追放された『修理職人』、辺境の店が国宝級の聖地になる~万物を新品以上に直せるので、今さら戻ってこいと言われても予約で一杯です
第32話 帝国の最新兵器が暴走中。修理屋にとっては「動く宝の山」が向こうから来ただけです
「……なるほど。やはり、ただの時計じゃなかったわね」
グリーンホロウ領主館、通称『ルークの店』の奥にある魔導研究所。
薄暗い部屋の中で、賢者ソフィアが青白く光るモニター(俺が水晶板を改造して作った解析装置)を睨みつけていた。
俺、ルーク・ヴァルドマンは、差し入れのサンドイッチ片手に彼女の背中を覗き込んだ。
「何かわかったか? ソフィア」
「ええ。昨日のスパイが持っていた時計、その動力源の解析が終わったわ。……ルーク、これを見て」
ソフィアが指差した先には、複雑な魔力波形のグラフが表示されていた。
俺の【修理】スキルなら直感的に理解できるが、普通なら解読不能なノイズの塊だ。
「この波形、自然界のマナじゃない。人工的に圧縮・変質された『汚染マナ』よ。数千年前に滅びた古代魔法文明が、兵器の動力として使っていたものと酷似しているわ」
「汚染マナか。環境に悪いやつだな」
「ええ。出力は高いけれど、制御が難しくて暴走しやすい。……ガガン帝国は、どこかの遺跡からこれを掘り起こして、実用化しようとしているみたいね」
ソフィアは眼鏡の位置を直しながら、深刻な表情で告げた。
「昨日の時計は、まだ小物だったから制御できていた。でも、もし彼らがもっと大型の兵器にこれを搭載しようとしていたら……」
「大爆発するか、暴走して止まらなくなるか、だな」
俺はサンドイッチを飲み込み、肩をすくめた。
道具というのは、身の丈に合ったエネルギーを使ってこそ安定して動くものだ。
制御できない力(エンジン)を無理やり積んでも、事故る未来しか見えない。
「まあ、帝国が自滅する分には勝手にやってくれればいいが……」
その時だった。
ウウウウウウウッ!!
館内に、けたたましいサイレンが鳴り響いた。
これは俺が設置した『広域警戒システム』のアラームだ。
ただの魔物や盗賊ならガーゴイル・ドローンが自動処理するが、この音が鳴るということは、それ以上の「脅威」が接近していることを意味する。
「ルーク! 敵襲だ!」
ドアが勢いよく開き、警備隊の制服を着た勇者ブレイドが飛び込んできた。
「東の街道から、見たこともないデカい魔物が突っ込んできやがる! いや、魔物じゃない……あれは『鉄』だ!」
「鉄?」
「とにかく来てくれ! ガラハドさんたちが迎撃に出たが、様子がおかしいんだ!」
俺たちは研究所を飛び出し、城壁の上へと向かった。
* * *
グリーンホロウの東、広大な平原。
そこには、土煙を上げながら猛スピードで疾走してくる「巨大な影」があった。
「なんじゃあれは……。ドラゴンか? いや、全身が金属でできておる」
剣聖ガラハドが、城壁の上から双眼鏡(俺の特製)を覗き込み、眉をひそめている。
その隣には、建設作業を中断して駆けつけた元四天王ガレオスもいた。
「師匠! あれは我が軍(魔王軍)の兵器ではありませんぞ! あのような無粋で美しくない鉄塊、見たことがありませぬ!」
「どれどれ……」
俺は城壁の縁に手をかけ、【修理】スキルの解析眼を遠距離モードで発動させた。
視界がズームされ、土煙の向こうにある物体の詳細が浮かび上がる。
それは、全長三十メートルはあろうかという、巨大な『鉄の竜(アイアン・ドラゴン)』だった。
ただし、生き物ではない。
継ぎ接ぎだらけの装甲板、背中から噴き出す黒い排気ガス、そして赤く明滅する不気味なカメラアイ。
明らかに人工物だ。
「……ありゃあ、帝国の『新型兵器』だな」
俺はため息交じりに言った。
「古代遺跡から発掘した竜型の機動兵器を、無理やり修理して動かしてるみたいだ。動力源はさっき話してた『汚染マナ』の炉心。……でも、組み方が雑すぎる」
