『【悲報】俺のチートスキル、使うたびに借金が増えるんだが、パーティメンバーが全員”不幸を呼ぶ”災害級の美少女なせいで、今日も破産寸前なんだが?』

カルパッチョ

第一話:このスキル、バグってないか?


まず、俺の人生がどうしてこうなったのか、手短に説明させてほしい。

俺、彩樹健司(さいきけんじ)は、ごく平凡な日本の大学生だった。コンビニバイトとレポートに追われる、ありふれた毎日。そんな俺が、ある夜、バイト帰りに暴走トラックから子猫を庇って――まあ、テンプレ通りに死んだ。

次に目を開けた時、目の前にいたのは、やけに露出度の高い金髪美女。自らを「女神リブラ」と名乗る彼女は、俺に深々と頭を下げた。

「誠に申し訳ありません、彩樹健司様! あれは本来、寿命を迎えるはずの猫に当たるべきトラックでした! こちらの完全な手違いです!」

うん、知ってた。

「つきましては、お詫びとしまして、剣と魔法の異世界『アストライア』への転生と、お好きなチート能力を一つ、授けさせていただきます!」

まあ、それもテンプレだ。ラノベの読み過ぎで耐性はついている。
俺は考えた。無双したい。楽して生きたい。そうだ、金だ。金さえあれば大抵のことは解決する。

「じゃあ、金に困らない能力がいいです。それこそ、無限に金を生み出せるとか」
「なるほど! 承知いたしました! では彩樹健司様に、ユニークスキル【無限信用創造(インフィニット・デット)】を授けます!」

女神はウインクすると、俺の身体は光に包まれた。

無限信用創造。いい響きだ。これで俺の異世界スローライフは約束されたも同然。
そう、この時の俺は、本気でそう思っていたんだ。



「……で、どういうことだってばよ、これ」

異世界の街「始まりの街オズ」のギルド前。俺は、自分のステータスプレートを睨みつけて呆然としていた。

名前:ケンジ(彩樹 健司)
職業:冒険者
スキル:【無限信用創造(インフィニット・デット)】
所持金:500ゴールド
借金:0ゴールド
「借金…?」

なんだこの不穏な項目は。俺が頼んだのは無限に金を生み出す能力のはずだ。
試しに、目の前の空中に向かって「ファイアボール」と念じてみる。もちろん、何も起こらない。魔法の知識なんてないからな。

「スキルを使いたいなら、まずギルドで魔法を登録購入する必要があるぞ、兄ちゃん」
通りすがりのおっさん冒険者が、親切に教えてくれた。

なるほど。ギルドで一番安い初級魔法「ファイア」を購入する。値段は500ゴールド。俺の全財産だ。

「よし、これで…ファイア!」

俺の手のひらから、ポッと小さな火の玉が生まれた。おお、すげえ!
感動も束の間、俺はステータスプレートの異変に気づいた。

所持金:0ゴールド
借金:500ゴールド
「は?」

何度見ても、借金が500ゴールドになっている。
まさか、とは思う。もう一度、今度は中級魔法「ファイアボール」をギルドで登録してみる。値段は1万ゴールド。当然、金はない。

「購入しますか?」というウィンドウに「はい」と答えると、目の前に眩しい光が溢れ、俺の頭に「ファイアボール」の知識が流れ込んできた。

そして、ステータスプレートはこうなっていた。

所持金:0ゴールド
借金:10,500ゴールド
「うわあああああああああああああ!」

俺は全てを理解した。
この【無限信用創造】とかいうスキルは、金を生み出す能力じゃねえ!
金がなくてもスキルやアイテムを買える。ただし、その代金は全て「借金」として計上されるっていう、ただの天界ローンシステムだったんだ!

あのクソ女神! 無限に金を使えるとは言ったが、返済不要とは一言も言ってやがらねえ!

「ど、どうしよう…返済期限とかあるのか…?」
俺が真っ青になっていると、ステータスプレートに新しい文字が浮かび上がった。

【債務情報:一週間以内に返済なき場合、ペナルティとして『幸運値』を差し押さえます】

「幸運値!?」
そんなパラメータあったのかよ! しかも差し押さえってなんだよ!

