追放された『修理職人』、辺境の店が国宝級の聖地になる~万物を新品以上に直せるので、今さら戻ってこいと言われても予約で一杯です
第50話 砕け散った石像(母)の修復パズル。ピースが足りなくても、愛と根性で埋めてみせます
「……これは、ひどいな」
グリーンホロウの領主館、その奥にある特別工房。
作業台の上に広げられた無数の石の欠片を見下ろし、俺、ルーク・ヴァルドマンは静かに呟いた。
持ち込まれたのは、完全に粉砕された石像――いや、石化の呪いを受けた人間の女性だ。
依頼人の少年、レオによると、悪い魔法使いから逃げる途中で転倒し、背負っていた母親を落としてしまったのだという。
本来なら即死案件だ。石になった人間が砕けるということは、生物としての死を意味する。
「うっ、うぅ……お母さん、ごめんなさい……僕が、僕が弱いから……」
作業台の脇で、レオが顔をくしゃくしゃにして泣いている。
その小さな手は泥と血で汚れ、絶望に震えていた。
自分の手で母親を殺してしまったという自責の念。それが、この少年の心を押し潰そうとしている。
「泣くな、レオ」
俺は少年の頭に手を置いた。
「言っただろ? 俺は『なんでも修理屋』だ。形あるものなら、直せないものはない」
「で、でも……こんなに粉々になっちゃって……」
「パズルが難しくなっただけさ。……それに、まだ温かい」
俺は一つの欠片を拾い上げた。
冷たい石の感触。だが、その奥底には、息子を想う母親の魂が、必死にしがみついているのが感じ取れた。
魂さえ残っていれば、肉体という器(ハードウェア)を再構築することで、呼び戻すことができる。
「みんな、手伝ってくれ。今夜は徹夜だ」
俺が振り返ると、そこにいた仲間たちが力強く頷いた。
元勇者ブレイド、聖女アリア、賢者ソフィア、元剣聖ガラハド、元四天王ガレオス、そして王女シルヴィアと聖女ノア。
世界最強の布陣が、たった一人の母親を救うために集結していた。
「微細な欠片ひとつも見逃すな! ソフィア、広域探知で砂粒レベルまで回収してくれ!」
「了解よ! 『賢者の杖・改』、スキャン開始!」
「アリアとノア様は、魂の固定を頼みます。作業中に霧散しないよう、祈りで繋ぎ止めてください!」
「はいっ!」「お任せください!」
「ブレイドとガレオスは、俺の魔力タンクだ。でかい修復作業になるから、エネルギーを供給し続けろ!」
「おう! 俺の魔力、全部持ってけ!」
「師匠の為なら、干からびるまで絞り出しますぞ!」
「ガラハドさんとシルヴィア様は、レオのケアを。不安がらせないように頼みます」
「うむ。童(わらし)よ、安心せい。主の腕は神域じゃ」
「大丈夫よ。私たちを信じて」
全員がそれぞれの持ち場につく。
俺は深呼吸をして、ハンマーを握りしめた。
ここからは、時間との勝負だ。石化した肉体の断面が風化し、情報が失われる前に、全てを繋ぎ合わせなければならない。
「(……集中しろ。これはただの石じゃない。命だ)」
俺は【修理】スキルの解析眼を極限まで研ぎ澄ませた。
数千個に砕け散った破片。
その一つ一つに刻まれた断面の形状、魔力の流れ、そして血管や神経の通っていた痕跡を読み取る。
それは、数万ピースの立体パズルを、設計図なしで瞬時に組み上げるような神業だ。
「まずは骨格(ベース)の再構築からだ!」
カァンッ!
俺のハンマーが空を叩く。
魔力で編み上げた不可視の接着剤が、作業台の上の破片たちを引き寄せる。
「そこだ! 右腕の接合!」
「足の指先、欠片が足りないな……。なら、俺の魔力で『補填』する!」
俺は足りない部分を、自分の魔力を結晶化させた擬似物質で埋めていく。
石膏で埋めるようなものだが、俺が作るのはただの詰め物ではない。
後で生体に戻した時、拒絶反応なく肉体と同化する『万能細胞』の元だ。
カァン! カァン! カァン!
