物理さんで無双してたらモテモテになりました

kt60

第2話 ああ、もう、こん畜生。英語で言えばファッキンだ。 (1)

 

 奇妙な(れん)(きん)(じゆつ)()――ギルス・トリストラに()()入りをしてから半年。

 オレは馬車に乗ってキムレスという街に向かっていた。

 馬車と言っても、それを引くのは高さ五〇センチのからくり馬だ。

 その馬は、オレが右手で握ってる()(づな)から流れるマナを動力源にして動いている。

 オレが乗っているのも、オレと荷物が乗れるぐらいの小さな荷台だ。

 ギルに()()入りすること半年。

 オレはギルから街へと出向くように言われた。

 そもそもギルの目的は自分の技術を――それを考えたのが自分とは知られずとも――世の中に染み渡らせること――と本人が言っている。

 だからオレ以外にも、(しよう)(かん)したり拾ったりする予定らしい。

 まぁ合理的だろう。

 ひとりの()()にすべてを()けたら、そいつが事故や病気で死んじまった瞬間にパァだ。

 だからまず、ギルは最初の一ヶ月でいろんな基礎をひと通りオレにやらせて、そのあとはもっとも見込みがありそうなところを重点的に教えてきた。

 馬車の技術はその〈基礎的〉なほうだ。

 だからギルの()()になったやつならこれぐらいみんなできる。別に大したことじゃないと聞いたんだが………………。

 目立つなぁ。

 いやほんと、目立つのだ。

 オレが進んでるのは左右を小さな草原に囲まれた街道だ。冒険者や一般人らしき人たちともすれ違う。しかし、そいつらのほぼ全員が〈うおっ!〉とか〈すげー!〉みたいな顔で、こちらを見てくる。

 逆に、オレが乗っているからくり系の馬車には、まったくもってすれ違わない。

 すれ違うのは、普通の馬車ばっかりだ。

 馬車を操る(ぎよ)(しや)のやつも、馬車の窓からこちらを見てくる貴族っぽいやつも、〈すげー!〉って顔でこっち見てくる。

 オレは密かに思ったりした。

 ギルってホントにすごめのやつなんだなぁ……。

 初対面の時にオレと会話したりもしたが、それもあの時に持っていた(つえ)の効果らしいしな。

 まぁ半年のあいだにいろいろと学んだおかげで、普通に会話するぐらいならアイテムがなくってもできる。

 これもやっぱりギルの力だ。

 寝ている間に、(錬金術で作られたという)アイテムで(さい)(みん)学習をしたのだ。

 ただ逆に言うと、普通の会話が精一杯だ。文字とかは読めないものも多い。だから()(づな)を操りながら、本を読んだりもしている。

 ちなみに本は、ぷかぷか宙に浮いている。ギルが言うには〈ページの一枚一枚に浮遊石の粉をちりばめた〉とのことだ。

 横になったり歩きながら読書をしたりするのに便利! とのことらしいが、冷静に考えるとすごいよな。

 まぁ、冷静に考えなくっても、すごいっちゃすごいんだけど。

 ただオレは、異世界から(しよう)(かん)された人間だ。

 だから〈すごい〉と思っても、オレの世界ですごいのか、この世界でもすごいのかはわからない。

 例えば江戸のチョンマゲ男をオレの世界に連れてきた場合、テレビや車に驚くだろう。

 けどそれは、オレの世界だと『普通』で終わる。

 ちょっとの魔力で簡単に動くからくりの馬とか本もそれと同じで、この世界では普通かとも思ってたんだよ。

 しかしまぁ、実際に使って移動していると目立つ。

 馬車にゆられること三時間。オレは目的の街に着いた。

 ギル(いわ)く、「むかし自分が使っていた家がある街」らしい。

『むかし』っていつだよと思わなくもなかったが、オレはあんまり気にしなかった。

 もともと細かいことを気にする性格じゃないんでな。

 けれども、ギルは二四二歳。

 人の三倍生きてるんだから、時間の感覚も違ってくるに決まってる。

 単純な比率で言ってしまえば、八〇歳のジーさんの一〇年が、ギルの三年と四ヶ月になる計算だ。

 つまりなにが言いたいかって言うと――。

 

 ボロ家すぎるぜギルさんよぉ!

 

 まず言おう。ドアはある。

 でも腐ってる。ボロい上にカビが生えてる。左下には穴があいてる。

『腐った板をはめ込みました』と言われたほうがしっくりとくる。

 次に言おう。窓はある。

 バリンバリンに(くだ)け散り、(すみ)にちょこんと残っている程度の窓が。

 ちょこんと残る微妙さ加減が、

『エプロンあるから裸じゃないもん』と言い張る裸エプロンの女の子のような、いじらしさを感じさせる。

 ああ、もう、こん(ちく)(しよう)。英語で言えばファッキンだ。

 どうしてこの窓は窓なんだ。どうして女の子じゃなかったんだ。

 もしも女の子なら、全力で抱きしめていたってのに!

 それでも感謝するべきなんだろう。屋根があって壁があり、雨や露を(しの)ぐことができるなら。

 オレはそう思いながら、ドア(と呼んでいいのかどうか疑問)な木の板をあけた。

 しかし中身も(ひど)かった。

 言いました。オレは確かに言いました。

 屋根があって壁があり、雨や露を(しの)ぐことができるなら――と。

 なのにこの家――。

 

 壁がねぇ!

 

 残っているよ? 七割ぐらいは残っているよ?

 でもさ、それって違うよね。壁っていうのは一〇割あって初めて壁としての意味を持つっていうか、三方向はフツーの壁でも、西の壁にでっかくビッグな穴があいてて海が見えたりしたらいけないよね?

 風通しがバッツグーン☆ とか、潮風がキモチイイー を売りにしたらいけないよね?

 空を(あお)げば青い空に白い雲。(さわ)やかな風が(ほほ)()でる……なんてなったらダメだよねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!

 返してよっ! 返してよぉ!

『屋根があって壁があり、雨や露を(しの)げれば……』なんて考えていたボクの純情っ! (けん)(きよ)っ! やさしい気持ちっ!

 返してっ! 返してっ! 返してよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 はぁー、もう、これどうしろってんだよ、ギルのアホー。

 オレは地面に寝転がり、子どものようにジタバタと暴れた。

 ヤダヤダヤダー!(ジタバタ) ヤダヤダヤダー!(ジタバタ)

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