追放された『修理職人』、辺境の店が国宝級の聖地になる~万物を新品以上に直せるので、今さら戻ってこいと言われても予約で一杯です
第54話 そして伝説の修理屋は、今日も皆様の笑顔を『修理』し続けています
あれから、一年が過ぎた。
グリーンホロウの街は、もはや「村」や「都市」という枠組みを超え、世界中から技術と人材が集まる『魔導産業の首都』と呼ばれるまでになっていた。
空には空中都市オメガが浮かび、地上には魔導列車が走り、地下には広大なダンジョンが広がる。
かつて限界集落だったこの場所は、今や世界で一番賑やかで、そして一番「壊れたものが集まる」場所となっていた。
「……はぁ。また増えたな」
俺、ルーク・ヴァルドマンは、領主館のテラスから眼下を見下ろし、深い溜め息をついた。
今日は、世界を滅亡の危機から救った日――通称『再生祭(リバース・フェスティバル)』の当日だ。
街の目抜き通りは、色とりどりの旗で飾られ、屋台が建ち並び、身動きが取れないほどの観光客で埋め尽くされている。
そして、広場の中央には、とんでもないものが建てられていた。
「なんだよ、あの像は……」
そこには、巨大なハンマーを掲げ、凛々しい顔で天を指差す青年の銅像が聳え立っていた。
台座には『救世の修理屋 ルーク・ヴァルドマン伯爵』と刻まれている。
しかも、実物より三割増しで美化され、筋肉質になっている。
「ふふ、よく似ておられますよ。特に、その自信に満ちた表情が」
背後から、クスクスという笑い声が聞こえた。
聖女ノアだ。
彼女は今日のために新調したという、純白のドレス(祭司服をアレンジしたもの)に身を包み、眩しいほどの笑顔を向けてくる。
「似てませんよ。俺はあんなキメ顔しません」
「そうですか? 私の目には、作業中のルーク様はいつもあんな風に輝いて見えますけれど」
ノアは俺の隣に並び、そっと腕を組んできた。
この一年で、彼女の猛アタックはさらに激しさを増しており、街公認のパートナー(自称)としての地位を確立しつつある。
もちろん、他の女性陣も黙ってはいないが。
「ルーク! 何を油を売っているの! そろそろパレードの時間よ!」
部屋に入ってきたのは、賢者ソフィアだ。
彼女は今、王立魔導研究所のグリーンホロウ支部長として、数百人の研究員を束ねる立場にある。
白衣の下にドレスを着込み、眼鏡の奥の瞳をキラリと光らせている。
「パレードか……。俺、出なきゃダメか? 裏方で機械のメンテナンスをしてる方が性に合ってるんだが」
「ダメに決まってるでしょ。主役がいないお祭りなんて、餡の入っていない饅頭みたいなものよ。諦めて着替えなさい」
ソフィアに背中を押され、俺は渋々ながら支度を整えた。
領主としての正装。
窮屈な礼服だが、これを着て民衆の前に立つのも仕事のうちだ。
* * *
パレードは、街の南門からスタートし、メインストリートを通って広場へ向かうコースだ。
俺が乗るのは、鉄竜クロの背中に設置された特製の神輿(みこし)だ。
「行くぞ、ルーク! 手を振れ、愛想を振りまけ!」
先導するのは、警備隊長のブレイドだ。
彼は愛馬(ではなく、魔改造された超高速魔導バイク)に跨り、警備隊を率いて道を開けていく。
その顔には、かつての陰りは微塵もない。
市民から「隊長! かっこいいぞ!」と声援を受け、満更でもなさそうに手を振り返している。
「まったく、あいつは祭り好きだな」
俺はクロの背中で苦笑しながら、沿道の人々に手を振った。
「キャーッ! ルーク様ー!」
「ありがとう! あんたのおかげで足が治ったよ!」
「この街に来て本当によかった!」
投げかけられる言葉は、どれも温かい。
花吹雪が舞い、音楽が鳴り響く。
空中都市オメガからは、七色の水が噴水のように降り注ぎ、空に虹をかけている。
「……悪くない景色だな」
俺は素直にそう思った。
俺が直したかったのは、ただの道具や建物だけじゃない。
こういう「当たり前の幸せ」だったのかもしれない。
パレードの列には、仲間たちも続いている。
聖女アリアは救護班のフロートに乗り、沿道の人々に癒やしの魔法を振りまいている。
シルヴィア様は王家の代表として、エレガントに微笑んでいる。
ガレオスとゴーレム部隊は、巨大な山車を軽々と担いで練り歩き、子供たちを喜ばせている。
そして、最後尾にはガラハドさんが腕組みをして歩き、その圧倒的な存在感で全体の治安を維持している。
みんな、自分の居場所を見つけ、笑っている。
それが何より嬉しかった。
* * *
パレードが広場に到着すると、そこは立錐の余地もないほどの人だかりになっていた。
俺は特設ステージに上がり、マイク(拡声魔道具)の前に立った。
スピーチの時間だ。
正直、一番苦手な時間である。
「えー、本日は……」
俺が口を開こうとした瞬間。
ドォォォォンッ!!!