静かな工房に、リズミカルな音が響き続ける。
それは破壊の音ではない。再生への鼓動だ。
ブレイドとガレオスから送られてくる膨大な魔力が、俺の身体を通ってハンマーへ、そして石像へと流れていく。
一時間。二時間。
汗が目に入るが、拭う暇もない。
アリアとノアが展開する結界の中で、薄ぼんやりとした光の粒(魂)が、石像の周りを不安げに漂っている。
「もう少しだ……! 戻るべき場所を作ってやるからな!」
俺は最後の大きなピース――顔の部分を手に取った。
そこには、息子を守ろうとした瞬間の、慈愛に満ちた表情がそのまま固まっていた。
「おかえりなさい」
カチリ。
最後のピースが嵌まった。
継ぎ目は無数にある。見た目は、ひび割れだらけの痛々しい石像だ。
だが、物理的な『形』は戻った。
「ここからが本番だ。……ソフィア、術式展開! 『生体復元(リ・ジェネシス)』!」
「展開完了! いつでもいけるわ!」
俺はハンマーを振り上げた。
ただ石を肉に戻すだけじゃない。
砕けた継ぎ目を細胞レベルで融合させ、傷跡一つ残さず、完全に『新品以上』の健康体に戻す。
それが、修理屋ルークの流儀だ。
「【修理奥義・完全蘇生(パーフェクト・リザレクション)】ッ!!」
ドゴォォォォォンッ!!!
黄金の光が炸裂した。
その光は優しく、温かく、そして力強い生命の奔流となって石像を包み込む。
パキパキパキッ……。
石の表面がひび割れ、剥がれ落ちていく。
その下から現れたのは、冷たい石肌ではない。
ほんのりと桜色に染まった、温かな肌。
ドクン。
心臓の音が聞こえた。
止まっていた時間が、再び動き出す。
「……う、ん……」
光が収まった作業台の上で、女性がゆっくりと瞼を開けた。
ひび割れなどどこにもない。
五体満足の、健康な姿で。
「お、お母さん……?」
レオが、恐る恐る声をかける。
女性はぼんやりと周囲を見回し、そして目の前で泣き崩れている少年の姿を認めると、優しく微笑んだ。
「……レオ? 無事だったのね……よかった……」
「お母さぁぁぁぁん!!」
レオが飛びつき、母親の胸に顔を埋める。
女性は驚きながらも、しっかりと息子を抱きしめ返した。
その腕には、確かな体温と力があった。
「……ふぅ。ミッションコンプリートだ」
俺はその場に座り込んだ。
全身の力が抜けていく。魔力を使い果たして指一本動かせない。
だが、目の前の親子の抱擁を見ているだけで、疲れなど吹き飛ぶような気がした。
「やったな、ルーク」
ブレイドが俺の肩を叩く。彼も魔力を絞り尽くしてフラフラだが、顔は笑っている。
「ああ。……いい仕事だった」
アリアやノアも、感動して涙ぐんでいる。
ガラハドさんが静かに拍手し、それに続いて全員が拍手を送った。
工房は、温かな祝福の空気に包まれた。
* * *
その後、親子には食事と休息を取ってもらった。
母親の名前はエララといった。
落ち着きを取り戻した彼女は、改めて俺たちに深々と頭を下げた。
「本当に、なんと御礼を申し上げればよいか……。死んだと思っていた私が、こうしてまた息子の顔を見られるなんて」
「いいんですよ。修理代はレオ君の『お母さんを助けたい』っていう根性で払ってもらいましたから」
俺が言うと、レオは照れくさそうに、でも誇らしげに胸を張った。
「ところで、エララさん。……あなたを石にした『悪い魔法使い』について、詳しく教えてもらえませんか?」
俺が切り出すと、場の空気が引き締まった。
エララの表情が曇る。
