理系のオカルト研

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検証〜呪物カフェ〜

理系のオカルト研・精霊研
YouTubeLIVE
              

検証場所
都内某所の呪物カフェ

3人はそれぞれ別々の持ち場で検証する。

イノスケは更にアップデートしてきた
「Voyager 百式」を用意している。
42ヶ国の言語対応。
そこにスピリットボックス機能を搭載した
新型機。
声真似機能でAIが霊に話しかけてくれる。
とてもバイリンガルなVoyager百式。
「まだだ!まだ終わらんよ!」
 (クワトロ・バジーナw)
 (みんな知らないってw)

サトは開発中の自作のスピボ、プロトタイプ。
赤い彗星を思わせる真っ赤なフォルム。
方角を意識した作りに、人には聞こえない微量な音の波を拾う新機能を搭載している。
「フッ‥話せなければどうという事はない」
(シャアみたいに言ったw)
(自虐w自分を責めないで)

トウマはAmazonで購入した
スピリットボックス。
「絶対無事故。ご安全に!」
(ご安全に)
(ご安全に)


凄まじい数のコメントが流れている。
統制の取れたその一コマで、トウマの底知れぬカリスマ性がうかがえる。



■ 閉店後のカフェ

深夜1時。
シャッターを下ろした呪物カフェ。

照明は落とされ、
カウンターと展示棚だけが
間接照明で浮かび上がって見える。

ガラスケースの中には、
•髪の毛が伸び続ける市松人形
•由来不明の鍵のない金属製の箱
•焦げ跡のあるデスマスク

サトはマジマジと視ている。
値札はあるが、説明がない。

「決して触らないでください。見るだけなら問題ありませんので」

店主はそれだけ言い残して店を出た。

外からドアの鍵がかかる音。

呪物だから、もちろん曰くしかないのだが、数々の現象をおさらいする。

・いくつも置いてある人形の中で、一つ電磁波に異常な反応する人形がいる。
・明らかに体温を持っている人形がいる。
・台湾などで有名な話。拾うと冥婚の約束をしてしまう呪われた赤い封筒。
・ちゃんと閉じたはずの、スタッフオンリーと書かれた扉がいつも勝手に開く。
・2階に続く階段から、登り降りする足音が頻繁に聞こえる。


店長からは伺ってる内容は以上だった。
せっかくの呪物。
現象が起きてほしい気持ちは捨てきれない。
店長の本音は分からない。
だが、実害があるなら狩るとしよう。



コラボ企画というだけあって、視聴者はすでに10,000人を超えていた。


トウマさんの配信は、基本誰かしらの肝試しについていくというスタイルだ。
たまにやるソロキャン検証も面白い。

それが人気となり、新人心霊系YouTuberが
コラボしたい配信者1位に選んでいる。

若者の登龍門として認知度も高く、リケオカが今まで知らなかった事の方が驚きだ。


■ 検証ポイント

◆ イノスケのターン 一階 

カウンター席の上にテレビ画面が設置され、テーブル席から座って見られる。
音声も含め2階の状況を、リアルタイムで確認できる仕様だ。

一階にある呪物は、主に海外の人形や曰くつきの赤い封筒、首を吊った人が浮かび上がる絵画など、どこかで聞いたことある呪物も展示されていた。

「Voyager 百式 起動!」

液晶の見慣れない文字が、いつもと違う雰囲気をかもし出す。
《MULTI-LINGUAL MODE : ON》
《MIMIC VOICE : AUTO》

イノスケがご挨拶。

「リケオカのイノスケいいます。いま、誰か、
ここにおられます?」

百式が、声真似して再生する。

低周波を纏ったその声は、闇のなかに佇むものの声を拾っていた。

『ザザァ……コン、バンハ……』

声がした瞬間にVoyagerが異常を検知する。

「返事あると嬉しいわ。マッチングアプリみたいやん」

急激な温度変化が見られた。

ピーーーー!と鳴り止まないVoyagerに、
リスナーたちも驚いた。
コメントすることで恐怖を抑えている。

(何が起きた?大丈夫なのか?)
(こんばんはって聞こえた)
(いまマッチングアプリって言ったw)



ずらりと並ぶ人形の中で、やはり一体にだけ表面温度に変化が見られた。
サーモメーターは一気に3℃低下したことを示している。

何か聞こえる

Voyager:『……… OOK……』

ん?