突然、広場の隅で爆発音が響いた。
悲鳴が上がり、人々が逃げ惑う。
「敵襲か!?」
「いや、違う! 屋台の魔導コンロが暴走したんだ!」
見ると、焼きそばの屋台から黒煙が上がり、火柱が立っている。
店主が慌てて消そうとしているが、火の勢いは強く、周囲に燃え広がりそうだ。
せっかくの祭りが、パニックになりかけている。
「……やれやれ。俺の出番ってわけか」
俺はマイクを置き、礼服の上着を脱ぎ捨てた。
下に着ていたのは、いつもの作業用エプロンだ。
懐から愛用のハンマーを取り出す。
「ブレイド! 避難誘導! アリアは怪我人の手当て!」
「おう!」
「はいっ!」
「ソフィア、延焼を防ぐために結界を張れ!」
「任せて!」
仲間たちが即座に動く。
俺はステージから飛び降り、炎上する屋台へと走った。
「どいてくれ! 修理屋が通るぞ!」
人波をかき分け、現場に到着する。
原因は、コンロの魔石が劣化して魔力漏れを起こしたことによる引火だ。
安物の魔石を無理に使ったのが原因だろう。
「(……まだ直せる)」
俺は炎の中に手を突っ込んだ。
熱い。だが、そんなことはどうでもいい。
俺は暴走している魔石の核を掴み取った。
「鎮まれ! 【修理・沈静化】!」
カァンッ!
ハンマーで魔石を一撃。
暴れ狂っていた魔力が一瞬で大人しくなり、炎がシュンと消えた。
さらに、黒焦げになった屋台の骨組みを叩く。
「ついでにリフォームだ! 【修理・屋台再生】!」
カァン! カァン!
炭化していた木材が蘇り、歪んだ鉄板が新品のように輝き出す。
さらに、俺は手持ちの予備パーツ(ポケットに入っていたガラクタ)を組み込み、コンロを『高火力・自動調理機能付き』にアップグレードした。
「よし、修理完了!」
俺が振り返ると、周囲はシーンと静まり返っていた。
そして、次の瞬間。
「「「うおおおおおおおッ!!!」」」
先ほど以上の大歓声が巻き起こった。
「見たか!? 魔法みたいに直しちまったぞ!」
「さすがルーク様だ! 祭りの中でも仕事熱心だぜ!」
「やっぱり俺たちの領主様は最高だ!」
店主のおじさんが、涙を流して俺の手を握る。
「あ、ありがてぇ……! 商売道具が燃えちまったかと思ったよ……」
「気にするな。次はもっといい魔石を使えよ? ……さて、焼きそば一丁もらえるか? 腹が減っちまった」
俺が言うと、おじさんは満面の笑みで「へい! 特大盛りで!」とコテを振るった。
俺は焼きそばを受け取り、ステージに戻った。
エプロン姿で、片手に焼きそば、片手にハンマー。
とても領主の姿ではない。
だが、広場の人々は、そんな俺を見て一番の笑顔を見せてくれている。
俺はマイクを握り直した。
「えー、見ての通りだ。この街じゃ、トラブルなんて日常茶飯事だ。ものが壊れることもあれば、失敗することもある」
俺は会場を見渡した。
「でも、心配すんな。壊れたら直せばいい。失敗したらやり直せばいい。俺たちがいる限り、この街は何度だって『新品以上』になって蘇る」
俺はハンマーを高く掲げた。
「ここは『なんでも修理屋』の街、グリーンホロウだ! 今日も明日も、思う存分壊して、思う存分直して、笑って暮らそうぜ!」
「「「カンパーイ!!!」」」
俺の音頭で、祭りは最高潮に達した。
堅苦しいスピーチなんていらない。
これが、俺たちのスタイルだ。
* * *
宴の後。
夕暮れのテラスで、俺は仲間たちと静かな時間を過ごしていた。
祭りの余韻が、心地よい疲労感と共に体に染み渡る。
「……いい祭りだったな」
「ああ。トラブルも含めて、お前らしかったぜ」
ブレイドがビールを飲み干し、笑う。
その顔には、かつてのような影はない。
「ルーク様。……私、この街に来て本当によかったです」
アリアが、夕焼けに染まる街を見つめながら呟く。
「壊れたものを直すことは、未来を作ることなんですね。私も、もっとたくさんの人を『修理(治療)』していきたいと思います」
