追放された『修理職人』、辺境の店が国宝級の聖地になる~万物を新品以上に直せるので、今さら戻ってこいと言われても予約で一杯です
第44話 「状態異常も『故障』の一種ですよね」ルークの拡大解釈
「……ダメです。私の魔力でも、進行を食い止めるのが精一杯ですわ」
グリーンホロウの一角に建てられた、白亜の巨塔『総合医療センター』。
その最上階にある特別治療室で、聖女アリアが額の汗を拭いながら首を横に振った。
彼女の横では、もう一人の聖女ノアも、祈りを捧げる手を止めて悲痛な表情を浮かべている。
「教会の秘儀『解呪の祈り』も通用しません。この石化は、呪いというより……もっと根源的な、生命の質の変質(エラー)によるもののようです」
ベッドに横たわっているのは、隣国から運び込まれてきた身なりの良い青年貴族だ。
だが、その四肢は灰色の石へと変わり果てており、石化は今もじわじわと胸部へ向かって侵食を続けている。
彼の周りには、同じような症状を訴える患者が数名、運び込まれていた。
「『灰の病』……。最近、大陸各地で発生している謎の奇病じゃな」
同行していた剣聖ガラハドが、腕組みをして眉をひそめる。
原因不明、治療法なし。
発症すれば数日で全身が石となり、永遠に動かなくなる死の病。
それが今、この街にも影を落とし始めていた。
「ルーク様……。どうにか、なりませんでしょうか?」
アリアが縋るような目で俺を見た。
俺、ルーク・ヴァルドマンは、エプロンのポケットから愛用のハンマーを取り出し、患者の石化した腕をコンコンと軽く叩いた。
「……ふむ。硬いな。材質は花崗岩に近い」
「材質の問題ではありませんわ! 命の問題です!」
「わかってるよ。でもな、アリア。俺にとっては、これも『故障』の一種に見えるんだ」
俺は【修理】スキルの解析眼を発動させ、患者の身体をスキャンした。
血管、神経、筋肉。それらが、未知の魔力因子によって書き換えられ、炭素ベースの有機物から、ケイ素ベースの無機物へと置換されている。
「(……なるほど。体内のマナ循環システムが誤作動を起こして、自分自身の細胞を『石』だと誤認して再構築しちまってるのか)」
原因はウイルス性のものだが、結果として起きているのは「肉体というハードウェアのバグ」だ。
魔法使いや医者が「病気」として治そうとしても、プログラム自体が書き換わっているから、回復魔法(=正常な状態に戻すコマンド)が弾かれてしまうのだ。
「直せるよ」
俺があっさりと言うと、アリアとノアが目を丸くした。
「ほ、本当ですか!? でも、これは病気ですよ? 機械ではありません!」
「俺の定義じゃ、正常に動かないものは全部『故障品』だ。石になって動かないなら、動く肉体に『修理』すればいい」
俺は袖をまくり、患者に向き直った。
「アリア、ノア。二人は患者の生命力を維持してくれ。俺が『悪い部分』を物理的に書き換える間、魂が抜けないように繋ぎ止めておくんだ」
「わ、わかりました!」
「はい、ルーク様!」
二人の聖女が、患者の頭と胸に手を当て、光の結界を展開する。
俺はハンマーを握り、石化した右腕の付け根――侵食の境界線に狙いを定めた。
「いくぞ。【修理・材質変換(マテリアル・コンバート)】!」
カァンッ!