Voyager:『……LOOK……』


「……なんで英語やねんΣ੧(❛□❛✿)」




◆ サトのターン 階段と廊下

サト専用スピリットボックスを起動。

電飾の流れがエネルギーの流れを連想させる。

「ゆっくりしていってね」と声と共に、
「ガガ‥‥ピッ、‥‥」電源が入る。
小型で無骨。
アンテナが四方向に張り出している。

コンパスをスピリットボックスにセットすると、北に微細な反応があることを示している。
そして人には聞こえない音域を拾う。

波形は、明らかに“声の形”を描いていた。

数秒遅れて、可聴域に落とされた一語。

『……ココ、アケテ……』


コメント欄のレスが早くなる。
(なんか聞こえた)
(開けて?みたいな女の子の声)
(さすがに開けられないだろ)
(明らかなミスリード)


展示ケースだろうか。
悪霊退散と書かれたお札が扉に貼られている。


ガタガタッ!と数センチ開閉しているのを目の当たりにして、サトは武者震いしていた。



最優先は目の前の現象を正確に把握すること。

大丈夫。サトは冷静だ。




ズガン!!


思い切り扉を開ける。


(wwwwwww)
(開けるんかーい)
(やっぱり開けたw)
(躊躇ないんか)
(お札貼った人に謝れw)



◆ トウマのターン 2階 日本の呪物

汎用型スピリットボックス(Amazonで購入)
もう一つは、電磁波測定器トリフィールド。


ノイズが荒いがリズムは安定している。
スピボは相性測定器に過ぎないと思っている。
今もその気持ちは変わらない。

見渡すと、日本人形や懐かしいぬいぐるみ。

何度捨てようが、翌日には手元に戻ってくる
不思議な玩具か‥‥実に興味深い。

特に変な感じはしない。

リスナーの方を向き、トウマは唇に人差し指を当てた。
目を閉じて何かを聞いている。



おもむろにスピボを起動する。

「ここの中でいま、喋りたい方はいますか?」

『ザザ……ピッ……コッチ、キテ……』

店長から開けないでと言われた奥の扉。
その扉のドアノブがゆっくりと回り始める。
(え?)
(開いてる!)
(後ろ!後ろ!)


ギィ……ィィィィ

ドアが、ひとりでに開く。
まるで歓迎されてるみたいに。

凄まじい勢いでコメントが流れていく。
リスナーも狂喜乱舞している。

部屋の中はまさに漆黒。

闇が深く先が見えない。

しかしトウマは臆することなく近づいて行く。


リケオカの2人が合流した。

インカムが混線?不具合?

「……サトさん、今どこにいます?」
トウマからだ。

トウマの声が、微妙に遅れて届いた。

壁や天井ではない。
音の“高さ”そのものがズレている。

サトは眉をひそめる。
「階段踊り場です。北側の」

おかしい。
トウマさんの声が“真上”から聞こえる。
3階は無い。

「いのさん、この気配ってもしかして」
「驚きやな‥‥あの人普通に幽界行けるんや」
「トウマさんらしいけど」




今、Voyagerのまわりには誰もいない。

その場にいる観測者は、
画面の向こう側――リスナーたちだけだった。

いのさんからコメントが流れる。
(幽界に入るので、観測お願いしまーす)



異変はすぐに起こった。

Voyager 百式の液晶が一瞬ブラックアウトし、再起動を始める。

《MULTI-LINGUAL MODE : ERROR》
《MIMIC VOICE : MANUAL》

百式が、勝手に再生を始めた。

『……LOOK……UP……』





――2階の床下から、何かが這う音。
ズルズル‥‥ズルズル‥ピチャ‥




視聴者数:10,482 → 11,300 → 12,900

異常な増え方。

コメントのログがおかしい。

(今、画面揺れた?)
(トウマさん、後ろ)
(誰か立ってる)
(え、リケオカじゃないの?)

