追放された『修理職人』、辺境の店が国宝級の聖地になる~万物を新品以上に直せるので、今さら戻ってこいと言われても予約で一杯です

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第38話 蒸気と魔法のハイブリッド。隣国の最新兵器を直したら、Sランク冒険者が勝手に宣伝部長になっていました

「……ここが、噂の『なんでも修理屋』か。随分と牧歌的な場所だな」

グリーンホロウの領主館兼店舗の前。
そこに整列していたのは、全身を真鍮色の金属鎧で覆い、背中からシューシューと白い蒸気を噴き出している一団だった。
隣国、工業国家レムリアが誇る精鋭部隊、『鉄機兵団』だ。

彼らの中心には、馬車ではなく、巨大な鉄の箱を牽引した蒸気トラックが停まっている。
その荷台には、防水布で覆われた巨大な人型兵器が鎮座していた。

「いらっしゃいませ。店主のルークです」

俺がエプロン姿で出ていくと、隊長らしき髭の男が、値踏みするように俺を見下ろした。
彼の胸には、歯車とスパナを模した徽章が輝いている。
鉄機兵団長、アイゼンだ。

「貴殿がルーク・ヴァルドマン伯爵か。……噂より随分と若いが、本当に腕は確かなのか?」
「若さは関係ありませんよ。それに、腕が確かかどうかは、お客様が決めることです」

俺が淡々と答えると、アイゼンは鼻を鳴らした。

「フン、口だけは達者なようだ。……我々は科学技術の国、レムリアから来た。魔法などという不確定なオカルトに頼る貴国とは、根本的に考え方が違う」

挨拶代わりの先制攻撃だ。
レムリアは近年、蒸気機関の実用化に成功し、急速に国力を伸ばしている新興国だ。
彼らは「誰でも扱える技術」としての科学を崇拝し、「才能ある者しか使えない」魔法を時代遅れだと見下す傾向がある。

「ですが、背に腹は代えられん。我が国の最新鋭機動兵器『スチームナイト・試作零式』が、テスト稼働中に原因不明の停止を起こしてな。随伴していた技師もお手上げだというので、藁にもすがる思いで立ち寄ったのだ」

アイゼンは部下に合図を送った。
防水布が取り払われる。
現れたのは、全長四メートルほどの無骨な鉄の巨人だった。
リベット打ちされた装甲、張り巡らされたパイプ、背中に背負った巨大なボイラー。
俺が作ったゴーレムや、帝国の鉄竜(クロ)とはまた違う、スチームパンクな趣のある機体だ。

「ほう、かっこいいですね」
「当然だ。これは我が国の科学の結晶だ。……だが、今はただの鉄屑だがな」

アイゼンは悔しそうに機体を叩いた。
カン、と虚しい音が響く。

「直せますか? もし無理なら、早々に引き上げて本国へ輸送するが」
「診てみましょう。……ブレイド、脚立を持ってきてくれ」
「へいへい。人使いが荒いな、伯爵様は」

警備隊長のブレイドが脚立を持ってくる。
俺はそれに登り、スチームナイトの胸部ハッチを開けた。

中は蒸気と油の匂いが充満していた。
複雑な歯車の組み合わせ、圧力計、ピストン。
魔力回路とは全く異なる、物理法則の塊だ。

「(……なるほど。構造は悪くない。設計者の熱意を感じる)」

俺は【修理】スキルの解析眼を、物理モードに切り替えて内部をスキャンした。
原因はすぐに判明した。

「エネルギー伝達系の詰まりですね。ボイラーの出力に対して、パイプの径が細すぎる。それに、潤滑油の質が悪くて、シリンダーが焼き付いてます」
「な、なに? そんな単純なことか?」

アイゼンが驚く。

「単純ですが、致命的です。このまま動かしていたら、ボイラーが爆発して搭乗者は蒸し焼きでしたよ」
「ぐっ……! 設計ミスだと……!」

技術者でもあるアイゼンは、顔を赤くして呻いた。
自国の誇る科学力が、基礎的な設計ミスを犯していたという事実は、認めたくない屈辱だろう。

「まあ、試作機ならよくあることです。……で、どうします? 元通りに直しますか? それとも、『もっと良く』しますか?」

俺はニカッと笑って提案した。

「もっと良く、だと?」
「ええ。この機体、ポテンシャルは高いです。ただ、蒸気機関だけだとどうしても出力の立ち上がりが遅い。そこで提案なんですが……魔法とのハイブリッドにしてみませんか?」

「魔法だと!? 馬鹿を言うな! 繊細な科学機械に、あんな不安定なものを混ぜたら誤作動を起こす!」

アイゼンが拒絶反応を示す。
予想通りの反応だ。

「そこを上手くやるのが、俺の仕事です。科学の『安定性』と、魔法の『爆発力』。両方のいいとこ取りをすれば、この機体は化けますよ」

俺はハンマーを取り出し、手の中で回した。

「10分ください。気に入らなければ、代金はいりません」
「……10分だと? ボイラーの交換だけでも半日はかかるぞ」
「俺の店では、時間は相対的なものですから」

俺はアイゼンの返事を待たずに、スチームナイトのコクピットに潜り込んだ。

*   *   *

作業開始。
まずは焼き付いたシリンダーの修復だ。

カァン!