乾いた音が病室に響いた。
俺のハンマーが、石と肉の境界を叩く。
衝撃波と共に、俺の魔力が患者の細胞一つ一つに浸透していく。
『お前らは石じゃない。人間だ。柔らかくて、温かくて、血が通う肉だ。……思い出せ』
俺は細胞の核にある設計図(DNA情報)に直接アクセスし、書き換えられたエラーコードを修正していく。
石化の原因となっているウイルス因子を『分解』し、無害なマナへと還元。
さらに、硬化していた組織を、元の柔軟な筋肉と皮膚へと『再構築』する。
パキパキパキッ……。
石膏が割れるような音がして、石化していた灰色の皮膚が剥がれ落ちた。
その下から現れたのは、健康的なピンク色の肌だった。
「あ……指が、動く……?」
意識を取り戻した青年貴族が、呆然と自分の手を見つめる。
冷たく硬かった腕には、確かに温かい血が巡っていた。
「き、奇跡だ……!」
「石化が……解けた!」
他の患者たちや、付き添いの家族から歓声が上がる。
アリアとノアも、信じられないものを見る目で俺を見つめていた。
「ルーク様……あなたという人は、生命の理(ことわり)すらも修理してしまうのですか……」
「大袈裟だな。詰まりを取って、部品(細胞)を交換しただけだぞ」
俺は次の患者の元へ移動した。
やることは同じだ。
叩いて、直す。
ついでに、再発防止のためのアップデートも施しておく。
「はい、次のお婆ちゃん。腰の石化を治すついでに、骨密度も上げておきましたよ。これで若者より元気に歩けます」
「ありがたや、ありがたや……」
「そこの兄ちゃんは、石化の進行が早かったな。心肺機能も強化しておいたから、これからは息切れしにくくなるぞ」
「す、すげぇ! 身体が軽い!」
あっという間に、病室にいた全員の石化が完治してしまった。
それどころか、全員が以前より健康的になり、肌艶まで良くなっている。
「……さすがじゃな、主よ。医者廃業の危機じゃ」
ガラハドさんが苦笑する。
アリアは「私たちの聖女としての立場が……」と少し複雑そうな顔をしていたが、すぐに気を取り直して、真剣な顔で俺に頼み込んできた。
「ルーク様! お願いがあります!」
「ん? なんだ?」
「この技術……私にも教えていただけませんか? いえ、技術そのものは無理でも、せめてこの『治療』を効率化する道具を作っていただけないでしょうか?」
アリアの目は本気だった。
彼女は知っているのだ。世界にはまだ、この病に苦しむ人々が大勢いることを。
俺一人が世界中を回って直すのは不可能だ。
だが、道具があれば。
「……なるほど。医療機器の開発か」
俺は顎を撫でた。
確かに、俺がいちいちハンマーで叩いて回るのも効率が悪い。
自動化できるなら、それに越したことはない。
「いいだろう。作ってみるか。……『全自動診断・治療ポッド』をな」
* * *
その日の午後。
俺は機神アルファとソフィアを呼び出し、医療センターの地下工房に籠もった。
「アルファ、精密作業用のアームを出してくれ。ソフィアは魔力回路の設計だ」
『了解しました、マスター』
「任せて。医療用の術式なら、王立図書館のデータが頭に入ってるわ」
俺たちが作ろうとしているのは、患者が寝るだけで自動的に病気をスキャンし、適切な処置(俺の【修理】スキルの簡易版)を行うカプセル型の装置だ。
名付けて『メディカル・ポッド・マークⅠ』。
素材は、衛生面を考慮してミスリル銀と抗菌ガラスを使用。
動力源には、安定した出力を誇る光属性の魔石を採用する。
「ここが肝だ。俺の【修理】スキルの波形をコピーした人工知能(AI)を搭載する」
俺はポッドの中枢ユニットに、自分の魔力パターンを焼き付けた。
これにより、ポッド自体が擬似的に「どこが壊れているか」を判断し、修復プログラムを実行できるようになる。
もちろん、俺本人のような応用力はないが、石化病や骨折、内臓疾患などの一般的な「故障」なら十分に対応できるはずだ。
「ついでにオプション機能も充実させるか」
「オプション?」
「マッサージ機能、温熱療法、あとアロマテラピー機能もつけよう。病院は怖い場所じゃないって思わせたいしな」
俺の悪ノリ(こだわり)も詰め込みつつ、作業は深夜まで続いた。
* * *
翌朝。
医療センターのロビーに、近未来的なカプセルが五台、ずらりと並べられた。
