星泥棒
一筆書き版
地上に光をではなく火を灯していた時代に、その男は現れる。
時代に合わない服装、その時代には存在しない話し方。
男は言った。「地上に光を灯そう」
しかしそこは彼も人間、無料とはいかなかった。代価は破格の家一軒分。星一つで家が一つ。あの遥か遠く、神様の指の傍で輝く神秘の光は一家分。そう思えば安かろう。
早速その国の王様は彼に頼んだ。「星を一つ頼む。」
彼は星に一つ手を添えて、指を鳴らした。すると不思議なことにその星は一瞬の輝きを放ち、かと思うとすぐに姿を消した。
彼は王様の前まで行きひざまづき、右手を広げてみせた。するとたちまち王宮内は昼間と見間違う程に明るくなった。その場に居合わせた者たちは一瞬怯んだ。当たり前である、今まで視覚が効かなくなる夜を照らすのはせいぜい火ぐらいだったのに、突然その闇を祓ってしまい、目の前を急に光が輝きを放ちながら駆け抜けていったのだから。
その彼には早速代価が支払われた。それは屈強な戦士が数人でも一度に運べる量ではとてもなかった。
彼は数匹の馬が引く馬車を数十台借りて、その財宝を持ち帰った。
そして次の日から星泥棒による星狩りが続いた。彼は大陸を一つは裕に領することは朝飯前だろうという富を一晩で手に入れた。
しかし夜空の星は全く減ってはいないようだった。
光を手に入れた平民達は早速、その星達で夜を、暗闇を照らし始めた。
夜空の星が減らない一方で、街の暗闇は数日で消え、人々は年中昼を過ごすこととなった。
人々は大いに喜んだ。これで夜の獣や正体の分からない寝る前に現れて頭を支配してゆく思考などに怯える必要がなくなったからである。
人は言った、「考えてみれば分かることだ、私達に夜は必要であるのか?」と。
便りを人の足で運ぶこの時代でも、彼の噂は瞬く間に広がり、夜の存在しない世界で彼は ,,昼夜問わず'' 駆け抜けた。
やがて長い月日が経ち、世界のどこの隙間にも夜が消滅した頃、夜空の星も尽きていて、それはまるで真っ黒いキャンバスのよう。青空の昼と、黒い空の昼である。
そして人々に異変が起き始めたのも同じ頃。
人々は寝る事、休む事を忘れたのである。
人類以外の命もまた同じであった。
夜行性の動物は死に衰え、道端や王宮、森林など場所を問わず絶滅していった。
そして地球上の全ての命が休む事を忘れて働いた。植物は絶えず光合成を繰り返し、動物は常に動き回る人間に鞭を打たれ、人は青空のうちに働き、黒い空の時に女は体を売り男は酒を運ぶのとそれを飲む者に別れ、この日々が繰り返されていった。
ここでようやく一人が顔を上げ異変に気がついた。「あの美しい星空はどこにいったのだろう?」
一人が言うとみながたちまち目をその真っ黒な空に向けました。
そこには永遠の無が広がっています。底が知れない大海に独り残されたような感覚です。
なぜ星空はそこに存在しないのでしょう?人々はやがて美しい星空がないことを嘆き始めます。一体誰の仕業でしょう?一体誰のせいにすればよいのでしょう?