頭を抱えてしゃがみ込む俺の耳に、か細い声が聞こえてきた。

「あ、あの…」

顔を上げると、そこに立っていたのは、息を呑むほどの美少女だった。
夕陽のようなオレンジ色の髪。潤んだ翠色の瞳。上質なシルクのドレスは所々が薄汚れ、彼女がただ者ではないことをうかがわせる。

「お困りのようですね…。もしよろしければ、わたくしにその悩み、打ち明けてはいただけませんか?」
聖母のような微笑みを浮かべる彼女。俺は、柄にもなくときめいてしまった。
天は俺を見捨てていなかった! こんな美少女との出会いをくれるなんて!

「あ、いや、実は…」
俺が事情を説明しようとした、その時。

ガシャーン!

路地裏から、鎧を着込んだ屈強な男たちが3人、飛び出してきた。見るからに悪党面だ。

「見つけたぜ、メーラお嬢様! 没落貴族がいつまでもウロチョロしてんじゃねえ!」
リーダー格の男が、下卑た笑みを浮かべる。

「ひっ…!」
メーラと呼ばれた少女は、怯えたように後ずさった。
ああ、なるほど。悪党に追われる薄幸の美少女。これもテンプレだ。

だが、今の俺はチート(借金製)スキル持ちだ。ここで助ければ、好感度爆上がり間違いなし!

「おい、お前ら。その子から手を離しな」
俺は男たちの前に立ちはだかった。

「ああん? なんだてめえ。英雄気取りか?」
「悪いけど、俺はただの通りすがりの冒険者でね。ちょっとばかし、火遊びが好きなんだ」

俺はニヤリと笑い、右手を突き出す。
行け! 俺の借金1万ゴールド!

「ファイアボール!!」

俺の手から放たれた灼熱の火球が、男たちを正確に飲み込んだ。
「「「ぎゃあああああああ!」」」
悪党たちは黒コゲになり、その場に崩れ落ちる。うん、威力は本物だ。借金した甲斐があった。

「だ、大丈夫かい?」
俺は振り返り、メーラに優しく手を差し伸べた。
彼女は潤んだ瞳で俺を見つめ、うっとりとした表情で、俺の手を取った。

「ああ…なんて素敵な方…! わたくしのような薄幸の美少女を、颯爽と助けてくださるなんて…。まるで物語の王子様のようですわ…!」
「はは、大したことないさ」

いいぞ、いいぞ。チョロい!
これで彼女とパーティを組んで、一緒に借金を返していけば…

「ああ、わたくし、今、最高に幸せですわ! 窮地に陥り、見知らぬ殿方に助けられる…。これ以上ないほどの悲劇のヒロインですもの!」
「…は?」

メーラはうっとりと天を仰ぎ、恍惚の表情を浮かべている。
その時、彼女の頭上に、キラキラと光る文字が浮かび上がった。俺にしか見えない、ファンタジーなエフェクトと共に。

【悲劇の代償:+10,000ゴールド】

「……え?」

「どうかなさいましたか、王子様?」
首を傾げる彼女は、天使のように可憐だった。

俺は、自分のステータスプレートを恐る恐る確認する。

所持金:0ゴールド
借金:10,500ゴールド
…変わってない。
ホッと胸をなでおろした、その瞬間。

ピロン♪ という軽快な音と共に、俺のステータスが更新された。

所持金:0ゴールド
借金:20,500ゴールド

【債務情報:メーラ・ニア様の債務10,000ゴールドを、あなたが連帯保証人として肩代わりしました】
「な……」
「な、な、な、な、」

「なんだそりゃあああああああああああああああああ!!!」

俺の絶叫が、始まりの街の夕焼け空に虚しく響き渡った。
こうして、俺の異世界での借金額は、初日にして2万ゴールドを突破した。
そして、この隣でうっとりしている美少女が、これから俺の人生を破滅に導く、とんでもない「負債」であることを、まだ俺は知らなかったのである。


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