流線型の白いボディに、淡い青色の光が脈動している。
「こ、これが……新しい医療器具ですか?」
アリアがおずおずと触れる。
ガラスのカバーが音もなくスライドして開いた。
「ああ。使い方は簡単だ。患者を寝かせて、ボタンを押すだけ。あとは機械が勝手にやってくれる」
ちょうど、救急搬送されてきた冒険者がいた。
ダンジョンの罠で全身火傷を負い、瀕死の状態だ。
「よし、テストだ。彼を入れてみてくれ」
看護師たちが慌てて冒険者をポッドに移す。
カバーが閉じ、内部が満たされるような光に包まれた。
『スキャン開始……。重度熱傷、気道損傷、魔力欠乏を確認。治療モード・レベル4ヲ実行シマス』
ポッドから合成音声(アルファの声に似ている)が流れ、内部で魔術的な処置が開始される。
ポッドの中では、高濃度の回復ミストが噴射され、同時に患部の細胞再生が加速されていく。
わずか五分後。
ポッドが開くと、そこにはピンピンした様子の冒険者が座っていた。
「……あれ? 痛くない? ていうか、肌がツルツルになってる!?」
「成功だな」
俺が親指を立てると、ロビー中がどよめいた。
通常なら全治三ヶ月の重傷が、カップラーメンを作る時間で完治してしまったのだ。
「す、すごいです……! これがあれば、助けられる命が何倍にもなります!」
アリアが感動のあまり泣き出し、ノアも「神の恵みです……」と拝んでいる。
「ただし、注意点が一つある」
俺は釘を刺した。
「このポッドはあくまで『修理』をする機械だ。心のケアや、患者への励ましはできない。そこは、お前たち聖女や医者の仕事だぞ」
「はい! 肝に銘じます!」
こうして、グリーンホロウ医療センターは、世界最先端の医療技術を持つ病院として生まれ変わった。
『不治の病も治す奇跡の街』。
その噂はさらに広がり、世界中の難病患者や、腕利きの医師たちがこの街を目指すことになる。
数日後。
俺の元に、ゴルド商会を通じて大量の注文書が届いた。
「ルーク様! 各国の王室や大病院から、『あのポッドを売ってくれ』という問い合わせが殺到しています! 金額は白紙の小切手も同封されていますぞ!」
ゴルドさんが興奮して鼻息を荒くしている。
「売るのは構いませんが、メンテナンス契約は必須ですよ。……あと、軍事利用されないように、ブラックボックス化してロックを掛けておきます」
俺はハンコを押しながら、新たな忙しさを予感していた。
修理屋の仕事は、物から人へ、そして医療という社会インフラへ。
俺のハンマーが届く範囲は、どんどん広がっていく。
「……ま、壊れたものが直るなら、それが一番だ」
俺は窓の外を見た。
元気に退院していく患者たちの笑顔。
それが、俺にとっての最高の報酬だった。
その時、懐の通信機(魔導スマホの試作機)が鳴った。
相手は、王都にいるブレイドだ。
『よう、ルーク。聞こえるか?』
「ああ。どうした、ブレイド」
『ちょっと厄介な話が入ってきた。……お前が直した石化病の件だ』
ブレイドの声色が低い。
『あの病気、自然発生したものじゃないらしい。何者かが意図的にばら撒いた生物兵器の可能性がある』
「……なんだって?」
俺の目が細められた。
病気が人為的なものだとすれば、それは「故障」ではなく「破壊工作」だ。
修理屋として、見過ごせない事態だ。
『調査を進めてるが、どうやら裏で糸を引いている組織があるようだ。……気をつけろよ、ルーク。お前の技術が、奴らの計画を邪魔したことになる』
「上等だ。壊す奴がいるなら、俺が直す。それだけだ」
俺は通信を切った。
平和な日常の裏で、新たな敵の影が蠢いている。
だが、俺には仲間がいる。そして、俺の作った技術がある。
負ける気はしなかった。
「さて、次の仕事だ!」
俺は立ち上がり、工房へと向かった。
どんな悪意が来ようとも、俺の技術で全て跳ね返してやる。
グリーンホロウの守りは、鉄壁なのだから。
グリーンホロウの一角に建てられた、白亜の巨塔『総合医療センター』。
その最上階にある特別治療室で、聖女アリアが額の汗を拭いながら首を横に振った。
彼女の横では、もう一人の聖女ノアも、祈りを捧げる手を止めて悲痛な表情を浮かべている。
「教会の秘儀『解呪の祈り』も通用しません。この石化は、呪いというより……もっと根源的な、生命の質の変質(エラー)によるもののようです」