「頼りにしてるよ、院長先生」
「私もよ。新しい理論、新しい技術……。ここでは毎日が発見の連続だわ」
ソフィアが眼鏡を拭きながら微笑む。
「ふむ。わしの剣も、ここでは錆びつく暇がないわい」
ガラハドさんが愛刀を撫でる。
「師匠! 明日は空中都市の拡張工事ですぞ! 遅刻しないでくだされ!」
ガレオスが気の早いことを言っている。
そして、ノアが俺の横に座り、そっと肩を寄せてきた。
「ルーク様。……これからも、ずっとお側にいさせてくださいね」
「……ああ。人手はいくらあっても足りないからな」
俺が照れ隠しに言うと、全員が楽しそうに笑った。
かつて、俺は「修理しかできない」と言われて捨てられた。
でも今は、その「修理」の力で、こんなにも多くのものを繋ぎ止めることができている。
壊れた剣も、傷ついた心も、そして世界さえも。
俺は自分の手を見た。
ごつごつして、傷だらけで、油の染みた職人の手。
魔法使いのような派手さはないし、勇者のような華やかさもない。
でも、俺はこの手が好きだ。
「……さて、と」
俺は立ち上がり、店の方を振り返った。
看板には『なんでも修理屋ルーク』の文字。
明日はまた、たくさんの「壊れたもの」が持ち込まれるだろう。
泣いている子供、困っているお年寄り、そして新たな夢を抱く冒険者たち。
彼らのために、俺はハンマーを振るう。
それが俺の、ハッピーエンドの先にある物語だ。
「いらっしゃいませ! どんな壊れたものでも、新品以上に直しますよ!」
俺の声が、夕暮れの空に溶けていく。
伝説の修理屋の店は、明日も元気に営業中だ。
(全54話 完結)
グリーンホロウの街は、もはや「村」や「都市」という枠組みを超え、世界中から技術と人材が集まる『魔導産業の首都』と呼ばれるまでになっていた。
空には空中都市オメガが浮かび、地上には魔導列車が走り、地下には広大なダンジョンが広がる。
かつて限界集落だったこの場所は、今や世界で一番賑やかで、そして一番「壊れたものが集まる」場所となっていた。
「……はぁ。また増えたな」
俺、ルーク・ヴァルドマンは、領主館のテラスから眼下を見下ろし、深い溜め息をついた。
今日は、世界を滅亡の危機から救った日――通称『再生祭(リバース・フェスティバル)』の当日だ。
街の目抜き通りは、色とりどりの旗で飾られ、屋台が建ち並び、身動きが取れないほどの観光客で埋め尽くされている。
そして、広場の中央には、とんでもないものが建てられていた。
「なんだよ、あの像は……」
そこには、巨大なハンマーを掲げ、凛々しい顔で天を指差す青年の銅像が聳え立っていた。
台座には『救世の修理屋 ルーク・ヴァルドマン伯爵』と刻まれている。
しかも、実物より三割増しで美化され、筋肉質になっている。
「ふふ、よく似ておられますよ。特に、その自信に満ちた表情が」
背後から、クスクスという笑い声が聞こえた。
聖女ノアだ。
彼女は今日のために新調したという、純白のドレス(祭司服をアレンジしたもの)に身を包み、眩しいほどの笑顔を向けてくる。
「似てませんよ。俺はあんなキメ顔しません」
「そうですか? 私の目には、作業中のルーク様はいつもあんな風に輝いて見えますけれど」
ノアは俺の隣に並び、そっと腕を組んできた。
この一年で、彼女の猛アタックはさらに激しさを増しており、街公認のパートナー(自称)としての地位を確立しつつある。
もちろん、他の女性陣も黙ってはいないが。
「ルーク! 何を油を売っているの! そろそろパレードの時間よ!」
部屋に入ってきたのは、賢者ソフィアだ。
彼女は今、王立魔導研究所のグリーンホロウ支部長として、数百人の研究員を束ねる立場にある。
白衣の下にドレスを着込み、眼鏡の奥の瞳をキラリと光らせている。