俺の目には、その鉄竜の全身から「エラー」の文字が噴き出しているのが見えた。
関節の駆動系からは悲鳴のような摩擦音が聞こえ、動力炉はオーバーヒート寸前。
制御回路は焼き切れ、今はただ「前進して全てを破壊する」という原始的な暴走プログラムだけで動いている。
「止まらないぞ! このままだと城壁に激突する!」
ブレイドが叫ぶ。
鉄竜の進路は、真っ直ぐグリーンホロウに向いている。
その巨体と質量で突っ込んでくれば、いくら俺の城壁でも無傷では済まないかもしれない。
何より、衝撃で中の炉心が爆発すれば、周囲一帯が汚染マナまみれになる。
「迎撃しますか? 『賢者の杖・改』の最大出力なら、蒸発させられるわよ」
ソフィアが杖を構え、クールに提案する。
だが、俺はそれを手で制した。
「待て。壊すのは勿体ない」
「え?」
「見ろよ、あの素材。外装は『アダマンタイト』、骨格は『ミスリル』、それに内部には『古代の演算ユニット』まで入ってる。……宝の山が走って来てるようなもんだぞ」
俺はニカッと笑った。
職人の血が騒ぐ。
あんな貴重なパーツの塊を、ただ爆破して鉄屑にするなんて、エコじゃないし、何より俺の美学に反する。
「回収するぞ。うちの新しい番犬(番竜)になってもらう」
「回収って……あんな暴走してる鉄の塊をどうやって!?」
「簡単だ。暴走してる原因(故障)を取り除けばいい」
俺は城壁の手すりに足をかけた。
「ブレイド、ガレオス! 俺をあいつの背中まで運んでくれ! ガラハドさんは足止めを頼む!」
「「了解!」」
「うむ、任せよ!」
俺たちは城壁から飛び降りた。
グリーンホロウ防衛戦、ならぬ『粗大ゴミ回収作戦』の開始だ。
* * *
ズズズズズズ……!
鉄竜の突進は、まさに動く災害だった。
地面を踏み砕き、邪魔な岩や木々をなぎ倒しながら迫ってくる。
その口からは、時折制御できない火花と蒸気が漏れ出し、不気味な咆哮を上げている。
「止まれぇぇッ!!」
正面に立ちはだかったのは、剣聖ガラハドだ。
彼は愛刀『蒼天の牙』を鞘に納めたまま腰を落とし、居合の構えを取った。
「【剣聖流・波濤(はとう)返し】!」
鉄竜がガラハドを踏み潰そうと前足を振り上げた瞬間、抜刀。
超高速の斬り上げが、鉄竜の足の裏に炸裂した。
斬るのではない。
巨大な質量の運動エネルギーを、剣の腹で受け流し、そのまま上空へと逸らす神業。
ガギィィィン!!
「グオォォォ!?」(機械音)
鉄竜の巨体が、自身の勢いを利用されて宙に浮く。
バランスを崩し、無防備な背中を晒した。
「今だ! 行くぞルーク!」
「おう!」
ブレイドが俺の手を掴み、ガレオスがブレイドの足を掴む。
「ぬんッ!!」
ガレオスの剛腕が唸りを上げ、俺たち二人を鉄竜の背中に向かって投擲した。
人間砲弾だ。
風圧で顔が歪むが、そんなことを気にしている余裕はない。
「とぉっ!」
俺とブレイドは、空中で体勢を整え、鉄竜の背中に着地した。
熱い。
排熱が上手くいっていないせいで、装甲板の上は鉄板焼きのような高温になっている。
「あちちっ! おいルーク、早くしてくれ! 靴底が溶ける!」
「わかってる! 護衛頼んだぞ!」
俺はハンマーを構え、鉄竜の首の付け根――制御ユニットがある場所へと走った。
だが、鉄竜もただの置物ではない。
背中に異物が乗ったことを感知し、自動防衛システムが作動する。
ウィィィン……。
背中の装甲が開き、小型の機銃や迎撃アームが出現した。
「排除、排除、排除……」(無機質な音声)
「ちっ、やっぱり罠付きか!」
「やらせるかよ!」
ブレイドが前に出る。
彼の愛剣『星砕』が閃き、迫りくるアームを次々と叩き斬る。
「ルーク! 行け! 俺が道を開ける!」
「助かる!」
ブレイドが機銃の弾幕を弾き返している間に、俺は目標地点に到達した。
そこには、分厚い装甲に守られたハッチがあり、その下で赤い光が激しく明滅していた。
「ここが急所だな。……開け、ゴマ!」
カァン!