一撃で金属の歪みを正し、表面を鏡面仕上げにする。
次に、詰まっていたパイプを拡張し、内壁に『摩擦軽減コーティング』を施す。
ここまでは物理的な修理だ。

「さて、ここからが本番だ。……ソフィア! 『火炎石』と『風魔石』を持ってきてくれ!」
「はいよ! 最高純度のやつを持ってきたわ!」

研究所から顔を出した賢者ソフィアが、赤と緑に輝く魔石を投げ渡してくれた。
俺はそれを受け取り、ボイラーの下部にある燃焼室を開けた。

通常、ここは石炭を燃やして水を沸騰させる場所だ。
だが、石炭は嵩張るし、燃えカスが出るし、補給も大変だ。

「熱源をハイブリッド化する。ベースは石炭だが、瞬間的な加速が必要な時は『火炎石』でブーストをかける」

俺は燃焼室の壁に、複雑な魔法陣を刻み込んだ。
それは魔力を熱エネルギーに変換する回路だ。
さらに、排気ダクトには『風魔石』を組み込み、排気を推力として利用するアフターバーナー機能を追加する。

「科学と魔法の融合だ。喧嘩するなよ、仲良く手を取り合え」

俺はハンマーを振り下ろした。

ドゴォォォンッ!!

ボイラーの中で、科学的な燃焼と、魔術的な発熱が融合する。
相反するはずの二つの力が、俺の介在によって奇跡的なバランスで噛み合った。

「仕上げだ! 制御系アップデート!」

俺はコクピットの操縦桿に手を触れた。
レムリアの操縦システムは、レバーとペダルによる物理操作だ。
これを活かしつつ、操縦者の思考を補助する『魔導アシスト』を組み込む。

「よし、完了!」

作業時間、きっかり8分。
俺はスチームナイトから飛び降りた。

「終わりましたよ、団長さん。乗ってみてください」
「ほ、本当に終わったのか? 外見は何も変わっていないようだが……」

アイゼンは半信半疑でコクピットに乗り込んだ。
そして、恐る恐る点火スイッチを入れた。

シュゴォォォォ……!

以前のような、ガタガタと震える騒音はない。
低く、力強い吸気音が響き、圧力計の針が一気にレッドゾーン手前まで跳ね上がった。
しかし、機体は微動だにしない。
完璧な制御下にある証拠だ。

「な、なんだこの安定感は……! 蒸気圧が一定だ! ノイズが全くない!」

アイゼンの驚愕の声が漏れる。
彼は操縦桿を握り、試運転のために一歩を踏み出した。

ズシンッ。

重厚な足音。
だが、その動きは滑らかだった。
まるで人間が歩くように、自然な重心移動が行われている。

「軽い……! 数トンの鉄塊を動かしているとは思えない!」
「試しに走ってみてください。ブーストを使えば、馬より速いですよ」

俺の指示に従い、アイゼンはスロットルを開けた。
同時に、足元のペダルを踏み込む。

ボシュゥゥゥッ!!

背中のボイラーから青白い炎と蒸気が噴射された。
『魔導アフターバーナー』だ。
スチームナイトは爆発的な加速を見せ、広場を疾走した。
その速度は、確かに軍馬を凌駕していた。

「速い! なのに操縦が追いつく! まるで機体が私の意思を読んでいるようだ!」
「魔導アシストのおかげですよ。科学の精密さを、魔法の直感で補っているんです」

広場を一周して戻ってきたスチームナイトは、ピタリと俺の目の前で停止した。
プシュー、と排気音が響き、ハッチが開く。
顔を真っ赤にして興奮したアイゼンが降りてきた。

「素晴らしい……! まさに理想の機体だ! これこそが、我々が目指していた未来の騎士の姿だ!」

彼は俺の手を両手で握りしめ、激しく上下させた。

「撤回する! 魔法はオカルトなどではない! 科学と対等な、いや、それ以上の可能性を秘めた技術だ! ルーク殿、貴殿は天才だ!」
「どうも。修理代は、技術協力費ということで銀貨5枚でいいですよ」
「安い! 安すぎる! 設計図ごと買い取らせてくれ!」

