絶対レンアイ領域! 先生とドキドキ新婚生活
ヒミツの始まる音がする (2)
──気づいてない……っぽいよね。
涼しげな目元、窓から差し込む光を浴びて少しだけ茶色く見えるサラサラの髪、シュッとした細い顎。彼をじぃっと見つめて、やっぱり間違いないと確信する。
「理沙さんは、由真さんの妹さんなんですよね?」
彼はかすかに口角を上げて、瞳に甘い色を浮かべた。そんな表情を見たことがなかったから、私は少し緊張して頷いた。そう、いつも見ているセンセイと違う、オトナの男の表情──。
私の正面に優雅に座っているお見合い相手は、驚くことにずっとずーっと憧れていた人。男子からも女子からも人気があって、バスケ部の顧問で、学園理事長の親戚な上、ファッション雑誌のモデル顔負けのイケメン──遠山龍生先生だった。
「はい、そうです。す、すみません……」
ホントなら由真ちゃんがここにいるハズだった。先生はたしか二十九歳だから、二十三歳の由真ちゃんとなら年齢のバランスもいい感じだし、きっとお似合いだったと思う。
「高校生っていうのは本当ですか?」
「ホントです。でも、あの」
──先生がお見合いしてたなんて、学校で言ったりしませんから!
そう言おうとして、私はちょっと考える。名前も名乗ったし、今こうして目の前に座ってるけど、先生は私が遠山館学園の生徒だって気づいてない。だったら余計なコトは言わないほうがいいのかも?
「高校生と結婚すると言えば、さすがに伯母も……」
先生は私の動揺なんて完全無視で、何かをたくらむみたいに顎に手をあてた。学校では、誰にでも優しくて親身になってくれて、もちろん顔もカッコイイし、若くて人気の先生。初めて学校の外で見る先生は、センセイの仮面をはずしていて。
──みんな、知らないんだ。先生じゃないときの遠山龍生サンを。
ほんのりと優越感を感じながら、同時に罪悪感も覚える。先生だってお見合いしたコトを生徒に知られたくなかったよね。なのに、私ったらひそかに喜んでるなんて、ちょっとウザがられそう。
「理沙さん」
「は、はいぃ!」
いきなり名前を呼ばれて、私はピッと背筋を伸ばした。なんだろう。やっぱり怒られるのかな。高校生がお見合い相手なんて、迷惑だ! とか……。
「ぜひ僕と結婚してほしい」
だけど次に聞こえてきたのは、私の予想をはるかに飛び越えて、成層圏を突き抜けちゃうような言葉だった。
「……あ、あの、今なんて言ったんですか?」
何かの聞き間違いだと思って、一応確認。
──先生、今、結婚してほしいって言ったんじゃないですよね。私、先生とお見合いなんて夢みたいな状況のせいで、耳も頭もおかしくなっちゃったのかもしれません。
「あなたと結婚したいんです。ダメですか?」
「ダ、ダメだなんて、そんな……っ」
憧れの先生を前にして、私は信じられない現実にブンブンと右手を振ってみた。
カコーン、と間抜けな鹿威しの音。はきだしの外には枯山水の庭が広がる、非日常的な空間。濃いグレーのスーツに身を包んだ、スラリとした憧れの先生が私と結婚したいと言っている。これは私の妄想?