「パレードか……。俺、出なきゃダメか? 裏方で機械のメンテナンスをしてる方が性に合ってるんだが」
「ダメに決まってるでしょ。主役がいないお祭りなんて、餡の入っていない饅頭みたいなものよ。諦めて着替えなさい」
ソフィアに背中を押され、俺は渋々ながら支度を整えた。
領主としての正装。
窮屈な礼服だが、これを着て民衆の前に立つのも仕事のうちだ。
* * *
パレードは、街の南門からスタートし、メインストリートを通って広場へ向かうコースだ。
俺が乗るのは、鉄竜クロの背中に設置された特製の神輿(みこし)だ。
「行くぞ、ルーク! 手を振れ、愛想を振りまけ!」
先導するのは、警備隊長のブレイドだ。
彼は愛馬(ではなく、魔改造された超高速魔導バイク)に跨り、警備隊を率いて道を開けていく。
その顔には、かつての陰りは微塵もない。
市民から「隊長! かっこいいぞ!」と声援を受け、満更でもなさそうに手を振り返している。
「まったく、あいつは祭り好きだな」
俺はクロの背中で苦笑しながら、沿道の人々に手を振った。
「キャーッ! ルーク様ー!」
「ありがとう! あんたのおかげで足が治ったよ!」
「この街に来て本当によかった!」
投げかけられる言葉は、どれも温かい。
花吹雪が舞い、音楽が鳴り響く。
空中都市オメガからは、七色の水が噴水のように降り注ぎ、空に虹をかけている。
「……悪くない景色だな」
俺は素直にそう思った。
俺が直したかったのは、ただの道具や建物だけじゃない。
こういう「当たり前の幸せ」だったのかもしれない。
パレードの列には、仲間たちも続いている。
聖女アリアは救護班のフロートに乗り、沿道の人々に癒やしの魔法を振りまいている。
シルヴィア様は王家の代表として、エレガントに微笑んでいる。
ガレオスとゴーレム部隊は、巨大な山車を軽々と担いで練り歩き、子供たちを喜ばせている。
そして、最後尾にはガラハドさんが腕組みをして歩き、その圧倒的な存在感で全体の治安を維持している。
みんな、自分の居場所を見つけ、笑っている。
それが何より嬉しかった。
* * *
パレードが広場に到着すると、そこは立錐の余地もないほどの人だかりになっていた。
俺は特設ステージに上がり、マイク(拡声魔道具)の前に立った。
スピーチの時間だ。
正直、一番苦手な時間である。
「えー、本日は……」
俺が口を開こうとした瞬間。
ドォォォォンッ!!!
突然、広場の隅で爆発音が響いた。
悲鳴が上がり、人々が逃げ惑う。
「敵襲か!?」
「いや、違う! 屋台の魔導コンロが暴走したんだ!」
見ると、焼きそばの屋台から黒煙が上がり、火柱が立っている。
店主が慌てて消そうとしているが、火の勢いは強く、周囲に燃え広がりそうだ。
せっかくの祭りが、パニックになりかけている。
「……やれやれ。俺の出番ってわけか」
俺はマイクを置き、礼服の上着を脱ぎ捨てた。
下に着ていたのは、いつもの作業用エプロンだ。
懐から愛用のハンマーを取り出す。
「ブレイド! 避難誘導! アリアは怪我人の手当て!」
「おう!」
「はいっ!」
「ソフィア、延焼を防ぐために結界を張れ!」
「任せて!」
仲間たちが即座に動く。
俺はステージから飛び降り、炎上する屋台へと走った。
「どいてくれ! 修理屋が通るぞ!」
人波をかき分け、現場に到着する。
原因は、コンロの魔石が劣化して魔力漏れを起こしたことによる引火だ。
安物の魔石を無理に使ったのが原因だろう。
「(……まだ直せる)」
俺は炎の中に手を突っ込んだ。
熱い。だが、そんなことはどうでもいい。
俺は暴走している魔石の核を掴み取った。
「鎮まれ! 【修理・沈静化】!」
カァンッ!
ハンマーで魔石を一撃。
暴れ狂っていた魔力が一瞬で大人しくなり、炎がシュンと消えた。
さらに、黒焦げになった屋台の骨組みを叩く。
「ついでにリフォームだ! 【修理・屋台再生】!」
カァン! カァン!
