追放された『修理職人』、辺境の店が国宝級の聖地になる~万物を新品以上に直せるので、今さら戻ってこいと言われても予約で一杯です

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第35話 温泉が出ないので、地脈の詰まりを『修復』して温泉街にする

「ルーク様、大変です! お湯が……お湯が出ません!」

グランドホテルの建設から数日後。
まだ朝のコーヒーを飲み終えていない俺、ルーク・ヴァルドマンの元に、大浴場『憩いの湯』の番頭を務めるお爺さんが駆け込んできた。
彼は手拭いを握りしめ、悲痛な表情を浮かべている。

「どうしたんですか、源さん。ボイラーの故障ですか?」
「いえ、違うんです。源泉です! 湯量が急に減って、今はチョロチョロとしか……。このままじゃ、ホテルの客室露天風呂はおろか、大浴場の湯船さえ満たせません!」

それは由々しき事態だ。
現在、グリーンホロウの観光資源の要は「ダンジョン」と「温泉」の二本柱だ。
特に、疲れた冒険者や観光客にとって、一日の疲れを癒やす温泉は命の水と言っても過言ではない。
それが止まったとなれば、暴動が起きかねない。

「おかしいな。源泉のポンプは定期的にメンテナンスしてるはずだけど」

俺はエプロンを締め直し、立ち上がった。

「すぐに行きます。……ガレオス! ブレイド! 手が空いてたら来てくれ!」
「おう! ちょうど朝練が終わったところだ!」
「御意! 力仕事なら任せてくだされ!」

頼もしい肉体派の二人を引き連れ、俺は村の裏手にある源泉地帯へと向かった。

*   *   *

源泉小屋の中は、硫黄の匂いと湿気で充満していたが、肝心のお湯の勢いは見るからに弱かった。
かつてはドバドバと溢れ出ていたパイプから、今は水道の蛇口を半分ひねった程度のお湯しか出ていない。

「……ポンプの故障じゃないな」

俺はパイプに手を触れ、【修理】スキルの解析眼を発動させた。
金属の管を透視し、その先にある地面の中、さらに深い岩盤の奥へと意識を潜らせる。

「地下五十メートル……百メートル……。うん、配管は正常だ。問題はもっと奥、地脈(レイライン)そのものにある」

俺の脳内に、地下の断層図が浮かび上がった。
この辺りの地下には、熱せられた地下水が流れる「湯脈」と、大地の魔力が流れる「地脈」が交差するポイントがある。
それがグリーンホロウの豊富な温泉の源なのだが、その合流地点に何かが詰まっている反応があった。

「詰まってるな。それも、かなりデカい何かが」
「何かとは? 岩か?」

ブレイドが覗き込んでくる。

「いや、ただの岩じゃない。魔力反応がある。……おそらく、先日の地殻変動か、あるいはダンジョンの活性化の影響で、地下深層に眠っていた『アース・クリスタル』の巨塊がずれて、湯の通り道を塞いじまったんだ」

アース・クリスタル。
地属性の魔力が結晶化した鉱物で、硬度はダイヤモンド並みだ。
それが栓をするような形で、温泉の供給を止めてしまっている。

「どうするんだ? 掘るのか?」
「ああ。上からパイプを通すだけじゃ無理だ。直接現場まで行って、詰まりを解消するしかない」

俺は覚悟を決めた。
これは水道工事なんてレベルじゃない。
地底探検だ。

「ガレオス、出番だ。お前のドリル(魔槍・天穿のカスタムパーツ)で穴を掘れるか?」
「お任せを! 地の底だろうと、師匠の命ならば突き進むのみ!」
「よし。ブレイド、お前は護衛だ。地下には熱に強い魔物が住み着いている可能性がある」
「わかった。……暑いのは苦手なんだがな」

俺たちは準備を整え、源泉近くにある古い洞窟――かつて鉱山として使われていた廃坑の入り口へと向かった。
そこから地下深くへと潜り、問題のポイントを目指す作戦だ。

*   *   *

地下坑道は、蒸し風呂のような熱気に包まれていた。
深く潜るにつれて気温は上がり、壁からはシューシューと蒸気が噴き出している。

「あぢぃ……。サウナの中にいるみたいだ」

ブレイドが汗だくになりながら文句を言う。
彼は『耐熱コート(俺の手製)』を着ているが、それでも暑さは防ぎきれないようだ。
一方、ガレオスは平気な顔をしている。魔族特有の環境適応能力なのか、あるいは単に筋肉の鎧が厚いだけか。

