一過星(キセキのホシ)

360回転

奇跡の星

駅での痴漢騒動を終えた私は、帰路についていた。
結局、五十嵐くんとのデートは中止になってしまった。
『また今度一緒に遊びたい』とメッセージは送っておいたけど、返信は来ていない。
せっかくの休日が痴漢魔のせいで終わろうとしている…。
私は今日と言う日を充実させる為に、商店街に立ち寄る事にした。

昭光商店街、この場所には有名な占い師が出没するらしい。
占い師に占ってもらえば、五十嵐くんとの恋行方も分かるはず。
そんな事を考えて歩いていると、一人の青年が人混みの中から飛び出してくる。

ドカッ…

青年にぶつかり私は尻もちをついた。
「いた…」
「すみません」
青年は私に謝罪をしてから、すぐに走り去っていく。
急ぐ青年のポケットから、スマートフォンが地面に落ちる。
私は慌てて大声を出した。
「お~い!携帯落としたよ!!」
しかし、私の声が聞こえなかったのか青年は人混みの中に消えていってしまう。

…………

携帯を拾い上げ、ポケットの中に仕舞う。
後で警察に届けよう…そんな事を思いつつ、占い師の姿を探した。
すると、紫色のローブを着た占い師らしき人物を見つける。
声をかけ、占ってもらってるタイミングで、私の携帯が鳴り響く。

トルルルゥゥゥ!

五十嵐くんかも!と思い携帯を確認すると、液晶画面にはバイト先のオーナーの名前が書かれていた。
電話の内容は、シフトに穴が空いたから埋めて欲しいと言うモノだった。
どうせ家に帰ってもやる事はない、それなら働いていた方が有意義だろう。
そう考えた私はシフトの穴埋めに応じる事を決め、バイト先である古本屋へと向かった。

店に着き、古びた木製のドアを開けると、レジの前ではオーナーが眠そうな顔をしながら本を読んでいる。
「お疲れ様でーす!」
私が声をかけるとオーナーは本を閉じてから、気怠そうな声を出す。
「お疲れ様~…いや~悪いね…休日なのに呼び出しちゃって…」
「いえいえ!緊急事態ですから、仕方ないですよ!」
「それじゃあ私はこの後用事があるから…戸締りまで任せちゃって良いかな?…」
「はい!行ってらっしゃいませ~!」
「お前はいつも元気が良いな…客が少なくなってきたら適当なタイミングで切り上げちゃって良いから…後はよろしく~…」
そう言い去っていくオーナーを見送り、私は掃除をしようと気合を入れる。
店内を見て回ると、掃除はオーナーがほとんどやっていたみたいだ。
お客さんも全く居ないので、古本のチェックでもするかと思い、店の奥にあるダンボールをレジの横に置くと、新しく入荷した古本を隅々まで見ていく。
オーナーが仕入れてきた本の中には、ページが破れていたり、落書きがされているモノもある。
そういう不良品のようなモノには不良品シールを貼り、状態の良いモノはまとめてダンボールの中に入れておく。
不良品を売るかどうかはオーナーが決めるので、バイトの私は仕分けをするだけで良い。
正直…古本屋は儲からないと思う…。
ネットの通販などが普及した事で、古本を手に入れる事は昔よりも容易になった。
価格の均一化も進んでいるのだから、仕入先から安く買い叩くと言うのも難しいと思う。
それに、この本屋は辺鄙へんぴな場所にあり、人通りも少ない。
最低賃金も年々上がっているし、バイトに給料を払うのだって大変なはずだ。
まぁ…バイトと言っても働いてるのは私と、もう一人の子だけだけど…。
オーナーは『父親がやってた店だから残したい』と言っているが、別で仕事をしながら、この店を維持しているのだから本当にギリギリの経営なのだと思う。
父が残した店だから、潰したくないと言う気持ちも私には正直よく分からない。
父親を想う気持ちと、店を大事にする事は別だと思うのだ。
いっそのこと潰してしまった方がオーナーも楽な生活が出来るのではないか?…とそんな風に思う。
まぁバイト先が無くなったら、正直私も困るのだけど…そんな事を考えながら、作業を進めていく。
すると、店のドアがゆっくりと開き、マスクとサングラスを付けた男が3名入ってきた。
不審者のような見た目をしているが、古本屋に来るような人は変な見た目をしてる事も多い。
それに、この三人には見覚えがある。以前バイトをしていた時に古本を数冊買い「1万円しかないけど大丈夫か?」と聞いてくれた親切な人達だ。
作業をしながら軽くお辞儀をすると、三人の男は店内を見回し、レジの前へとやってきて言った。
「おい!レジの金…全部出せ!」
男の手には銃が握られており、3人が強盗である事を私はすぐに理解する。
「金ですか…」
私の言葉に男は怒ったように声を出す。
「早くしろ!変な真似したら殺すからな…」
私はレジを開き、中身を確認した。
中身は多くない…理由は単純で、お客さんがそんなに来ないからだ。
強盗をするなら、もっと金がある場所に行くべきだろう。
私は疑問を口にした。
「なんでなんですか…」
「はぁ?なにがだ…」
「なんでうちの店なんですか?…襲うなら銀行とかコンビニとかもっと選択肢はあるんじゃないですか?…」
「いいから、早く出せよ~!」
そう言うと一人の男がカウンターを跨ぎ、私の所に近寄ってきた。
身構える私の手首を掴み、レジを除き込んだ男は笑いながら言う。
「うわ~…本当に少ないぜ~!これだったら、その辺のおじさん襲ってクレカ使う方がマシかもな…」
男の言葉はオーナーの努力を否定するモノだった。オーナーが頑張って稼いだ金で、この店は存続している…オーナーの父がこの店を頑張って経営していたおかげで、オーナーも立派に育ったのだ…。
確かにレジの中身は少ない…これなら他の店を襲った方が稼げる事は間違いないだろう…
だけど…それが事実であったとしても…私はそれをバカにするこいつに、物凄く腹が立っていた…。

