五年目のシンデレラ 僕は何度も君に恋をする

御堂志生

第一章 結ばれた夜 (3)

「あの……あの……わたしたちって、もう、ひとつになったの?」

「いや、もう少しだからいい子にしててくれ。夏音、愛してるよ」

「京悟さん、わたしも……愛して……あぁうっ! や、やぁ……いっ、いた……んんんっ!」

 夏音は彼を困らせるまいと、歯を食い縛った。

 なんといっても、自分からねだった一夜なのだ。誕生日プレゼントの代わりにふたりきりで過ごしたい、と。そんな夏音の希望を叶えてくれて、京悟は誰にも内緒でこんな別荘まで用意してくれた。

 表向きは夏音の姉と婚約している立場。彼にすれば婚約者の妹と、それも学生の夏音に手を出してしまったことになる。それが露見すればどれほどの大問題になるか、そして祖父の命にかかわることだということも、彼女にはよくわかっていた。

「夏音……」

「やめないで! お願い、大丈夫だから……全然……つらくなんてないんだから……とっても、気持ちいいの、だから……」

 懸命に叫ぶ夏音の額に、京悟はチュッと口づけた。

 そして、こつんと額を合わせると、

「この意地っ張りめ。安心しなさい。こんなところでやめたりしないから。変な感じがするだろう? それが治まるまで、ジッとしていよう」

 ふたりの身体をぴったりと重ねたまま、京悟はささやいた。

「う、うごか、なくていいの? 京悟さんにも……気持ちよく、なって欲しい」

 男の人は挿入したら激しく突き上げてくるものだ、と思い込んでいた。映画やマンガから得た知識と友だちの話を掛け合わせても、夏音の中でセックスはその程度だ。

 彼女なりに真剣な気持ちを込めて言ったつもりだが、京悟には軽くいなされてしまった。

「これはただのセックスじゃない。愛する人と初めて結ばれた大事な瞬間なんだぞ。さっさと動いて早く終わらせる気はないよ。ゆっくりと、こうしていつまでも君とひとつになっていたい」

 京悟は夏音の身体が落ちつくまで、三十分くらいジッと抱き締めていてくれた。

 ふたりは繋がったまま、初めて会ったときの思い出から、未来の子供の名前まで語り合った。明日は軽井沢の町をデートしよう。テニスやサイクリング、ホテルのプールで泳いでもいい。夏休みの終わり、それも都心から離れた場所なら少しくらい大丈夫だろう。そんな言葉に夏音は泣きそうなほど嬉しくなる。

「これでも高校時代、競泳でインハイに出たこともあるんだよ」

「じゃあ、女の子にモテモテよね」

「それが……残念なことに男子校だったんだ」

 本当に残念そうな言い方に夏音はクスクス笑ってしまう。

「だから、いつか女の子とプールでデートして、水の中でいろいろしたいなぁ、なんて妄想してたな」

「京悟さんのエッチ」

 頰を染めて彼に抱きついた。

 そして、夏音の躰が京悟の欲棒の形にすっかり馴染んだころ、彼は緩やかな抽送を開始する。

 ほんの少し、膣奥で肉棒がく。時間をかけて引き抜かれ、そして同じだけ時間をかけてふたたび奥を突かれた。乾き始めていた蜜壁にじんわりと愛液が染み出してくる。それは瞬く間に洪水のようになり、押し込まれた肉棒の隙間から溢れ出てきた。

「んん……んんっ……あっ、ふぅ」

 苦しさを我慢する声ではなく、口からごく自然な嬌声が漏れる。熱をんだ甘やかな吐息に、夏音はそれが自分の口から零れる声だとは、最初は信じられなかった。

「ちがう……わたし、は……こんな、エッチなこと……あ、あぅ」

「ふたりで気持ちよくなるんだ。我慢しなくていいよ。そうだな……僕はエッチな夏音も大好きだって言ったら? 繋がった部分をもっとグチョグチョに濡らしてくれないか。そして、いやらしい声をいっぱい聞かせてくれ」

 京悟の口から発せられたとは思えない言葉に夏音は赤面する。

「僕がこんなことを言うとは思わなかった? 夏音、僕はただの男だよ。未成年の君に手を出さずにいられないほど、ダメな男だ」

「そうじゃないわ……京悟さんが悪いんじゃない。わたしが……」

 自分のせいと言おうとした口を、彼の口に塞がれた。

 同時に、わずかだが荒々しい動作で腰を動かし始める。

「ああ、悪い……もう、限界かな。もう少し、君の可愛らしい声を聞いていたかったのに」

 京悟の首筋や額にうっすらと汗が浮かぶ。頰をわずかに歪め、口元から浅く短い呼吸が零れてきた。隘路を往復する欲望の竿はしだいに充実感を増し、処女の襞を限界まで押し広げる。ひりひりした痛みが抽送のたびに強まっていく。

 だがそれ以上に、彼が奥まで達した瞬間、互いの性器を擦り合うように押しつけられ……。それは夏音にとって痛みすら忘れるほどの悦楽をもたらした。

「好き……好きよ、京悟……さ、ん……ずっと、一緒に……いて」

「愛してる、夏音。ずっと一緒だ……愛してる」

 そのとき、小さな呻き声が京悟の口から聞こえた。

 激しい動きがピタリと止まり、膣奥に納まった欲棒が小刻みに痙攣する。夏音は彼の背中に手を回して、ギュッと抱きついた。大好きな人とひとつになれた喜びに、涙が浮かんできて……。

 初めて結ばれたこの夜を、京悟が与えてくれた最高の思い出を、生涯忘れないと誓った。



☆ ☆ ☆



 二ヶ月が過ぎ、季節は夏から秋へと変わる。

 幸福な初体験は夏音にとって、〝最高の思い出〟だけでは終わらなくなっていく。

(そんなはずないのに……だって、京悟さんはちゃんとしてくれたし)

 二学期が始まればすぐにくるはずだった生理が十月になってもこない。不安は募るが、夏音にはどうしたらいいのかわからなかった。

 一番は京悟に相談することだ。しかし九月以降、ほとんどふたりきりで会うことができずにいる。

 最大の原因は、祖父が心臓の手術を受け、危篤に陥ったことだろう。町の小さな工務店を一代で社員百人以上の建設会社まで広げた祖父は会長としてすべての決定権を握っていた。社長である父も祖父の許可なしには何もできない状況なのだ。

 そんな祖父の回復が危ぶまれたせいで、銀行がしだいに融資を渋り始めたという。そういった噂はあっという間に業界に広まり、会長の秘書であり、ゆくゆくは後継者として認められている京悟はますます忙しくなった。

 しかも、事情を知らない父や会社重役たちはとんでもないことを言い始めたのだ。

『こうなれば万が一のときに備えて、結婚しておいたほうがいいんじゃないか』

 もちろん相手は美里である。

 京悟と美里の間には『婚約は祖父が退院するまでの芝居』といった約束が交わしてあった。だが、美里には芝居の理由──夏音との交際の件は話していない。当然、美里は妹の夏音に対しても京悟のことを『婚約者』と呼ぶ。それは夏音にとって、拷問にも等しいことだった。

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