ベッドに横たわっているのは、隣国から運び込まれてきた身なりの良い青年貴族だ。
だが、その四肢は灰色の石へと変わり果てており、石化は今もじわじわと胸部へ向かって侵食を続けている。
彼の周りには、同じような症状を訴える患者が数名、運び込まれていた。
「『灰の病』……。最近、大陸各地で発生している謎の奇病じゃな」
同行していた剣聖ガラハドが、腕組みをして眉をひそめる。
原因不明、治療法なし。
発症すれば数日で全身が石となり、永遠に動かなくなる死の病。
それが今、この街にも影を落とし始めていた。
「ルーク様……。どうにか、なりませんでしょうか?」
アリアが縋るような目で俺を見た。
俺、ルーク・ヴァルドマンは、エプロンのポケットから愛用のハンマーを取り出し、患者の石化した腕をコンコンと軽く叩いた。
「……ふむ。硬いな。材質は花崗岩に近い」
「材質の問題ではありませんわ! 命の問題です!」
「わかってるよ。でもな、アリア。俺にとっては、これも『故障』の一種に見えるんだ」
俺は【修理】スキルの解析眼を発動させ、患者の身体をスキャンした。
血管、神経、筋肉。それらが、未知の魔力因子によって書き換えられ、炭素ベースの有機物から、ケイ素ベースの無機物へと置換されている。
「(……なるほど。体内のマナ循環システムが誤作動を起こして、自分自身の細胞を『石』だと誤認して再構築しちまってるのか)」
原因はウイルス性のものだが、結果として起きているのは「肉体というハードウェアのバグ」だ。
魔法使いや医者が「病気」として治そうとしても、プログラム自体が書き換わっているから、回復魔法(=正常な状態に戻すコマンド)が弾かれてしまうのだ。
「直せるよ」
俺があっさりと言うと、アリアとノアが目を丸くした。
「ほ、本当ですか!? でも、これは病気ですよ? 機械ではありません!」
「俺の定義じゃ、正常に動かないものは全部『故障品』だ。石になって動かないなら、動く肉体に『修理』すればいい」
俺は袖をまくり、患者に向き直った。
「アリア、ノア。二人は患者の生命力を維持してくれ。俺が『悪い部分』を物理的に書き換える間、魂が抜けないように繋ぎ止めておくんだ」
「わ、わかりました!」
「はい、ルーク様!」
二人の聖女が、患者の頭と胸に手を当て、光の結界を展開する。
俺はハンマーを握り、石化した右腕の付け根――侵食の境界線に狙いを定めた。
「いくぞ。【修理・材質変換(マテリアル・コンバート)】!」
カァンッ!
乾いた音が病室に響いた。
俺のハンマーが、石と肉の境界を叩く。
衝撃波と共に、俺の魔力が患者の細胞一つ一つに浸透していく。
『お前らは石じゃない。人間だ。柔らかくて、温かくて、血が通う肉だ。……思い出せ』
俺は細胞の核にある設計図(DNA情報)に直接アクセスし、書き換えられたエラーコードを修正していく。
石化の原因となっているウイルス因子を『分解』し、無害なマナへと還元。
さらに、硬化していた組織を、元の柔軟な筋肉と皮膚へと『再構築』する。
パキパキパキッ……。
石膏が割れるような音がして、石化していた灰色の皮膚が剥がれ落ちた。
その下から現れたのは、健康的なピンク色の肌だった。
「あ……指が、動く……?」
意識を取り戻した青年貴族が、呆然と自分の手を見つめる。
冷たく硬かった腕には、確かに温かい血が巡っていた。
「き、奇跡だ……!」
「石化が……解けた!」
他の患者たちや、付き添いの家族から歓声が上がる。
アリアとノアも、信じられないものを見る目で俺を見つめていた。
「ルーク様……あなたという人は、生命の理(ことわり)すらも修理してしまうのですか……」
「大袈裟だな。詰まりを取って、部品(細胞)を交換しただけだぞ」
俺は次の患者の元へ移動した。
やることは同じだ。
叩いて、直す。
ついでに、再発防止のためのアップデートも施しておく。
「はい、次のお婆ちゃん。腰の石化を治すついでに、骨密度も上げておきましたよ。これで若者より元気に歩けます」
「ありがたや、ありがたや……」
「そこの兄ちゃんは、石化の進行が早かったな。心肺機能も強化しておいたから、これからは息切れしにくくなるぞ」
「す、すげぇ! 身体が軽い!」
