どっちも、好きでしょ? 王子な彼氏とケモノな弟の極上トライアングル

槇原まき

第一話 姉弟 (2)

「んんっ……あん」

 ぴちゃぴちゃと舌を絡め合い、互いの脚をもつれさせてキスに興じるうちに、記憶が過去に飛ぶ。

 十八歳だった弟に処女を奪われたあの日。

 最初は無理矢理からはじまった行為だったはずなのに、澪は弟に抱かれて感じてしまっていた。


『姉さん……愛してる。姉さん……姉さん……姉さん……僕だけの姉さん……!』

 容赦なく叩きつけるような激しいピストンに蜜路を搔き混ぜられ、ぐちょぐちょと泡立った愛液を滴らせた結合部は、澪が弟との禁断のセックスに感じてしまっていた証し。

『ああっ……ぅ、く……ゃあ……ゆぅと、やあぁあん!』


 断片的に残る背徳の記憶だけでも後悔しているのに、二度目の過ちなんてしてしまったらきっと耐えられない。

 なのに今、弟に唇を塞がれ、舌を搦め捕られてしまっている矛盾。

「は……姉さん……姉さん好き。大好きだよ。世界で一番愛してる」

 唇を吸われながら身体を上下に揺すられるだけで、パジャマの下では乳首が立ち上がり、弟によって開かれた処からはとろりとした愛液が滲む。


『僕、このまま姉さんの中で出したい……だめ?』

『だめ……優斗だめ……お願い、それだけはだめぇ! 私たちは──』

『で、出る……出ちゃうよ……姉さん!』

『ゃめて、お願いよ、優斗、お願いやめてぇ!』


 あの日、優斗はる射液を外に出してくれた。

 自分たちが男と女として交わったのはその一度だけ──それからキス以上のことはしていない。キスだって本当はいけないことだとわかっている。

「ゆぅと……」

「姉さん……目、とろんってなって可愛い……気持ちいい?」

 舌を擦り合わせるだけの行為なのに、どうしてこんなに淫らな気分になるのだろうか。

 優斗が弟だから?

(……だ、め……抵抗しなきゃ……)

 霞がかった思考でも、唇がぐべき言葉を理性が懸命に捻り出す。

「……はぁ……はぁ……はぁ……ゆぅ、とぉ……ダメ……」

「姉さんすっごく可愛いよ……姉さんは感じやすいもんね。キスだけで濡れちゃった?」

 優斗の指先がパジャマの上から澪の秘められた処をなぞってくる。

 ツン──と敏感な蕾に触れられて、布越しといえども身体が震えてしまう。

 我に返った澪は優斗の胸を両手で押して、赤くなった顔を背けた。

「優斗……やめて……お願い」

 声に確かな拒絶の意志を乗せると、ため息混じりではあったが優斗が退いてくれる。

 逃げるようにベッドから降りた澪は、そのまま部屋を出ようとドアへ向かった。

(ダメだってわかってるのに、どうしてもっと強く言えないの? もう、自分が嫌になる)

 雰囲気に流されそうになってしまった自分に嫌悪感すら抱いたその時、部屋に響いた優斗の呻くような声に思わず振り返った。

「──で、なんでッ……僕はこんなに好きなのに!! 姉さんだって僕のこと好きでしょ!?

 ベッドに腰を下ろし、両手で頭を押さえている優斗に胸が詰まる。彼の「好き」は姉弟以上のそれだ。応えることはできないし、応えてはいけない。

 だからこう言うしかないのだ。

「好きよ、弟だもの」

「……姉さんが姉さんじゃなかったらよかったのに。そしたら僕を受け入れてくれた?」

 もしも姉弟じゃなかったら──その「もしも」には何の意味もない。

 優斗は弟。そして自分は姉。これが現実だ。自分たちは姉弟であって、男と女の関係ではいけない。

(私は優斗を受け入れちゃいけない。絶対に……!)

「私たちは姉弟だから一緒に暮らせるのよ」

 澪はそれだけを言い残すと、優斗を残して部屋を出た。

 向かったバスルームでパジャマと下着を脱ぎ、ヌルついてしまったショーツのクロッチを手洗いしてから、洗濯ネットに放り込む。

 バスルームのシャワーコックを捻れば、数秒だけ冷たい水が出て徐々に熱いお湯になっていく。その境界線は曖昧だ。気が付けばいつの間にか熱くなっている。

 優斗とのれも同じだ。

 戯れは戯れに終わらせなくては、いつの間にか大火傷をしてしまいそうで怖い。

 ただでさえ一度過ちを犯してしまった。二度も同じ過ちを犯すのはか者のすることだ。

 過剰とも言えるスキンシップが、曖昧な中にある二人のボーダーラインだ。このボーダーラインを何が何でも死守するしかない。

 戯れにキスを繰り返したとしても、優斗は澪の嫌がることはしないはずだ。

 姉弟で交わってしまったあの日──澪が泣いてしまったから。

 あの日の優斗の瞳には、確かに後悔の色があった……ように見えた。その彼の後悔を信じるしかない。

「はぁ……」

 思わず零れてしまったため息と、身体に残る優斗の体温を洗い流すようにして、頭からシャワーを浴びる。なだらかで女性らしいを描くシルエットを、お湯が流れていった。

(切り替えなきゃ)

 これから仕事に行かなくてはならない。

 スポンジに、ラズベリーの香りがするボディソープを垂らして泡立てる。

 バスルームいっぱいに広がった甘酸っぱい香りに癒やされながら、たっぷりの泡で身体を洗い上げていった。

 これは優斗と一緒に出かけた時、「姉さんのイメージにピッタリな匂いだ」と言って彼が買ってくれたものだ。ジェルだけでなく、シャンプーやミストも同じメーカーのラズベリーの香りで統一している。

 かに香るらしく、同僚たちからの評判も悪くない。

 髪を洗い、バスルームを出て自分の部屋に戻った澪は、ボディミストで肌の手入れをしてからクローゼットを開けた。取り出すのは白いシンプルなブラウスと、紺のフレアスカート。それから黄緑と白のストライプが入った布ベルトだ。

 メイクは派手にならないようにナチュラルを心掛け、髪はくるくると夜会巻き風にめてコームで留める。

 澪の仕事は大手広告代理店の専務秘書だ。専務に付いて打ち合わせに外に出ることもあるが、だいたいは会社の中での雑用や連絡事項をこなしている。

 支度をした澪は、両親が使っていた部屋にある仏壇に手を合わせた。

(お父さん、お母さん、おはようございます)

 眼鏡をかけた穏やかな父と、栗毛の母──小さめの木製フォトフレームに入れられた寄り添った両親の写真は、二人が一番幸せだったであろう時間で止まったままだ。

 亡くなった両親が、どんな思いで自分たちのことを見ているかと思うと、申し訳なさに胸が張り裂けそうになる。

 姉弟で身体を交えてしまうなんて──

 居た堪れなくなった澪はすぐに仏壇の前から立ち上がり、リビングと繋がっているキッチンに向かった。

(お弁当作らなきゃ)

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