『意図切』
その3『男』
ぐにゃり。  
瞼の裏の祖母の顔が歪み変貌していく。  
肌は蝋細工のような青白く、双眸は孔が空いたように真っ黒に。  
それはまるで深い深いどこまでも続く孔のようだった。  
  
ヒューヒューと風の音がする。  
それが自分の呼吸音である事に静留が気付くまで、さほど時間は掛からなかった。  
  
『シズルルシズシシシズルシズル。』  
  
またあの声がした。  
相変わらずガボガボゴボゴボと気泡の音を伴っている。  
瞼の祖母の唇もまた忙しなく動く。  
  
足元が覚束ない。  
まるで断崖絶壁に立っているような感覚。  
どっちが上で、どっちが下か、それさえも曖昧になってきた。  
ピシッ、ピシリと家鳴りの音が響く。  
ドタバタと何かが自分の後ろで足踏みをしているのも分かる。  
にも関わらず、振動の類は一切感じられなかった。  
まるで、音だけがそこにあるかのように。  
  
パンッ。  
  
不意に柏手の音が響いた。  
ビクッと肩を跳ねさせる静留だったが、足音も家鳴りも収まっている事に気づき息を吐く。  
  
「入って来い。ただし、目は開けるな。」  
  
男の声だった。  
声質は若く、自分とさほど変わらない年だと静留は思う。  
ドクンドクンと早鐘を打つ心臓と僅かに聞こえるゲームらしき電子音、妙に冷静な自分の思考。  
何だかおかしくなって静留は失笑してしまう。  
  
目を開けずに、と言われて少し考えた後、その場に膝をついてペタペタと四つん這いで部屋へと入る静留。  
今の自分の姿を想像し、それが酷く滑稽に思えてさらにおかしくなってしまう。  
  
「あの…どっちに行けばいいですか?」  
  
「あ、もう目を開けていいぞ。」  
  
言われて目を開く。  
静留自身、なぜこうもあっさり従ったのか分からない。  
第六感とでも言うべきか、ただ何となく大丈夫な気がした。  
  
開けた視界の先に居たのは、想像した通り自分と変わらぬ年頃の男だった。  
部屋着のジャージ、寝癖らしき跳ねのある茶髪、耳にピアス。  
どこにでも居る学生の休日と言った印象を受ける。  
  
その男は「セーブするから待って。」と言って、静留に目を向ける事無くゲーム機を操作していた。  
しかし、静留にとってそれはある種福音のようでもあった。  
このところ感じていた非現実がこの屋敷を訪れて急速に侵食してきた。  
そんな中で繰り広げられる目の前の当たり前の光景が不思議なほどに安堵感と現実感を静留へともたらしていた。  
  
瞼の裏の祖母の顔が歪み変貌していく。  
肌は蝋細工のような青白く、双眸は孔が空いたように真っ黒に。  
それはまるで深い深いどこまでも続く孔のようだった。  
  
ヒューヒューと風の音がする。  
それが自分の呼吸音である事に静留が気付くまで、さほど時間は掛からなかった。  
  
『シズルルシズシシシズルシズル。』  
  
またあの声がした。  
相変わらずガボガボゴボゴボと気泡の音を伴っている。  
瞼の祖母の唇もまた忙しなく動く。  
  
足元が覚束ない。  
まるで断崖絶壁に立っているような感覚。  
どっちが上で、どっちが下か、それさえも曖昧になってきた。  
ピシッ、ピシリと家鳴りの音が響く。  
ドタバタと何かが自分の後ろで足踏みをしているのも分かる。  
にも関わらず、振動の類は一切感じられなかった。  
まるで、音だけがそこにあるかのように。  
  
パンッ。  
  
不意に柏手の音が響いた。  
ビクッと肩を跳ねさせる静留だったが、足音も家鳴りも収まっている事に気づき息を吐く。  
  
「入って来い。ただし、目は開けるな。」  
  
男の声だった。  
声質は若く、自分とさほど変わらない年だと静留は思う。  
ドクンドクンと早鐘を打つ心臓と僅かに聞こえるゲームらしき電子音、妙に冷静な自分の思考。  
何だかおかしくなって静留は失笑してしまう。  
  
目を開けずに、と言われて少し考えた後、その場に膝をついてペタペタと四つん這いで部屋へと入る静留。  
今の自分の姿を想像し、それが酷く滑稽に思えてさらにおかしくなってしまう。  
  
「あの…どっちに行けばいいですか?」  
  
「あ、もう目を開けていいぞ。」  
  
言われて目を開く。  
静留自身、なぜこうもあっさり従ったのか分からない。  
第六感とでも言うべきか、ただ何となく大丈夫な気がした。  
  
開けた視界の先に居たのは、想像した通り自分と変わらぬ年頃の男だった。  
部屋着のジャージ、寝癖らしき跳ねのある茶髪、耳にピアス。  
どこにでも居る学生の休日と言った印象を受ける。  
  
その男は「セーブするから待って。」と言って、静留に目を向ける事無くゲーム機を操作していた。  
しかし、静留にとってそれはある種福音のようでもあった。  
このところ感じていた非現実がこの屋敷を訪れて急速に侵食してきた。  
そんな中で繰り広げられる目の前の当たり前の光景が不思議なほどに安堵感と現実感を静留へともたらしていた。  
  
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