「……はい。あいつは、自分を『ゾディアック』と名乗っていました」
「ゾディアック……?」
「西の果てにある『終わりの塔』を根城にしている、恐ろしい魔術師です。彼は、世界中のあらゆる場所で災害や病を引き起こし、そこから生まれる人々の『絶望』を集めていると言っていました」
全員の視線が交錯する。
石化病。呪いのアイテム。暴走したダンジョン。
そして、かつてブレイドの聖剣を蝕んだ闇。
それら全ての元凶が、点と点で繋がった気がした。
「彼が言っていました。『この世界は壊れている。だから私が一度すべて破壊し、絶望という染料で新しく作り直すのだ』と」
「……ふざけた理屈だ」
俺は不快感露わに吐き捨てた。
世界が壊れているなら直せばいい。
それを「壊して作り直す」などと、職人としても、人間としても許せない暴論だ。
しかも、そのためにレオのような子供を泣かせるなど、言語道断だ。
「そのゾディアックって奴が、全ての黒幕か」
ブレイドが拳を鳴らす。
「許せませんわ。人々の笑顔を奪うなんて」
アリアの目に怒りの光が宿る。
「主よ。どうする?」
ガラハドさんが俺を見る。
俺は立ち上がり、西の空を見据えた。
『終わりの塔』。
そこに行けば、全ての決着がつく。
「決まってるでしょう。……出張修理です」
俺はハンマーを担いだ。
「世界を壊そうとする迷惑な奴がいるなら、そいつの野望ごと『修理(粉砕)』してやるのが俺の仕事だ。……行くぞ、みんな!」
「「「応ッ!!」」」
頼もしい返事が返ってくる。
俺たちは、最強のパーティだ。
修理屋、勇者、聖女、賢者、剣聖、魔族、機神、そして鉄竜。
これだけの戦力が揃っていて、負ける要素が見当たらない。
「レオ、エララさん。二人はこの街で待っていてくれ。必ず、安全な世界にして戻ってくるから」
「はい! 信じてます、ルークお兄ちゃん!」
俺たちは準備を整え、表へ出た。
外には、既に鉄竜クロと、空中都市オメガがスタンバイしている。
最終決戦への足は、空飛ぶ要塞だ。
「目指すは西の果て、『終わりの塔』! 総員、搭乗せよ!」
俺の号令と共に、仲間たちが乗り込んでいく。
グリーンホロウの住民たちが、総出で見送ってくれている。
「頑張れー!」「ルーク様なら楽勝だー!」
そんな声援を背に、俺たちは空へと舞い上がった。
眼下に広がる美しい街並み。
俺が直し、作り上げた大切な場所。
これを守るためなら、神だろうが悪魔だろうが叩き潰す。
「待ってろよ、ゾディアック。……お前の歪んだ性根、俺のハンマーで真っ直ぐにしてやるからな!」
空中都市オメガが加速する。
雲を突き抜け、西の空へ。
修理屋ルークの最後の旅が始まった。
* * *
(西の果て、終わりの塔)
ドス黒い雲が渦巻く荒野の中心に、天を突くような黒い塔が立っていた。
その最上階で、一人の男が水晶玉を覗き込み、歪んだ笑みを浮かべていた。
「……来たか、修理屋。私の『破壊』と、貴様の『再生』。どちらが上か、試してみようではないか」
男――ゾディアックの背後には、異形の影が無数に蠢いている。
それは、世界中から集めた絶望のエネルギーが生み出した、最強の魔物たちだった。
「壊れろ、世界。……そして、絶望に染まれ」
彼の手から放たれた闇の波動が、空を覆い尽くしていく。
世界崩壊のカウントダウンが始まった。
だが、その闇を切り裂くように、東の空から一筋の光――俺たちの乗る空中都市が接近していた。
激突まで、あとわずか。
物語は、クライマックスへと突入する。
(第50話 終わり)
