一過星(キセキのホシ)

360回転

UNLUCKY GIRL!!

太陽の光がカーテンを突き破り、私の事を叩き起こそうとしている――
ジリジリと鳴る目覚ましは殺人的にうるさく世が世なら壊されても文句は言えないボリュームで鳴り響いていた。

「ねえーちゃーん!」
弟の声もうるさい…昔はあんなに可愛いかったのに…今はとってもうるさい弟だ…。

「ねえーちゃーん!ねえーちゃん!うるさーい!」
うるさいのは!お前だー!。
私は身体の神経を無理やり動かし、近くにあった枕で目覚まし時計を抑え込む。
これで弟も黙る事だろう。

「ねえーちゃん!うるさいって!!早く目覚まし止めてよ!!」

うるさいうるさいうるさいんだよ!私は眠すぎる目を無理やりこじ開けると、枕をどかして目覚まし時計を思いっきり叩いた!。

バチン!

私の手はストップボタンではなく目覚まし時計のエッジの効いた部分にヒットし、宙を舞った時計はベットから床へと転げ落ちる。
転げ落ちたからと言って目覚まし時計は止まってくれない、物理的に離れたはずなのに、さっきよりもうるさい…。

私は気合を入れベットから起き上がると、時計のストップボタン目掛けてヘッドスライディングをした。

バチン!

今度は命中だ…これで私の静かな朝は守られた………。

………………

私は目覚ましをかけていた理由を思い出し、勢いよく起き上がると、部屋の扉を蹴とばし台所へと向かった。
袋に入っている食パンを取り出し、バターと共にフライパンへと投げ入れる。
コンロを最大火力にした私は、洗面台へとダッシュした。
「おねえーちゃん!静かにしてよ!」
うるさい弟を無視して歯磨きを爆速で終わらせた私は、メイク道具を取り出し、化粧を開始する。
素早く手を動かしながら、頭の中でトーストが焼きあがる時間を無意識に数える。
私は器用な人間だからマルチタスクはお手の物だ。
もし”お化粧スピード選手権”のようなモノがあれば上位に食い込む事は間違いないだろう。
アイライナーを引いていた私は、すぐに違和感に気づく。
「あ…」
薄くなっているのは分かっていたけど、コイツの寿命もここまでらしい。
不要になったアイライナーを捨てると、予備を置いている棚を勢い良く開いた。
「え!ないんですけど!」
買い溜めしていたアイライナーが消えている…。
私は大声で弟に喋りかけた。
「ねー!私のアイライナー知らない~?」
弟からの返事はない、いつも通りゲームに夢中になっているのだろう。
弟に聞くよりも探した方が早いと思い、心当たりをしらみつぶしに探る。
「なんでこんな時にないの~!アイライナーちゃ~ん!」
呼びかけてもアイライナーは出てこない。
片目だけ中途半端に引かれたメイクを落とすべく、私は洗面台の前に戻って来た。
「時間がないよ~…」
独り言を呟きながら私はメイクを落としていく。
すると、背後から弟の声が響いてくる。
「ねえーちゃん!パン焦げるぞ~!」
「焦げるぞ~!じゃないよ!あんたが止めなさいよ!」
「こっちだって手が離せないよ~!」
助言はするけど助けてはくれない…私の弟は占い師か何かか…。

占い師…そう言えば、最近商店街に居る占い師がよく当たるって有名になっていた気がする…。

確か名前は…なんだっけ?…。

そんな事を考えていると、弟が大声を上げた。
「ねえーちゃん!マジで焦げてるって!」
私は声に反応して、すぐに台所へと向かった。

どうやら間に合わなかったようだ…。
私はすぐにコンロの火を止め、近くの小窓を開け放った。
「はぁー…もう…」
私は焦げたパンを皿に乗せ、洗面台へと戻っていく。
なにが”お化粧スピード選手権”よ、最下位にもほどがある…。
そんな事を思いながら急いで化粧を終わらせ、焦げたパンを食べた。