あっという間に、病室にいた全員の石化が完治してしまった。
それどころか、全員が以前より健康的になり、肌艶まで良くなっている。
「……さすがじゃな、主よ。医者廃業の危機じゃ」
ガラハドさんが苦笑する。
アリアは「私たちの聖女としての立場が……」と少し複雑そうな顔をしていたが、すぐに気を取り直して、真剣な顔で俺に頼み込んできた。
「ルーク様! お願いがあります!」
「ん? なんだ?」
「この技術……私にも教えていただけませんか? いえ、技術そのものは無理でも、せめてこの『治療』を効率化する道具を作っていただけないでしょうか?」
アリアの目は本気だった。
彼女は知っているのだ。世界にはまだ、この病に苦しむ人々が大勢いることを。
俺一人が世界中を回って直すのは不可能だ。
だが、道具があれば。
「……なるほど。医療機器の開発か」
俺は顎を撫でた。
確かに、俺がいちいちハンマーで叩いて回るのも効率が悪い。
自動化できるなら、それに越したことはない。
「いいだろう。作ってみるか。……『全自動診断・治療ポッド』をな」
* * *
その日の午後。
俺は機神アルファとソフィアを呼び出し、医療センターの地下工房に籠もった。
「アルファ、精密作業用のアームを出してくれ。ソフィアは魔力回路の設計だ」
『了解しました、マスター』
「任せて。医療用の術式なら、王立図書館のデータが頭に入ってるわ」
俺たちが作ろうとしているのは、患者が寝るだけで自動的に病気をスキャンし、適切な処置(俺の【修理】スキルの簡易版)を行うカプセル型の装置だ。
名付けて『メディカル・ポッド・マークⅠ』。
素材は、衛生面を考慮してミスリル銀と抗菌ガラスを使用。
動力源には、安定した出力を誇る光属性の魔石を採用する。
「ここが肝だ。俺の【修理】スキルの波形をコピーした人工知能(AI)を搭載する」
俺はポッドの中枢ユニットに、自分の魔力パターンを焼き付けた。
これにより、ポッド自体が擬似的に「どこが壊れているか」を判断し、修復プログラムを実行できるようになる。
もちろん、俺本人のような応用力はないが、石化病や骨折、内臓疾患などの一般的な「故障」なら十分に対応できるはずだ。
「ついでにオプション機能も充実させるか」
「オプション?」
「マッサージ機能、温熱療法、あとアロマテラピー機能もつけよう。病院は怖い場所じゃないって思わせたいしな」
俺の悪ノリ(こだわり)も詰め込みつつ、作業は深夜まで続いた。
* * *
翌朝。
医療センターのロビーに、近未来的なカプセルが五台、ずらりと並べられた。
流線型の白いボディに、淡い青色の光が脈動している。
「こ、これが……新しい医療器具ですか?」
アリアがおずおずと触れる。
ガラスのカバーが音もなくスライドして開いた。
「ああ。使い方は簡単だ。患者を寝かせて、ボタンを押すだけ。あとは機械が勝手にやってくれる」
ちょうど、救急搬送されてきた冒険者がいた。
ダンジョンの罠で全身火傷を負い、瀕死の状態だ。
「よし、テストだ。彼を入れてみてくれ」
看護師たちが慌てて冒険者をポッドに移す。
カバーが閉じ、内部が満たされるような光に包まれた。
『スキャン開始……。重度熱傷、気道損傷、魔力欠乏を確認。治療モード・レベル4ヲ実行シマス』
ポッドから合成音声(アルファの声に似ている)が流れ、内部で魔術的な処置が開始される。
ポッドの中では、高濃度の回復ミストが噴射され、同時に患部の細胞再生が加速されていく。
わずか五分後。
ポッドが開くと、そこにはピンピンした様子の冒険者が座っていた。
「……あれ? 痛くない? ていうか、肌がツルツルになってる!?」
「成功だな」
俺が親指を立てると、ロビー中がどよめいた。
通常なら全治三ヶ月の重傷が、カップラーメンを作る時間で完治してしまったのだ。
「す、すごいです……! これがあれば、助けられる命が何倍にもなります!」
アリアが感動のあまり泣き出し、ノアも「神の恵みです……」と拝んでいる。
「ただし、注意点が一つある」
俺は釘を刺した。
「このポッドはあくまで『修理』をする機械だ。心のケアや、患者への励ましはできない。そこは、お前たち聖女や医者の仕事だぞ」
「はい! 肝に銘じます!」
こうして、グリーンホロウ医療センターは、世界最先端の医療技術を持つ病院として生まれ変わった。