グリーンホロウの領主館、その奥にある特別工房。
作業台の上に広げられた無数の石の欠片を見下ろし、俺、ルーク・ヴァルドマンは静かに呟いた。
持ち込まれたのは、完全に粉砕された石像――いや、石化の呪いを受けた人間の女性だ。
依頼人の少年、レオによると、悪い魔法使いから逃げる途中で転倒し、背負っていた母親を落としてしまったのだという。
本来なら即死案件だ。石になった人間が砕けるということは、生物としての死を意味する。
「うっ、うぅ……お母さん、ごめんなさい……僕が、僕が弱いから……」
作業台の脇で、レオが顔をくしゃくしゃにして泣いている。
その小さな手は泥と血で汚れ、絶望に震えていた。
自分の手で母親を殺してしまったという自責の念。それが、この少年の心を押し潰そうとしている。
「泣くな、レオ」
俺は少年の頭に手を置いた。
「言っただろ? 俺は『なんでも修理屋』だ。形あるものなら、直せないものはない」
「で、でも……こんなに粉々になっちゃって……」
「パズルが難しくなっただけさ。……それに、まだ温かい」
俺は一つの欠片を拾い上げた。
冷たい石の感触。だが、その奥底には、息子を想う母親の魂が、必死にしがみついているのが感じ取れた。
魂さえ残っていれば、肉体という器(ハードウェア)を再構築することで、呼び戻すことができる。
「みんな、手伝ってくれ。今夜は徹夜だ」
俺が振り返ると、そこにいた仲間たちが力強く頷いた。
元勇者ブレイド、聖女アリア、賢者ソフィア、元剣聖ガラハド、元四天王ガレオス、そして王女シルヴィアと聖女ノア。
世界最強の布陣が、たった一人の母親を救うために集結していた。
「微細な欠片ひとつも見逃すな! ソフィア、広域探知で砂粒レベルまで回収してくれ!」
「了解よ! 『賢者の杖・改』、スキャン開始!」
「アリアとノア様は、魂の固定を頼みます。作業中に霧散しないよう、祈りで繋ぎ止めてください!」
「はいっ!」「お任せください!」
「ブレイドとガレオスは、俺の魔力タンクだ。でかい修復作業になるから、エネルギーを供給し続けろ!」
「おう! 俺の魔力、全部持ってけ!」
「師匠の為なら、干からびるまで絞り出しますぞ!」
「ガラハドさんとシルヴィア様は、レオのケアを。不安がらせないように頼みます」
「うむ。童(わらし)よ、安心せい。主の腕は神域じゃ」
「大丈夫よ。私たちを信じて」
全員がそれぞれの持ち場につく。
俺は深呼吸をして、ハンマーを握りしめた。
ここからは、時間との勝負だ。石化した肉体の断面が風化し、情報が失われる前に、全てを繋ぎ合わせなければならない。
「(……集中しろ。これはただの石じゃない。命だ)」
俺は【修理】スキルの解析眼を極限まで研ぎ澄ませた。
数千個に砕け散った破片。
その一つ一つに刻まれた断面の形状、魔力の流れ、そして血管や神経の通っていた痕跡を読み取る。
それは、数万ピースの立体パズルを、設計図なしで瞬時に組み上げるような神業だ。
「まずは骨格(ベース)の再構築からだ!」
カァンッ!
俺のハンマーが空を叩く。
魔力で編み上げた不可視の接着剤が、作業台の上の破片たちを引き寄せる。
「そこだ! 右腕の接合!」
「足の指先、欠片が足りないな……。なら、俺の魔力で『補填』する!」
俺は足りない部分を、自分の魔力を結晶化させた擬似物質で埋めていく。
石膏で埋めるようなものだが、俺が作るのはただの詰め物ではない。
後で生体に戻した時、拒絶反応なく肉体と同化する『万能細胞』の元だ。
カァン! カァン! カァン!