「ここからは道がないぞ。ガレオス、頼む」
「フンッ!!」

ガレオスが魔槍を回転させ、岩盤に突き立てる。
ガガガガガッ!
凄まじい音と振動と共に、硬い岩が豆腐のように削り取られていく。
さすが元四天王、人間重機としての性能が高すぎる。

「出たぞ! 広い空間だ!」

穴を抜けると、そこは広大な地底湖のある空洞だった。
ただし、湖の水は煮えたぎっており、ボコボコと泡を立てている。
天井からは鍾乳石が垂れ下がり、壁には発光する苔が張り付いて幻想的な光景を作り出していた。

「綺麗だな……。でも、落ちたら一瞬で茹で上がるぞ」
「目的地はあの奥だ。湖の中心にある、あの巨大な岩陰」

俺が指差した先。
湖の中央に、不自然に盛り上がった島のような岩場があり、そこから強烈な魔力反応が感じられた。
あれが『アース・クリスタル』の塊だ。
あいつが地脈の噴出口を塞いでいるせいで、お湯が地上まで上がってこないのだ。

「どうやってあそこまで行く? 船なんてないぞ」
「飛ぶしかないな。……おっと、その前にお客さんだ」

ザバァッ!!

熱湯の湖が割れ、巨大な影が飛び出した。
『マグマ・タートル』。
甲羅が溶岩のように赤熱した、巨大な亀の魔物だ。
それが三体、俺たちの進路を塞ぐように現れた。

「グルルルゥ……!」
「お邪魔虫か。ブレイド、やれるか?」
「やるしかねぇだろ! 暑気払いには丁度いい!」

ブレイドが『星砕』を抜く。
黒い刀身が熱気を切り裂く。

「【星砕流・水鏡(みかがみ)】!」

ブレイドが放ったのは、水属性の魔力を纏わせた斬撃だった。
俺が剣に組み込んだ『属性変換機能』を使いこなしている。
斬撃がマグマ・タートルの甲羅に直撃すると、ジュワッ! と激しい蒸気が上がり、赤熱していた甲羅が急激に冷却されてヒビ割れた。

「硬い甲羅も、冷やせば脆くなる! 今だガレオス!」
「承知! 【魔槍・岩盤砕き】ッ!!」

ガレオスが跳躍し、ヒビの入った甲羅に槍を叩きつける。
ドゴォォォン!
甲羅が粉砕され、マグマ・タートルは悲鳴を上げて沈んでいった。

「ナイス連携。……さて、俺も仕事をするか」

俺は二人が戦っている間に、即席で作った『氷結の道』の上を滑り、湖の中央へと向かった。
ハンマーの柄に組み込んだ冷却ユニットを全開にし、足元の熱湯を一瞬だけ凍らせて足場にする荒技だ。

問題の岩場に到着する。
近くで見ると、それは岩というより、巨大な宝石の原石だった。
琥珀色に透き通った結晶体が、地面の裂け目にガッチリと嵌まり込んでいる。

「こいつか。……いい素材だな。耐熱ガラスや魔力レンズに使えそうだ」

俺は職業病で素材としての価値を査定しつつ、ハンマーを構えた。
ただ壊すだけじゃない。
この結晶を「加工」して、より効率的な「バルブ」に変えてやる。

「いくぞ! 【修理・開通】!」

カァァァンッ!!

俺の一撃が結晶の中心に炸裂した。
ピキッ、と亀裂が入る。
だが、それだけではない。俺の魔力が結晶内部に浸透し、その分子構造を書き換えていく。

「形を変えろ! 詰まりじゃなくて、通り道になるんだ!」

カァン! カァン! カァン!

俺が叩くたびに、巨大な結晶は形を変え、複雑なパイプのような形状へと変貌していく。
さらに、地面の裂け目(湯の出口)と連結し、湯量を調整するための巨大な「蛇口」としての機能を付与する。

ゴゴゴゴゴ……!

