ロイヤル婚! モブ女子ですが異国の王子に甘く愛されています

希彗まゆ

第一章 わたしたち、婚約しました (3)

 普段はOLや会社員がそこでお弁当を食べたり、休日には家族連れやカップルの憩いの場になっている。

 夜になればイルミネーションもきれいだし、ハロウィンやクリスマス、バレンタインシーズンなんかは特にイベントに合わせた色合いの灯りがともされる。

 だけど、普段は露店なんか出ていないのに。

「ゆうべ、お祭りかなにかでしたか?」

「いや、いつものフェスです。ほら、毎年あるでしょう」

「あー! あれですか!」

 言われて初めて、そういうものがあったと思い出した。

 青空公園では、毎年十月に「青空フェスタ」というお祭りのようなものが催される。

 お祭りといってもだいたい露店が目玉というもので、事前に申請しておけば、どんな人でもどんなものでも店を出すことができる。街中にある公園だから、自然と大多数の参加者が街にお店を出している人たちになるのだけれど……。

 青空フェスタには、毎年足を運んでいたのに。

 ショップ「ミューズ」でも、青空フェスタに露店を出したいと店長に言ったことがある。

 けれど、店長は時間外労働は絶対にいやだと、許可してくれなかったのだ。

 だから、青空フェスタではわたしはいつもお客の側だった。

 今年はインフルエンザにかかっていたせいもあり、くわえてクビになったことでいっぱいいっぱいで、いまが十月でそういう催し物があるのだということをすっかり忘れていた。

 あんなに毎年楽しみにしていたのに……わたし、よっぽどキてたんだな。

 ん? いや、でもこの人、いま自分の露店にわたしがきた、と言ったような?

「あの、わたしは青空フェスタに行っていた、ということですか?」

「そうなりますね。ぼくはアクセサリー販売をしていました。そこにあなたがいらっしゃったんです」

「そうだったんですか……」

 酔って記憶が飛んでも、青空フェスタには行っていたんだ。

 たぶん居酒屋を出たあとで公園に寄って、今日が青空フェスタだということに気づいたんだろう。

「あの、わたしなにか失礼なことしちゃいませんでしたか?」

 それがいちばん恐い。

 酔っ払った経験が少ないぶん、人様に迷惑をかけなかったかどうかがすごく気にかかる。

 けれどイケメンさんは、優しい笑顔でかぶりを振った。

「とんでもない。あなたはセンスのある方だな、と惚れ惚れした夜でした」

「センスがある、とは……?」

 わたしいったい、なにをしたんだろう?

 不安に思うわたしに、イケメンさんは言う。

「ぼくにとって大切な指輪を、選んでくださったからです」

「大切な指輪……?」

「はい」

 イケメンさんの言うところによると。

 彼は、普段はジュエリーショップの店長をしているらしい。

 青空フェスタでもなにか販売したい、ということで、店員さんたちの意見も取り入れ、お気に入りのアクセサリーばかりを露店販売していた。

 たくさんのお客さんがいたのだけれど、そこにわたしも通りがかって、しばらくさまざまなアクセサリーを見ていたらしい。

 そこへ、お客さんのひとりである、初老のご婦人が難癖をつけたのだ。

「なによ、この指輪。デザインが地味なのにこんなに高いの? もう少しまけなさいよ」

 それこそが、店長であるイケメンさんがいちばんお気に入りの指輪だった。

 そこへ、店長と、一緒に販売していた店員さんがなにを言うよりも早く、わたしが口を出したのだという。

「すごい! この指輪をデザインされたのって、若谷涼さんじゃないですか!? あまりに有名になりすぎてお疲れになってしまって、わざと自分の個性を殺してつくった幻の一品! いくら個性を殺しても、若谷さんのデザインにはやっぱりご自分でもわからないクセがあります。だからつくられて五年が経っても、いまでも話題になっているんですよね!」

 それを聞いて、難癖をつけたご婦人がはっとしたのだそう。

「えっ……これ、あの幻の指輪なの!? 言われてみれば、雑誌に載っていたような……。本当だとしたら、この値段は安いほうだわ!」

 わたしとご婦人の会話を聞きつけて、どんどん人が集まってきたらしい。

「若谷先生の幻の指輪だって!?

「あれが二十万だなんて、確かに安いわ!」

「わたしが買いたいわ、ローンは組めますか!?

「私なら一括払いができるぞ!」

「わたしもほしい!」

 このイケメンさんの露店を含めて、周囲の露店にはかなりのお客さんたちが集まっていたらしい。

 というのも、都内でもさまざまな種類の有名なブランドショップの露店ばかりが出店されているゾーンだったからだそう。

 だから、そんなりのようなものが始まってしまった、のだけれど。

 イケメンさんは、穏やかにこう言ったらしい。

「申し訳ありませんが、こちらの指輪はデザイナーを最初に当てた方にしかお譲りしないことにしておりました。これはデザイナー若谷涼先生に、許可をいただいております。ですので、こちらの指輪は最初に当ててくださった、こちらのお嬢さまにお譲りすることにいたします」

「えー! まじですか!」

「もう少し早くこの露店に来ていれば、絶対に私が真っ先に当てていたのに!」

「わたしのコレクションにぜひ加えたかったわー!」

 残念がるお客さんを、イケメンさんをはじめ露店の店員さんたちがなだめ、わたしはぼうっとしていたそう。

 考えてみれば、そのときから、これは最高の夢なんだ、と思っていたかもしれない。

 ぼうっとしながらも、わたしはイケメンさんに、

「ということで、こちらの指輪はお譲りします。若谷先生にもどなたにお譲りすることになったかお伝えする約束ですので、こちらの証明書にご署名、ご捺印をお願いします」

 と言われて、

「ええと……すみません、わたし酔っ払っているかもしれなくて」

 と、ためらいを見せたらしい。

 イケメンさんは心配そうに、顔を覗き込んできた。

「大丈夫ですか? そういえば、かなりお酒のにおいがしますね。いまお水をご用意いたします」

「あ、いえ、大丈夫です。わたし、たとえ二日酔いになってもオニオンスープさえあれば復活しますので。というか、オニオンスープなら大丈夫っていう感じなんですけど」

「そうですか。本当に大丈夫ですか?」

「はい、心配無用です!」

 どん、と胸を叩いてみせたわたしに、イケメンさんはほっとしたようにまた笑顔を見せた。

「もうひとつ、お願いしたいことがあるんです。よろしいでしょうか」

「はい! わたしにできることがあれば!」

 そのときのわたしは、人の役に立てれば、という思いも少なからずあったのだと思う。

 お店をクビになったばかりで、わたしは誰からも必要とされていないんじゃないか。そんな不安があったのだと思う。

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