ビルドエラーの盾僧侶

有馬五十鈴

プロローグ1 盾を持った少年 (2)

「あ、あの! ありが――」

「礼を言う前に早く体勢を立て直せ。いつまでパンツを見せているつもりだ」

「え? あ……」

 少女は、自分がミニスカートであることを思い出した。

 そのミニスカートは倒れた際にめくれ、今日穿()いていたピンク色のパンツが少年に丸見えだ。

 少女は(しゆう)()(ほほ)を染めつつ立ち上がった。

「それと回復剤はあるか? あるなら早く飲め。その間は俺が(たて)になる」

「は、はい!」

 突然現れた少年に()(まど)いつつも、アクアは指示に従ってポケットからポーションを取り出す。

 その瞬間、周囲で(うな)り声を上げていたヘルハウンドが一斉に飛び掛かってきた。

「あ、あぶない!」

 少女は叫んだ。

 なぜか、ヘルハウンドが標的にした少年へ向けて。

「大丈夫だ。それより早く回復しろ」

「へ?」

 目の前の光景にアクアは目を丸くする。

 十数匹のヘルハウンドは、ことごとく少年の持つ(たて)に受け流されていた。

「……早く回復してくれ。時間の()()だ」

「あ、ご、ごめんなさい!」

 アクアは少年の困ったような声を聞き、手に持ったポーションを(あわ)てて口に含む。

 合計5本のポーションを飲み干した少女は、中毒症状に(じやつ)(かん)の吐き気を(もよお)しながらも、左手に持った大剣をヘルハウンドに向けて構えた。

「ありがとうございます。HP回復しました」

「そうか、それじゃあこいつらを1匹ずつ倒してくれ。グレートソードを持っているならできるだろう?」

「え? は、はい」

 一目見ただけで自分の手に持つ装備品を当てられたことに、アクアは驚く。

 アクアのジョブは、大剣カテゴリーであるグレートソードを装備してもマイナス補正がつかない、『グラディエーター』。少年はそのことを察している。

 更には、ヘルハウンドが30レベル台でも十分に倒せることを()(あく)しているからこそ言えるような台詞(せりふ)を吐いた。目の前の少年に、少女はつくづく感心した。

 赤と黒の織り交ざった重装備を着込んでいるところから察するに、少年はおそらく戦士職。

 今は大盾と小盾を両手に装備しているものの、かつては大剣を装備してこの辺りを狩り場にしていたのかもしれない。

 アクアは少年の言動に納得し、ヘルハウンドを1匹ずつ確実に仕留めていく。

(でも、どうして自分で倒さないんだろう?)

 少年は守るだけで、一向にヘルハウンドを倒す素振りを見せない。

(……もしかして)

 パーティーを組んでいない以上、経験値はモンスターを倒したプレイヤーのものになる。

 つまり、この人は自分に経験値を与えてくれているのではないか。少女はそう(すい)(さつ)した。

(だとしたらこの人、やっぱり私より格上のプレイヤーなんだ)

 少年がアース人ではなく、地球人(プレイヤー)であることは、(もう)(まく)に映るプレイヤー情報ですぐ判別できた。

 けれど、彼がどれほどの強さを秘めた人間なのかは、よくわからない。

 ヘルハウンドのいなし方から察するに、相当な()(れん)であることはわかる。

 だが、スキルは振らないしダメージを受けた様子もないというのでは、判断材料が(とぼ)しい。

 しかし、経験値をあえて(ゆず)ってくれているのだとすると、もはやヘルハウンドでは経験値の足しにはならないのだろう。

(だったら……この人は私を助けるためだけに、こうして戦ってくれてるんだ)

 アクアは、わざわざ(すけ)太刀(だ ち)をしてくれた少年に感謝した。

 ヘルハウンドをすべて倒した少女は、少年に向かってペコリと頭を下げる。

「あの! 助けていただき、ありがとうございました!」

「いや、別に頭を下げなくてもいい。たまたま通りかかっただけだから」

 そう言いながら手をひらひらさせる少年に、アクアは興味を持った。

 命の(おん)(じん)とも言える少年に、何かお礼はできないか。

「あとお礼も必要ない。今のは先輩として当然のことをしただけだから。今後は、こんなことが起こらないよう気をつけてくれれば、それでいい」

「え、あ、は、はい……そうですか……」

 先輩。

「ビルドエラーの盾僧侶」を読んでいる人はこの作品も読んでいます