更に海外コメントが急増する。

WHO IS SPEAKING
THERE ARE TOO MANY VOICES
THAT IS NOT A FILTER

Voyager 百式が、また異音と共に反応する。

サーモグラフに人型ではない冷却痕が映る。
そこは展示棚の奥――
値札だけが付いた、何も置かれていない空間。

百式:
『……NOT……ALONE……』




■ 再びトウマ

無意識に開いた扉。

漆黒の闇につつまれたその部屋は、この世のものと思えない程よどんでいた。

‥‥コホッ‥‥

真後ろから男性と思われる咳払いがする。

トウマは振り返っても、見えないことは分かっている。
振り返ることなく、トウマは言う。

「あなたもそうだ。楽しんでる」

トウマのカメラは5秒ほど遅延が発生中。

そのまま扉の中に入っていくトウマ。
店長に開けてはダメと言われた扉。


スピボを付ければ、会話が始まる。

しかし、トウマはあえて使わなかった。

「そろそろ2人の実力を見せてください」

■いの検証

1階ではイノスケがVoyagerの設定を変えていた。
ふと、玄関の窓ガラスが叩かれる音がした。

コンコン‥‥

時計を見ると深夜2時半。
お客さんのはずがないことは分かっていたが、音の発生源を特定したい。

コンコン‥‥

「ミスリードやな。音は内側から鳴りよった。
外ばっかり見てんと、自分の中の本質を見ろってか」

視界の中心から少しずらして視る感覚。
魂がゾクゾクと震えた。
幽界に入った時に感じた静寂感。

まわりをじっくりと視てまわる。

イノスケは仮説を立てる。

ほんまもんの呪いは別や。
せやけど――
人が語って、信じて、共有した瞬間に、
呪いとしての役目は終わる。その後はそのまま人に宿ると思うんや。
お店経営なら看板娘ならぬ、看板霊になってるんとちゃうかな。

ふっふっふっ
なるほど、分かってしまったかもしれへん。



■ サトの検証

サト専用機のアンテナを最大展開する。

「……方向がズレたか」

方位磁石が、北を指さない。
針は、階段の“途中”を示している。

そこには、本来何もない。
磁場が狂ってる。
試しにトリフィールドを付けてみる。
いきなり針が振り切り"ビーーー!"っと、
けたたましい音が響き渡る。

波形は“声の形”を結び始めていたことを
サトは見過ごしてはいなかった。

可聴化。聴け。

『……カ・エ・レ……』

低い声。
複数。
子どもとも、大人ともつかない。

その直後。
トン、トン、トン‥と階段を駆け上がってくる音。
いのさんが来たと思い、サトは道を開けた。

階段の途中で、足音が止まった。

そこを見る。

……誰も、いない。

いや、何かいる。
踏み板が一段だけが確かに沈んでいる。

「視界の中心からズラして誘う」

ぼんやりと黒い影が揺らいでいる。

幽界の門が徐々に開いていく感覚。
血が逆流していると思う程の身震い。
時が止まってると間違うほどに静寂。



普通の配信者なら大声をあげて逃げ出してる。

コメント欄は"逃げて"というリスナーからのレスで溢れていた。

「いたら音を鳴らしてもらえますか?と言って、人がいたら大変だからね」


階段に立つ霊は、サトとリスナーのやり取りをじっと見ている。


無線からイノスケの声がする。

「なぁ、サトさん。
店主さん、戻ってきたんとちゃう?」

サトが即答する。
「いや…気配が違うな」

「サトさんはいま、何しよるん?」

「目の前に生意気な霊がいてさ、目を逸らさないんだよ。
先に逸らしたら負けな感じがして、動けねぇ」

あーはっはっは!
トウマが大爆笑しながら降りてきた。

「サトさん、ほんと面白いな。
霊を霊として扱ってないとこが最高ですね」

「そんな褒めんといてください」

「褒められてるのか?今の」

3人は、何事もなかったかのように笑いながら1階に集まった。




「そろそろ終わりにしましょうかー」


「今回は原因を突き止めて解決するんやなくて、一緒に検証するのが目的ってことやし」

「それぞれの考えのすり合わせをしないとな。
何か見えてくるかも知れないし」


配信を終わらせるためのエンディングの準備をしてリスナーに御礼を伝える。
また次回、検証結果を3人で伝えると約束して配信を終えた。




■ 後日談(配信から三日後)

アーカイブ視聴共有枠


トウマのチャンネルで、珍しく告知なしのアーカイブ同時視聴枠が立った。


【検証】呪物カフェにて

サムネも配信当時のまま、派手な煽りは一切ない。
開始5分で、視聴者はすでに3,000人を超えていた。


「皆さん、こんばんは。総括のお時間です」

トウマはいつもの調子で言う。

「先日の配信、見て頂けましたでしょうか。
配信中、回線不具合や遅延が多かったでしょ。
アーカイブ化の過程で“不可思議なところ”があるって連絡が来まして」

コメントがざわつく。



■ 問題の箇所

再生位置は、深夜2時17分。

トウマが2階の「開けるなと言われた扉」に近づく直前だ。

「ここ、リアルタイムだとノイズで分からなかったんですが」

トウマが一時停止する。

画面右下。
コメント欄とは別に字幕ログが表示されていた。

本来なら存在しないものだ。

[AUTO CAPTION]
“DO NOT LOOK AT US
WE ARE ALREADY WATCHING ”
(え??)
(英語字幕)
(自動生成にしても誰か喋ってないと)