静かな工房に、リズミカルな音が響き続ける。
それは破壊の音ではない。再生への鼓動だ。
ブレイドとガレオスから送られてくる膨大な魔力が、俺の身体を通ってハンマーへ、そして石像へと流れていく。
一時間。二時間。
汗が目に入るが、拭う暇もない。
アリアとノアが展開する結界の中で、薄ぼんやりとした光の粒(魂)が、石像の周りを不安げに漂っている。
「もう少しだ……! 戻るべき場所を作ってやるからな!」
俺は最後の大きなピース――顔の部分を手に取った。
そこには、息子を守ろうとした瞬間の、慈愛に満ちた表情がそのまま固まっていた。
「おかえりなさい」
カチリ。
最後のピースが嵌まった。
継ぎ目は無数にある。見た目は、ひび割れだらけの痛々しい石像だ。
だが、物理的な『形』は戻った。
「ここからが本番だ。……ソフィア、術式展開! 『生体復元(リ・ジェネシス)』!」
「展開完了! いつでもいけるわ!」
俺はハンマーを振り上げた。
ただ石を肉に戻すだけじゃない。
砕けた継ぎ目を細胞レベルで融合させ、傷跡一つ残さず、完全に『新品以上』の健康体に戻す。
それが、修理屋ルークの流儀だ。
「【修理奥義・完全蘇生(パーフェクト・リザレクション)】ッ!!」
ドゴォォォォォンッ!!!
黄金の光が炸裂した。
その光は優しく、温かく、そして力強い生命の奔流となって石像を包み込む。
パキパキパキッ……。
石の表面がひび割れ、剥がれ落ちていく。
その下から現れたのは、冷たい石肌ではない。
ほんのりと桜色に染まった、温かな肌。
ドクン。
心臓の音が聞こえた。
止まっていた時間が、再び動き出す。
「……う、ん……」
光が収まった作業台の上で、女性がゆっくりと瞼を開けた。
ひび割れなどどこにもない。
五体満足の、健康な姿で。
「お、お母さん……?」
レオが、恐る恐る声をかける。
女性はぼんやりと周囲を見回し、そして目の前で泣き崩れている少年の姿を認めると、優しく微笑んだ。
「……レオ? 無事だったのね……よかった……」
「お母さぁぁぁぁん!!」
レオが飛びつき、母親の胸に顔を埋める。
女性は驚きながらも、しっかりと息子を抱きしめ返した。
その腕には、確かな体温と力があった。
「……ふぅ。ミッションコンプリートだ」
俺はその場に座り込んだ。
全身の力が抜けていく。魔力を使い果たして指一本動かせない。
だが、目の前の親子の抱擁を見ているだけで、疲れなど吹き飛ぶような気がした。
「やったな、ルーク」
ブレイドが俺の肩を叩く。彼も魔力を絞り尽くしてフラフラだが、顔は笑っている。
「ああ。……いい仕事だった」
アリアやノアも、感動して涙ぐんでいる。
ガラハドさんが静かに拍手し、それに続いて全員が拍手を送った。
工房は、温かな祝福の空気に包まれた。
* * *
その後、親子には食事と休息を取ってもらった。
母親の名前はエララといった。
落ち着きを取り戻した彼女は、改めて俺たちに深々と頭を下げた。
「本当に、なんと御礼を申し上げればよいか……。死んだと思っていた私が、こうしてまた息子の顔を見られるなんて」
「いいんですよ。修理代はレオ君の『お母さんを助けたい』っていう根性で払ってもらいましたから」
俺が言うと、レオは照れくさそうに、でも誇らしげに胸を張った。
「ところで、エララさん。……あなたを石にした『悪い魔法使い』について、詳しく教えてもらえませんか?」
俺が切り出すと、場の空気が引き締まった。
エララの表情が曇る。
「……はい。あいつは、自分を『ゾディアック』と名乗っていました」
