ケモノな幼なじみと意地っぱりな唇

七福さゆり

意地っぱり① 新しい生活の始まり (3)

 そう考えた私は、自分の気持ちの正体に気付いた時から様々な努力をすることにした。

 勉強は、予習復習を欠かさず!……でも、いくら頑張っても、才能がないのか勉強法が悪いのかはわからないけど、中の上より先にはいけない。

 運動はすごく苦手だったから特に頑張った。……けど、これは本気で才能がなかったみたいで、常にクラスでビリをキープ。身長を伸ばしたくて毎日牛乳パック一本を飲んでたけど、百五十五センチからうんともすんとも言わずお腹を壊す始末……。

 唯一手ごたえを感じたのは料理だ。

 初めこそはとんでもない料理を生み出していたけど、今は『特技は料理です!』って言えるぐらいまで成長できた。

 ……でも、それだけじゃ私の背中を押す材料には足りなくて、勇気を出せず告白できないまま時が過ぎ、気が付けば二十二歳──。

 他の女の子がハルに近づくのを見ては勝手に焦って、地団太を踏むばかりの不毛な日々を送っている。

 あーあ、ハルは社会人になってもモテるんだろうな。……というか、もうすでにモテまくってたっけ。

「何、ムスッとしてんだよ」

「あのねー……ムスッとしたくもなるでしょ? ハルがいつまでもほっぺた離してくれないから、痛いんだもん」

 口喧嘩をしていたら、あっという間に家の前。

 我が家とハルの家は隣同士に並ぶ一軒家。両家共働きでお互い一人っ子のため、今日も窓に明かりは灯っていない。

「ハル、家でご飯食べて行く? 簡単なものでよかったら、何か作ってあげるよ」

「いや、いい。煮えてない野菜入りのカレーとか、卵がカッチカチに硬くなったオムライスとか食いたくない」

「そ、それは昔の……しかも小学校の時に作ったやつでしょ!? いい加減忘れてよね。今は普通に作れますから! っていうか、いつも普通に食べてるじゃない!」

 しかも『まぁ、食えないこともない』とか言って、おかわりまでしてたくせに!

 の父は出張が多いから、ほとんど家に帰って来ないし、母は介護職で月に何度も夜勤がある上、人手が足りないからと普段も夜遅くの帰宅が多い。ハルの両親は揃ってお医者さんだから、家にはほとんど帰って来ない。

 さすがに両家とも、私たちがある程度の歳になるまで仕事をセーブしていたけれど、小学校の高学年になる頃にはフルタイムで働くようになり、私たちは一つの家に集まってお留守番するのがお決まりになっていた。

 中学校、高校、大学に上がって別々の学校に通うようになっても、毎日とまではいかないけれど、たまに夕ご飯を一緒に食べている。

「今日は冷凍庫になんか作り置きあったから、それ適当に食う」

「そう……。じゃあ、おやすみー」

 ハルと一緒にご飯食べたかったな。会社で今日どんなことしたのかとか、色々話したかったけど、無理に誘うのもちょっとね。

 ガッカリしているのを悟られないように、ニコッと笑っておく。

「……」

 いつもなら適当に『んー』やら『おー』だか返事して、さっさと家へ入って行くのに、ハルは無言で微動だにしない。

「どうしたの? あ、鍵でも忘れちゃった?」

「……違う」

 ジッと訴えかけるような目で見てくるけど、何を考えているかわからない。

 あれ、なんかいつもと様子が違う……。

 いつもなら『お前じゃないんだから、そんなドジするか。バーカ』ぐらい言いそうなのに。

 ……何かあったのかな?

「じゃあ、どうしたの?」

 首をげながらハルの近くに行くと、手首を摑まれた。

 ハルの手はとても大きくて、温かい。男の人の手……それを意識したら、顔がポワポワ熱くなる。

「ちょ、ちょっと、何? どうしたの? あ、具合悪い……とか?」

 あからさまに焦ってしまう私を、切れ長の瞳が真っ直ぐに見つめてきた。恥ずかしくて逸らしたいのに、ここでそうしたらあからさますぎるから真っ直ぐ見つめ返す。

「……俺、お前が好きだ」

「へ?」

 す……き? 隙……?

「……っ……『へ?』じゃねーよ。だから、す……好きだって言ってんだろ」

「え、え? 隙って、何? 危ないってこと? 一応夜道歩くのは危ないからって、護身用にお母さんから貰った防犯ブザーはちゃんと持って……」

「は!?……バ、バカ! 意味ちげーし!……お前は、なんだってそんなバカなんだよ。この大バカ! 『隙』じゃねーよ! 『好き』だって言ってんだよ!……あーもう、こっちの意味だっての!」

 ハルはスマホを取り出すと、メモ機能に『好き』と打った。

 心臓が飛び出しそうなくらい大きく跳ね上がり、ものすごい勢いで脈打ち始める。

「え……え? えっ……す、すすすす……すっ……!?

 好きって……え!? え、ええ!? わ、私たち、両想いだったの!?

 ゴールデンウィークと夏休みと冬休みが一度に来て、宝くじの一等が当たったような気分だ。ううん、それ以上に嬉しい!

「わ、わたっ……わわわたっ……」

 私も好き! すぐ伝えたいのに、舞い上がりすぎて言葉にできない。

 後でスケジュール帳にハートのシールを貼り付けて、今日を『両想い記念日』として書き記しておかなきゃ! 私、この日を一生忘れない。今日という四月一日を!

 ……ん、四月一日?

「…………わぁ」

 今日、エイプリルフールじゃない……!

 天にも昇るような気持ちだったのに、地面へ思いっきり突き落とされた。突き落とされたというか叩き落とされた。

 また、今年もす気!?

 幼い頃から毎年、毎年、……本当飽きもせず毎年! ハルはエイプリルフールに必ず嘘をつく。そして私も間抜けなことに、騙され続けている。

「おい」

『留年して、親に勘当された』やら『来年から一年留学することになった』やら『弟ができた』等々、くだらない嘘に騙されて心配したり、悲しんだり、喜んだりした。

 今年は騙されないから! というか、大人になってまでエイプリルフールに嘘つくって、バカじゃないの!?

「おい、聞いてんのか! マメ!」

「は!? 何っ!? 聞いてるし!」

 喜びの反動もあって、イライラが止まらない。何かハルを動揺させるようなことを言えないかと、グルグル考えを巡らせる。

「……返事、聞かせろよ?」

 ──そうだ……!

 我ながらいい考えを思いついた。例年通りエイプリルフールだって気付かないフリをして告白を受け入れたら、ハルは絶対焦るはずだ。ニヤリと笑いそうになるのをなんとかえ、表情を変えないように徹する。

 よし、やるぞ! と心の中で気合いを入れて、返事を待つハルを真っ直ぐに見つめる。

「え、えっと……っ……わ、わたっ……私も好きっ!」

 本当の告白じゃないってわかっていても、声が震えてしまう。

 ああ、こんな調子じゃ、本当の告白をする時にはどうなっちゃうのかな?

「……そ、そーかよ」

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