俺はハンマーでハッチの留め具(電子ロック)を一撃。
【修理・解錠】。
鋼鉄の扉が紙のように捲れ上がり、内部の回路が露わになった。
そこには、ソフィアの言っていた通り、ドス黒い光を放つ『汚染マナ』の炉心と、それに侵食されてスパークしている古代の演算水晶があった。
「うわぁ……ひどい配線。これじゃショートして当然だ」
帝国の技術者たちは、古代のパーツを無理やり現代の規格に合わせようとして、タコ足配線のような無茶な接続をしていた。
機械が可哀想になるレベルだ。
鉄竜が暴走しているのは、破壊衝動というより、「苦しい、熱い、助けてくれ」と暴れているように俺には見えた。
「痛かったな。楽にしてやるよ」
俺はハンマーを振り上げた。
破壊するんじゃない。
あるべき姿に戻す。
「【修理・最適化(チューニング)】!!」
ドゴォォォォンッ!!
俺の一撃が炉心に炸裂した。
衝撃と共に、黒い汚染マナが霧散し、代わりに俺の純粋な魔力が回路へと流れ込む。
焼き切れていた配線を再結合し、ボトルネックになっていた変換器をバイパス。
さらに、無駄に排熱していたエネルギーを循環システムに回し、冷却効率を一気に向上させる。
シュゥゥゥ……。
鉄竜の全身から、白い蒸気が吹き出した。
それは暴走の煙ではなく、正常な冷却プロセスが働いた証拠だ。
赤く点滅していたカメラアイが、一度消え、そして穏やかな青色に再点灯した。
『システム、再起動……。エラー要因、排除確認。……コマンドヲ待機シマス』
鉄竜の動きが止まった。
暴れ回っていた手足が静止し、その巨体はおとなしく地面に伏せた。
「……ふぅ。一丁上がり」
俺は額の汗を拭い、ブレイドに向かって親指を立てた。
「終わったぞ。回収完了だ」
「はぁ、はぁ……。お前、本当に無茶苦茶だな……」
ブレイドはその場に座り込み、呆れたように笑った。
だが、その顔には達成感があった。
* * *
グリーンホロウの村(都市)に、新たな仲間が加わった。
全長三十メートルの機動兵器、『鉄竜(アイアン・ドラゴン)』改め、愛称『クロ』だ(ボディが黒光りするアダマンタイト製だから)。
「お手!」
ズドン。
「伏せ!」
ズシィン。
村の広場で、俺の号令に合わせて巨大な鉄竜が芸を披露するたびに、村人や観光客から大歓声が上がる。
かつては帝国の殺戮兵器として作られた彼も、今ではすっかり村のアイドル兼、重機代わりの働き者だ。
「……信じられん。あの暴走兵器を手懐けるとは」
「さすがルーク様だ……」
人だかりの中には、お忍びで様子を見に来ていた帝国のスパイらしき人物も混じっていたが、顔面蒼白でメモを取っていた。
まあ、いい宣伝になるだろう。
「しかし、いい素材だったな。装甲の余りで作ったこのフライパン、熱伝導率が最高だ」
俺は回収したパーツの余りで試作した調理器具を眺め、満足げに頷いた。
「ルーク。お前、あのドラゴンの背中で『可哀想に』って言ってたな」
横にいたブレイドが、サンドイッチを食べながら言った。
「ああ。道具に罪はないからな。使う人間がダメだと、道具まで悪者になっちまう。……お前の聖剣と一緒さ」
「……痛いとこ突くな」
ブレイドは苦笑したが、その目は優しかった。
彼は今、新しい相棒である『星砕』を大切に手入れしている。
もう二度と、道具を泣かせるような使い方はしないだろう。
「さて、と。クロのメンテナンスも終わったし、次は温泉のポンプ増設だな」
俺は立ち上がり、エプロンを締め直した。
帝国の脅威?