「そうだ!あの星泥棒め!」
女の体にしか目がなかった男達は目を覚まし(これは目を覚ましたと言えるのでしょうか)、血眼になり星泥棒を探し回ります。
星泥棒は捕まり、高台に縛られます。
そして民衆に問われます。
「やい、なぜあんなに美しかった星空を消したのか!?」。
男は答えます。
「どうもこうも皆さんに頼まれた事を私の親切で叶えてあげただけでございます。」
民衆は叫びます。
「もとの夜空を、星空を返せ!」
男は答えます。
「私は盗る事はできても返す事はできません。」
民衆は満場一致の結果で星泥棒を火炙りにして処刑しました。
人々は尚も変わらず昼夜働きます。
女は体を売り出し、男は酒を運び、飲む。
そして寿命がくる前に人々は絶滅しました。休まず動き続けていたのだから当然です。産まれる場所は選べても、死に場所を選べないのはなんとも滑稽なものですね。
地上を光で汚す者はいなくなり、地上に夜が再びやって来ました。
夜行性の動物は新しく繁殖し、植物には休息が戻りました。
これが人類が生まれる以前にあった、俗に言う「平和」というものです。
時代に合わない服装、その時代には存在しない話し方。
男は言った。「地上に光を灯そう」
しかしそこは彼も人間、無料とはいかなかった。代価は破格の家一軒分。星一つで家が一つ。あの遥か遠く、神様の指の傍で輝く神秘の光は一家分。そう思えば安かろう。
早速その国の王様は彼に頼んだ。「星を一つ頼む。」
彼は星に一つ手を添えて、指を鳴らした。すると不思議なことにその星は一瞬の輝きを放ち、かと思うとすぐに姿を消した。
彼は王様の前まで行きひざまづき、右手を広げてみせた。するとたちまち王宮内は昼間と見間違う程に明るくなった。その場に居合わせた者たちは一瞬怯んだ。当たり前である、今まで視覚が効かなくなる夜を照らすのはせいぜい火ぐらいだったのに、突然その闇を祓ってしまい、目の前を急に光が輝きを放ちながら駆け抜けていったのだから。
その彼には早速代価が支払われた。それは屈強な戦士が数人でも一度に運べる量ではとてもなかった。
彼は数匹の馬が引く馬車を数十台借りて、その財宝を持ち帰った。
そして次の日から星泥棒による星狩りが続いた。彼は大陸を一つは裕に領することは朝飯前だろうという富を一晩で手に入れた。
しかし夜空の星は全く減ってはいないようだった。
光を手に入れた平民達は早速、その星達で夜を、暗闇を照らし始めた。
夜空の星が減らない一方で、街の暗闇は数日で消え、人々は年中昼を過ごすこととなった。
人々は大いに喜んだ。これで夜の獣や正体の分からない寝る前に現れて頭を支配してゆく思考などに怯える必要がなくなったからである。
人は言った、「考えてみれば分かることだ、私達に夜は必要であるのか?」と。
便りを人の足で運ぶこの時代でも、彼の噂は瞬く間に広がり、夜の存在しない世界で彼は ,,昼夜問わず'' 駆け抜けた。
やがて長い月日が経ち、世界のどこの隙間にも夜が消滅した頃、夜空の星も尽きていて、それはまるで真っ黒いキャンバスのよう。青空の昼と、黒い空の昼である。
そして人々に異変が起き始めたのも同じ頃。
人々は寝る事、休む事を忘れたのである。
人類以外の命もまた同じであった。
夜行性の動物は死に衰え、道端や王宮、森林など場所を問わず絶滅していった。
そして地球上の全ての命が休む事を忘れて働いた。植物は絶えず光合成を繰り返し、動物は常に動き回る人間に鞭を打たれ、人は青空のうちに働き、黒い空の時に女は体を売り男は酒を運ぶのとそれを飲む者に別れ、この日々が繰り返されていった。
ここでようやく一人が顔を上げ異変に気がついた。「あの美しい星空はどこにいったのだろう?」
一人が言うとみながたちまち目をその真っ黒な空に向けました。
そこには永遠の無が広がっています。底が知れない大海に独り残されたような感覚です。
なぜ星空はそこに存在しないのでしょう?人々はやがて美しい星空がないことを嘆き始めます。一体誰の仕業でしょう?一体誰のせいにすればよいのでしょう?
「そうだ!あの星泥棒め!」
女の体にしか目がなかった男達は目を覚まし(これは目を覚ましたと言えるのでしょうか)、血眼になり星泥棒を探し回ります。
星泥棒は捕まり、高台に縛られます。
そして民衆に問われます。
「やい、なぜあんなに美しかった星空を消したのか!?」。
男は答えます。
「どうもこうも皆さんに頼まれた事を私の親切で叶えてあげただけでございます。」
民衆は叫びます。
「もとの夜空を、星空を返せ!」
男は答えます。
「私は盗る事はできても返す事はできません。」
民衆は満場一致の結果で星泥棒を火炙りにして処刑しました。
人々は尚も変わらず昼夜働きます。
女は体を売り出し、男は酒を運び、飲む。
そして寿命がくる前に人々は絶滅しました。休まず動き続けていたのだから当然です。産まれる場所は選べても、死に場所を選べないのはなんとも滑稽なものですね。
地上を光で汚す者はいなくなり、地上に夜が再びやって来ました。
夜行性の動物は新しく繁殖し、植物には休息が戻りました。
これが人類が生まれる以前にあった、俗に言う「平和」というものです。

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