魔法の国の魔弾

狩真健

0 Briefing (3)

 なお、現役軍人やリアル重視のプレイヤーは、主にパラメータが最低限のレベルで固定され、回復アイテムや特殊なアイテムの大部分が登場しない、現実的でシビアかつ緊迫感(あふ)れるタクティカル・コンバット・モードを好む。

 一方、純粋にゲームとしての(そう)(かい)(かん)を楽しみたいプレイヤーは、マーセナリー・モードにこもりやすい傾向にある。

 もちろん、どちらのモードも数多(あまた)のMMOゲームと同じく、他のプレイヤーとチームを組んで任務に参加したり、敵同士に分かれてプレイヤー同士の戦闘も楽しむことが可能だ。

 

 プレイヤーを強化する要素は、ステータスだけではない。

 今、(かり)()はマーセナリー・モード限定で登場する、強化外骨格を兼ねた特殊アーマーを装備していた。

 これは、装備することで、ダメージの軽減以外にも様々な付加効果を得ることができる、いわゆるRPGにおける魔法の(よろい)的存在だ。使用されている技術は、魔法ではなくれっきとした科学技術、という設定なので、むしろSFに近い。

 それらの恩恵により、護身用に腕の中で抱えているライフルは、乾いた木の枝も同然の軽さだ。

 現在、(かり)()の装備武器はM14EBRと呼ばれるライフル。

 スプリングフィールド・M14自動小銃の特殊部隊カスタムで口径は7・62ミリ。

 ゲーム内でも(そして現実でも)高い威力にフルオート連射可能な機構、()(げき)(じゆう)としても使えるクラスの精度と距離を問わない万能さを(ほこ)る、高性能ライフルだ。

 その代償として反動は大きめで初心者には扱いにくくはあるが、極限まで強化された筋力とアーマーの付加効果、なにより(かり)()自身の技量なら、十分以上にこの銃の性能を発揮できた。

 

 人は生きている限り、歩いていようが寝ていようが、腹が減る。

 空腹感を覚え、木陰に腰を下ろした(かり)()が装備品リストからレーションを選択すると、()(くう)からレトルトパックが2つ、手元に現れる。

 中身はとり飯とハンバーグ。付属してある加熱剤で温めてから、こちらも1食ごとに付いている先割れスプーンでかっ込む。

〈WBGO〉内におけるレーションは、本来は単なる回復アイテム扱いでしかなかった。

 各国の軍で採用されている種類の数だけ、バリエーションが豊富に存在している。

 そうなってくると面白いもので、海外のプレイヤーは自国の軍が採用しているレーションだけを愛用するようになったりしていたし、一定数、各国のレーションを集めたプレイヤーには特典が与えられたりもしている。

 もちろん、(かり)()も各国のレーションをコンプリート済みであった。

 ……それが結果的に、異世界に飛ばされてからの(いのち)(づな)になるなど、その時は思いもよらなかったが。

 この1年、各国のレーションを食べ比べてみた結果、やっぱり元が日本人であるせいか、日本仕様のレーション(自衛隊の戦闘糧食(レーシヨン)を再現したもの)が、一番(かり)()の口に合った。

 もっとも1つ1つにメニューが設定されていたとはいえ、ゲーム内では単なる回復アイテムの1つにしかすぎなかったはずのレーションが、この世界に来てからまともな食べ物へと変化していた理由については、まったくの(なぞ)である。

 (かん)()(きゆう)(だい)

(今度からフランス軍のに替えてみるかな……)

 思い立ったが吉日とばかりに、(ふところ)からPDA(携帯端末)を取り出すと、アイテムボックス内からお目当てのアイテムを選択し、装備品と入れ替える。

 PDAは、〈WBGO〉プレイヤーがゲーム内にて、運営側から真っ先に与えられる重要アイテムだ。

 何があっても壊れず、何があっても紛失することのない、破壊不能アイテム。

 イメージしただけでどこからともなく取り出せて、どこにでもしまえる。(しり)ポケットに突っ込んだ直後、今度は胸ポケットから取り出す、といった芸当も可能。

 PDAは、入手したアイテムの保管や装備品の変更だけでなく、運営側からのお知らせや任務内容、仲間との会話のログの記録、マップ表示、所持金を消費しての支援(よう)(せい)など、ゲームを(えん)(かつ)に楽しむための様々な役割を果たす存在だった。

 しかし、この世界にやって来てからは、アイテムの保管と装備品の変更機能にしか使えなくなっている。

 装備品については、プレイヤー1人につき装備できる重量が定められており、上限を超える重量の装備は不可能となっている。

 装備品の重量上限そのものは、特定の任務やトレーニングのクリアによる筋力値の強化、もしくは筋力補助の付加効果が付いたアーマーの装備によって強化可能だ。アーマーそのものは装備品には含まれず、別枠で設定する仕組みだ。

 プレイヤー自身のステータス強化による、装備可能重量の上限は、100キログラム。

 それさえ越えなければ、(かり)()はどんな大きな武器でも軽々と持ち運ぶことができる。

 装備品リストとアイテムボックスは違う。

 装備品リストに入れておけば、イメージしただけで武器やアイテムを装備することができるが、持てる量には限りがある。

 一方、アイテムボックスに入れておけば、いくらでも物資を保管できる分、PDAを操作してアイテムを選択、という過程を踏まなければならない。

 もちろん、あらかじめ武器・アイテムを実体化させて身につけておくのがもっとも手っ取り早いが、あまりに多く実体化させてしまっていると、装備同士が(かん)(しよう)し合い邪魔になるので注意が必要だ。

 

「……クソッ」

 (かり)()は空になった缶詰を(いら)()たしげに握り潰す。

 足元に叩きつけられた缶詰は、光の粒子となって空気中に溶けた。耐久値が限界を迎えたのだ。

 見飽きた光景だが、そのつど(かり)()はこの世界は現実なのか、それとも別の仮想空間なのかと頭を悩ませてきた。

 1年間、目覚めた時にいた山小屋に閉じこもって、誰かが現れるのを待ち続けた。

 遂に決心して、小屋の外の世界に飛び出したのはよいものの、いまだに()()()(つう)ができる相手と出会えていない。

 わずか3日、されど3日。

 行動に結果がともなわない現実に、(かり)()はうなだれる。