そんなものより、今日のお客さんの依頼の方が大事だ。
「いらっしゃいませー! 修理屋ルーク、開店ですよー!」
平和な街に、今日も俺の声と、ハンマーの音が響き渡る。
どんなトラブルが来ようとも、俺たちがいる限り、この街は今日も「新品以上」に輝き続けるのだ。
(第32話 終わり)
グリーンホロウ領主館、通称『ルークの店』の奥にある魔導研究所。
薄暗い部屋の中で、賢者ソフィアが青白く光るモニター(俺が水晶板を改造して作った解析装置)を睨みつけていた。
俺、ルーク・ヴァルドマンは、差し入れのサンドイッチ片手に彼女の背中を覗き込んだ。
「何かわかったか? ソフィア」
「ええ。昨日のスパイが持っていた時計、その動力源の解析が終わったわ。……ルーク、これを見て」
ソフィアが指差した先には、複雑な魔力波形のグラフが表示されていた。
俺の【修理】スキルなら直感的に理解できるが、普通なら解読不能なノイズの塊だ。
「この波形、自然界のマナじゃない。人工的に圧縮・変質された『汚染マナ』よ。数千年前に滅びた古代魔法文明が、兵器の動力として使っていたものと酷似しているわ」
「汚染マナか。環境に悪いやつだな」
「ええ。出力は高いけれど、制御が難しくて暴走しやすい。……ガガン帝国は、どこかの遺跡からこれを掘り起こして、実用化しようとしているみたいね」
ソフィアは眼鏡の位置を直しながら、深刻な表情で告げた。
「昨日の時計は、まだ小物だったから制御できていた。でも、もし彼らがもっと大型の兵器にこれを搭載しようとしていたら……」
「大爆発するか、暴走して止まらなくなるか、だな」
俺はサンドイッチを飲み込み、肩をすくめた。
道具というのは、身の丈に合ったエネルギーを使ってこそ安定して動くものだ。
制御できない力(エンジン)を無理やり積んでも、事故る未来しか見えない。
「まあ、帝国が自滅する分には勝手にやってくれればいいが……」
その時だった。
ウウウウウウウッ!!
館内に、けたたましいサイレンが鳴り響いた。
これは俺が設置した『広域警戒システム』のアラームだ。
ただの魔物や盗賊ならガーゴイル・ドローンが自動処理するが、この音が鳴るということは、それ以上の「脅威」が接近していることを意味する。
「ルーク! 敵襲だ!」
ドアが勢いよく開き、警備隊の制服を着た勇者ブレイドが飛び込んできた。
「東の街道から、見たこともないデカい魔物が突っ込んできやがる! いや、魔物じゃない……あれは『鉄』だ!」
「鉄?」
「とにかく来てくれ! ガラハドさんたちが迎撃に出たが、様子がおかしいんだ!」
俺たちは研究所を飛び出し、城壁の上へと向かった。
* * *
グリーンホロウの東、広大な平原。
そこには、土煙を上げながら猛スピードで疾走してくる「巨大な影」があった。
「なんじゃあれは……。ドラゴンか? いや、全身が金属でできておる」
剣聖ガラハドが、城壁の上から双眼鏡(俺の特製)を覗き込み、眉をひそめている。
その隣には、建設作業を中断して駆けつけた元四天王ガレオスもいた。
「師匠! あれは我が軍(魔王軍)の兵器ではありませんぞ! あのような無粋で美しくない鉄塊、見たことがありませぬ!」
「どれどれ……」
俺は城壁の縁に手をかけ、【修理】スキルの解析眼を遠距離モードで発動させた。
視界がズームされ、土煙の向こうにある物体の詳細が浮かび上がる。
それは、全長三十メートルはあろうかという、巨大な『鉄の竜(アイアン・ドラゴン)』だった。
ただし、生き物ではない。
継ぎ接ぎだらけの装甲板、背中から噴き出す黒い排気ガス、そして赤く明滅する不気味なカメラアイ。
明らかに人工物だ。
「……ありゃあ、帝国の『新型兵器』だな」
俺はため息交じりに言った。
「古代遺跡から発掘した竜型の機動兵器を、無理やり修理して動かしてるみたいだ。動力源はさっき話してた『汚染マナ』の炉心。……でも、組み方が雑すぎる」