家から急いで出た私は弟の自転車に跨る。
許可は得ていないがきっと大丈夫だろうと、そんな適当な心持ちで走り出した。
正直、徒歩だと絶対に間に合わない。
今日はクラスの男子”五十嵐昴いがらしすばる”君とデートをする事になっている。
五十嵐くんは女子からも人気の高い、イケてる男の子で”名前に数字が入ってる者同士”と言う事で仲良くなった。
初めてのデートで遅刻する訳にはいかない!。
私がペダルを思いっきり踏み込むと、自転車のチェーンが外れる。

「えー!こんな時に!」

チェーンを直してる暇はない。
私は近くにあった公園の駐車場に行き、チェーンの外れた自転車を置くと、一目散に駆け出した。
駅に着いた私は、電子カードを使って改札を通り、階段を駆け上がっていく。
すると、目の前に居たおばあちゃんが、持っていた荷物を地面にぶちまけた。
おばあちゃんの荷物は階段をコロコロと転がり、色々な方角へ散っていく。
私は落ちた荷物を無視する事が出来ず、急いで拾い集める事にした。

感謝の言葉を背に駆け出すと、乗ろうとしていた電車はタイミング悪くドアを閉める。
どうやらデートに遅刻する事が確定してしまったようだ…。
私は諦めて携帯を取り出すと、五十嵐くんにメッセージを送る。
『ごめん、少しだけ遅れる』
送ったメッセージにはすぐに既読が付き、五十嵐くんがメッセージを返してきた。
『おっけ、何時になりそう?』
『うーん、10分遅れぐらいかな』
『了解、気を付けてね』
五十嵐くんのやさしさに感謝しつつ、私は電車が来るのを待った。

定刻通りにやって来た電車の中には人がたくさん乗っていた。
同じようなグッズを持っている人が多いから、今日は何かしらのイベントがあるのだろう。
そんな事を考えていると、目の前にモゾモゾとしている男女が居た。
女子高生ぐらいの女の子のお尻を、禿散らかしたおじさんが触っている…。
カップルか?…いやどうなんだ…今時は歳の差カップルも多いと聞くが…。
とりあえず聞いてみようと思い、私はモゾモゾしている女の子の前に移動した。
携帯のメモ帳に『カップルですか?』と書いて、女の子にそれをこっそりと見せる。
すると、女の子は首を横に振った。
私はすぐに男の手を掴むと、大声で叫ぶ。
「痴漢でーす!この人がこの人のお尻をこねくり回してましたー!」
「ち…違う…」
私に捕まれた腕を男は振り払おうとするが、私の握力を甘く見てはいけない。
女子握力選手権があった場合、私は上位に食い込むほどの実力者だ。

周りの人の目が私とおじさんに集まっている――
しばらくすると電車が停車し、おじさんが私の肩を思いっきり押した。
手が離れた瞬間に、おじさんは出口から走って出て行く。
周りの人達はおじさんを捕まえる素振りを見せたが、電車の中から出る気はないようだ。

「お前ら本当さいてー!」

私は叫びながら痴漢されていた女の手を掴むと、降りる予定ではなかった場所で下車した。
「ここで待ってて!」痴漢されていた女の子にそう言い残し、おじさんの後を追う。
この駅の出口は一つしかない、出口に向かって走ると改札の向こうにおじさんの背中を見つけた。
改札に電子カードをかざすと、残高不足で扉が閉まる。
このままでは逃げられてしまう…。
私は一旦後ろに下がると、助走をつけて改札を飛び越えた。
”走り幅跳び選手権”があったら上位に食い込めるかもしれない。

「おい!ちょっと!」

後ろから駅員の声が聞こえるが、説明をしてる時間はない。
逃げるおじさんの背中に、ドロップキックをお見舞いする。

ドカッ!