大騒ぎする鉄機兵団の面々。
彼らは手帳を取り出し、俺の改造箇所を必死にメモし始めた。
科学一辺倒だった彼らにとって、このハイブリッド技術は革命的な衝撃だったようだ。

その様子を見ていた野次馬たちの中から、一人の男が進み出てきた。
Sランク冒険者のザインだ。
彼は修理したばかりの『雷神の鎧』を輝かせ、ニヤニヤと笑っている。

「どうだ、レムリアの旦那方。俺が言った通りだっただろう?」
「む、貴殿は……Sランクの『雷鳴の旋風』か?」
「ああ。俺たちも最初は半信半疑だったさ。だが、ルークの腕は本物だ。俺のこの鎧を見ろよ」

ザインは自慢げに鎧を叩いた。
バチッ、と自動防御の雷光が走る。

「こいつもルークに直してもらったんだ。おかげで、昨日はダンジョンの深層でドラゴンを二頭狩ってきたぜ。傷ひとつ付かなかったけどな」
「なんと……! その鎧もルーク殿の作か!」

「それだけじゃねぇぞ。あそこの鉄竜(クロ)を見ろ。あれもルークが手懐けたんだ」

ザインが指差した先では、巨大な鉄竜が、子供たちを背中に乗せて遊覧飛行の準備をしていた。
平和ボケした光景だが、その技術力は底知れない。

「ドラゴンに、機動兵器に、伝説の鎧……。この街には、世界の全技術が集まっているのか……?」

アイゼンが呆然と呟く。
ザインは俺の肩に手を回し、ウィンクした。

「だからよ、旦那。この街と仲良くしといた方がいいぜ。ここはいずれ、世界の中心になる場所だ。今のうちにコネを作っとけば、あんたの国も安泰だろ?」

「……違いない」

アイゼンは深く頷き、改めて俺に向き直った。

「ルーク殿。我が国は、貴殿およびグリーンホロウとの正式な技術提携を希望する! 我が国の蒸気機関技術を提供する代わりに、貴殿の魔導技術を教授願いたい!」
「えっ、提携ですか? まあ、お互いに技術交換できるなら歓迎ですけど……」
「交渉成立だ! すぐに本国へ打電する!」

アイゼンは部下たちに指示を飛ばし始めた。
ザインが俺の耳元で囁く。

「へへっ、どうだルーク。いい宣伝になっただろ?」
「お前なぁ……。勝手に話を大きくするなよ」
「いいじゃねぇか。俺はこの街が気に入ってるんだ。もっと発展してもらわなきゃ、俺たちの拠点として物足りないからな」

ザインは豪快に笑った。
どうやら彼は、勝手にこの店の「宣伝部長」を自認し始めたらしい。
Sランク冒険者の口コミ効果は絶大だ。
これでまた、明日からの客が増えることは確定した。

「……はぁ。また忙しくなりそうだ」

俺は嬉しいような、困ったようなため息をついた。
その時、店の奥からソフィアが顔を出した。

「ルーク。ちょっといい?」
「ん? どうしたソフィア」
「今のスチームナイトの修理で、面白いデータが取れたわ。科学と魔法の融合理論……これ、応用すれば『魔導列車』の速度を倍にできるかもしれない」
「倍だって? それは聞き捨てならないな」

俺の職人魂がピクリと反応した。
忙しいのは大変だが、新しい技術への挑戦は別腹だ。

「よし、今夜は徹夜で設計図の見直しか?」
「ふふ、付き合うわよ。……あ、でもその前に、アイゼン団長が『蒸気機関車の模型』をプレゼントしてくれるって言ってたわよ」
「マジか! 欲しい!」

俺たちは顔を見合わせて笑った。
グリーンホロウは、今日も平和で、そして騒がしい。
科学の国との国交も開かれ、この街はますます「なんでもあり」の技術都市へと進化していく。

「さあ、仕事に戻るか! ガラハドさん、行列の整理をお願いします!」
「うむ、任せよ。……まったく、主の人気は天井知らずじゃな」

ガラハドさんが苦笑しながら、長蛇の列を整列させに行く。
俺はハンマーを握り直し、次の客を呼んだ。

「いらっしゃいませ! 次の方、どうぞ!」

修理屋ルークの物語は、まだまだ終わらない。
世界中から集まる「壊れたもの」と「新しい技術」。
それらが出会い、混ざり合い、新しい何かが生まれる場所。
それが、ここグリーンホロウなのだから。

(第38話 終わり)

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