俺の目には、その鉄竜の全身から「エラー」の文字が噴き出しているのが見えた。
関節の駆動系からは悲鳴のような摩擦音が聞こえ、動力炉はオーバーヒート寸前。
制御回路は焼き切れ、今はただ「前進して全てを破壊する」という原始的な暴走プログラムだけで動いている。
「止まらないぞ! このままだと城壁に激突する!」
ブレイドが叫ぶ。
鉄竜の進路は、真っ直ぐグリーンホロウに向いている。
その巨体と質量で突っ込んでくれば、いくら俺の城壁でも無傷では済まないかもしれない。
何より、衝撃で中の炉心が爆発すれば、周囲一帯が汚染マナまみれになる。
「迎撃しますか? 『賢者の杖・改』の最大出力なら、蒸発させられるわよ」
ソフィアが杖を構え、クールに提案する。
だが、俺はそれを手で制した。
「待て。壊すのは勿体ない」
「え?」
「見ろよ、あの素材。外装は『アダマンタイト』、骨格は『ミスリル』、それに内部には『古代の演算ユニット』まで入ってる。……宝の山が走って来てるようなもんだぞ」
俺はニカッと笑った。
職人の血が騒ぐ。
あんな貴重なパーツの塊を、ただ爆破して鉄屑にするなんて、エコじゃないし、何より俺の美学に反する。
「回収するぞ。うちの新しい番犬(番竜)になってもらう」
「回収って……あんな暴走してる鉄の塊をどうやって!?」
「簡単だ。暴走してる原因(故障)を取り除けばいい」
俺は城壁の手すりに足をかけた。
「ブレイド、ガレオス! 俺をあいつの背中まで運んでくれ! ガラハドさんは足止めを頼む!」
「「了解!」」
「うむ、任せよ!」
俺たちは城壁から飛び降りた。
グリーンホロウ防衛戦、ならぬ『粗大ゴミ回収作戦』の開始だ。
* * *
ズズズズズズ……!
鉄竜の突進は、まさに動く災害だった。
地面を踏み砕き、邪魔な岩や木々をなぎ倒しながら迫ってくる。
その口からは、時折制御できない火花と蒸気が漏れ出し、不気味な咆哮を上げている。
「止まれぇぇッ!!」
正面に立ちはだかったのは、剣聖ガラハドだ。
彼は愛刀『蒼天の牙』を鞘に納めたまま腰を落とし、居合の構えを取った。
「【剣聖流・波濤(はとう)返し】!」
鉄竜がガラハドを踏み潰そうと前足を振り上げた瞬間、抜刀。
超高速の斬り上げが、鉄竜の足の裏に炸裂した。
斬るのではない。
巨大な質量の運動エネルギーを、剣の腹で受け流し、そのまま上空へと逸らす神業。
ガギィィィン!!
「グオォォォ!?」(機械音)
鉄竜の巨体が、自身の勢いを利用されて宙に浮く。
バランスを崩し、無防備な背中を晒した。
「今だ! 行くぞルーク!」
「おう!」
ブレイドが俺の手を掴み、ガレオスがブレイドの足を掴む。
「ぬんッ!!」
ガレオスの剛腕が唸りを上げ、俺たち二人を鉄竜の背中に向かって投擲した。
人間砲弾だ。
風圧で顔が歪むが、そんなことを気にしている余裕はない。
「とぉっ!」
俺とブレイドは、空中で体勢を整え、鉄竜の背中に着地した。
熱い。
排熱が上手くいっていないせいで、装甲板の上は鉄板焼きのような高温になっている。
「あちちっ! おいルーク、早くしてくれ! 靴底が溶ける!」
「わかってる! 護衛頼んだぞ!」
俺はハンマーを構え、鉄竜の首の付け根――制御ユニットがある場所へと走った。
だが、鉄竜もただの置物ではない。
背中に異物が乗ったことを感知し、自動防衛システムが作動する。
ウィィィン……。
背中の装甲が開き、小型の機銃や迎撃アームが出現した。
「排除、排除、排除……」(無機質な音声)
「ちっ、やっぱり罠付きか!」
「やらせるかよ!」
ブレイドが前に出る。
彼の愛剣『星砕』が閃き、迫りくるアームを次々と叩き斬る。
「ルーク! 行け! 俺が道を開ける!」
「助かる!」
ブレイドが機銃の弾幕を弾き返している間に、俺は目標地点に到達した。
そこには、分厚い装甲に守られたハッチがあり、その下で赤い光が激しく明滅していた。
「ここが急所だな。……開け、ゴマ!」
カァン!
