愛を謳うために恋をする

山野辺翔

いま ―莉翔side―

入学してきて3日目の放課後。莉翔は、バスケ部が使っている第1体育館にいた。莉翔は推薦入学した生徒なだけあって、普通の生徒たちが部活動見学期間に入っているときから本格的に部活動に参加している。
「こんにちは。部長の出口斗愛です。推薦選手の君にはさっそくで悪いが練習に入ってもらおうと思っている。しかし、さっそく2,3年生の練習に入るというのはブランクが多少あり、きついかもしれないと思う。そこで君は今、故障選手たちがやっている補強などのメニューに入ってほしいと思っている。」
部長の一言に莉翔は返事をする。部長の言う通り推薦選手として練習は欠かさずやってきたが、いきなりきついで有名な練習に入ることは多少の抵抗があったので補強という言葉に莉翔はホッとしていた。莉翔は斗愛の指示を受けて体育館のステージ側の方に向かった。そこには10人程度の先輩がいて全員補強をやっている。
「初めまして。1年の長久保莉翔です。部長に補強に入れとのことで来ました。ご指導よろしくお願いします」
莉翔が先輩たちに言うと
「お、君が噂の推薦の1年か。よろしく!全員のことは覚えられないと思うが、とりあえず俺は2年の木下康介(きのしたこうすけ)だ。一応2年のリーダーをやっている!」
元気すぎる人、というのが莉翔の第一印象になるほど元気な康介がそう言うと
「自称だろ、じ・しょ・う 」
「まあ、そうとも言うかもな 」
と周りの二年からツッコまれ、笑いが起きる。どうやら、ここにいる故障者組はみな、2年生のようでだいぶ仲良くやっているように見える。
「木下先輩ですね。よろしくお願いします 」
「そんな硬くならなくていいぜ。補強をしっかりしていれば大丈夫だよ。」
と、ゆるく返され、莉翔は少し肩の力を抜いた。
「わかりました。では、補強のメニューを教えてください!」
「おう!まずは…」
その後、康介やほかの2年生にもアドバイスをもらいながら楽しく補強をしていた。
補強の休憩時間になると見知った顔が1人見学に来て莉翔に近づいてきた。
「ましょーう!会いに来たぜー!」
来たのは一心だった。
「おぉ、一心!来たんだ。どう?練習見たんでしょ?入る?バスケ部。」
「う~ん…まぁ。入る気だけどやっぱり練習きつそうだな~。莉翔はきつくないの?」
「俺は補強組と一緒に補強してるんだ。部長から、いきなりはきついだろうからって。」
「あ、そうなの?いつから練習入るって?」
「明後日から本格的に始めるって。それまでにしっかり体力戻せって。」
「そうなんだ。俺も早く入部して一緒に練習入れるように頑張るわ!」
「おう!待ってるぜ」
会話が終わると莉翔は先輩たちに呼ばれて補強の方に帰っていった。一心も少し部活の様子を見て帰っていった。開成高校での初部活の一日が終わっていった。

部活が始まり、二日目の放課後。この日も莉翔は補強をしていた。そこへ康介が近づいてきた。
「なぁ、莉翔。お前好きな子できた?」
「な、なんですか急に⁈そんないきなりできるわけないじゃないですか!」
「まぁ、そりゃそうか!」
康介がそう言うと周りの二年生たちが
「お前みたく入学初日で告白する馬鹿じゃねぇーよ、莉翔は!」
「は⁈違ぇし!ただ話しかけたら次の日から少し避けられただけだし!」
「それ、もっとやべぇよ!」
と、周りから大きな笑い声が響く。莉翔はその時少しだけ引いていた。
「でも、あそこは顔面偏差値うちの学校と比べ物にならねぇよな。」
と、二年生の一人が言う。
「そこってどこの学校ですか?」
そう莉翔が聞くと
「お?興味があるか?やっぱり男だな。」
と、康介がニヤニヤしながら聞いてくる。
「そこはな、桜鳴(おうめい)女子高校って言ってお嬢様が通うエリート校なんだぜ。だから普通の偏差値が高いし、顔面偏差値もあり得ないほど高い。まさに高嶺の花製造所だよ」
「へぇ…そうなんですね。」
正直言うと興味は全然なかったが、なぜか心に残った。
そんな話をしていると体育館の奥の方に一心がいるのが見え、手を振った。それに気づき一心が近づいてきた。
「一心!今日も来たんだ。」
「おう。今日は入部届を出しに来たんだ」
「え⁈早くない?本当にいいのか?」
驚きと困惑の混ざった声でそう言うと
「うん、いいんだ。そもそも莉翔がいるなら続けるって決めてたし、それにあの終わり方は嫌だったし…」
一心が、昔のことを思い出し、少し苦い顔をして言う。
「そうだな、それもそうだな!じゃあまた一緒にバスケできるんだな!」
「おう、もう三年間一緒にバスケしようぜ!」
そう言い一心と莉翔は固い握手をした。
「じゃあ、出してくるわ!いつから部活来ていいとか聞いてくる!」
「おう、待ってる!」
そういうと一心は後藤先生の方に入部届を出しに行った。
「お、あの子莉翔の知り合いか?」
康介が莉翔に聞くと
「そうです。中学のクラブで一緒だったんです。俺の相棒みたいな感じで、いつも一緒にいたのでまた高校で一緒にバスケができるのは本当にうれしいです!」
「そうなんだな。でも、うちに一般で入部してくる奴は相当きついぞ…」
康介がボソッと言うと莉翔が
「何か言いましたか?」
「いや、なんでもない。よかったな。だったら一緒に一軍で大会出れるように頑張れよ」
そう言って康介は補強に戻っていった。莉翔も補強をしに戻っていった。明日、一心は‘開成の地獄‘と呼ばれる練習が始まるが莉翔はまだそれを知らなかった。

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