『意図切』

空わかめ

終幕『意図切』

ただそれはあの老婆ではあって老婆ではなかった。
団子状に結われていた白髪はざんばらとなり、シュルシュルの意志を持った生き物の如く踊る。
瞬く間にそれは怪異へと絡みつき拘束した。

「…これって…。」

「今風にいえば使い魔ってヤツ。」

呆然とする静留に対し、さも当然のように男は答えた。
その中で静留は見た。
老婆の両腕が黒く変容していく様を。
その形状は糸切りバサミ。
それも昔話に出てくるような古風な造形だった。

「意図を断ち切り消失せしむ。だから、意図切。」

変容した老婆の両腕が怪異の丁度腰辺りを挟み込む。

シャキン。

鋭い音をともに刃が交差する。
寸断された怪異は叫びさえあげることはなく、霞の如く消えて失せた。
畳の上に滴っていた水も吐き気を催す腐敗臭もまるで最初から存在していなかったように。

「流石婆や。」

「亀の甲より年の功、ですよ。」

そして、老婆もまた何事もなかったようにどこにでもいる老婆の姿へと回帰していた。
交錯した現実と怪異。
ただ今は現実だけが忽然とそこにある。

「という訳で依頼終了。次はそっちの番、疲れたからアイス買ってきて。ダッシュ。レシートでいいから、貰ってきてね。」

そう言って男は畳の上に腰を降ろして、静留が来た時と同じくゲームをプレイし始めた。

「私は夕餉の準備がありますので。式沢様もよろしければご一緒に。」

老婆もまたごくごく自然に家事へと戻っていく。

静留は一人取り残されたような感覚に陥りつつ、新たに始まる日常に不安を覚えていた。

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