下品に笑う男の顔面に拳を叩きこむ――

ドカッ!

衝撃を受けた男のサングラスは割れ、勢い良く地面に転がった。
銃を持ってる男が私に発砲しようとした瞬間、ポケットに仕舞っていた青年の携帯が音を立てる――

トルルルゥゥゥ!

音に怯んだ隙をついて、カウンターに飛び乗ると、銃を持つ腕を力任せに叩いた。

カラン!…

銃を落とした男の顔面に、思いっきり拳を叩きこむ――

ドカッ!

男は鼻から血を流しながら、後方へと倒れていく。
”アクション映画選手権”があれば私は上位に食い込むかもしれない…。
そんな事を思いながら、残った一人の男に目を向けると、男は後方に下がり銃を構えていた。
どうやら銃は一丁じゃなかったようだ…。
男が引き金を引こうとした瞬間、店の地面が大きく揺れる――
本棚にあった本達が生き物のように動き出し、辺りからはキィーキィーと叫び声のような音が聞こえてくる。
ぶら下がっていた電球が床に落ちて割れ、お金を入れたレジもガタガタとカウンターを叩く。
咄嗟の出来事に私と銃を持った男が動揺を見せると、店の天井が一気に崩れ、本と私達は大きなモノに飲み込まれるように視界を奪われた――――


――気が付くと私は病院のベッドに寝かされていた…両親に事情を聞くと大きな地震の被害を受けて、建物に押しつぶされていたとの事だった。
救急隊を呼んでくれたのは先程ぶつかってきた青年で、無くした携帯のGPSを追った結果、崩れているお店を見つけてくれたらしい。
看護師は「出血も酷く、あと少し遅かったらやばかったかも…」と言っていたが、私は結構元気だ。
医者が入院するかどうかを両親と話し合っていたが、私は「元気なので大丈夫です!」と言って両親と一緒に帰宅した。

トルルルゥゥゥ!

部屋に戻った私は、すぐにオーナーへと連絡を入れる。
「お疲れ様です!つくみです!」
「お疲れ様~どうしたの?なんか業務で困った事でもあった?」
オーナーの質問に、私は申し訳なさそうに言った。
「いや~それがですね…地震で建物が壊れちゃったみたいで…」
「え!?…つくみさんは大丈夫なの?…」
「私は今病院から帰ってきたところで…でも、お店がどうなったのか分からないんですよ…」
「つくみさんが無事ならよかったけど…そっか…あの地震なら壊れても不思議じゃないか…」
「明日からのバイトどうなります?…」
「う~ん…まずはお店の状況を確認しないとだけど…とりあえず…明日は出勤できるって言ってたから…つくみさんの次の出勤の時にまた連絡するね…」
「分かりました!何かあったら手伝いますから言ってください!」
「ありがとう、お疲れ様…」」
オーナーとの連絡を終えた私は、ベットの上に寝転がりメッセージアプリを開く
アプリには、五十嵐くんからのメッセージが来ていた。
『明日はどう?』
短い文だったが、明日デートしようと言う意味だろう。
私はすぐにボタンをタップすると、五十嵐くんへとメッセージを飛ばした。
『明日大丈夫!今日と同じ待ち合わせ時間で良い?…』
すると、五十嵐くんはすぐに返事をくれる。
『分かった…明日はちゃんと来てね!』
『ごめんね、ありがとう!』
短く返して、目覚まし時計をセットする。
布団の中に入ると、意識はすぐに闇の中に溶けていった。

…………………

カーテンから差し込む光に目を開け、大きく伸びをする。
どうやら今日は目覚ましよりも、早めに起きる事が出来たらしい。
私はゆったりとした動きでベッドから出ると、台所へと向かって歩きだした。
「ねえーちゃん!俺の自転車知らない!?」
弟の台詞に私はきっぱりと答える。
「知らない…」
私の言葉に首を傾げる弟を無視して、フライパンにバターとパンを放り投げる。
テレビでは”リアルタイムニュース”と言う番組が流れていた。
『速報が入りました…8時30分発の電車が昨夜の地震の影響で脱線し、数十名の乗客が被害を受けました…電車は昭光市から三図市へと向かう予定の電車で…」

……………………

8時30分…………

私は部屋にダッシュで戻ると、目覚まし時計を確認する…。

……………

「なんでこんな時に鳴らないのよ!!!!!」

私は針が止まった時計をベッドに投げつけると、急いで出かける準備をした。

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