炭化していた木材が蘇り、歪んだ鉄板が新品のように輝き出す。
さらに、俺は手持ちの予備パーツ(ポケットに入っていたガラクタ)を組み込み、コンロを『高火力・自動調理機能付き』にアップグレードした。
「よし、修理完了!」
俺が振り返ると、周囲はシーンと静まり返っていた。
そして、次の瞬間。
「「「うおおおおおおおッ!!!」」」
先ほど以上の大歓声が巻き起こった。
「見たか!? 魔法みたいに直しちまったぞ!」
「さすがルーク様だ! 祭りの中でも仕事熱心だぜ!」
「やっぱり俺たちの領主様は最高だ!」
店主のおじさんが、涙を流して俺の手を握る。
「あ、ありがてぇ……! 商売道具が燃えちまったかと思ったよ……」
「気にするな。次はもっといい魔石を使えよ? ……さて、焼きそば一丁もらえるか? 腹が減っちまった」
俺が言うと、おじさんは満面の笑みで「へい! 特大盛りで!」とコテを振るった。
俺は焼きそばを受け取り、ステージに戻った。
エプロン姿で、片手に焼きそば、片手にハンマー。
とても領主の姿ではない。
だが、広場の人々は、そんな俺を見て一番の笑顔を見せてくれている。
俺はマイクを握り直した。
「えー、見ての通りだ。この街じゃ、トラブルなんて日常茶飯事だ。ものが壊れることもあれば、失敗することもある」
俺は会場を見渡した。
「でも、心配すんな。壊れたら直せばいい。失敗したらやり直せばいい。俺たちがいる限り、この街は何度だって『新品以上』になって蘇る」
俺はハンマーを高く掲げた。
「ここは『なんでも修理屋』の街、グリーンホロウだ! 今日も明日も、思う存分壊して、思う存分直して、笑って暮らそうぜ!」
「「「カンパーイ!!!」」」
俺の音頭で、祭りは最高潮に達した。
堅苦しいスピーチなんていらない。
これが、俺たちのスタイルだ。
* * *
宴の後。
夕暮れのテラスで、俺は仲間たちと静かな時間を過ごしていた。
祭りの余韻が、心地よい疲労感と共に体に染み渡る。
「……いい祭りだったな」
「ああ。トラブルも含めて、お前らしかったぜ」
ブレイドがビールを飲み干し、笑う。
その顔には、かつてのような影はない。
「ルーク様。……私、この街に来て本当によかったです」
アリアが、夕焼けに染まる街を見つめながら呟く。
「壊れたものを直すことは、未来を作ることなんですね。私も、もっとたくさんの人を『修理(治療)』していきたいと思います」
「頼りにしてるよ、院長先生」
「私もよ。新しい理論、新しい技術……。ここでは毎日が発見の連続だわ」
ソフィアが眼鏡を拭きながら微笑む。
「ふむ。わしの剣も、ここでは錆びつく暇がないわい」
ガラハドさんが愛刀を撫でる。
「師匠! 明日は空中都市の拡張工事ですぞ! 遅刻しないでくだされ!」
ガレオスが気の早いことを言っている。
そして、ノアが俺の横に座り、そっと肩を寄せてきた。
「ルーク様。……これからも、ずっとお側にいさせてくださいね」
「……ああ。人手はいくらあっても足りないからな」
俺が照れ隠しに言うと、全員が楽しそうに笑った。
かつて、俺は「修理しかできない」と言われて捨てられた。
でも今は、その「修理」の力で、こんなにも多くのものを繋ぎ止めることができている。
壊れた剣も、傷ついた心も、そして世界さえも。
俺は自分の手を見た。
ごつごつして、傷だらけで、油の染みた職人の手。
魔法使いのような派手さはないし、勇者のような華やかさもない。
でも、俺はこの手が好きだ。
「……さて、と」
俺は立ち上がり、店の方を振り返った。
看板には『なんでも修理屋ルーク』の文字。
明日はまた、たくさんの「壊れたもの」が持ち込まれるだろう。
泣いている子供、困っているお年寄り、そして新たな夢を抱く冒険者たち。
彼らのために、俺はハンマーを振るう。
それが俺の、ハッピーエンドの先にある物語だ。
「いらっしゃいませ! どんな壊れたものでも、新品以上に直しますよ!」
俺の声が、夕暮れの空に溶けていく。
伝説の修理屋の店は、明日も元気に営業中だ。
(全54話 完結)
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