チートだけど宿屋はじめました。(文庫版)

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序章 異世界、はじめました (2)

 いい加減本題に入ってほしかったので、こちらから先を(うなが)してやる。

「てかなんの用だよ、最高神(嗤)さん?」

『なんか微妙に字が違う気がしますが……、コホンッ! 説明しましょう! (たか)(はし)(りゆう)()さん!貴方(あなた)は死にました!!

 

 ………は?

『あれ? 伝わらなかったですかね? じゃあ、(たか)(はし)(りゆう)()さん! 貴方(あなた)()(まか)りました!!

 お、落ち着け、難しい日本語を使うな。大体()(あく)したぞ……、ドッキリだな!

 突然の宣言に頭が追い付かない。ようやっと絞り出せた言葉が「ドッキリだな」であった。しかしそれも、次の最高神の言葉により弾き飛ばされる。

『違います、貴方(あなた)は本当に亡くなったんです!!

「……まじで!? なんで!? まだ若いぞ俺!? 28だぞ!? ……あッアレか! テンプレか!『私の手違いで殺してしまいました~、お()びにチート転生です』ってヤツか!! 来た、ついに来た!! ヒャッホ~イ!! ウホホ~イ! チートだゼ~、これで俺もチー…」

『それも違います!!!』

「…………?」

 違うの? でも謝ってたじゃん?

 意味がわからない。手違いじゃなければ、いったいなんで死んだんだって話だろ? まぁ、その答えはすぐに最高神の口から語られたけど……。

『私の手違いで殺したわけじゃありません。ただの寿命です。じゅ・みょ・う!!!』

 寿命? 俺、寿命で死んだの? まだ28なのに? ……てか寿命で死んだんならなんで謝ってたんだ?

 (きよう)(がく)の事実であった。

 俺が死んだのは寿命らしい。28で寿命って早くないだろうか? そんなことを考えている間に、最高神の話は先に進んでいく。

『……え~、とりあえず説明しますね、貴方(あなた)28歳になった2ヵ月後、自宅で(すい)(みん)中になぜか亡くなる。それは「神様統一管理寿命作成手帳」にも書いてありますので、間違いありません』

 説明しょっぱなで、いきなりわけのわからない単語が飛び出した。

「ちょっと待て、なんだ? 『なぜか亡くなる』ってのは!?

『気にしちゃいけませんよぉ、ぶっちゃけ、設定考えるの面倒だったんです。28年前の私が……』

「いやいやいやいや、そこは考えろよ!! どんだけ適当なんだよ、神」

『えー、面倒くさいですねー。それじゃあ、もう心臓発作でいいよね。うん、そうしよう。死因、心臓発作っと、……ほら、これで! OK! あなたの死因は心臓発作になりましたよ!!

 俺が文句をつけると、最高神は渋々といった様子で、「神様統一管理寿命作成手帳」とやらを開き、さらさらとなにかを書き込みはじめた。

 書き終えた手帳をバッと俺のほうに突き付けて、死因に『心臓発作』と記入されていることを見せつけてくる。

 そんな簡単でいいのか、死因って……。

 そして、最高神の字がめちゃくちゃ上手かったとだけ伝えておこう……。

『それはそれとして、私が謝っていた理由は別にあるんですよ。実は……』

 急に説明を再開する最高神。ついに謝っていた理由がわかると期待したのだが、最高神はこれでもかとタメを作って、なかなか言おうとしない。

 それはもう、ファイナルアンサーの正解発表前にタメを作る某人気司会者が、(かす)んで見えるほどタメるのである。

 そして…。

『実は……、貴方(あなた)が亡くなる日を忘れてまして、(りん)()の輪を用意していなかったんですよ、いやーまいったまいった。たぶん手帳のページが引っ付いてたんですね。あなたのページをスルーしてたみたいで。テヘッ

 爆弾を投下してきた。

 俺は、この最高神を名乗る女の言っていることが、しばし理解できなかった。

 しかし、ほんの少しの沈黙と考える間を与えられたことにより、じんわりとだが、内容を理解しはじめた。

「いやいや、『テヘッ』じゃ…………ね~じゃろがい!!! わけがわからん! なにやってんの!? 見逃しちゃダメでしょ!! てか、今すぐ用意しろ、神様ならそれぐらいできるだろ!!

『え~、今から用意はできないですよ~。物事には順序ってものがあってですね、正式な手続きをしないと、(りん)()の輪を用意できないんです。強引に入れると、(たましい)が壊れちゃう可能性も(ばく)(だい)にありますので、できませんし。待ってもらえるなら、6億8328万年後に、(りん)()の輪を用意できますけど……』

 開いた口が(ふさ)がらないとは、まさにこのことだろう。自分の失敗を棚に上げ、こちらに必要なら待てと言ってくるとは……。

 どう言い返してやろうかと考えている間に、最高神が話をはじめる。

『まぁ、理由はご都合主義ってことで置いておいて、貴方(あなた)には選択肢が3つあります』

 そう言って、どこに隠してあったのか、1枚のフリップを取り出した。そこにはこう書いてあった。

 

 1.(りん)()の輪を待つ。(6億年待てるかな?)

 2.浮遊霊として彷徨(さまよ)う。(除霊される恐れあり)

 3.異世界へGO!!!(オススメ! 超オススメ! 最高神さん一押し!!

 

 明らかに怪しい文言が見受けられる。

 1、2は、かすれた文字で、おどろおどろしく書いてある。しかし3は、スーパーなどの安売りセールなどでよく見かけるような派手な色づかいで目を()くように書かれており、あからさまに怪しい……。

『どれにします? 私としましては、異世界行きをお勧めします! ……()み消しが簡単ですので』

「今、なんかボソっと言わなかったか?」

『イエイエナニモイッテオリマセンガ』

 急に片言で語りはじめる最高神。

『……で、どれにするんですか?』

 なおも詰め寄る最高神。

 怪しい、怪しすぎる!!!

 俺の警戒心は、3は選んではいけないと言っている。

『……3なら、チートもOKですよ?』

 なに!? チートOKですと!? 明らかに怪しいがチートは魅力だ。

 こちらの手のうちを知り尽くしているであろう最高神は、先に切り札を切ってきた。

 そう、なにを隠そう、俺こと(たか)(はし)(りゆう)()はオタクである。それも、隠れオタクだ。

 オープンにはできないが、隠れてネット小説なんかを読みまくっている。

 とくに日本最大の(とう)稿(こう)ネット小説サイト『小説を読むゼヨ!』は素晴らしい!! いろいろな人が自分の空想、妄想などをまとめて詰め込む(とう)稿(こう)小説がいっぱいなのだ!

 そのサイトで、さまざまなチートモノや、主人公最強モノと呼ばれるジャンルの話を読んでは、「自分ならこうするのに……」などと妄想に浸っているのだった。

 親にも言えないひそかな秘密である。

 そんな俺が憧れのチート主人公に!? おいしい、おいしすぎる! おいしすぎて逆に怪しいが……。

『どれにしますか?』

 悩む俺に、最高神からの一言。

 俺の口は、「答えは決まってるんだ」といわんばかりに、反射的に答えを返していた。

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