『不治の病も治す奇跡の街』。
その噂はさらに広がり、世界中の難病患者や、腕利きの医師たちがこの街を目指すことになる。
数日後。
俺の元に、ゴルド商会を通じて大量の注文書が届いた。
「ルーク様! 各国の王室や大病院から、『あのポッドを売ってくれ』という問い合わせが殺到しています! 金額は白紙の小切手も同封されていますぞ!」
ゴルドさんが興奮して鼻息を荒くしている。
「売るのは構いませんが、メンテナンス契約は必須ですよ。……あと、軍事利用されないように、ブラックボックス化してロックを掛けておきます」
俺はハンコを押しながら、新たな忙しさを予感していた。
修理屋の仕事は、物から人へ、そして医療という社会インフラへ。
俺のハンマーが届く範囲は、どんどん広がっていく。
「……ま、壊れたものが直るなら、それが一番だ」
俺は窓の外を見た。
元気に退院していく患者たちの笑顔。
それが、俺にとっての最高の報酬だった。
その時、懐の通信機(魔導スマホの試作機)が鳴った。
相手は、王都にいるブレイドだ。
『よう、ルーク。聞こえるか?』
「ああ。どうした、ブレイド」
『ちょっと厄介な話が入ってきた。……お前が直した石化病の件だ』
ブレイドの声色が低い。
『あの病気、自然発生したものじゃないらしい。何者かが意図的にばら撒いた生物兵器の可能性がある』
「……なんだって?」
俺の目が細められた。
病気が人為的なものだとすれば、それは「故障」ではなく「破壊工作」だ。
修理屋として、見過ごせない事態だ。
『調査を進めてるが、どうやら裏で糸を引いている組織があるようだ。……気をつけろよ、ルーク。お前の技術が、奴らの計画を邪魔したことになる』
「上等だ。壊す奴がいるなら、俺が直す。それだけだ」
俺は通信を切った。
平和な日常の裏で、新たな敵の影が蠢いている。
だが、俺には仲間がいる。そして、俺の作った技術がある。
負ける気はしなかった。
「さて、次の仕事だ!」
俺は立ち上がり、工房へと向かった。
どんな悪意が来ようとも、俺の技術で全て跳ね返してやる。
グリーンホロウの守りは、鉄壁なのだから。
「ファンタジー」の人気作品
-
暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが-
4.9万
-
転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~-
7万
-
クラス転移で俺だけずば抜けチート!?コミカライズ!-
4.8万
-
異世界支配のスキルテイカー ~ ゼロから始める奴隷ハーレム ~-
2.3万
-
妖刀使いがチートスキルをもって異世界放浪 ~生まれ持ったチートは最強!!~-
1.6万
-
劣等眼の転生魔術師 ~ 虐げられた元勇者は未来の世界を余裕で生き抜く ~-
1.1万
-
勇者になれなかった俺は異世界で-
2.4万
-
引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―-
2.3万
-
転生貴族のハーレムチート生活【120万pv突破】-
5.5万
書籍化作品
-
星乙女の天秤~夫に浮気されたので調停を申し立てた人妻が幸せになるお話~-
127
-
【コミカライズ】寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~-
516
-
『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』-
1513
-
勇者になれなかった俺は異世界で-
24254
-
【コミカライズ配信中!】社長、この偽婚約はいつまで有効ですか?(原題:花束と婚約指輪)-
63
-
悪役令嬢は趣味に没頭します-
2819
-
【コミカライズ】堕ちた聖騎士さまに贈るスペシャリテ〜恋した人はご先祖さまの婚約者でした〜-
1
-
二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!-
-
848
-
-
ガベージブレイブ【異世界に召喚され捨てられた勇者の復讐物語】-
550

コメント
コメントを書く