「じゃあ、僕と結婚しましょう」
──もう何も考えられない。
真っ白になった頭が、前に揺れる。それはコクリと頷いたように見えたと思う。実際、私は無意識に頷いていた。
「良かった」
先生は、その部屋で会ってから初めて、にっこりと優しい笑顔を見せた……。
♪o
♪
o
♪
俺はそのとき、どうかしていたんだと思う。
だが、冷静に考えてもやっぱり同じことをしただろうと予想がつく。だとしたら、それはどうかしていたのではなく、俺の常態だったのかもしれない。
六月最初の日曜、人生で五回目の見合いに臨んでいた。ここでひとつ断っておきたいのは、別に俺が見合いをしなければ女と出会うこともできない哀れな人生を歩んでいるわけではないということだ。母親からは、いい歳になっても結婚できないバカ息子呼ばわりされているが、女に困ったことはない。
中学二年で初めてラブレターをもらって以来、高校大学と順調に付き合った相手もいたし、人並みの恋愛はしてきたつもりだったが……。
──それがアダになった。
背が高いとか、勉強ができるとか、家が金持ちだとか、様々な偶然によって俺は女に困らない人生を送ってきた。それを羨むヤツもいたけれど、二十九年ですでに疲れてしまったのだ。
最初は相手から惚れ込んで始まった恋愛も、徐々に女の面倒な面を見せられる舞台でしかなくなっていく。そう、俺はいつも彼女たちの隣でほほえみ、理想の恋人を演じることを求められていた。最初は楽しかった恋愛ごっこも、三十を間近にした今ではすっかり飽きてしまった。
「飽きる程度の恋愛しかしたことのない、ケツの青いガキが生意気言うんじゃないわよ」
勤務先である私立遠山館学園の理事長兼伯母は、そう言って俺の頭を拳で殴ったけれど、誰になんと言われようと俺は恋愛にも女性にも夢をいだけない。それはもうどうしようもないことだった。
母曰く、俺のような独身で何も不便を感じず悠々と暮らしている三十路前後の男を総じて『結婚できない男』というらしい。テレビや雑誌の影響を受けやすい母親は、少々前に流行った言葉をさも旬の流行語のように使いたがる。
実際、結婚しなくても俺は困らなかった。料理は得意だし、掃除は好きだ。ゴミの分別もそこらの主婦に負けない程度にしていると自負している。ワイシャツはいつもクリーニングに出しているし、衣服にも気を遣っている。美容院は月二回。
「……リュウちゃん、だからね、そういうマメで潔癖症でひとりでなんでもできる男性を『結婚できない男』っていうのよ」
母はがっくりと肩を落としてそう言った。
「俺は潔癖症じゃない! 清潔なことの何が悪いんだ。生活空間をキレイにしておきたいのは当然のことで……」
俺の反論など聞いていないのか、母が両手を腰にあてて睨みつけてくる。
「せっかくキレイな顔に産んであげたのに、なんの役にも立たないじゃないの。お母さんはカワイイ孫を早く抱きたいのに!」
俺がひとりっこだったことを恨んでくれ。孫を抱きたいなら、もうひとりくらい子どもを産んでみてはどうだろうか。年齢的に孫と変わらないだろう。
──ま、さすがにそう思っても口には出さない。何しろ母とて人間なのだから、夫もなしに子を作るなどできはしない。
父はすでに他界している。そして今、俺は父が手に入れるはずだった未来を追い求めていた。
俺の勤める遠山館学園は、曽祖父の代から長く続く名門私立エスカレーター校だ。曽祖父、祖父が理事長を務めてきた。しかし祖父は男児に恵まれず、生まれたのは伯母と母の姉妹。当初は伯母が婿養子をとって、その旦那が学園を継ぐ予定だったのだが、若いころからアグレッシブに我が道を行くタイプだった伯母は駆け落ち同然で家を出て行ったそうだ。そこで、残された母が後継者候補である父を婿にもらった。しかし伯母は離婚して家に戻り、父は俺がまだ小さいころに学内で起こった火事から生徒を守って命を落とした。
俺には父親の記憶があまりない。
「穏やかで優しいお婿さんだったのよ」
と母は言う。写真で見る父は、俺とよく似た面差しをしていた。若くして志半ばにこの世を去った父。
──だったら、父さんの代わりに俺が学園を継ぐ。
そう思ったのはいつのことだったろう。学園を継ぐために結婚し、その学園と生徒を守るために命を落とした父親の想いを俺が受け継ぐべきじゃないか? 父と同じ数学教師になり、遠山館学園に勤めたのは当然の選択だった。そしていずれは理事長となって、父が守っていた学園をこの手で守る──。
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