トウマは淡々と続ける。
「そう!この字幕、YouTube側の自動生成じゃありません。音声データに“誰かの声”が含まれてないと出ないんです」





画面が切り替わる。

通常のマイク音声とは別に、
もう一本、低い周波数の波形が重なっている。

「僕、実はこん時の記憶がないんです」

トウマは笑った。

「咳払いの音が入ったタイミングと一致してますよね」

コメントが一気に荒れる。

(咳、してたよな)
(後ろからしたやつ)
(人の声じゃないってこと?)



さらに映像が進む。

トウマが扉の中へ入る、あの瞬間。

リアルタイムでは「5秒遅延」だったはず。
アーカイブでは12秒遅れていた。

そして――

扉が閉まる直前、フレームの端に何かが映り込んでいる。

人の形に近い。
頭の位置が異様に低いように見える。

(今、いた?)
(しゃがんでない?)
(床から生えてる感じ)

トウマは一時停止せずに再生を続けた。


三人が1階に合流するシーン。

笑い声。
雑談。
エンディング。

その裏で、音量を最大にする。
ノイズを除去。

『……ミンナ……ミテル……』

サトのスピリットボックスとも、イノスケのVoyager百式とも違う。

配信に使っていないマイクからだ。




トウマはここで画面を切り替える。

ここで、いのさんとのDM履歴を紹介する。

イノスケ:なぁトウマさん。アーカイブの途中から何か変やないですか?

トウマ:何がです?

いの:展示棚の奥のスペースに誰かおらん?


履歴画面から一階のかめらに視線を戻す。

トウマが言う。

「この場面、1階にいたのは‥‥」

指を折る。

「私、サトさん、いのさん。あと‥‥」

一呼吸置いて、続ける。

「展示物だけです」

画面が止まる。展示棚。値札だけの空間。


アーカイブを見ると、そこに“影”が一つ増えているように見える。

そこで映像は終わった。


ここで第1部が終了。

2部はそれぞれの検証結果を、みんなで発表する場だ。


■ 第2部 検証結果 共有枠(アーカイブ映像)

画面が切り替わる。

いつもの雑談配信と同じレイアウト。
だが、BGMは入っていない。

「ここからは各自の検証結果を共有します」

トウマが言う。

「怖がらせる意図はないです。あくまでこの時間は“事実確認”です。では理系さんからお願いします」



■ サトの検証報告

サトはマイクを持って白板の前に立った。

「音声について考察します。手元の資料、3ページをご覧ください」

サトはスライドを切り替える。

・使用マイク:3本
・環境音収録用:1本
・未使用入力チャンネル:1系統
・物理的接続なし(ソフト上のみ存在)
 未接続マイク:0本(配信に使っていないマイク)

「問題の低周波音声、どのマイクにも該当しませんでした」

波形が表示される。

「しかも、人の声帯の周波数帯から外れてる。
“声に似た音”ではあるけど、発声原因が特定できない」

コメントが流れる。

(じゃあ何の音?)
(機械?)
(環境音?)

サトは首を振り、コメントに答える形で話を進める。

「俺も最初に環境音を疑った。ならば連続性があるはず。しかしその低周波にはそれが無い。
これは明らかに“意図的に"区切られてる」

「意図的に?」
トウマが反応する。

気持ち的には全部トウマに向けての問いかけであったので、その反応は正直嬉しい。
たぶんトウマさんなら気づいてるはず。そんな想いがサトにはあった。



「そう。途中で場の空気が変わったんだ。
まるでこの世からあの世に移ったかと思うほどにね」

そう言い終わると、サトはトウマを見て微笑んだ。

トウマは微かに笑った。


■ イノスケの検証報告

「なんや笑このキャプテン翼感。翼くんと岬くんやないかい笑」
笑いながら報告を話し始めた。

「まず、この映像を見てもらいたいんや」

問題の展示棚のシーンを拡大する。

「これ、何に見えます?」

一瞬、静まる。

「影やない。光源の位置的に、影ができる方向ちゃうねんて。
“そこに黒いものが置かれてる”としか説明できひん」

さらに比較画像。

配信前日の写真。

配信後の写真。


「配信前も後も、展示物の数は同じや。
増えてへんし減ってもおらん」

いのは一度言葉を切る。

「せやけど、配信中だけ何かが“そこにいる”」


「サトさんが言った場の空気が変わったという同じ時間、ここを見て欲しい」

◯で囲った部分、先程言った時間になると何かがボヤっと現れる。
何かがゆらゆらと揺れている。

「敵意は感じない。ただ、うちらを見とる。
そこで気づいたことがあったんや。呪物はこんな風に人の目にふれ、認識された時点でもしかしたら呪いは成就‥成功しとるんやないかと」