「ゾディアック……?」
「西の果てにある『終わりの塔』を根城にしている、恐ろしい魔術師です。彼は、世界中のあらゆる場所で災害や病を引き起こし、そこから生まれる人々の『絶望』を集めていると言っていました」
全員の視線が交錯する。
石化病。呪いのアイテム。暴走したダンジョン。
そして、かつてブレイドの聖剣を蝕んだ闇。
それら全ての元凶が、点と点で繋がった気がした。
「彼が言っていました。『この世界は壊れている。だから私が一度すべて破壊し、絶望という染料で新しく作り直すのだ』と」
「……ふざけた理屈だ」
俺は不快感露わに吐き捨てた。
世界が壊れているなら直せばいい。
それを「壊して作り直す」などと、職人としても、人間としても許せない暴論だ。
しかも、そのためにレオのような子供を泣かせるなど、言語道断だ。
「そのゾディアックって奴が、全ての黒幕か」
ブレイドが拳を鳴らす。
「許せませんわ。人々の笑顔を奪うなんて」
アリアの目に怒りの光が宿る。
「主よ。どうする?」
ガラハドさんが俺を見る。
俺は立ち上がり、西の空を見据えた。
『終わりの塔』。
そこに行けば、全ての決着がつく。
「決まってるでしょう。……出張修理です」
俺はハンマーを担いだ。
「世界を壊そうとする迷惑な奴がいるなら、そいつの野望ごと『修理(粉砕)』してやるのが俺の仕事だ。……行くぞ、みんな!」
「「「応ッ!!」」」
頼もしい返事が返ってくる。
俺たちは、最強のパーティだ。
修理屋、勇者、聖女、賢者、剣聖、魔族、機神、そして鉄竜。
これだけの戦力が揃っていて、負ける要素が見当たらない。
「レオ、エララさん。二人はこの街で待っていてくれ。必ず、安全な世界にして戻ってくるから」
「はい! 信じてます、ルークお兄ちゃん!」
俺たちは準備を整え、表へ出た。
外には、既に鉄竜クロと、空中都市オメガがスタンバイしている。
最終決戦への足は、空飛ぶ要塞だ。
「目指すは西の果て、『終わりの塔』! 総員、搭乗せよ!」
俺の号令と共に、仲間たちが乗り込んでいく。
グリーンホロウの住民たちが、総出で見送ってくれている。
「頑張れー!」「ルーク様なら楽勝だー!」
そんな声援を背に、俺たちは空へと舞い上がった。
眼下に広がる美しい街並み。
俺が直し、作り上げた大切な場所。
これを守るためなら、神だろうが悪魔だろうが叩き潰す。
「待ってろよ、ゾディアック。……お前の歪んだ性根、俺のハンマーで真っ直ぐにしてやるからな!」
空中都市オメガが加速する。
雲を突き抜け、西の空へ。
修理屋ルークの最後の旅が始まった。
* * *
(西の果て、終わりの塔)
ドス黒い雲が渦巻く荒野の中心に、天を突くような黒い塔が立っていた。
その最上階で、一人の男が水晶玉を覗き込み、歪んだ笑みを浮かべていた。
「……来たか、修理屋。私の『破壊』と、貴様の『再生』。どちらが上か、試してみようではないか」
男――ゾディアックの背後には、異形の影が無数に蠢いている。
それは、世界中から集めた絶望のエネルギーが生み出した、最強の魔物たちだった。
「壊れろ、世界。……そして、絶望に染まれ」
彼の手から放たれた闇の波動が、空を覆い尽くしていく。
世界崩壊のカウントダウンが始まった。
だが、その闇を切り裂くように、東の空から一筋の光――俺たちの乗る空中都市が接近していた。
激突まで、あとわずか。
物語は、クライマックスへと突入する。
(第50話 終わり)
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