俺はハンマーでハッチの留め具(電子ロック)を一撃。
【修理・解錠】。
鋼鉄の扉が紙のように捲れ上がり、内部の回路が露わになった。
そこには、ソフィアの言っていた通り、ドス黒い光を放つ『汚染マナ』の炉心と、それに侵食されてスパークしている古代の演算水晶があった。
「うわぁ……ひどい配線。これじゃショートして当然だ」
帝国の技術者たちは、古代のパーツを無理やり現代の規格に合わせようとして、タコ足配線のような無茶な接続をしていた。
機械が可哀想になるレベルだ。
鉄竜が暴走しているのは、破壊衝動というより、「苦しい、熱い、助けてくれ」と暴れているように俺には見えた。
「痛かったな。楽にしてやるよ」
俺はハンマーを振り上げた。
破壊するんじゃない。
あるべき姿に戻す。
「【修理・最適化(チューニング)】!!」
ドゴォォォォンッ!!
俺の一撃が炉心に炸裂した。
衝撃と共に、黒い汚染マナが霧散し、代わりに俺の純粋な魔力が回路へと流れ込む。
焼き切れていた配線を再結合し、ボトルネックになっていた変換器をバイパス。
さらに、無駄に排熱していたエネルギーを循環システムに回し、冷却効率を一気に向上させる。
シュゥゥゥ……。
鉄竜の全身から、白い蒸気が吹き出した。
それは暴走の煙ではなく、正常な冷却プロセスが働いた証拠だ。
赤く点滅していたカメラアイが、一度消え、そして穏やかな青色に再点灯した。
『システム、再起動……。エラー要因、排除確認。……コマンドヲ待機シマス』
鉄竜の動きが止まった。
暴れ回っていた手足が静止し、その巨体はおとなしく地面に伏せた。
「……ふぅ。一丁上がり」
俺は額の汗を拭い、ブレイドに向かって親指を立てた。
「終わったぞ。回収完了だ」
「はぁ、はぁ……。お前、本当に無茶苦茶だな……」
ブレイドはその場に座り込み、呆れたように笑った。
だが、その顔には達成感があった。
* * *
グリーンホロウの村(都市)に、新たな仲間が加わった。
全長三十メートルの機動兵器、『鉄竜(アイアン・ドラゴン)』改め、愛称『クロ』だ(ボディが黒光りするアダマンタイト製だから)。
「お手!」
ズドン。
「伏せ!」
ズシィン。
村の広場で、俺の号令に合わせて巨大な鉄竜が芸を披露するたびに、村人や観光客から大歓声が上がる。
かつては帝国の殺戮兵器として作られた彼も、今ではすっかり村のアイドル兼、重機代わりの働き者だ。
「……信じられん。あの暴走兵器を手懐けるとは」
「さすがルーク様だ……」
人だかりの中には、お忍びで様子を見に来ていた帝国のスパイらしき人物も混じっていたが、顔面蒼白でメモを取っていた。
まあ、いい宣伝になるだろう。
「しかし、いい素材だったな。装甲の余りで作ったこのフライパン、熱伝導率が最高だ」
俺は回収したパーツの余りで試作した調理器具を眺め、満足げに頷いた。
「ルーク。お前、あのドラゴンの背中で『可哀想に』って言ってたな」
横にいたブレイドが、サンドイッチを食べながら言った。
「ああ。道具に罪はないからな。使う人間がダメだと、道具まで悪者になっちまう。……お前の聖剣と一緒さ」
「……痛いとこ突くな」
ブレイドは苦笑したが、その目は優しかった。
彼は今、新しい相棒である『星砕』を大切に手入れしている。
もう二度と、道具を泣かせるような使い方はしないだろう。
「さて、と。クロのメンテナンスも終わったし、次は温泉のポンプ増設だな」
俺は立ち上がり、エプロンを締め直した。
帝国の脅威?
そんなものより、今日のお客さんの依頼の方が大事だ。
「いらっしゃいませー! 修理屋ルーク、開店ですよー!」
平和な街に、今日も俺の声と、ハンマーの音が響き渡る。
どんなトラブルが来ようとも、俺たちがいる限り、この街は今日も「新品以上」に輝き続けるのだ。
(第32話 終わり)
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