トウマが拍手をしている。

「ありがとうございます!明日の投票日には‥」
(なんでだよ笑)
(NHKじゃんw)
(日本引きこもり協会を)
(ぶっとばーすw)

「有権放送じゃないぞー笑」
トウマが突っ込んたところで終了となった。

リスナーからのツッコミが早すぎて笑える。


■ トウマの検証報告 



「私は……記録です」

画面に、YouTube側の管理ログが映る。

・配信遅延:最大12秒
・エンコード再試行:3回
・同期ズレ発生時刻:2:17:34

「この時刻、ちょうど私が扉に触れてます」


トウマは、少しだけ声を低くする。

「普通、遅延は“視聴者側”で起きます。
でもこれは“配信者側”で発生してる」

コメント欄がざわつく。

(配信者側?)
(じゃあ何が遅れたの?)

トウマは答えなかった。

代わりに、こう言った。

「“私が見ていた時間”と
“配信に記録された時間”が一致していない」

「何が起きていたのか説明します。
いのさんとサトさんは気づいておられるようなので答え合わせしましょう」


トウマは一度、深く息を吸う。

「何かがいた、とは断定しません」

視線はカメラの奥。

「ただ‥‥
いなかったと言い切れる材料も、ありません」

誰も笑わない。

「だからあえて私はこの世での検証をやめ、あの世に近い場所で検証を試みました」

トウマは2人の顔を見ている。

「お2人の顔を見て確信しました。
あなた達もそこへ行けるチカラをお持ちなのだと。近づかないと、スピボは意味を持たない。
だから、環境ごと不安定にする必要がある」


■ エンディング

「今回の件で、あらためて思いました」

トウマが締めに入る。

「呪物って、“曰くつきで呪われた道具”として知られています」

一拍。

「実際にはそうじゃない」

画面に、呪物カフェの展示棚が静止画で映る。

「呪物は、持った人を呪うものではなく‥‥」

トウマはゆっくり言う。

「“宿るもの”だと思っています」

コメントのレスが一瞬、止まる。

「人の想いや時間、場所。それらが“居場所”を見つけた結果、そこに宿るのです。
ここの呪物たちは幸せそうに“感じてしまう"
みんなに認識されているからに違いありません」

トウマは微笑む。

「今回、それがたまたま配信という形で
“見えてしまった”だけかもしれません」

一礼。

「検証はここまでです。
これ以上、触れるつもりはありません。
でも、理系さんは僕の想像以上の力をお持ちのようで驚いています。
失礼な言い方をしてしまったこと、深くお詫びします。
これからもコラボ配信、お願いしますね」

「もちろん!」
「こちらこそやで」

3人は固い握手を交わして再会を約束した。



■ 配信終了後(アーカイブのみ)

配信が終わった後。

数秒だけ、真っ暗な画面が続く。

そして――
誰も操作していないはずの字幕ログが、一行だけ表示される。

[AUTO CAPTION]
“WE ARE ALREADY HERE”

すぐに、アーカイブは非公開になった。
幻のコラボ配信として、今もなお語り継がれる検証である。

リケオカの2人も、この配信を通して色々わかったことがある。
呪物と言っても一方的なものではない。
・人形自体が意思を持って宿るもの
・人間の念が人形に宿るもの

髪の毛が伸びる。
動く。
涙を流す。
瞬きをする。
これらはすべて認識してもらいたいという強い意志だ。釣りのように静かに水面に集中する。
状態変化を引き起こしていた“引き金”は、
どうやらこちらが思っていたより理由は生々しい。
いつの世も何処の世も承認欲求で溢れている。
存在は観測されて初めて認識される。


研究室に鍵をかけて2人は外に出た。
風が妙に気持ち良く感じる。

「サトさん、ご飯でも行かへん?」
「いま、俺もそれ言おうと思ってた」
「僕らはまいど♫以心伝心♫」
「歌詞おかしいだろ」
大笑いしながら大学を後にした。

同時刻
呪物カフェのモニターに文字が表示されている

『Thank ……Thank you ……… for coming』




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