私のキックは思った以上に綺麗にキマり、おじさんは地面に転がる。
駆けつけて来た駅員に事情を説明すると、私達は駅の中に誘導された。

駅の事務所で携帯を開き、メッセージを飛ばす。
『ごめん、ちょっと色々あって行けないかも』
五十嵐くんから、すぐに返事が飛んできた。
『は?なんだそれ』
『ごめん』
既読は付いたがメッセージは飛んでこない。
多分怒ってるんだろうなと思いつつ、携帯をポケットに仕舞う。
「私はやっていません…この子達が勘違いしてるだけです…」
おじさんが見苦しい言い訳を口にすると、駅員は私の事を睨みつけてくる。
どうやら先程のキセル行為を根に持っているらしい。
緊急事態だったから仕方ないと言うのに、頭の固い駅員だなと私は思った。

「この人は痴漢をしていましたよ!この子だってこんなに怯えてるじゃないですか?」
痴漢をされていた女の子の肩を掴みながら、そんな事を言うと、駅員は痴漢をされた子へと目を向ける。
「私は…この人に痴漢されました…」
オドオドしながら言う女の子に、痴漢魔のおじさんは怒声を浴びせる。
「嘘をつくな!最近の子達はすぐに被害者ぶるんですよ!…私は会社勤めをしていて子供だって居るんだ…痴漢なんてリスクがあることできませんよ!!」
ベラベラと喋る男の意見を無視して、私は言った。
「いいえ!してました!私この目で見たんです!」
「見たと言ってもね…」
駅員は煮え切らない態度で呟く。
「私が見たって言ってて、この子も被害を受けたって言ってるんですよ!?…2対1の多数決で私達の勝ちじゃないですか?…」
私がジェスチャーを交えながらそう言うと、駅員は渋い顔をしながら、フニョフニョとした意見を述べた。
「勝ちとか負けとか、そんな単純な問題じゃないんだよね…痴漢ってのは人生に関わる事なの…この人はやっていないと言っていて、君たちはやっていると言っている、証拠がない以上どっちの意見も信じる事は難しいんだ…」
「証拠はこの人がダッシュで逃げた事ですよ!痴漢をやってないと言うのであれば、あんなに慌てて逃げないでしょ!」
「それだって人生に関わる事だからね…冤罪で捕まった映画見た事ない?…あんな風になりたくないから疑われたら逃げちゃうみたいな事はあると思うよ…」
「こいつの肩を持つんですか!?」
「肩を持つとかじゃないよ…とりあえず警察を呼ぶから…ちょっとだけ待っててよ…」
駅員の言葉を聞いた痴漢魔のおじさんが、慌てたように喋り出す。
「いや!私はやっていませんから!呼ばないでください!証拠も無いのにこんな所に拘束されるのも馬鹿らしいですし…それにこの子の下着や靴下や肌に私の何かが付着している可能性はありますよ!…だってあんなに満員だったんですよ!?手がちょっと触れてるぐらいで犯罪者扱いされるのも困ります!…」
「それは…確かに…」
痴漢魔の意見に頷き、駅員は警察へ連絡しようとしていた携帯をふところに仕舞う
「え!痴漢をしたのはこの人なのに、見逃すんですか?…嘘ですよね!?…証拠がないって言っても警察に通報するべきじゃないですか?…」
私の言葉を聞いた駅員は少しだけ考え込み、言った。
「証拠がないと言う事は、存在しないと言う事なんだよ…存在していない犯罪で警察を呼ぶのは公務執行妨害になってしまうよ…」
「だから、証拠があるかを判断するのは警察ですよね!?」
私が大声を上げると、痴漢魔のおじさんは椅子から立ち上がり口を動かす。。
「分かってもらえてよかったです、私はこれから用事がありますので…」
そう言い去っていくおじさんの腕を、私は強く掴んだ。
すると、おじさんは低い声を出し、私の事を睨みつけてくる。
「お前さっき私に蹴りを入れたよな?…その件を警察に言ったら困るのはお前の方だぞ?…」
威圧するような声に私は掴んでいた腕を離してしまった。
おじさんが堂々とした態度で去っていくのを見て、私は駅員を睨みつける。
駅員は痴漢の話は終わったとばかりに、別の話題を口にした。
「緊急事態だからって改札を無視するのは良くないね?…君が改札を飛び越えた姿は防犯カメラに証拠として残ってるよ」
「だからあれは…あいつが痴漢をして…」
私の言い分に、駅員はめんどくさそうな表情をしながら喋った。
「まぁ…とりあえず君たち…身分証見せてくれる?…保護者や学校に連絡しないといけないからさ…」
そんな事を言う駅員に、私は何も言う事ができなかった…。

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