チートだけど宿屋はじめました。(文庫版)

nyonnyon

序章 異世界、はじめました (3)

「決まってるだろ! 3の、異世界へGOだ!!

 こうして、俺こと(たか)(はし)(りゆう)()は異世界へ行くことを決めたのであった。

 

『さて、私の説得の()()あって、異世界行きを決意してくださいましたが、えーっと、チートはどうしますか? 今なら大チャンス!! 大抵の願いならかなえますよ?』

 チートか。どうしよう……。

『なんでもいいんですよ~。体力無限でも魔力無限でも不老不死でも。なんならアニメや漫画、ゲームの技でもいいですよ~。

 例えば、異次元空間にさまざまな伝説の武器や防具、アイテムなどを仕舞い、いつでも自由に取り出したりできる技とか、1つのキーワードを言うだけで、事前に起きた現象をリセットすることができる技ですとか、オーバーテクノロジーのアイテムを多数詰め込んだ、異次元につながる取り外し可能な袋ですとか。なんでもOKですよぉ~』

 異世界行きを決意した俺に、最高神は素晴らしい話を提案してきた。

 どうやら、先ほどちらっと話していた通り、チートをくれるらしい。

 散々読み散らかした異世界転生や異世界トリップモノの小説では、チートや(しよう)(かん)時の付与能力というものは、神様や(しよう)(かん)世界で勝手に決められていることが多かったり、自分で決めることができるが、かなえられる願いに制限があったりしていることが多かった。

 しかし今回は、自分で選べる&回数制限もないようだ。非常においしい。しかし、非常にきな臭い。

 だが、現金なもので、チートがもらえるとわかった瞬間から、俺の頭のなかでは、もらった能力でなにをしようか……などと考えはじめていたのである。

「それはそうとして、俺が行く世界はどんな世界なんだ?」

 やっぱりそこは気になるだろ。

 たとえチートをもらえるにしても、現代日本のような世界に飛ばされて武力MAXなチートをもらっても、役に立たないかもしれない。

 自分がどんな世界に飛ばされることになるか、確認することは大事である。

 行く世界に関して、言葉を(にご)されるといった小説もあった。話をそらされる可能性も考えていたが、最高神はさらっと答えてくれた。

『……え~っと、剣と魔法の世界ですね。某有名RPGのような世界観を取り入れ、さまざまなゲーム的要素を現実と混合させた、私の最高(けつ)(さく)世界の一つです。亜人やドラゴンなんかももちろんでてきます』

 なるほど…………ってことは。

「戦争とかもあるってことか?」

 やっぱりそこは気になるだろ。……って、この反応2回目!!

『そんなことはありません。基本平和です。ときどき魔物が村を襲うぐらいで……』

 それほど危険はないということか。

『それで、大体どんな能力がいいかは考えましたか?』

 まぁ、平和だってんなら…。

 さらなる最高神の問いかけに、俺は数秒と間をおかず答えた。

「女になってみたい」

『………………は?』

「女になってみたい」

『いやいやいやいや、ちょっと待ってください!? ……えっ、いきなりですよね!? さっきまで「チート、ヒャホ~イ」とか言ってませんでしたっけ? それがいきなり、「女になってみたい」? 話が飛躍しすぎです!! そもそもそれ、能力じゃないし!!

 最高神は、混乱しているようだ。

 まぁ、確かにそう思うかも知れないが……。

「あんた最高神だろ? 俺のこととかも、すべて知ってんだろ? なら知ってるだろ、俺がバーチャル世界では女主人公を使ってるって……」

 そう。俺はいわゆる『ネカマ』ってヤツだ。最近では、最低の()()()みたいな不当な扱いを受けたりするが……。

 だが俺は誰にも(とが)められるつもりはない!!

 現実世界で体験できないことをするのが、バーチャル世界!!

 不細工だってイケメンになれる!! 年寄りだって若くなれる!! ならば男だって女になれる!!

 それがバーチャル世界!!

 俺はゲームをするときに、画面越しであろうとも、男の(しり)を追いかけるより、女の(しり)を追いかけていたい!!

 ……っと、本音が漏れてしまったが、そういったこともふまえて、俺はバーチャル世界では女になっている!!!

「だから俺は(とう)稿(こう)小説を読みながら……。自分が異世界に行けたら女になってみたい、と常々思っていたんだ!!

 ここがアニメの世界であったら、ドドォンと効果音でもなって、日本海の荒波がバックに映っているんじゃないかと思えるほどの渋い顔と渋い声で、俺は宣言した。

 

 しかし、これはマジだった。

『女になってみたい』は、俺が勝手に思う『男の子が憧れる夢TOP10』に入ってるんじゃないだろうか?

 心のどこかでは女になってみたいと思っている男が、結構いるんじゃないだろうか?

 某有名子供向け番組エンディングでも、よく流れていただろう?

 しかも幸いなことに、俺はこういう話にありがちな、『年齢=彼女いない歴』ではない。それなりに体験も済ませた。ある意味、男として悔いのない人生を歩んだと思う。

 唯一、心残りと言えば、結婚して、家庭を持って、楽しい人生を過ごして、孫に囲まれて、畳の上で大往生できなかったことではある。どのみち、寿命で死んだのだから、寿命以前にできることはやれていたので、よしとする。

 そして、だからこそ第二の人生は『女』として生きてみたい。男のときには感じられなかったことを感じてみたい。

 まぁ、今の自分では、男と恋愛とかできるとは到底思えないが……。

 だが、女になってみたいと思うのは間違っていないと思う。

 

 熱い気持ちを込めた大演説(実質、5分程度)をかました俺は、最高神をちらりと見る。

 ……最高神は、なぜか涙ぐんでいた。

『そうですか、そこまで……、そこまで熱い元テニスプレイヤーの日本人男性並みの熱意を見せられたら、仕方ありません。ご要望通り、貴方(あなた)を女として異世界に送ります。ただ……』

「ただ?」

『今回は転生という形ではなく、トリップとして異世界に送ることになります。肉体の構成を、一からいじくることになりますので、激痛がほとばしりますよ? 死んだほうがましだと思える激痛が、死んでるのに襲いかかりますよ? さらに、肉体と精神のギャップにより、悩むことになりますよ?

 ……それでもいいですか?』

 最高神は、心配そうに聞いてきた。

 事実、俺のことを心配してくれているのであろう。

 その、なんとも言えない微妙な表情から、『以前にも同じことをした奴が廃人になりましたよ?』という、無言のプレッシャーを受け取ったが……。

「もちろんOKだ! こっちの世界でだって、女になろうと思ったら、あの手この手を使って、肉体を作り替えるんだからな。激痛ぐらいなら、なんてことはないさ!!

 あ、でも待てよ。……肉体と精神のギャップで悩むってのだけは、(かん)()するようにして欲しいかも……」

 俺の答えは決まっていた。これで俺は、第二の人生を女として歩むことができるようだ。

(うけたまわ)りました。ではチートはどうしますか? ……女にするぐらいですと、私のミスの帳消しにならないんですが』

 なにやら最後にボソッとつぶやいてはいるが、チート能力も別でくれるみたいだ。

 ただ、女になってみたいという願いがかなえられると決まった今、チート能力は大した問題ではない。

 なので。