してしまいそうになったが、それは俺にとってまさに青天の霹靂だった。

「なっなんで!? いつ!? どんな映画!? それに外国の映画って、こないだニュースでなんか襲撃事件とかあっただろ! 大丈夫なのかよ!?

「ああ、あの事件。何かスタッフが皆殺されちゃって、どんな映画だったかもわからなくなっちゃったらしいよ。フィルムも奪われちゃったって」

「そんな危険な仕事受けたのかよ!」

「落ち着いてよ、勇ちゃん」

「これが落ち着いてられるかよ!」

「何も必ず襲われるわけじゃないんだよ? それに変な映画じゃないよ? 『世界を救う素敵なお話』なんだから」

 そう言うと真希はにっこりと笑った。

 そんな顔されたら何も言えなくなる。今まで断ってきた映画の話を受けた位だから、きっと本当に良いお話なんだろう。

「……まぁ、お前が決めた事だしな。がんばれよ」

「うん、ありがと。勇ちゃん」

 とは言ってもやはり心配だ。共演者にはどんなイケメンが……。

「気になる?」

「ば、馬鹿言ってんじゃねーよ! 勝手にしろだし!」

「ふーん」

 俺の言葉に面白くなさそうな声を出す真希。俺の少し前を歩きながら、足下に転がっていた石を横の芝生へと蹴りこむ。

「ねぇ、勇ちゃん、一つだけお願いしていいかな?」

「ん? 何だよ、改まって」

「これから先にね。演技じゃない、本当の私に気が付いたら、その時は勇ちゃんも全力で応えて欲しいな」

「演技じゃない時?」

「演技の『台詞』にはいつだって意味がある。一つだって無意味な言葉なんてない。だから、無意味な言葉こそ私の本当だって気付いて欲しい」

「ふーむ」

 何だか少し難しい話だったけど、それって要するに普段の時なんじゃないのか? そうならば、今さらお願いされる事でもない気がする。

 でも、真希は妙に神妙な顔をしていた。

 あるいは、コレも演技なのだろうか? 真希は、本当にその辺の区別がつかない。だからこそ、天才女優なんて言われているのだろうけど。

 兎に角、真希にお願いされた時の俺の返事は、基本的に一つしかない。

「ああ、任せろよ。俺とお前の仲だろ」

「うん、ありがとう勇ちゃん!」

 弾けるような笑顔を見せる真希。

 うん、この笑顔が見られるなら全力くらいいつでも出せるな。

 そんなやり取りをしていた俺たちの耳に、やがて何やらけんそうらしき音が聞こえてきた。到着したそこは山の中のくぼのような空間で、たくさんの人たちでにぎわっている。国立公園内で車の乗り入れも規制されているというのに、大層な機材や脚立を並べ立てて取材に来ている報道陣、関係者と思しき背広の人たち、それに警備に当たっている警官の姿もあった。それこそ出店が出ていても不思議じゃない雰囲気だ。

「どうやら到着したみたいだね。お疲れ様、勇ちゃん」

「いやいや、久しぶりにハイキングしたみたいで結構楽しかったよ」

 二人で笑い合い、坂道を会場へと下りていく。俺達の到着に気が付いたのか、人々の間から声が上がった。

「見ろ、瑠河真希が来たぞ!」

「隣の少年は誰だ? 参加者じゃないな」

「まさか彼氏か!? スクープだ!」

 そんな声があちこちから聞こえ、あっと言う間に俺達は報道陣に取り囲まれてしまった。職員や警官が何とか押し止めてくれていたが、これは俗に言う大混乱というやつである。

 テレビ出演のオファーが後を絶たないと言われている真希のことだ。注目度が高いのはわかっていたが、これ程とは流石に思ってもみなかった。

「瑠河さーん! 海外の主演映画のオファーを受けたという話ですが、本当ですか!?

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