地響きが激しくなる。
抑え込まれていた圧力が行き場を求め、俺が作った新しい通り道へと殺到する。

「よし、開通!」

俺が最後の仕上げにバルブ(のような突起)を回すと、シュバァァァッ! と凄まじい勢いで熱湯と蒸気が噴き出した。
ただし、無秩序な噴出ではない。
俺が作ったパイプを通じ、計算された角度と圧力で、地上へと繋がるルートへ正確に送り出されていく。

「うおっ!? すげぇ勢いだ!」
「師匠、成功ですな!」

ブレイドとガレオスが歓声を上げる。
だが、俺はまだ満足していなかった。

「まだだ! せっかくここまで来たんだ。ただ元通りにするだけじゃつまらない!」

俺はハンマーを持ち直し、周囲の岩壁を叩いた。

「ここには色々な鉱脈がある。硫黄、鉄分、塩分、ラジウム……。これらを全部ブレンドして、地上に送ってやる!」

俺は地下の様々な成分を含んだ水脈を、強制的にメインのパイプに合流させた。
さらに、結晶の一部を砕いてフィルターにし、不純物を取り除きつつ、美容効果の高いミネラルだけを溶け込ませる。

「名付けて、『ルーク式・全自動泉質調整システム』! これで、蛇口一つで好きな温泉が楽しめるぞ!」

ドォォォォンッ!!!

地下空洞全体が震え、膨大な量の「特製ブレンド温泉」が地上へと駆け上がっていった。

*   *   *

地上、グリーンホロウ。
大浴場『憩いの湯』では、番頭のお爺さんが枯れかけた湯口を前に項垂れていた。

「ああ、もうおしまいじゃ……。ルーク様でも、地下の異変までは……」

その時だった。

ボッコン!!!

湯口から、爆発的な音と共に、黄金色のお湯がほとばしった。
それは以前の倍、いや十倍以上の勢いで浴槽を満たし、あっという間に溢れ出させた。

「うわぁぁっ!? な、なんじゃこりゃあ!」

しかも、ただのお湯ではない。
ある時は白濁した硫黄泉、ある時は透明な単純泉、そしてある時はシュワシュワと泡立つ炭酸泉。
時間帯や調整によって泉質が変わる、魔法のような温泉だ。

「す、すごい……! 肌がピリピリするほど精気がみなぎってくる!」
「腰の痛みが一瞬で消えたぞ!」

居合わせた客たちが狂喜乱舞する。
さらに、ホテルの方でも、各部屋の蛇口から極上の温泉が出るようになり、宿泊客からの称賛の嵐が巻き起こっていた。

「……ふぅ。戻ったぞ」

数時間後。
煤だらけになった俺たちが、廃坑から戻ってきた。
街は湯気に包まれ、硫黄と森の香りが混じった独特の匂いが漂っている。
まさに「温泉街」の風情だ。

「やったな、ルーク。これで文句なしだろ」
「ああ。むしろ出しすぎたくらいかもな」

俺たちは大浴場へと直行した。
一番風呂ならぬ、仕事上がりの風呂だ。
ガレオスが豪快に湯船に飛び込み、ザバーッと大量のお湯を溢れさせるが、今の豊富な湯量なら誰も文句は言わない。

「くぅ~っ! 働く男の体に染みるわい!」
「まったくだ。……あー、生き返る」

俺とブレイドは並んで湯に浸かり、天井を見上げた。
湯気抜き窓から見える空は青く、平和そのものだ。

「なぁ、ルーク」
「ん?」
「お前、また街を改造したな。これじゃあ『要塞都市』じゃなくて『温泉リゾート都市』だぞ」
「いいじゃないか。戦うための設備より、楽しむための設備の方が平和でいい」

俺はタオルを頭に乗せ、目を閉じた。
壊れたら直す。
足りなければ足す。
不便なら改良する。
俺のやっていることは、最初からずっと変わらない。
ただ、その規模が少し大きくなっただけだ。

「……さて、風呂上がりの牛乳でも飲みに行くか」
「賛成! 俺、フルーツ牛乳な!」

俺たちは湯船から上がり、腰にタオルを巻いて脱衣所へと向かった。
外では、噂を聞きつけた新たな観光客たちが、「ここが伝説の温泉街か!」と目を輝かせて行列を作っているのが見えた。

グリーンホロウは今日も進化し続ける。
俺のハンマーと、尽きないアイデアがある限り。

(第35話 終わり)

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