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PANDEMIC GAME パンデミック・ゲーム

山口洋一

LEVEL 1 (1)



  LEVEL 0



 女子学生専用のスクールバスでの自爆テロ。

 民族紛争による寄宿舎襲撃から集団誘拐、虐殺。

 ロケ中の映画撮影隊への犯罪組織による襲撃。

 大学構内での無差別なライフル殺人事件。

 突然入ってくるニュースは、いつだって血なまぐささを漂わせていた。その死臭をテレビ画面越しに嗅ぐたびに、人なんて簡単に死んでしまうのだと思い出し、少しだけ、ほんの少しだけ平和への想いをめぐらせ、そしてすぐに忘れる。

 日本人とはそういう人種なのかもしれない。

 そして、これらのニュースの中でも、いつもアメリカの事件だけは特別詳しく報道される。

 最近、最も話題になったのがアメリカの研究施設が謎の武装集団の襲撃を受け、数十人もの施設職員が殺害された事件。

 ネットで話題なのはもちろん、テレビや雑誌でも特集が組まれ、俺でも目にした。

 テロ組織の犯行か? 目的は何か? 施設では何の研究がされていたのか?

 憶測や好奇心がテレビのニュースやワイドショーを数日にぎわせ、そしてすぐに忘れ去られていった。

 俺もまた、この事件に対しての関心を数日で失ってしまった。痛ましい事件とは思ったし、日本で起きたのならば大騒ぎになっていたのだろうけど、世界で見れば珍しい話でもない。

『犠牲者に日本人は、いませんでした』

 そんなお決まりの言葉が、そのニュースを自分達からより遠いものとしていった。

 世界が色々騒がしくても、日本には、何より自分には関わりの無い話なんだと、思っていたんだ。

 それから2ヵ月後、このニュースが、全世界の人間にとって、どれ程大きな事件の始まりであったのか、俺達は思い知る事になる。

 人を効率良く、確実に、そして大量かつ無差別に殺すためにばら撒くべきなのは、銃弾でも爆弾でもない。

 そう、それは目には見えない──〝ウィルス〟なのだと。



  LEVEL 1



 お盆が終わり、高校生になって初めての夏休みも残り二週間ほどとなった頃。残暑とは名ばかりの灼熱の日差しに耐えつつ、俺は山道を歩いていた。

「暑い。いや、熱い。死ぬ、死んでしまう……」

 山道とは言ってもれいに舗装されており、両サイドは緑に囲まれた涼しげな道ではあるのだが、見ると行くとでは大違い。木々による防壁も、この殺人的な日差しをカバーするには足りていなかった。

「もう、だらしないな勇ちゃんは。オトコノコでしょ? あと少しなんだから、頑張れ頑張れ」

 声をかけてきたのはこの俺、わくゆうの幼馴染みのかわだ。汗だくで息も絶え絶えな俺とは対照的に、息一つ切らさずに涼しげな顔で山道を歩いている。

「お前に持たされてる荷物が重いんだよ。つーか、何入ってんだコレ? 着替えとかあるにしても、いくらなんでも重すぎんだろ」

「もう、勇ちゃんは女の子がわかってないな。中ではずっと制服でいるにしたって、替えは必要だし、下着なんて日数分必要なんだよ?」

 当たり前のことを聞くんだねと言いたげな顔で答える真希。

 そもそも、高校生にもなっていまだに〝勇ちゃん〟呼ばわりは恥ずかしいのだが、この暑さでそんな文句を言う気も起きてこなかった。

 今まで何度も改善を求めては却下され続けてきた諦めもあるのだが。

「中でも洗濯は出来んだろ? 一週間近く缶詰生活しようってんだから」

「それはそうだけど、備えあれば憂いなしって言うじゃない? それともなーに? オンナノコの服も持てない位に貧弱なのかな、勇ちゃんは?」

 そう言って真希はくるりときびすを返し、いたずらっぽく笑った。フワリと制服のミニスカートの裾が翻り、日差し以外の理由で体温が上がってしまう。

 そう、夏休み中の外出なのだが、俺も真希も制服姿だった。俺は学校指定のYシャツにズボン、真希はセーラー服といった具合である。俺が持たされている鞄の中には、おそらく替えのセーラー服に、その他着替えやら何やらがたくさん詰め込まれているのだろう。

 旅行に行く際の母さんもそうだったが、こういう時に女ってのは荷物が兎に角多い。正直、そんなの使わねーだろってのも持って行こうとする。自分が持つなら勝手だが、持たされている側としてはたまったものではない。

「貧弱じゃないと言いたいけど、実際重いんだよ。少し休憩しないか?」

「こんな所で休んでも疲れなんて取れないよ? それにほら、もう入り口見えてきた!」

 そう言って真希が指差す方を見ると、そこには国立公園の入り口である事を示す立て札と、その隣に「グローバルユース討論会 会場」と書かれた看板が置かれていた。

「本当だ、もう少しなんだな。うし、頑張るか!」

「その意気、その意気♪」

 うれしそうな真希の声に励まされ、足に力を入れ直す。

 我ながら現金だけど、ゴールが見えてきたら歩く元気が湧いてきた。こういうの、よく聞く『次の電柱までは頑張ろう作戦』と同じなんだろうか。マラソンとか走ったことが無いから、実感湧かないけどね。

「にしても、今回のイベント、グローバルユース討論会だっけ? それのためだけにこの公園を色々作り直したって聞いたけど、本当なのか?」

『文科省主催・国際貢献プログラム 第一回グローバルユース討論会』──今日これから開催されるイベントの正式名称であり、今俺達が到着した国立公園こそ、その開催地だ。


『世界で活躍する日本人、または日本社会・文化に貢献する若者を集めて、地球環境と人類の未来に向けて真剣な討論を繰り広げてもらう』

 という目的の元、文科省・環境省などの肝入りで企画された。

 より真剣かつ、深く入り込んだ討論をしてもらうため、参加者は会場となる施設で一週間の共同生活を行い、友好を深めつつ議論を交わす。

 当然、誰でも気軽に参加出来るようなイベントではないし、少なくとも世界どころか日本、それ以前に高校ですら特に目立った成績を出していない俺なんかが、参加出来るはずもないのだが。

「うん。らしいね。元々この公園自体が昔の日本軍が使ってた施設の跡地に作ったらしくて、地下にもシェルター、昔だと防空壕? みたいなのがあったんだって。今まではこの地域の緊急避難とか非常食の備蓄とかに使っていたらしいんだけど。討論会の為に改造して広い宿泊施設みたいにしたんだって」

「へぇ、さすが正式招待されてるだけあって詳しいな」

「招待状と一緒に届いた案内状に書いてあったことそのまんまだよ」

 そう、俺の幼馴染みの真希が、このグローバルユース討論会の正式な招待生徒なのだ。俺は、一人で会場行くのが心細いなどと言い出し、その実は荷物持ちが欲しかっただけであろう真希の付き添いとしてここまでやってきたのである。

「でも討論なんて出来るかなぁ。ディベートの授業一回で、いきなり国際会議なんて」

「そりゃ、討論なんて普段からしてる奴の方が珍しいだろ? 会議をお前の得意の演技力で切り抜けちまえば、後は交友を深めてればいいんだろ。それこそ、敏腕女弁護士なんてのはどうだ? 他の参加者の意見に『異議アリ!』とか言ってさ」

 俺がそう言うと、真希はクスっと笑い、そして急に顔つきを変えた。

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