恵美ちゃんはBLOGアイドル

七度柚希

原宿見物

 約束の日曜日、朝から少し肌寒い春の陽気だった。私たちは地下鉄の原宿駅前の改札口で待ち合わせをすることにした。彩香ちゃんは少し早く着いて、私が駅から上がってくるとすぐに手を振ってきた。今日の彩香ちゃんは、いつもの明るいピンクのジャンパーに、赤と白のチェックのミニスカート。足元は黒のタイツにピンクのスニーカーで、髪はポニーテールに大きなリボンを付けて、まるで雑誌から飛び出してきたみたいに可愛かった。「有紀ちゃん、おはよー! 今日は楽しみだね!」って、にこにこしながら私の腕を取った。少し待っていると、江実矢君が少し遅れて駆け寄ってきた。息を切らしながら「ご、ごめん……電車がちょっと遅れてて」と小さな声で謝る。江実矢君は今日、お姉さんの由香利ちゃんが高校のバレー部で着ているクラブジャンパーを着てきた。紺色の生地に白いラインが入ったスポーツタイプのジャンパーで、小柄な江実矢君にはまだ少し大きすぎて、袖が手首を隠すぐらいだ。でも、彩香ちゃんの目にはちょうどいいサイズに見えたらしい。彩香ちゃんは江実矢君が近づいてくると、足元から頭のてっぺんまでじーっと見つめて、突然言った。「ねえ、ちょっと貸しなさいよ、そのジャンパー」江実矢君は「え、でも……」って戸惑ったけど、彩香ちゃんはもう有無を言わさずジャンパーのファスナーを下ろして、強引に脱がせてしまった。そして、自分のピンクのジャンパーを江実矢君に着せて、「はい、これの方が似合うわよ!」って笑った。江実矢君はこういう服の交換を無理やりされるのに慣れていて、抵抗せずに黙ってされるままになっていた。結局、江実矢君は彩香ちゃんのピンクのジャンパーを着て、私たちは三人で原宿駅に向かった。原宿駅を降りて、表参道の坂を少し上がって、代々木公園の方へ歩いていくと、橋の上から不思議な光景が見えた。黒いドレスに白いレースのフリルや縁取りがついた、まるでお人形みたいな服装の女の子たちが大勢集まっていた。みんなゴシックで可愛らしいスタイルで、手にリボンやパラソルを持っている子もいる。「何これ、すごい……」と私が呟くと、その先で路上ライブをやっているのが見えた。若い男の子たちのバンドが演奏していて、周りを囲んでいる女の子たちはみんな同じような黒やピンクのドレス姿で、音楽に合わせて手を振ったり、飛び跳ねたりしていた。彩香ちゃんが得意げに教えてくれた。「これ、ゴスロリっていうのよ。お姉ちゃんが前に言ってたの。ゴシック・アンド・ロリータの略なんだって!」彩香ちゃんは特に、ピンクのワンピースを着た子たちをじっと見て、「あれ、すごく可愛い……どこで売ってるのかしらね」って目を輝かせていた。ちょうど演奏が終わって、ボーカルの男の子がマイクで「今日はどうもありがとうございました!」と挨拶した。女の子たちは拍手したり、名残惜しそうにしていたけど、バンドのメンバーが機材を片付け始めると、少しずつ散らばり始めた。そのとき、さっき彩香ちゃんが気になっていたピンクのワンピースを着た女の子が、ちょうど私たちの横を通り過ぎようとした。彩香ちゃんがすかさず「あの、すみません!」と声をかけた。女の子が振り返ると、彩香ちゃんが少し緊張しながら聞いた。「そのお洋服、どこで売ってるんですか?」女の子は少し驚いた顔をして、私たち三人をちらっと見て、にこっと笑った。「あなたたち、原宿来るの初めて?」初めてだって言うのはなんだか恥ずかしくて、みんな少し黙ってしまったけど、嘘をつくわけにもいかない。私は小さく頷いて、「そうなんです……今日が初めてで」と正直に答えた。すると女の子は明るく言った。「じゃあ、一緒においでよ! 私、案内してあげるから」こうして、私たちは秀美ちゃんという少し年上の女の子について行くことになった。秀美ちゃんは原宿にはしょっちゅう来ているらしく、慣れた足取りで私たちをリードしてくれた。竹下通りに入ると、もうすごい人だった。中学生くらいの女の子たちがぎっしりで、まるで満員電車みたいに押しくらまんじゅう状態。なんとか人の流れに沿って歩き続け、途中で細い路地に曲がった。少し先を歩いて、また角を曲がると、小さなビルの二階に上がる階段があった。秀美ちゃんが「ここよ!」と言って先に上がると、彩香ちゃんがぱっと目を丸くした。ショーウィンドーに、さっき公園で見た女の子たちが着ていたのと同じようなゴスロリ衣装が、ずらっと並んでいる。黒やピンク、紫のドレスやスカート、フリルたっぷりのブラウスやヘッドドレスが、まるでお菓子の家みたいに可愛く飾られていた。店の中はすでに女の子たちでいっぱいで、みんな熱心に服を見たり試着したりしている。店の入り口の中央には、特売品のワゴンが置いてあって、そこにはアクセサリーや小物が山積み。周りを女の子たちがぎゅうぎゅうに囲んでいて、近寄ることすら難しいくらいだった。なんとか人をかき分けて奥に進むと、秀美ちゃんが着ているのと同じようなピンクのワンピースが並んでいるコーナーに着いた。秀美ちゃんは一着を取り出して、突然江実矢君の肩にハンガーを当てて言った。「これ、すごく似合うと思うんだけど、どう?」秀美ちゃんは、江実矢君のことを完全に女の子だと思っているみたいだった。ピンクのジャンパーを着ているし、顔立ちも可愛らしいし、背も低いから、仕方ないのかもしれない。でも、実はそのワンピースが欲しかったのは彩香ちゃんだった。彩香ちゃんは少し渋い顔をしたけど、何も言わなかった。それに、江実矢君に当ててみたら、本当にすごく似合いそうだった。細い体にフリルがふわっと広がって、まるで人形みたい。彩香ちゃんは店の中を一通り見て回ったけど、どの服もタグを見るとびっくりするくらい高かった。中学生のお小遣いじゃとても手が出ない値段だ。結局、彩香ちゃんは少し残念そうに「うーん、高くて買えないから……やっぱりいいです」と言って、帰ろうとした。すると秀美ちゃんが急に「お金がないんだったら、なんとかなるかもよ。ちょっと待ってて」と言って、ポケットから携帯電話を取り出して、誰かに電話をかけ始めた。

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